裏切りの魔男

takupon

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異世界漂流編

勇者の儀

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「表を上げよ」

その声に、すべての騎士が片膝を降ろし頭を下げている状態を解放する。頭(こうべ)を垂れていないのは、両手を頭の後ろに抱え、好奇心旺盛な様子でホールを見渡す彼方だけだ。

「報告を」

王が告げると彼方を保護していた団の長である、カレナがすっと横に現れ、騎士の忠誠のポーズをとる。

「報告しまっさ。えー、横におる彼方は先日、魔女襲撃の際に保護した異世界人や。ちゃんと、他の勇者にも確認しとるからな」

ホールにざわめきが広がる。それは何に対してかは定かではない。
彼方がざわめく騎士の方を見ると、つい先程出会った眼帯騎士と目があった。向こうの視線は熱を帯びているように見えなくもなが、いかせん彼方には気づかれない。
横にいるカレナが集中しろと脇腹を小突く。

「ほんで、次に彼方のステータスを報告すんで」

これは勇者の儀で決定事項らしい。彼方は苦虫を潰したような顔になる。
出来れば自分のスキルはバラされたく無かったのだ。なぜなら、もしかすれば騎士団が敵になり得る状況になるかもしれないからだ。
例えば勇者になれなかったりしたら・・・。
カレナは彼方の気も知らず次々にステータス報告を済ませていく。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前  桜井 彼方(さくらい かなた)

 種族  ヒューマン

L v 2 

【 体力 】 100000

【 魔力 】 10000

【 攻撃力 】 5000

【 防御力 】 70

【 俊敏力 】 80000

スキル

『飴と鞭』・・・努力すればするほど成長し、怠れば怠るほど力が落ちる

『闇魔法』
黒箱(ブラックボックス)

『聖魔法』
光(ライト)
閃光(フラッシュ)

『精霊の加護』・・・精霊との相性が良くなる。精霊魔法の耐性がつく

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

嘘はついてない。隠してただけだ。この他にも教えてないスキルはあるが言うわけにはいかない。
ステータスを言い終えると、またざわめきが聞こえてくる。今度はさっきより大きめだ。
耳を澄ませると、


「いっ、異端だ!なんでヒューマンが闇魔法を使えるんだ!」

「あいつはきっと邪教徒に違いない!即時に死刑に処するべきだ!」

「異世界人のくせに魔力が低すぎだろ!カスじゃねぇーか?!」

「体力と俊敏力がやたら高くない?多分、逃げ足だけは速いんだよ」

「好き勝手に彼方のこと言うわね。彼方の愚痴を言って良いのは私達だけなのに」

最後に口を滑らしたのは小百合だ。他の奴らは知らない。きっとモブなのだろう。
だがやばい。この流れだと死刑になりかねないと焦っているのか、数日間お世話になった神憑りの切札トランスジョーカーの諸君らは顔色が良くない。カレナも冷や汗ばんだ手で彼方の手を握り締める。手が痛い。

「うちは、彼方を勇者に認めることを強く押す!戦力は多くて事足りんねんからええやないか!!」

カレナが後ろ盾に、王に向かい言葉を添える。
王は考えあぐねているのか、顎の髭を撫りながら、彼方を凝視する。
結論が出たのか、ホールに広がる沈黙を破り、

「否、死刑だ」

その言葉にどれだけの人が反応しただろう。彼方は顔色を真っ青にし、逃げ出そうか思考を張り巡らせる。しかし、背後には逃すまいと騎士が入口を塞いでいる。
ピンチ到来だ。
死刑のやり方はカレナに聞いたことがある。
身体を抑えられ、処刑人がやって来て、そこで首を・・・言わずもがな。
つまり処刑人が来るまでの間、時間があるということだ。
誰かを信用することは、その人まで危険に巻き込むことになる。そんなの却下だ。
自分だけで逃げ切る、そう決意し騎士達の隙を狙おうとしたとこで、

「王よ、考えを改めてください」

女神が降臨する。ミディアムの髪型がよく似合い、鎧を身に付けた女性が近づいて来る。
彼方はその女神を目視すると、口をあんぐりと開ける。

「姉ちゃん!!」

今度は肉親との再会に声を高くする。

「喜びの再会は後よ。今はこの状況を切り抜けなきゃ」

冷静沈着な姉、桜井 飛鳥さくらい あすかの登場に彼方は心の中で歓呼する。

「そうだぜ!!王様さんよ!俺らの友人を即死刑はないんじゃないか?」

魁斗が彼方と王の間に抜きん出てくる。それに続けて他の勇者も舞台に躍り出る。

「うちも反対や!彼方を殺すんやったら、神憑りの切札トランスジョーカーが相手したるわ!!」

今のカレナを一語で表すならボーイッシュだ。

「彼方さんは本当に迷惑しかかけませんね。拾ってあげたのは間違いだったんじゃないんですか?」

ラミルの皮肉も今なら優しく響いているように錯覚してしまう。隣に並び立つ神憑りの切札トランスジョーカーの面々。これ以上頼もしいものはない。
彼方は自分を大切にする人がこんなにもいるんだぞ、とばかりに王を睨みつける。
流れが変わり出したと思った矢先に、





「よい、騎士団よ。ジョーカーを薙ぎ払い、闇魔法の小童を捕らえい」





偽言だ。この状況を予期してたかのようにあっさりしすぎている。
こんな時にあれなんだが、騎士団は名前をジョーカー、メイデン、スピリット、ビースト、ナイト、セイントと呼ばれている。そして今、ジョーカー以外の騎士団が彼方と彼方を守ろうとする輩を取り囲む。

(仕方ない、秘密兵器を使うか)

彼方は自分の命、そして神憑りの切札トランスジョーカーの皆と姉を守るため秘密兵器に目配せをする。
秘密兵器はため息をついたかと思うと、即座に動き出す。





「お待ちください、お父様!」





そう、秘密兵器とはソフィアのことだ。
ソフィアには事前に事が起きると予想し、懇願しておいたのだ。頭の回ることに内心でホッとする。

「その方は私の友人でございます。どうかご慈悲を!」

王はまた悩みだしたのか、大きなオブシディアンが特徴的な王冠をずらし頭を掻く。

「むう~」

規律か、娘の頼みか、深く悩んでいるのか困惑の声を上げる。
答えは、

「無理だ、ソフィア。これは決まったことだ」

娘の言葉も王の耳には届かなかった。
王の決断にソフィアは、素の状態に戻り、声を荒げる。



「待ってよ!!少しぐらい、私の言うことをを聞いてよ!」



「ソフィアに見せないよう、部屋に戻してこい」

王の指図一つでメイドがソフィアを囲み連れて行こうとする。

「王女様、ここは危険です!早くお部屋へ!」

メイドの一人がソフィアを諫めようとし、



「どいてよっっ!!」



振り払われる。
見兼ねた王がため息混じりに声を掛ける。

「騎士よ。少し乱暴にしてもよい。部屋に戻せ」

メイドの次は騎士だ。体格(がたい)の良い騎士に行く手を阻まれる。

「何が、王様よっ!!ただの、独裁者と変わらないじゃない!!一度、ぐらい、私の願いを聞きなさいよ!!」

ソフィアの声に王は耳を閉ざす。
ソフィアはこの世の終わりみたいな顔をし、彼方を見てくる。

「お前のせいじゃない」

それだけを震える身体から絞り出す。連れていかれるソフィアに届いたかどうかは分からない。
団員と勇者達の焦りがこちらにまで伝わってくる。
死が刻々と近づいていき、





「大変です!魔獣が接近してきています!!」





やはり死からは免れることはできない。

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