10 / 37
第10話
しおりを挟む
俺は歩夢のおかげでなんとか職場に復帰することができた。そして今日も彼の背中を見つめながら業務をこなしていると、背後から声をかけられた。
「どうしたの、佐藤くん?ずっと宮野くんのこと見つめてるけど。」
振り返ると先輩の花田さんがニヤニヤしながら立っていた。
「えっ!?俺、そんなに見てました!?」
慌てて否定しようとするが、花田さんは肩をすくめながら楽しそうに笑う。
「見てた、見てた。すごい見てたよ?やっぱりαの匂いには勝てないってこと?それくらい魅力的なんでしょ?」
「なっ!?何言ってるんですか!そんなわけ…!」
顔が一気に熱くなる。冷静に否定したいのに、どうしても言葉が詰まってしまう。
「ふふ、知ってるのよ?歩夢くんにプロポーズされたんでしょ?」
いたずらっぽい笑顔で言われ、俺はさらに動揺した。
「ど、どこでそんな話を…!」
「看護師の噂網を甘く見ないほうがいいわよ?それに、二人がいい雰囲気なのは周りから見てても丸わかりだもの。」
花田さんはそう言うと、満足げに笑ってその場を去っていった。俺はその背中を見送りながら、冷や汗をぬぐった。
本当に、噂が広がるのが早すぎる職場だ。
「あ!先輩!」
振り返ると、業務を終えたばかりの歩夢が軽く走り寄ってくるのが見えた。
「歩夢くん?…お疲れ様。」
声をかけると、彼は少し首をかしげながら俺の顔をじっと見つめた。
「先輩、顔真っ赤ですよ?大丈夫ですか?」
その言葉に、俺はさらに顔が熱くなるのを感じた。
「あ、いや、なんでもないよ!ちょっと暑いだけで…!」
苦し紛れの言い訳を口にしたが、歩夢はじっと俺の顔を覗き込んでくる。
「本当ですか?なんか、変なこと言われたんじゃないですか?」
「……う、うん。ちょっと花田さんに冷やかされただけ。」
思わず視線をそらしてしまうと、歩夢は「ああ、なるほど」と納得したように頷いた。
「花田さん、よく先輩をからかってますもんね。でも、先輩が赤くなってるの見るの、ちょっと新鮮かも。」
そう言いながら歩夢はクスっと笑った。その笑顔があまりにも自然で、俺の胸がまた少し締め付けられる。
「とにかく、俺は大丈夫だから!ほら、歩夢くんも疲れてるだろ?早く帰って休みなよ。」
慌てて話をそらすが、歩夢は真剣な目で俺を見つめた。
「…じゃあ、先輩も一緒に帰りましょう。」
「えっ?」
「先輩、まだ色々考え込んでるでしょ?一人にしておくの、なんか心配なんです。」
その真っ直ぐな言葉に、俺は何も返せなくなった。ただ頷くしかなかった。
「よし、決まり!じゃあ荷物取ってきますから、ここで待っててくださいね!」
そう言って歩夢は笑顔を残して走り去った。その背中を見送りながら、俺は自分の胸に手を当て、乱れる鼓動を感じていた。
歩夢くん、君はどうしてそんなに俺の心をかき乱すんだろう。
そんなことを考えていると、突然内線電話が鳴った。思わず考え事から引き戻され、俺は受話器を取り上げた。
「はい、もしもし、佐藤です。」
『あ、もしもし?こちら外来受付の春野と言います。佐藤さんですか?』
「はい、そうですが。」
受話器越しの声に少し戸惑いを感じながら返事をすると、次の一言に体が硬直した。
『旦那様がお見えになってます。』
「…え?」
言葉の意味がすぐには理解できなかった。頭の中でその言葉を何度も反芻し、ようやく心臓が嫌な形で跳ね上がった。
「…旦那って…」
声が震えそうになるのを必死に抑える。
『えっと、確かに佐藤 光様とおっしゃっていますが…』
――光。
その名前が俺の胸を深く刺した。手に持った受話器が汗ばんでくるのを感じる。
「…すぐ行きます。」
短く答えて受話器を置いた瞬間、胸の奥から複雑な感情が押し寄せてきた。なんで…どうしてここに…そんな思いが頭をぐるぐると巡る。
「先輩、どうかしました?」
歩夢がタイミングよく戻ってきた。俺の異変に気づいたのか、彼の眉が少し寄せられている。
「ああ…ちょっと用事ができたから、先に帰っててくれる?」
歩夢にだけは、今のこの状況を知られたくなかった。だが、その言葉に歩夢は鋭く反応した。
「先輩、顔色悪いですよ。俺も一緒に行きます。」
「いや、大丈夫だって。本当に大したことじゃないから。」
必死に説得し、なんとか歩夢をその場に留めると、俺は受付に向かって歩き出した。
「どうしたの、佐藤くん?ずっと宮野くんのこと見つめてるけど。」
振り返ると先輩の花田さんがニヤニヤしながら立っていた。
「えっ!?俺、そんなに見てました!?」
慌てて否定しようとするが、花田さんは肩をすくめながら楽しそうに笑う。
「見てた、見てた。すごい見てたよ?やっぱりαの匂いには勝てないってこと?それくらい魅力的なんでしょ?」
「なっ!?何言ってるんですか!そんなわけ…!」
顔が一気に熱くなる。冷静に否定したいのに、どうしても言葉が詰まってしまう。
「ふふ、知ってるのよ?歩夢くんにプロポーズされたんでしょ?」
いたずらっぽい笑顔で言われ、俺はさらに動揺した。
「ど、どこでそんな話を…!」
「看護師の噂網を甘く見ないほうがいいわよ?それに、二人がいい雰囲気なのは周りから見てても丸わかりだもの。」
花田さんはそう言うと、満足げに笑ってその場を去っていった。俺はその背中を見送りながら、冷や汗をぬぐった。
本当に、噂が広がるのが早すぎる職場だ。
「あ!先輩!」
振り返ると、業務を終えたばかりの歩夢が軽く走り寄ってくるのが見えた。
「歩夢くん?…お疲れ様。」
声をかけると、彼は少し首をかしげながら俺の顔をじっと見つめた。
「先輩、顔真っ赤ですよ?大丈夫ですか?」
その言葉に、俺はさらに顔が熱くなるのを感じた。
「あ、いや、なんでもないよ!ちょっと暑いだけで…!」
苦し紛れの言い訳を口にしたが、歩夢はじっと俺の顔を覗き込んでくる。
「本当ですか?なんか、変なこと言われたんじゃないですか?」
「……う、うん。ちょっと花田さんに冷やかされただけ。」
思わず視線をそらしてしまうと、歩夢は「ああ、なるほど」と納得したように頷いた。
「花田さん、よく先輩をからかってますもんね。でも、先輩が赤くなってるの見るの、ちょっと新鮮かも。」
そう言いながら歩夢はクスっと笑った。その笑顔があまりにも自然で、俺の胸がまた少し締め付けられる。
「とにかく、俺は大丈夫だから!ほら、歩夢くんも疲れてるだろ?早く帰って休みなよ。」
慌てて話をそらすが、歩夢は真剣な目で俺を見つめた。
「…じゃあ、先輩も一緒に帰りましょう。」
「えっ?」
「先輩、まだ色々考え込んでるでしょ?一人にしておくの、なんか心配なんです。」
その真っ直ぐな言葉に、俺は何も返せなくなった。ただ頷くしかなかった。
「よし、決まり!じゃあ荷物取ってきますから、ここで待っててくださいね!」
そう言って歩夢は笑顔を残して走り去った。その背中を見送りながら、俺は自分の胸に手を当て、乱れる鼓動を感じていた。
歩夢くん、君はどうしてそんなに俺の心をかき乱すんだろう。
そんなことを考えていると、突然内線電話が鳴った。思わず考え事から引き戻され、俺は受話器を取り上げた。
「はい、もしもし、佐藤です。」
『あ、もしもし?こちら外来受付の春野と言います。佐藤さんですか?』
「はい、そうですが。」
受話器越しの声に少し戸惑いを感じながら返事をすると、次の一言に体が硬直した。
『旦那様がお見えになってます。』
「…え?」
言葉の意味がすぐには理解できなかった。頭の中でその言葉を何度も反芻し、ようやく心臓が嫌な形で跳ね上がった。
「…旦那って…」
声が震えそうになるのを必死に抑える。
『えっと、確かに佐藤 光様とおっしゃっていますが…』
――光。
その名前が俺の胸を深く刺した。手に持った受話器が汗ばんでくるのを感じる。
「…すぐ行きます。」
短く答えて受話器を置いた瞬間、胸の奥から複雑な感情が押し寄せてきた。なんで…どうしてここに…そんな思いが頭をぐるぐると巡る。
「先輩、どうかしました?」
歩夢がタイミングよく戻ってきた。俺の異変に気づいたのか、彼の眉が少し寄せられている。
「ああ…ちょっと用事ができたから、先に帰っててくれる?」
歩夢にだけは、今のこの状況を知られたくなかった。だが、その言葉に歩夢は鋭く反応した。
「先輩、顔色悪いですよ。俺も一緒に行きます。」
「いや、大丈夫だって。本当に大したことじゃないから。」
必死に説得し、なんとか歩夢をその場に留めると、俺は受付に向かって歩き出した。
59
あなたにおすすめの小説
俺の好きな人は誰にでも優しい。
u
BL
「好きなタイプは?」と聞かれて世界で一番多く答えられているのは間違いなく「優しい人」だろう。
相手の優しいところに惹かれ、気づいた時には引き返せないところまで恋に落ちている。
でも次第に気付くのだ。誰だってみんな「優しい人」ではなく「"自分だけに"優しい人」が好きなのだと。
ロランは、"誰にでも優しい男"、フィリオンに恋をしてしまい、地獄のような日々に身を焼かれていた。
そんなとある日「この恋、捨てたいな…」と溢したら「それ、捨てようとすんの、やめてくんね?オレ、あんたがアイツを見る視線に興奮すっからさ」と遊び人で有名な男、ヒューゴに言われる。
彼は、自分を好きな人間には興味がなく、別の誰かに恋い焦がれている人間の目が好きな変態らしい。
そんな身勝手な遊び人とちょくちょく話すようになってからというもの、フィリオンの様子はどんどんおかしくなっていく。
恋を捨てたい男と、恋を捨てるなと言う男と、優しさが狂い始めていく男の話。
※作者の意思ではなくキャラの意思で結末が決まります。ご要望は受け付けられませんのでどちらとくっついても美味しいと思う方のみお読みください。
※中世ヨーロッパ風学園ものです。
※短編予定でしたが10万文字以内におさまらないので長編タグへと変更します。
※完結までノンストップで毎日2話ずつ更新。
クローゼットは宝箱
織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。
初めてのオメガバースです。
前後編8000文字強のSS。
◇ ◇ ◇
番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。
美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。
年下わんこアルファ×年上美人オメガ。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
【BL】執着激強Ω王子はα従者を落としたい
カニ蒲鉾
BL
国王である父親譲りの《美しい美貌》と《強い執着心》、王妃である母親(生物学上は男)譲りの《“推し”への情熱》と《可愛らしさ》、そんな二人の性質を色濃く受け継いで生まれた第一王子のジェイドは生まれたその瞬間から想いを寄せる相手がいた。
ラルド───母の専属騎士である男。
母が生まれた当時から御屋敷お抱えの騎士として傍に仕え、今では専属騎士として母を守るその姿が好きでたまらない。
「ねぇラルド」
「はい、ジェイド様」
「いつになったら僕をラルドの番にしてくれる?」
「……ジェイド様にはもっと相応しい相手がございます」
言葉や態度でわかりやすくアピールしても、身分も年齢も離れすぎている、とまったく相手にされない日々。……それがどうした!?押してダメなら既成事実!どうにかオメガフェロモンで屈強なアルファの男を落とすことはできないだろうか!?
そんな鋼メンタルの執着激強オメガ王子の奮闘ラブコメディ。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
さかなのみるゆめ
ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる