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2)マリナさんの手紙
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「『マリナさんの手紙』が届いたら、ヤバいらしいよ」
給食の時間。同じ班で机を寄せ合って、いただきます、と食べ始めたところ、向かいの席の宮橋愛蘭がそんなことを言い出した。瀬尾雪弥はスプーンを持ち上げたまま、わかりやすく眉を顰めて嫌な顔をする。
「なんで今そんな話すんだよ」
「しょーがないじゃない、思い出したんだからぁ」
愛蘭はそういうと、給食のカレーをひとくちだけ食べてから、こんな話を始めた。
ある日突然、自宅の郵便受けに赤い封筒が入っていることがあるらしい。中には白い便箋に赤いペンで、子どもが書いたような拙い文字の手紙が入っていて、その家に住む子ども宛にこう書かれている。
『□□□ちゃんへ
あなたはマリナさんのお友だちに
エラばれました。
○月×日、△時におむかえにいきます』
指定された日時は、必ず一人で留守番をしなければならない日づけが書かれているらしい。
そしてその日その時間、子どもだけで留守番をしていると「迎えにきたよ」という女の子の呼びかけと共に、玄関ドアをひたすらノックされるのだとか。しかもそれは、大人が帰ってくるまで止まることはないらしい。
「それでね、もし耐えきれずうっかり開けちゃったら、迎えにきたマリナさんに連れていかれちゃうんだって~~」
愛蘭がイタズラっぽく話す様子に、雪弥をはじめ黙って聞いていた同じ班のメンバーはそれぞれに嫌な顔をする。
「もー、やめてよ宮橋さぁん……」
特に怖がりで引っ込み思案な根本彰一は、大好きな給食のカレーに手をつけられずにブルブル震えていた。
愛蘭の隣の席に座っていた加美山楓は、どこか困ったような顔で尋ねる。
「そんな話、誰に聞いたの?」
「同じ塾の子よ。向こう隣の校区の子! でもそこの子も、違う習い事で違う校区の子に聞いたんだってさ」
「じゃあ、この辺の話じゃないわけだ」
クラスの中でも頭ひとつ背の高い上野智広が、少しホッとしたような顔でのんびりと言った。
「でも、同じ市内での話だし、留守番してたはずの子がいなくなっちゃった、っていうのは本当よ!」
「アホらし……」
嬉々として話を続ける愛蘭に、雪弥は呆れたように息を吐く。
「なによー。瀬尾くんは怖いと思わないの? そのうち届くかもしれないわよ?」
「だって普通に考えて、普段から一人きりの子どもを狙った大人の仕業だろ?」
「俺もそう思う」
雪弥の答えに智広が呆れたように同意した。
「もしそんな手紙が来たら、きちんと大人に相談して、対策すればいい。それだけのことだ」
カレーを口に運びながら、雪弥は淡々とした口調で答える。
「それが、普段から留守番なんてしないような子のところにも、手紙がきたらしいんだよね」
「どういうこと?」
「なんかね、その決められた日に、予定なんて全然なかったはずが、突然留守番を頼まれちゃうんだって」
驚いたような顔で訊いてきた楓に答えながら、愛蘭は「不思議だよね~~」とカレーを食べ始めた。
「じゃあ、その手紙がきたって家、盗聴でもされてたんだろ」
「そーそー。手紙だって、パソコン使えば子どもっぽい文字で作ったりもできちゃうし」
「そんな非現実的なこと、あるわけないって」
智広と雪弥の二人で、鼻で笑うように言ってみせても、愛蘭はなんだか納得のいかない顔をしている。
「えー。でも瀬尾くん、月夜地区の『幽霊屋敷』でそういう体験したんじゃないの?」
愛蘭の言葉に、同じ班の全員分の視線が雪弥に集まった。
さすがの雪弥も、口の中のものをゴクンと飲み込んで一息おく。
「……あれは別に。幽霊を見たわけじゃねーし」
つい先日、銀星町の外れにある、一家心中があったという廃屋に銀星小学校の四年生が出入りしていた、という噂があった。雪弥は銀星町子ども会の夕暮れ地区リーダーとして調べていたところ、そこで四年生の一人が倒れているのに遭遇し、助けている。
一部の児童は、倒れていたその子が夜にフラフラと屋敷に向かう様子を目撃しており、幽霊に取り憑かれていたのでは、という噂が広がっていた。
雪弥が助けに行った際、その四年生は終始ボーッとしており、状況からして首を吊ろうとして失敗したような状況だったので、取り憑かれていたというのはあながち間違っていないのかもしれない。
──あんな様子も見たし、幽霊とかお化けみたいなものはいるんだろうな、とは思うけど。
しかしながら、はっきりお化けを見たわけではないので、実感はあまりなかった。
ちなみに、幽霊屋敷に四年生が出入りしていることを教えてくれた、謎の一年生については、結局誰だったのかは分かっていないし、調べていない。
つい口籠ってしまった雪弥に、月夜地区に住む彰一がおずおずと口を開く。
「でも、月夜地区の子達は瀬尾くんのおかげであの幽霊屋敷がなくなったって喜んでるよ」
結局あの幽霊屋敷は、騒動の後すぐ取り潰しになったらしい。
「まぁ、役に立ったならいいけど……」
彰一の言葉にそう返して、雪弥は残りっていた給食のカレーを口の中にかきこんだ。
☆
「『マリナさんの手紙』?」
「そう、知ってる?」
雪弥はいつものように、お風呂上がりの髪を乾かしてくれている天崎肇に、給食の時間に愛蘭から聞かされた『マリナさんの手紙』について訊いてみた。
「さすがに知らないなぁ」
「じゃあやっぱ、ただの噂なのかなー」
天崎肇は雪弥の家のお隣に住んでいる、幼馴染で大学生のお兄さんで、両親が共働きで誰もいない夜、雪弥はこうして肇の家に泊まらせてもらっている。家族ぐるみで仲がいいので、肇とは気の合う兄弟のような間柄だ。
夕飯後にお風呂をいただき、今は寝支度をしている真っ最中。
肇はうーん、と何か考えるような顔をしながら、使っていたドライヤーを片付けると、スマートフォンを取り出して何かを調べ始めた。
「その噂は知らないけど、市内で行方不明の子がいるっていうのは本当なんだよね。ちょうど今朝、ニュースで見かけたんだけど……」
そう言って、肇は雪弥にあるネットニュースを画面に表示して、スマートフォンを差し出す。
よく聞く新聞社のネットニュース。
それを読むと、確かに銀星町に比較的近い街で、一人で留守番をしていたはずの小学生がいなくなった、ということが書かれていた。
普段からよく留守番をしていた子なので、一人で外に出て事件に遭ったのか、家出をしてしまったのか判断がつかない状態らしい。
「……一人で留守番してた子がいなくなった、ってのはハッキリしてるんだな」
「もしその噂の通りなら、留守番の子を狙う人がいる可能性もあるよね」
「うん……」
もしかしたら、こういう事件にありもしない尾鰭がついて『マリナさんの手紙』のような噂話が生まれた可能性だってある。
「……雪弥くんも、気を付けてね?」
「だーいじょうぶだって。オレの場合は、肇兄の家にいればいいんだし!」
「そうだね。そうしてくれると、僕も安心だなぁ」
心配そうな肇に向かって、雪弥はニッコリと笑ってみせた。
給食の時間。同じ班で机を寄せ合って、いただきます、と食べ始めたところ、向かいの席の宮橋愛蘭がそんなことを言い出した。瀬尾雪弥はスプーンを持ち上げたまま、わかりやすく眉を顰めて嫌な顔をする。
「なんで今そんな話すんだよ」
「しょーがないじゃない、思い出したんだからぁ」
愛蘭はそういうと、給食のカレーをひとくちだけ食べてから、こんな話を始めた。
ある日突然、自宅の郵便受けに赤い封筒が入っていることがあるらしい。中には白い便箋に赤いペンで、子どもが書いたような拙い文字の手紙が入っていて、その家に住む子ども宛にこう書かれている。
『□□□ちゃんへ
あなたはマリナさんのお友だちに
エラばれました。
○月×日、△時におむかえにいきます』
指定された日時は、必ず一人で留守番をしなければならない日づけが書かれているらしい。
そしてその日その時間、子どもだけで留守番をしていると「迎えにきたよ」という女の子の呼びかけと共に、玄関ドアをひたすらノックされるのだとか。しかもそれは、大人が帰ってくるまで止まることはないらしい。
「それでね、もし耐えきれずうっかり開けちゃったら、迎えにきたマリナさんに連れていかれちゃうんだって~~」
愛蘭がイタズラっぽく話す様子に、雪弥をはじめ黙って聞いていた同じ班のメンバーはそれぞれに嫌な顔をする。
「もー、やめてよ宮橋さぁん……」
特に怖がりで引っ込み思案な根本彰一は、大好きな給食のカレーに手をつけられずにブルブル震えていた。
愛蘭の隣の席に座っていた加美山楓は、どこか困ったような顔で尋ねる。
「そんな話、誰に聞いたの?」
「同じ塾の子よ。向こう隣の校区の子! でもそこの子も、違う習い事で違う校区の子に聞いたんだってさ」
「じゃあ、この辺の話じゃないわけだ」
クラスの中でも頭ひとつ背の高い上野智広が、少しホッとしたような顔でのんびりと言った。
「でも、同じ市内での話だし、留守番してたはずの子がいなくなっちゃった、っていうのは本当よ!」
「アホらし……」
嬉々として話を続ける愛蘭に、雪弥は呆れたように息を吐く。
「なによー。瀬尾くんは怖いと思わないの? そのうち届くかもしれないわよ?」
「だって普通に考えて、普段から一人きりの子どもを狙った大人の仕業だろ?」
「俺もそう思う」
雪弥の答えに智広が呆れたように同意した。
「もしそんな手紙が来たら、きちんと大人に相談して、対策すればいい。それだけのことだ」
カレーを口に運びながら、雪弥は淡々とした口調で答える。
「それが、普段から留守番なんてしないような子のところにも、手紙がきたらしいんだよね」
「どういうこと?」
「なんかね、その決められた日に、予定なんて全然なかったはずが、突然留守番を頼まれちゃうんだって」
驚いたような顔で訊いてきた楓に答えながら、愛蘭は「不思議だよね~~」とカレーを食べ始めた。
「じゃあ、その手紙がきたって家、盗聴でもされてたんだろ」
「そーそー。手紙だって、パソコン使えば子どもっぽい文字で作ったりもできちゃうし」
「そんな非現実的なこと、あるわけないって」
智広と雪弥の二人で、鼻で笑うように言ってみせても、愛蘭はなんだか納得のいかない顔をしている。
「えー。でも瀬尾くん、月夜地区の『幽霊屋敷』でそういう体験したんじゃないの?」
愛蘭の言葉に、同じ班の全員分の視線が雪弥に集まった。
さすがの雪弥も、口の中のものをゴクンと飲み込んで一息おく。
「……あれは別に。幽霊を見たわけじゃねーし」
つい先日、銀星町の外れにある、一家心中があったという廃屋に銀星小学校の四年生が出入りしていた、という噂があった。雪弥は銀星町子ども会の夕暮れ地区リーダーとして調べていたところ、そこで四年生の一人が倒れているのに遭遇し、助けている。
一部の児童は、倒れていたその子が夜にフラフラと屋敷に向かう様子を目撃しており、幽霊に取り憑かれていたのでは、という噂が広がっていた。
雪弥が助けに行った際、その四年生は終始ボーッとしており、状況からして首を吊ろうとして失敗したような状況だったので、取り憑かれていたというのはあながち間違っていないのかもしれない。
──あんな様子も見たし、幽霊とかお化けみたいなものはいるんだろうな、とは思うけど。
しかしながら、はっきりお化けを見たわけではないので、実感はあまりなかった。
ちなみに、幽霊屋敷に四年生が出入りしていることを教えてくれた、謎の一年生については、結局誰だったのかは分かっていないし、調べていない。
つい口籠ってしまった雪弥に、月夜地区に住む彰一がおずおずと口を開く。
「でも、月夜地区の子達は瀬尾くんのおかげであの幽霊屋敷がなくなったって喜んでるよ」
結局あの幽霊屋敷は、騒動の後すぐ取り潰しになったらしい。
「まぁ、役に立ったならいいけど……」
彰一の言葉にそう返して、雪弥は残りっていた給食のカレーを口の中にかきこんだ。
☆
「『マリナさんの手紙』?」
「そう、知ってる?」
雪弥はいつものように、お風呂上がりの髪を乾かしてくれている天崎肇に、給食の時間に愛蘭から聞かされた『マリナさんの手紙』について訊いてみた。
「さすがに知らないなぁ」
「じゃあやっぱ、ただの噂なのかなー」
天崎肇は雪弥の家のお隣に住んでいる、幼馴染で大学生のお兄さんで、両親が共働きで誰もいない夜、雪弥はこうして肇の家に泊まらせてもらっている。家族ぐるみで仲がいいので、肇とは気の合う兄弟のような間柄だ。
夕飯後にお風呂をいただき、今は寝支度をしている真っ最中。
肇はうーん、と何か考えるような顔をしながら、使っていたドライヤーを片付けると、スマートフォンを取り出して何かを調べ始めた。
「その噂は知らないけど、市内で行方不明の子がいるっていうのは本当なんだよね。ちょうど今朝、ニュースで見かけたんだけど……」
そう言って、肇は雪弥にあるネットニュースを画面に表示して、スマートフォンを差し出す。
よく聞く新聞社のネットニュース。
それを読むと、確かに銀星町に比較的近い街で、一人で留守番をしていたはずの小学生がいなくなった、ということが書かれていた。
普段からよく留守番をしていた子なので、一人で外に出て事件に遭ったのか、家出をしてしまったのか判断がつかない状態らしい。
「……一人で留守番してた子がいなくなった、ってのはハッキリしてるんだな」
「もしその噂の通りなら、留守番の子を狙う人がいる可能性もあるよね」
「うん……」
もしかしたら、こういう事件にありもしない尾鰭がついて『マリナさんの手紙』のような噂話が生まれた可能性だってある。
「……雪弥くんも、気を付けてね?」
「だーいじょうぶだって。オレの場合は、肇兄の家にいればいいんだし!」
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