あなたはカエルの御曹司様

さくらぎしょう

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振り返れば○○はいる

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 仕事中はいつも不愛想なのに、不意打ちの笑顔はいかんだろ。

 でも……確かに、可愛かった瑞貴が、カッコいい瑞貴に変わり始めている。
 
 だけど私は、二回も瑞貴に肩透かしをくらい、さすがにこれ以上の関係は求めないし、迫る勇気はもうない。
 それに、周りが言っているように、忘れがちだったが、彼は社長のご子息。御曹司様。私なんか相手にするわけがないのだ。そもそも教育担当が二回も迫ったら、セクハラ、パワハラでコンプラ問題にされてもおかしくないわけで。
 
 思い返せば返すほど、身の程知らずで恥ずかしい……。

 だから、ルームシェアをさせて貰っていることだけでも奇跡で、現状を維持し、大切にしなければ。

「綾さん、何をそんなに一人で悶えてるんです?」
「へっ!?」
「さっきから、くるくる表情だけ変化してて、面白いですよ」
「ずっと見てたの!?」
「はい」

 瑞貴はクスクス笑って私を見ていた。

「だって綾さん、可愛くて……つい」

 仕事中の瑞貴らしからぬ発言に、私は誤ってパソコンのback spaceキーをずっと押していた。

「ギャー――」
「え?」
「もう、瑞貴のアホぉ!」
「えええ」

 午後は瑞貴と一切喋らず目も合わせず、死に物狂いでロスを補い、残りの仕事を処理していった。それもこれも、瑞貴より早く帰って、新鮮なブロッコリーを茹でて待っていたくてだ。
 
 「よっしゃああ!!」

 出来上がった資料をメールに添付して、Enterキーを叩き押すと、すぐにパソコンをシャットダウンして会社を走り出て、駅の構内を急ぐ。
 
「綾ッ!」
 
 京葉線のホームに着く手前で、急に嵯峨の声が後ろから聞こえた。
 ゾッとしながら振り返ると、やはりあいつはいた。

「ゲッ!? なんでいんの?」

 急いでヒールを脱いで、ホームまで全力で階段を駆け降りる。
 発車ベルが鳴っており、間一髪で目標の電車に飛び乗った。嵯峨も飛び乗ろうとしたが、直前でドアは閉じた。
 嵯峨は表情を歪めて、バンッと思い切り電車のドアを叩いたので、駅員二人に電車から引き剥がされ、囚われた宇宙人のように連行されて行った。

 私はやっと胸をなでおろし、にこやかな笑顔を向け、連れて行かれる嵯峨に手を振る。
 
 ヒールを履きなおし、電車のドアに寄りかかる。
 乱れた息を整えながら、窓の外を眺めた。
 
 嵯峨は……気持ち悪いな……。
 
 それより、これで瑞貴の帰りまでには余裕で間に合う。気持ちを切り替えよう。

 ブロッコリーを買ってから家に帰ると、ストッキングで走った事を思い出し、玄関に上がる前に、タイトスカートをたくし上げて汚れたストッキングを脱ぎ始める。

「綾ちゃんおかえり!」

 リビングドアが勢いよく開き、瑞貴と目が合った。
 私はパンツ丸出しの中腰で、ストッキングを脱ぎ途中の、みっともない格好だった。

 ……身も心も、石のように固まった。終わった。

 下着姿を見られるにしても……
 これはさすがに……
 色気がねえよ……
 完全に痴態。

「綾ちゃん、すいませんっ!!」

 瑞貴が謝りながら背を向けたので、破き捨てるようにストッキングを脱ぎきり、タイトスカートをピッと戻す。

「なっ、なんで? 早すぎない?? とりあえずもう振り返って大丈夫だから」

 瑞貴は振り返ってこちらを向いた。
 
「今日、綾ちゃんの仕事を邪魔したから、お詫びに今夜は外で食事でもどうかと思って、先に電車で帰って来てたんです。綾ちゃんも、なんでそこでストッキング脱いでたんですか?」
「汚れてるから、玄関上がる前に脱ごうと思ったの」
「別に気にしなくていいのに」
「今日は靴を脱いで走って、本当に汚れてたのよ」
「靴を脱いで走る???」
「帰りに……嵯峨に追いかけられたのよ……」

 途端に瑞貴は表情をしかめ、不快感を露わにした。

「嵯峨に……?」
「でも、大丈夫よ。うまくまいたし。じゃあ、足洗って着替えて来るね」

 なるべく床を汚さないよう、つま先立ちでお風呂場に向かおうとすると、近づいてきた瑞貴に抱きかかえられた。

「え」
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