十七歳の春、不本意ながら魔法使いの妻になる

さくらぎしょう

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9. お昼休み

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 昼休み、セラは誰よりも早く教室を出て行き、休み時間毎に群がってきていた女子達をようやく撒いた。

 私はお弁当を持って教室を出ようとしたら、頭の中に声が流れてきた。

『社会科って書かれた札のある部屋に来て』

 セラの声だった。

 確か伊勢さんにスマホを渡されてたはずなのに、魔力を消費する魔法を使ってくるとは。

 朝もガンガン魔法使ってたけど、大丈夫なのだろうか。

『あ……やばい。意識が朦朧としてきた……』

 勝手に倒れてくれ。

【高校で不審死。倒れた高校生は、あの伊勢櫂と同じ名字で、同じ住所と発覚。見た目もどことなく伊勢櫂を彷彿。隠し子か!! ——某週刊誌】

 脳裏に不穏なビジョンがチラつく……。

 伊勢姓で転入してきて、伊勢さんと同じゲルマン系の容姿で不審死とかやめて。

 私は大急ぎで渡り廊下を渡り、特別授業棟へと向かった。

 通常教室がこの棟にはないので、昼休みのこの時間はほとんど人はいない。

 社会科教室の扉を開けて教室内を見渡すが、セラは見当たらない。

『その奥』

 その奥??

 教室の奥には教材を保管している準備室に続く内扉がある。教室の扉を閉めて、早歩きで準備室に向かった。

 準備室を開ければ、床の上に座り込んだセラがいた。

 セラは力なくふにゃりと笑って手招きした。

「死にそう。早くこっち来て」

「むやみやたらと魔法使わないで。キスはしないからね」

「うん、しないから。ほら、ここ」

 セラは自分の隣の床をぽんぽんと軽く叩いた。

 気怠いため息をこぼしながらドサっと隣に私も座り込むと、すぐに指を絡めてきてしっかりと手を繋いできた。

 男の子の手って、大きくてごつい。

「はぁ~、満たされる~」

 セラは深い安堵の息を吐きながら、目を瞑り、頭をことんと私の肩に乗せた。

「重」

 私のぼやきなんてセラは聞いてない。

 ちらっとセラの顔を見れば、まつ毛が長いことに気がついた。

 パッと目が開き、新緑色の瞳と目が合った。

「いい匂いがする」

「え」

「美味しそうな匂い」

 また食われるのかと、咄嗟に口元を片手で覆い隠した。

「それ、お弁当?」

 セラは私の横に置かれたお弁当をのぞき込むように見ていた。

「こっちだったか」

 私が何を勘違いしていたのか、セラがようやく気づいたようで、プッと笑った。

 セラは私をからかって、これみよがしに顔を覗きこみ、誘うような視線で見つめてきた。

「食べていいの?」

「そういうことする人には、次は魔力が無くなっても助けません」

「それは困るなぁ」

 私はセラの手を乱暴に振り払い、お弁当を広げ始めた。

「凄い美味しそう。トーコ、いつも起きるの早いなって思ってたけど、毎朝お弁当作って持って行ってたんだね」

 返事もせずに箸を取り出して、掴んだ卵焼きを隣でうるさい口に突っ込んだ。

「うまーっ」

 新緑の瞳がキラキラと輝きだし、両手で口元を押さえて感動していた。

 そんなに喜んでもらえると、ちょっとむず痒い。

「どーせお昼ご飯ないんでしょ? ほら、あげるから」

「え? だってそしたらトーコがお腹空いちゃうよ?」

「お腹空いてないし。これ食べたら購買と学食案内してあげるから、明日からはそこで自分で買って食べてよ」

「僕も毎日トーコのお弁当食べたいなぁ」

「やめてよ。面倒くさい」

「確かに大変だね。じゃあ、あとでご飯売ってる場所教えて」

「そもそも、どうやってここに転入してきたの?」

「家にいても暇だし、だったらトーコの暮らしを見てみたいなぁって思って」

「で、魔法使ったの?」

「ご名答」

「死ぬからね」

「同じ学校ならトーコいるし」

「もう!」

「死ぬほどの魔法は使わないよ」

「今しがた瀕死状態だったでしょうが!!」

「ねね、次これ食べたい」

 セラは超マイペースで、すでに弁当に視線を戻して、ウインナーを指さしていた。

「食べていいよ」

「あーん」

 なぜ、口を開けて待ってる……。

 私は弁当と箸をセラの膝に置いた。

「自分で食べなさい」

 セラはバツが悪そうな、少し切ない表情で私を見た。

「ごめん……このハシっていうのが使えないんだ」

 そうだ。セラの世界はヨーロッパに近い文化のようで、箸ではなくナイフとフォークしか使えなかった。

 私を見るセラの表情が、しゅんとした子犬に見えた。

 弁当箱をもう一度手に取り、ウインナーを箸で掴んでセラの口元まで運んだ。

「はい」

 しょげてた子犬は、パッと目を輝かせて嬉しそうにぱくついた。

 これは餌を与える側も嬉しいかもしれない。

「おいしー! ありがとうトーコ。でもやっぱりそれじゃトーコが大変だから、ハシの使い方教えてよ」

 確かに。教えた方が早いし、面倒くさくない。

 私は手をセラの目線まで上げて、箸を開いたり閉じたりして見せた。

「ええ? 貸して。どうやるの?」

 セラに箸を渡すと、やっぱり使い方がなってない。

 仕方ないのでセラの箸を持つ手に自分の両手を添え、セラの指を箸に添える位置を微修正しながら説明した。

 セラの右手に自分の両手を添えるとなると、少し身体を寄せて前のめりぎみになってしまった。

 バランスの悪い体勢に少しキツく感じていたら、私の腰に腕が回され、しっかりと身体を密着させて押さえられた。

「辛そうだったから。これで、安定した?」

 この体勢、余計、やりづらい。

 こいつは子犬じゃない。大型犬だ。
 犬種はゴールデンレトリバーかな?

「あ、ほら、上手につかめたよ」

 セラは箸でぎこちなく掴んだご飯を、自分ではなく私の口元にもってきた。

「ほら、あーんして」

「は!?」って言ってしまえば最後、開いた口にお米を入れられた。

 抗議の声を上げたかったけど、口の中がまだもぐもぐしていた。私は両手で口元を押さえ、必死にコメを嚙み潰した。

 その間にセラはもう一度箸でごはんを掴み、今度は自分で食べて満足そうな顔をしていた。



 

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