34 / 35
指名手配編
事態への終息
しおりを挟む
桜が消えてから一の時が過ぎた頃。
私は血相を変えてギルドに駆け込んだ。行き先は受付嬢のミファがいるカウンター。
切羽詰まった顔に気づいた私にパタパタと走りながらこちらに近づいてくる。
「ど、どうしたの?!」
手を膝に着き息を整えると、早口に喋り出す。
「桜が居なくなったの!!ゴブリン退治なんてまだ早かったんだよ!どうしよう桜が消えてから凄く時間が経ってるの!緊急クエスト出して!報酬なら私の全財産上げるから~!!」
涙目でミファに縋り付く。
「桜が消えたのは何処らへんなんだい?」
桜の危機に冷静に対処するミファ。流石はプロだ。
「魔物の森の浅い東南辺りで逸れたの!あぁ、どうしよう今頃桜がゴブリンに犯されてるかもしれないよ~!私のせいだ~!!」
涙でそこら中を水浸しにするキルラは桜が男であることも忘れてしまっているらしい。
そんな彼女に、
「もし良ければ力になりましょうか?」
救いの手が伸びる。
声がした方に眼を向けると、そこには騎士の甲冑を身に纏った片眼鏡の狐人(ヴォルペ)が立っていた。モノクルだ。後ろには退屈そうに欠伸をしているミミもいる。
ミファもモノクルに気づいたのか顔をパァッと明るくする。
「騎士様どうか桜の救出を手伝ってくれないでしょうか!」
身体をぐりん、と捻じ曲げ今度はモノクルに縋り付く。
モノクルはキルラの余裕の無い表情に慌てる必要はない、と言い聞かせる。
「まず容姿や服装、逸れてしまった場所、名前と貴方の関係性を教えてください」
「キルラB級冒険者、それで助けに行って欲しい子の名前は桜って言うの。えー、えっと容姿は私と同じ髪の色で真っ白な肌で人形みたいな可愛い子なの。服装は黒いローブをしてたよ。関係性はね、えへへ~私の妹になってるの~」
テンポが速いキルラであったが、最後の最後で天然さが出てくる。恥ずかしそうにはにかんで頭を摩るキルラにモノクルは苦笑いする。
「分かりました。これはこの国の騎士としても重要な仕事です。私達が責任をもって桜さんを連れ帰ります」
モノクルが騎士の忠誠のポーズを執ると、後ろの騎士たちもそれに続く。ギルドんぽ中にいる冒険者は訝しげな眼でこちらを見るが、そんなのお構いなしだ。
眠たげに眼を擦りながらミミも一応ポーズを執っている。
そこから先はプロの仕事だった。獣の王冠が幾つにも分かれて迅速に桜救出に向かった。……一人を除いては。誰かは言うまでもない、ミミのことである。兎耳少女は「仕事だー!」と言いながらギルドを飛び出してしまった。急いでモノクルが追いかけて行ったが、兎の脚を舐めてはいけない。
森に消えていったミミは数時間程が過ぎた頃に桜を負(お)ぶって帰ってきた。
私は数時間ぶりに相見(あいまみ)た桜に、突進紛いに飛びついた。なぜあんなに安心したのかは今でも分からない。けれど桜の顔を見て心が落ち着いたのだ。
桜は私が思っていた程度では全然済まない程の怪我を負っていた。服は血塗れ、綺麗な顔には擦り傷が付き、手は瘦せ細り、脚はあらぬ方向に曲がってしまっている。想像より遥かに過酷なことがあったのだろう。
涙が眼から零れる。私が原因でこんなことになったのだ。私のせいで。桜を傷つけてしまったと思うと心が痛む。気軽に話しかけるのも躊躇してしまう。
そんな私に桜は自分の苦しみを一切見せず笑って見せた。
「キルラのお陰ですんごい冒険が出来たわ。次は一緒に行こうぜ」
桜は私の気持ちを知っていて言ってくれたのだ。辛いのは向こうなのにだ。どこまでお人好しなのだろう。
あぁ、又涙が……。
桜の優しさに浸っていると、不意に現実に戻って来る。私の腿を枕に使って寝ていた桜が話しかけてきたのだ。
「キルラは仮面と会ったことあるか?」
「ひゃ、ひゃっい!!」
いきなり頬っぺたを突かれ、異様な返事を返してしまう。
仮面と聞き私は思考を張り巡らす。どうやら指名手配犯のことを話しているらしい。
手配書を覗き込むと、そこには私がいつも任務で使うマスクと帽子が描かれている。
桜が「なんでガスマスクにシルクハットなんだよ!中二病擽るわ!」とか何とか騒いでいるが、耳に入ってこない。
「なんで、そんなこと聞くの?」
取り合えず桜の意図を訪ねる。
「ん、魔獣事件の時にさ、見たっていう人が居たらしいからキルラも見たかなって……」
どこで失態を侵したのだろう、そんな疑問は氷解する。
私は桜を助ける際に任務の格好をしたまま表通りを突っ切ってしまったのだ。もしかしたら、宿に入るところも見られたかもしれない……。
指名手配犯が目の前にいることを知らない桜は、ぽけーっとしている。そんな桜を愛らしく思い、大好きな
ぬいぐるみを掴むように優しく抱きしめる。
「どうしたんだ?」
「えへへ、なんでもないよ。私は仮面さんとは会ったことないかな。……桜は仮面さんのことどう思う?」
桜に噓をつくのは心苦しいが、これも関わって欲しくないからだ。
さり気なく自分について問い質す。もう一人の自分がどう思われているか私は知りたいのだ。
犯罪者であっても桜ならきっと分かってくれるはず、という自分勝手な考えが動いてしまったのだ。
前に座っているミファも桜の回答を待つ。
結果は、
「殺しはダメかな」
ダメであった。
「幾ら嫌われ者だからって、幾ら悪人だからって、殺して良いとはならないんだなこれが。殺しをしたら一生消えない傷が残るんだよ、自分自身にさ。魂は一人一つだ。……大事にしないとなぁー」
膝枕から起き上がり、身体を伸ばす桜。その言葉には一種の重みがあることをキルラは逃さなかった。
黒く濁った瞳でどこか遠くを見つめる。
「やっぱり……そうだよね」
やはり相容れない物なのだ、私達は。
悲し気に呟いたキルラを、一つの視線が見つめていたがそれに気づくことは無かった。
「そういえば、ゴブリンとは闘ったの?」
全身ズタズタでボロボロの桜に、ミファがデリカシーのない問い掛けをする。
私は横で瞠目する桜を見せるように肩を掴んで、
「ちょっとミファ!配慮が足りなさすぎるよ。この傷や打撲の跡が見えないの?!コテンパンにやられたのはもう分かってるじゃない。それを態々聞くのは意地悪だよ」
キルラの天然発言が矢となって彼方の胸に突き刺さる。
古傷が痛んだのか、胸を摩りながら、
「俺がやられてる前提で喋るの止めようぜ!そもそも俺結構頑張ったしな。あそこにいた奴ら全滅まではいかなかったけど、最期の一匹を除いて大体は俺が片付けたからな」
意想外のことに開いた口が塞がらなかった。
「冗談、だよね?」
ミファが私の気持ちを代弁する。
「冗談じゃないから。ミミに聞いてみたら分かるんじゃないか?初めて死闘を味わったわ」
嘘をついているようには見えない。それなら尚更あり得ないことだ。
ヘラヘラして何を考えているか分からない桜はF級に成りたての新米冒険者だ。そんなか弱い少年がE級に当たるゴブリンを倒すのは余程のことが無いと出来ない芸当なのだ。しかも桜の喋り方からしたら殲滅しかけたような発言であった。
「それなら|L v(レベル)結構上がってるんじゃない?受付で計測できるからやってきなよ」
ミファが受付席を指差しながら促す。
それをきいた桜は眼を輝かせ、子どもみたくスキップをしながらイスから離れていく。
私はその可愛らしい仕草を堪能し終わると、ミファに向き直る。
「何か私に用でもあった?」
「気づいてたの?本当にキルラは天然なのか疑いたくなることが多々あるよ」
両手を肩まで上げて、やれやれと素振りを見せる。
「私とミファの仲だからね。よく分かるよ。それで話って?……まぁ、大半は予想がついちゃうけどね」
私はそこまで言うと肩を落としため息をつく。私とミファは旧知の仲である。私の秘密をバラしてしまう程にだ。
「そうだね、キルラが指名手配犯になってることだよ。桜はこのこと知ってるの?」
「それがね、これっぽちも気付いてないの!同じ部屋に住んでるんだから少しは警戒してたんだけどね。けどもうそろそろ辞めようかな。冒険者としても名を馳せたし、お金に困ることはないでしょ?」
「桜のことはどうするの?」
「えぇ~、勿論一緒だよ!」
今や家族同然になってしまった桜が消えることなど考えていないキルラ。
そこに不安が募ってしまう。
「あのね、キルラ。それは桜を危険に晒すことになるんだよ?」
「なんで、そうなるの?私が上手く足を洗えばいいんでしょ。ミファは心配しすぎなんだよ。今回の大仕事が終わったらちゃんと辞めるって約束してるから大丈夫だよ!」
サムズアップするキルラに、ため息をこぼす。
「だからそれが心配だって言ってるんでしょーが……」
「心配性なんだよ、ミファは!私のスキルが何か知ってるでしょ?固有スキルで変幻自「終わったぞー」」
嬉しそうに手を振りながら、桜は二人の会話を中絶する。ご満足な様子に、ミファもキルラも空気を一転する。キルラに限っては嬉しそうに手を振り返している。
「どうだった?桜の話が本当なら、レベル上がってたんじゃないの」
「まだ俺の言った話信じてねぇーのか?俺は体内の大方が嘘で出来ている男だぞ」
「僕、余計信じれなくなっちゃったよ?!」
「まぁ、見てみろよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前 桜井 彼方(さくらい かなた)
種族 ヒューマン
L v 5
【 体力 】 10
【 魔力 】 5000
【 攻撃力 】 2000
【 防御力 】 0
【 俊敏力 】 7000
スキル
『飴と鞭』・・・努力すればするほど成長し、怠れば怠るほど力が落ちる
『聖魔法』
光(ライト)
閃光(フラッシュ)
『精霊の加護』・・・精霊との相性が良くなる。精霊魔法の耐性がつく
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうだっっ!!」
桜のどや顔に二人は同じ言葉を零す。
「「弱っ」」
容赦のない言葉が、矢となり桜の豆腐メンタルを傷つける。効果抜群であったようだ。
よろよろとイスに寝転がる。歩くだけでもきついのだろう。その結果がステータスに反映しているのだ。このステータスは最大の値を出すのではなく、今の現状が出てくるのだ。だが、全てのアビリティーが弱くなっているわけではない。レベルは2から5に上がっている。レベルアップするとアビリティーの上限解放があるらしい。簡単に言うと、人間から離れていくのだ。
寝込んでしまった桜を、
「大丈夫だよ桜!弱くたって私は見捨てたりしないからね!!」
「ぐはっ!」
天然キルラの追撃が襲う。励ましたつもりのようだが逆効果であった。
何故か動きが止まってしまった桜を宥めながらも、もう一度ステータスに眼を通す。
私はあることに気づく。あらゆるところに文字がかき消されている形跡があるのだ。その上に今の文字が覆いかぶさっている。
引っ掛かりを覚えてしまった。桜が何かを隠していることは薄々気づいていた。
暗殺者の勘が疼いてのかは、分からない。でもこれは知りたいと思ってしまった。
私は血相を変えてギルドに駆け込んだ。行き先は受付嬢のミファがいるカウンター。
切羽詰まった顔に気づいた私にパタパタと走りながらこちらに近づいてくる。
「ど、どうしたの?!」
手を膝に着き息を整えると、早口に喋り出す。
「桜が居なくなったの!!ゴブリン退治なんてまだ早かったんだよ!どうしよう桜が消えてから凄く時間が経ってるの!緊急クエスト出して!報酬なら私の全財産上げるから~!!」
涙目でミファに縋り付く。
「桜が消えたのは何処らへんなんだい?」
桜の危機に冷静に対処するミファ。流石はプロだ。
「魔物の森の浅い東南辺りで逸れたの!あぁ、どうしよう今頃桜がゴブリンに犯されてるかもしれないよ~!私のせいだ~!!」
涙でそこら中を水浸しにするキルラは桜が男であることも忘れてしまっているらしい。
そんな彼女に、
「もし良ければ力になりましょうか?」
救いの手が伸びる。
声がした方に眼を向けると、そこには騎士の甲冑を身に纏った片眼鏡の狐人(ヴォルペ)が立っていた。モノクルだ。後ろには退屈そうに欠伸をしているミミもいる。
ミファもモノクルに気づいたのか顔をパァッと明るくする。
「騎士様どうか桜の救出を手伝ってくれないでしょうか!」
身体をぐりん、と捻じ曲げ今度はモノクルに縋り付く。
モノクルはキルラの余裕の無い表情に慌てる必要はない、と言い聞かせる。
「まず容姿や服装、逸れてしまった場所、名前と貴方の関係性を教えてください」
「キルラB級冒険者、それで助けに行って欲しい子の名前は桜って言うの。えー、えっと容姿は私と同じ髪の色で真っ白な肌で人形みたいな可愛い子なの。服装は黒いローブをしてたよ。関係性はね、えへへ~私の妹になってるの~」
テンポが速いキルラであったが、最後の最後で天然さが出てくる。恥ずかしそうにはにかんで頭を摩るキルラにモノクルは苦笑いする。
「分かりました。これはこの国の騎士としても重要な仕事です。私達が責任をもって桜さんを連れ帰ります」
モノクルが騎士の忠誠のポーズを執ると、後ろの騎士たちもそれに続く。ギルドんぽ中にいる冒険者は訝しげな眼でこちらを見るが、そんなのお構いなしだ。
眠たげに眼を擦りながらミミも一応ポーズを執っている。
そこから先はプロの仕事だった。獣の王冠が幾つにも分かれて迅速に桜救出に向かった。……一人を除いては。誰かは言うまでもない、ミミのことである。兎耳少女は「仕事だー!」と言いながらギルドを飛び出してしまった。急いでモノクルが追いかけて行ったが、兎の脚を舐めてはいけない。
森に消えていったミミは数時間程が過ぎた頃に桜を負(お)ぶって帰ってきた。
私は数時間ぶりに相見(あいまみ)た桜に、突進紛いに飛びついた。なぜあんなに安心したのかは今でも分からない。けれど桜の顔を見て心が落ち着いたのだ。
桜は私が思っていた程度では全然済まない程の怪我を負っていた。服は血塗れ、綺麗な顔には擦り傷が付き、手は瘦せ細り、脚はあらぬ方向に曲がってしまっている。想像より遥かに過酷なことがあったのだろう。
涙が眼から零れる。私が原因でこんなことになったのだ。私のせいで。桜を傷つけてしまったと思うと心が痛む。気軽に話しかけるのも躊躇してしまう。
そんな私に桜は自分の苦しみを一切見せず笑って見せた。
「キルラのお陰ですんごい冒険が出来たわ。次は一緒に行こうぜ」
桜は私の気持ちを知っていて言ってくれたのだ。辛いのは向こうなのにだ。どこまでお人好しなのだろう。
あぁ、又涙が……。
桜の優しさに浸っていると、不意に現実に戻って来る。私の腿を枕に使って寝ていた桜が話しかけてきたのだ。
「キルラは仮面と会ったことあるか?」
「ひゃ、ひゃっい!!」
いきなり頬っぺたを突かれ、異様な返事を返してしまう。
仮面と聞き私は思考を張り巡らす。どうやら指名手配犯のことを話しているらしい。
手配書を覗き込むと、そこには私がいつも任務で使うマスクと帽子が描かれている。
桜が「なんでガスマスクにシルクハットなんだよ!中二病擽るわ!」とか何とか騒いでいるが、耳に入ってこない。
「なんで、そんなこと聞くの?」
取り合えず桜の意図を訪ねる。
「ん、魔獣事件の時にさ、見たっていう人が居たらしいからキルラも見たかなって……」
どこで失態を侵したのだろう、そんな疑問は氷解する。
私は桜を助ける際に任務の格好をしたまま表通りを突っ切ってしまったのだ。もしかしたら、宿に入るところも見られたかもしれない……。
指名手配犯が目の前にいることを知らない桜は、ぽけーっとしている。そんな桜を愛らしく思い、大好きな
ぬいぐるみを掴むように優しく抱きしめる。
「どうしたんだ?」
「えへへ、なんでもないよ。私は仮面さんとは会ったことないかな。……桜は仮面さんのことどう思う?」
桜に噓をつくのは心苦しいが、これも関わって欲しくないからだ。
さり気なく自分について問い質す。もう一人の自分がどう思われているか私は知りたいのだ。
犯罪者であっても桜ならきっと分かってくれるはず、という自分勝手な考えが動いてしまったのだ。
前に座っているミファも桜の回答を待つ。
結果は、
「殺しはダメかな」
ダメであった。
「幾ら嫌われ者だからって、幾ら悪人だからって、殺して良いとはならないんだなこれが。殺しをしたら一生消えない傷が残るんだよ、自分自身にさ。魂は一人一つだ。……大事にしないとなぁー」
膝枕から起き上がり、身体を伸ばす桜。その言葉には一種の重みがあることをキルラは逃さなかった。
黒く濁った瞳でどこか遠くを見つめる。
「やっぱり……そうだよね」
やはり相容れない物なのだ、私達は。
悲し気に呟いたキルラを、一つの視線が見つめていたがそれに気づくことは無かった。
「そういえば、ゴブリンとは闘ったの?」
全身ズタズタでボロボロの桜に、ミファがデリカシーのない問い掛けをする。
私は横で瞠目する桜を見せるように肩を掴んで、
「ちょっとミファ!配慮が足りなさすぎるよ。この傷や打撲の跡が見えないの?!コテンパンにやられたのはもう分かってるじゃない。それを態々聞くのは意地悪だよ」
キルラの天然発言が矢となって彼方の胸に突き刺さる。
古傷が痛んだのか、胸を摩りながら、
「俺がやられてる前提で喋るの止めようぜ!そもそも俺結構頑張ったしな。あそこにいた奴ら全滅まではいかなかったけど、最期の一匹を除いて大体は俺が片付けたからな」
意想外のことに開いた口が塞がらなかった。
「冗談、だよね?」
ミファが私の気持ちを代弁する。
「冗談じゃないから。ミミに聞いてみたら分かるんじゃないか?初めて死闘を味わったわ」
嘘をついているようには見えない。それなら尚更あり得ないことだ。
ヘラヘラして何を考えているか分からない桜はF級に成りたての新米冒険者だ。そんなか弱い少年がE級に当たるゴブリンを倒すのは余程のことが無いと出来ない芸当なのだ。しかも桜の喋り方からしたら殲滅しかけたような発言であった。
「それなら|L v(レベル)結構上がってるんじゃない?受付で計測できるからやってきなよ」
ミファが受付席を指差しながら促す。
それをきいた桜は眼を輝かせ、子どもみたくスキップをしながらイスから離れていく。
私はその可愛らしい仕草を堪能し終わると、ミファに向き直る。
「何か私に用でもあった?」
「気づいてたの?本当にキルラは天然なのか疑いたくなることが多々あるよ」
両手を肩まで上げて、やれやれと素振りを見せる。
「私とミファの仲だからね。よく分かるよ。それで話って?……まぁ、大半は予想がついちゃうけどね」
私はそこまで言うと肩を落としため息をつく。私とミファは旧知の仲である。私の秘密をバラしてしまう程にだ。
「そうだね、キルラが指名手配犯になってることだよ。桜はこのこと知ってるの?」
「それがね、これっぽちも気付いてないの!同じ部屋に住んでるんだから少しは警戒してたんだけどね。けどもうそろそろ辞めようかな。冒険者としても名を馳せたし、お金に困ることはないでしょ?」
「桜のことはどうするの?」
「えぇ~、勿論一緒だよ!」
今や家族同然になってしまった桜が消えることなど考えていないキルラ。
そこに不安が募ってしまう。
「あのね、キルラ。それは桜を危険に晒すことになるんだよ?」
「なんで、そうなるの?私が上手く足を洗えばいいんでしょ。ミファは心配しすぎなんだよ。今回の大仕事が終わったらちゃんと辞めるって約束してるから大丈夫だよ!」
サムズアップするキルラに、ため息をこぼす。
「だからそれが心配だって言ってるんでしょーが……」
「心配性なんだよ、ミファは!私のスキルが何か知ってるでしょ?固有スキルで変幻自「終わったぞー」」
嬉しそうに手を振りながら、桜は二人の会話を中絶する。ご満足な様子に、ミファもキルラも空気を一転する。キルラに限っては嬉しそうに手を振り返している。
「どうだった?桜の話が本当なら、レベル上がってたんじゃないの」
「まだ俺の言った話信じてねぇーのか?俺は体内の大方が嘘で出来ている男だぞ」
「僕、余計信じれなくなっちゃったよ?!」
「まぁ、見てみろよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前 桜井 彼方(さくらい かなた)
種族 ヒューマン
L v 5
【 体力 】 10
【 魔力 】 5000
【 攻撃力 】 2000
【 防御力 】 0
【 俊敏力 】 7000
スキル
『飴と鞭』・・・努力すればするほど成長し、怠れば怠るほど力が落ちる
『聖魔法』
光(ライト)
閃光(フラッシュ)
『精霊の加護』・・・精霊との相性が良くなる。精霊魔法の耐性がつく
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうだっっ!!」
桜のどや顔に二人は同じ言葉を零す。
「「弱っ」」
容赦のない言葉が、矢となり桜の豆腐メンタルを傷つける。効果抜群であったようだ。
よろよろとイスに寝転がる。歩くだけでもきついのだろう。その結果がステータスに反映しているのだ。このステータスは最大の値を出すのではなく、今の現状が出てくるのだ。だが、全てのアビリティーが弱くなっているわけではない。レベルは2から5に上がっている。レベルアップするとアビリティーの上限解放があるらしい。簡単に言うと、人間から離れていくのだ。
寝込んでしまった桜を、
「大丈夫だよ桜!弱くたって私は見捨てたりしないからね!!」
「ぐはっ!」
天然キルラの追撃が襲う。励ましたつもりのようだが逆効果であった。
何故か動きが止まってしまった桜を宥めながらも、もう一度ステータスに眼を通す。
私はあることに気づく。あらゆるところに文字がかき消されている形跡があるのだ。その上に今の文字が覆いかぶさっている。
引っ掛かりを覚えてしまった。桜が何かを隠していることは薄々気づいていた。
暗殺者の勘が疼いてのかは、分からない。でもこれは知りたいと思ってしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる