夢を見たならばお姉ちゃんに報告を!

にゃんこう

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2話いつでもどこでも夢物語

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 ◆

 次の日。
 朝食を食べていると、テレビに映る男性に「あぁ」と真菜が大きなリアクションをとる。昨日あんなに元気が無かったのに、今朝の真菜はとても元気がいい。良い夢でも見たのだろうか。

「この禿げた人、ユメに見た!!」

 ブッ。
 思いがけない言葉に、私は口に含んだ牛乳を噴き出しそうになるのを必死に堪えた。

「ごほっげほっ。ま、真菜は凄いねぇ、夢に総理大臣が出てくるなんて」

 総理大臣が夢に出てくるなんて、そんなこと私は一度もない。いや願うならば出てきて欲しくない。
 総理大臣と一緒に遊んだりしても嬉しくないだろう。

 それより総理大臣を夢に見るなんて、もしかすると真菜は将来大物になるのでは? そんことを思いながらパンを齧り付く。

「この人が『ちかん』ってやつをして捕まるの、ユメに見た!」

 ぐふっ。
 またもや思いがけない真菜の言葉に、喉にパンが上手く通らずに詰まらせてしまう。
 手元にある牛乳を一気に飲み、流し込んだ。

「いやいや、総理大臣が痴漢なんて……」

『速報です。たった今、総理大臣の渡辺定雄が痴漢の容疑で逮捕されました。警察の調べによりますと―――』

 私はあんぐりと大きな口を開けて、画面上に流れてるテロップに目を通す。聞き間違いじゃないテロップには『痴漢』と確かに書いてある。しかも真菜の言うとおり総理大臣が。

 隣で「ほらほら」とはしゃぐ真菜。
 もっと前にその情報がテレビでやっていた? いやでも、これ速報だよね。
 昨日のピーマンといい総理大臣といい、偶然にしても出来すぎてる。

「真菜はさ、この総理大臣が捕まる夢を見たんだよね?」
「そだよー」
「他に何か夢見た?」
「ううん、これだけ」

 おいおい、想像力豊かな小学生がなんで総理大臣が痴漢で捕まる夢を見て目が覚めるんだよ。私だったら一日ブルーな気分だよ。

 それはさて置き、これはどういう事なんだろう。
 私の妹が特殊能力を?
 そんな非現実的なことあるわけがない。

「ねぇお母さん。真菜が渡辺総理大臣が痴漢で捕まるのを夢で見たんだって」
「へぇ凄いね、正夢ってやつじゃん。実はお母さんもある夢を見たんだよ」
「どんな?」
「香菜が遅刻するゆ・め」

 母は壁掛け時計を顎でしゃくる。
 私はハッとして時計を確認すると、いつも家を出る時間を十分過ぎていた。

「あぁ!! 遅刻するじゃん! 早く言ってよお母さん!!」
「あんたがちんたらしてるからでしょ」
「というか真菜も遅刻するじゃん」
「ふっふっふ、残念だねお姉ちゃん。今日はね小学校休みなんだよ。この前の土曜日に遠足があったから、今日が代わりの休日なんだよ」
「裏切り者!」

 これも全部、真菜の夢通りに総理大臣が痴漢で捕まったせいだ。私は急いで支度して家を飛び出した。
 全力疾走して、なんとか遅刻にはならなかったけど、真菜の正夢の話が頭から離れず、授業は全く集中できなかった。

(明日もまた真菜に聞いてみよう)


 ◆


 それから、真菜の見た夢は必然的に現実世界に反映されるようになっていた。

 真菜が「お父さんが財布落とすユメ見た!!」と言った日には、顔を真っ青にして帰宅した父が「財布落とした」と発言したり、天気予報士よりも真菜が見た夢の方が信用性があった。

 原因は相変わらず不明なのだが、真菜の見た夢がどんなもので、次はどんな事が起こるのか。いつしかそれを聞くのが楽しみになり、朝が待ち遠しかった。

 だけど、夢を見た事がある人ならば知ってるはず。
 夢には『悪夢』というものがある。
 良い夢ばかりではない。

「お母さんね、4日間だけ仕事の関係でフィリピンに行かなきゃならなくなったのよ」

 昨夜、母がそう口にした。
 IT関係の職に就いている母は、会社独自のツールを世界の企業に広める為に会社側からお願いされていた。
 それでも娘二人がいるため断っていたが、社長がどうしてもと頭を下げてきたので了承したらしい。

「真菜の事は任せといて、気を付けて行ってきてね」
「ありがとね。頼りになるわ香菜」

 こうして明日から、母はフィリピンに旅立つ事となった。母がいない4日間は初めてのため、洗濯物や食器洗い、食事をどうしようかと考えていたので真菜の『正夢』について少しの間、頭から離れていた。

 そして母が旅立つ日。
『悪夢』がやってきた。

 私は母を見送るために朝早く起きていると、真菜の部屋から叫び声ならぬ泣き声が聞こえてきた。
 その声に私も母も驚きが隠せない。

「……真菜だよね?」
「お母さんは準備してて、わたし様子見てくる」
「うん。よろしくね」

 時刻は朝の6時。
 真菜がこんな時間に起きるなんて珍しい。
 私は階段を駆け上がり、二階にある真菜の部屋に入った。するとベッドの上で身体を起こす真菜がいた。

「どうしたの真菜。あんな大きな声を出し―――」
「お姉ぢゃん、お母さんが。お母さんがああぁぁ」

 真菜の瞳には沢山の涙で溢れて、その涙は頬を伝い顎で大渋滞を起こしていた。
 真菜は私に抱きついて、嗚咽を漏らして泣き続けた。そんな真菜の頭を私は優しく撫でる。

「よしよし。怖い夢でも見たのかなぁ……こわい夢……『夢』?」

 私がその言葉を声に出した瞬間、全身に鳥肌が立った。小学生なら怖い夢を見て泣いてしまうのはしょうがないと思う。だが、真菜は違う。

 真菜の見る夢は普通じゃない。
 それに真菜は今、なんて言った?

 私は抱きつく真菜の肩を掴んで無理矢理引き離す。きっと今の私の表情はとても険しいと思う。

「真菜、真菜!! 今なんて言った。ねぇお母さんがどうしたの!? ねぇ!」
「うわぁぁぁぁぁ」

 真菜は自身の泣き声のせいで私の声が届かない。
 私も気が動転して冷静さが欠けているため、泣いてる真菜に力強く声をかけ続けた。
 やはり真菜は泣き続けるだけで、求めている答えが返って来ない。

「どうしたのよ。真菜の泣き声が下まで響いてるわよ」
「お母さん、部屋に入ったら真菜が泣いていて……きっと怖い夢見たんだと思う。お母さんって泣き叫んでた。ねぇお母さん、もしかするとお母さんの身に何か――――」
「大丈夫よ香菜、夢だもの。気にしない気にしなーい。それじゃあお母さんもう行くから」
「待ってお母さん!」

 そう呼び止めるが、母は手をひらひらさせて部屋を後にした。ガチャンという音が部屋まで聞こえて、母が家を出たのだと分かった。

「真菜、落ち着いて。夢でお母さんがどうしたの?」
「ゔん。夢でねお母さんの乗る飛行機が爆発してね、海に落っこちちゃったの」

 それを聞いた瞬間、私の心臓はドクンっと大きく高鳴る。お母さんの乗る飛行機が……爆発?
 そして、私は母がこれからフィリピンに行く事を思い出す。

「お姉ちゃん?」

 頭の中が真っ白になる。
 思考が停止して状況が呑み込めない。
 そうだ、真菜が言ってるのは所詮夢の話。
 私だって空から落ちる夢くらい見た事がある。
 電車に乗って事故が起こってしまう夢だって。
 今までのは……そう、偶然だったんだ。
 偶然が重なっただけ。

 偶然晩御飯がピーマンの肉詰めで、偶然総理大臣が捕まって、偶然父が財布を落とした。あの日が雨だったのも、私の好きな芸能人が引退したのも、先輩が彼女を作った事も。

 全部、偶然なんだ。
 そう思いたいのに……。

「ごめん真菜。ちょっとお留守番してて」
「どこ行くのお姉ちゃん!?」

 胸のざわめきが収まらず、私は真菜を置いてスマホを片手に家を飛び出した。母が家を出てからそう時間も経っていない、きっとまだ近くにいるはずだ。

 母が通りそうな道を予想しながら駅を目指して全力で走った。運動部でもないため、すぐに息が切れて横腹が痛み出す。
 それでも私の足が止まることはなかった。

「もうっ……なんで電話に出ないのよ」

 走りながら何度も母に電話を掛けたが連絡がつかない。まだ、まだ間に合う。

「お母さんっ、嫌だよお母さん」

 最悪な展開を想像してしまい自然と涙が溢れてくる。赤信号で止まると足がガクガクと震えるが、鞭を打って再び走り出した。

 周囲の視線が私に集まる。
 それもその筈、着替えもせずに家を飛び出したので上下パジャマ姿。通り過ぎる人達が「どうしたの?」と優しく声を掛けてくれたが、その優しさに応えることなく無我夢中で駅に向かって走り続けた。

 駅に到着するも通勤途中のサラリーマン達で駅は溢れかえり、改札近くに近づく事さえ困難だった。
 それでも人を掻き分けて、私は母を探した。

「どこ、どこなのお母さん」

 再度スマホを確認するが母から連絡は一切無し。
 交番にも頼り、道行く人にも母を見たか聞いて回ったが、案の定誰も知らない。結局どんなに捜しても母の姿を見ることはなかった。

 私は涙を拭いながら重い足取りで家に戻る。
 もしかすると何かの手違いで母が家に帰っているかもしれない。そんなことを期待しながら、家路を急いだ。

 だが帰宅しても、そこには目を腫らしている真菜しかいなかった。分かっていたけど少し期待していた分、胸が苦しくなる。

 後はもう祈るしかない。
 真菜が言っていることが夢であることを。
 ただわたしは祈る事しかできない。

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