十七歳の春、不本意ながら魔法使いの妻になる

さくらぎしょう

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2. バイト先『塩結び』

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 駅前商店街の中にあるおにぎり屋『えん結び』でバイトしている。

 ロッカールームにつくと、肩下まである黒髪を一本に結び、赤色のエプロンがハンガーラックに掛かってるので、自分に合うMサイズを取って身につけた。

白高下しらこうげさん、ごめん、俺にもLLサイズのエプロン取ってこっちに投げてくれる?」

 店内に続く入口にかかる暖簾を片手で避けながら、体育大に通う堂島昂牙どうじまこうがさんがこちらに顔を覗かせていた。

「あれ? 堂島さん、今日シフト入ってましたか?」

 私の問いに答えたのは、堂島さんではなく、彼の背後の方から聞こえる、姿の見えないパートの秋田さんの声。確か今日は秋田さんが昼からラストまでシフトに入っていた。

「透子ちゃん、ごめーん! 本当はこの時間帯も私なんだけど、今子供から店に電話が掛かってきて、怪我したとかですぐに帰らないといけなくなったのよぉ。そしたらちょうど堂島君がおにぎり買いに来てて、このままシフト変わってくれるってなって」

「秋田さん、お子さん怪我してるならすぐ帰ってください。店長には俺からシフト変わった事情説明しておきますんで」

「堂島君本当ありがと~。お言葉に甘えて任せちゃうね」

 大柄な堂島さんの後ろから、ひょっこりと小柄な秋田さんが現れれば、小走りでロッカーまで戻ってきて、カバンを取り出し、エプロンを洗濯籠に投げ入れ、わずか数十秒の間に消えて行った。

「白高下さん、ほら、お客さん来ちゃうからエプロン投げて」

「あ、はい」

 私がLLサイズのエプロンを堂島さんに向かって投げれば、堂島さんはパシッとエプロンを掴んで二ッと白い歯を私に見せた。その姿は短い黒髪の良く似合う、体育会系好青年といったところ。

「ナイスシュー」

 堂島さんは爽やかで裏表のない良い人だけど、二人でシフトに入る時は決まってこんな会話になる。

「白高下さんって今も彼氏欲しいとか思わないの?」

「ないです」

 堂島さんは恋愛トークが大好きなのだ。

 彼の武勇伝は散々聞かされたし、歴代彼女の愚痴もしかり。

「えー、高校生の時なんて、部活と恋が一番楽しかったけどなあ。って、俺は今もだけど。
 片思いもないの?」

「ないです」

「うっそだあ~。お嫁さんになりたいとかないの?」

「ないですね。コスパ悪いことはしませんから」

「コスパ悪いか?」

「悪いですよ。恋も結婚も。片思いなんてして、相手のことばかり考えるとか、それでフラれて傷ついて何も手につかないとか、時間と労力の無駄でしかないですし、もし両想いになってしまえば、その後その男に時間を割くため自分の時間減らすとか、プレゼントやデート代とか、結婚なんて帰ってこない父を待つ母を見ていて、むしろ一人の方が良かったんじゃないかとも思えますし、とにかく、時間と労力だけじゃなく、もはや浪費です」

「浪費って……。でもさ、人生を豊かにするために必要な浪費もあるじゃん?」

「浪費に必要なものは無いです。だから、浪費です」

「じゃあ、白高下さんって夢はないの?」

「あります」

「お! なになに?」

「就職率の高い大学を出て、福利厚生の手厚い優良企業に就職することです」

「お、立派だねぇ。
 それで、それはなんのために?」

「なんのためって、生活のために決まってるじゃないですか」

「うーん、そうなんだけど、それって大学で何を学びたいとか、やりたい仕事があるってわけじゃないんだよね? 
 福利厚生の手厚い企業希望ってことは、プライベートを大切にしたいってことなんでしょ? じゃあ、プライベートで何を充実させたいためなの?」

「充実させたい?」

「白高下さんの様子だと、家庭や子供を持ちたいから、とかじゃなさそうじゃん? 旅行が趣味にも思えないし、何のために働くのかな? って」

「堂島さん」

「ん??」

「老後のためです」

「はは、そうか」
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