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8. 変化した日常
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「今日からロケで一週間留守にするから。セラドナイトは透子ちゃんのことを頼むよ」
「ええ、僕がいますから安心してください」
お前がいるから心配なんだよ。と、心の中で呟いた。
朝一で伊勢さんは地方ロケに向かってしまい、朝食からセラと二人きりだった。
セラは伊勢さんがいない時は決まって魔法を使い始める。
おかげでダイニングルームでティーポットが宙に浮いていようが、私はもう動じなくなった。
トーストにバターを塗っていれば、宙に浮いたティーポットが私の空になったティーカップにじょろろと紅茶を満たした。
「トーコ、紅茶をどうぞ」
私は返事もせずにパンをかじると、隣からこそばゆい視線が突き刺さってくるのを感じた。
耐えかねて横を向けば、にこにこ微笑むセラが肘をついて私の方をジーッと見ていた。
「なに?」
「バターついてるよ」
「うそっ!?」
セラが自分の唇の端を指でトントンと示してバターの位置を教えてくれた。
私は即座に指で拭い、真っ赤になった顔でセラを睨みつけながら強めに礼を言った。
「どうもありがとう」
「どういたしまして」
素直なお礼じゃないことはセラもわかってるくせに、セラは嬉しそうにふわふわとした表情で微笑んだまま。
セラと暮らすようになってから、まるで私が彼の手のひらで転がされているような気がして、無駄に噛みついてしまう。
そんな自分にも腹立たしくて、私はプイと顔を逸らした。なのに、セラはまだ私をじっと見ているのが、隠す気もない気配でわかった。
「そもそも、なんで隣に座るの?」
「だって、ここが僕の席だから」
「伊勢さんいないんだから、そういう時は対面に座ればよくない?」
「座り慣れた席が一番落ち着くんだよね」
座り慣れるほどまだここで暮らしてないでしょ!
私は食事途中でガタンと席を立った。
「ごちそうさま。もう行かなきゃ」
「え? もう行くの?」
「今朝、日直なのを思い出した。今日はバイトもあるから、学校からそのまま向かって帰りは二十二時過ぎるからね。一人で魔法使って死にかけるとかやめてね」
「万が一死にかけたら?」
「魔法を、つ・か・う・な」
セラのおでこを指で強くひと押しした。
「でもさ、トーコ」
「聞きたくない! 行ってきます!」
おでこをさすりながら何かを言いかけたセラだけど、どうせ魔法を使いたいといわれるだけなんだから、聞くつもりなんてない。
私はそのまま学校に向かった。
いつもより早く家を出てしまったから、本当はギリギリまで入りたくない教室に入るしかなかった。
扉を開ければ、窓際の席に一人だけ男子がすでにいた。
私が開けた扉の音に反応し、彼は視線を参考書から、私へと移した。
前髪をセンター分けした、さらさらとした黒髪。メガネを掛けた理知的な視線。鼻筋は通り、品の良さそうな顔立ち。
こんな賢そうな男子がいたのか。
「あ……」
私を見た第一声が「あ」であったことに、地味に傷ついた。
その「あ」は、何を思ったのだろう。
あ、やべえ、白高下だよ。
そんなところか。
「おはよう」
私の挨拶に、彼は一瞬戸惑っていた。
「お……おはよう」
基本の挨拶すら躊躇われる私。
無視されなかっただけマシだろうけど。
席に着き、カバンを置くと、ホームルームの時間まで図書室で過ごそうと、また教室を出て行った。
教室を出る時、水無瀬さんとすれ違った。こちらは安定の無視。
背中越しに水無瀬さんが教室にいた男子に話し掛ける声が聞こえた。
「マナト、おはよう~」
あれがマナト君か。
どうでもいいけど。
ホームルームまで図書室で過ごし、チャイムが鳴ったので教室に戻った。
まだ先生は来ておらず、窓際でまだゲラゲラと談笑している男子達や、向き合って座っているのに互いに鏡を入念に見ている女子達、朝ごはんなのか間食なのかお弁当をもう食べている子もいれば、机に伏せて寝ている子もいた。
いつも通りの朝である。
無理をしてでも特進科に行くべきだったか……なんて思いながら、席に着いた。
まだ廊下にいて喋っていた女子達が、興奮した様子で、教室に雪崩るように飛び込んで来た。
「やばいやばいやばいやばい」
「みんな聞いてよ! 転校生!! 今、尾美ちゃんとこっち向かって来てるの見えた!」
「超・絶・イケ・メン!!」
女子が一斉に湧きあがり、男子は少し居心地が悪そうだった。
扉ががらりと開けられると、騒いでいた女子達含め、みんな急いで席に着いた。
教室に入ってきた担任の尾美公平先生と、その後ろに続く転校生を見て私の顔は青ざめた。
金色のゆるいくせ毛、陶器のような白い肌、新緑色の瞳でふわりと微笑んでいる魔法使い。
「転校生を紹介する。伊勢瀬楽君。
外国で育ったそうで、日本での生活にまだ慣れていないそうだから、みんな色々と気にかけてあげて欲しい」
「伊勢瀬楽です。よろしくお願いします」
教室の中でどよめきが起こる。セラが綺麗な日本語をしゃべったから、私を含めてステレオタイプなみんなは反応したのだ。
「伊勢君の席は……」
尾美先生が窓際の方を向いた時、セラはパチンと指を鳴らした。
「白高下さんの後ろがスペース空いてるから、あそこに席を準備しよう」
ちっ……。
セラが魔法を使ったに違いない。
あれよあれよという間に、私の後ろに席が追加され、セラが座った。
「ええ、僕がいますから安心してください」
お前がいるから心配なんだよ。と、心の中で呟いた。
朝一で伊勢さんは地方ロケに向かってしまい、朝食からセラと二人きりだった。
セラは伊勢さんがいない時は決まって魔法を使い始める。
おかげでダイニングルームでティーポットが宙に浮いていようが、私はもう動じなくなった。
トーストにバターを塗っていれば、宙に浮いたティーポットが私の空になったティーカップにじょろろと紅茶を満たした。
「トーコ、紅茶をどうぞ」
私は返事もせずにパンをかじると、隣からこそばゆい視線が突き刺さってくるのを感じた。
耐えかねて横を向けば、にこにこ微笑むセラが肘をついて私の方をジーッと見ていた。
「なに?」
「バターついてるよ」
「うそっ!?」
セラが自分の唇の端を指でトントンと示してバターの位置を教えてくれた。
私は即座に指で拭い、真っ赤になった顔でセラを睨みつけながら強めに礼を言った。
「どうもありがとう」
「どういたしまして」
素直なお礼じゃないことはセラもわかってるくせに、セラは嬉しそうにふわふわとした表情で微笑んだまま。
セラと暮らすようになってから、まるで私が彼の手のひらで転がされているような気がして、無駄に噛みついてしまう。
そんな自分にも腹立たしくて、私はプイと顔を逸らした。なのに、セラはまだ私をじっと見ているのが、隠す気もない気配でわかった。
「そもそも、なんで隣に座るの?」
「だって、ここが僕の席だから」
「伊勢さんいないんだから、そういう時は対面に座ればよくない?」
「座り慣れた席が一番落ち着くんだよね」
座り慣れるほどまだここで暮らしてないでしょ!
私は食事途中でガタンと席を立った。
「ごちそうさま。もう行かなきゃ」
「え? もう行くの?」
「今朝、日直なのを思い出した。今日はバイトもあるから、学校からそのまま向かって帰りは二十二時過ぎるからね。一人で魔法使って死にかけるとかやめてね」
「万が一死にかけたら?」
「魔法を、つ・か・う・な」
セラのおでこを指で強くひと押しした。
「でもさ、トーコ」
「聞きたくない! 行ってきます!」
おでこをさすりながら何かを言いかけたセラだけど、どうせ魔法を使いたいといわれるだけなんだから、聞くつもりなんてない。
私はそのまま学校に向かった。
いつもより早く家を出てしまったから、本当はギリギリまで入りたくない教室に入るしかなかった。
扉を開ければ、窓際の席に一人だけ男子がすでにいた。
私が開けた扉の音に反応し、彼は視線を参考書から、私へと移した。
前髪をセンター分けした、さらさらとした黒髪。メガネを掛けた理知的な視線。鼻筋は通り、品の良さそうな顔立ち。
こんな賢そうな男子がいたのか。
「あ……」
私を見た第一声が「あ」であったことに、地味に傷ついた。
その「あ」は、何を思ったのだろう。
あ、やべえ、白高下だよ。
そんなところか。
「おはよう」
私の挨拶に、彼は一瞬戸惑っていた。
「お……おはよう」
基本の挨拶すら躊躇われる私。
無視されなかっただけマシだろうけど。
席に着き、カバンを置くと、ホームルームの時間まで図書室で過ごそうと、また教室を出て行った。
教室を出る時、水無瀬さんとすれ違った。こちらは安定の無視。
背中越しに水無瀬さんが教室にいた男子に話し掛ける声が聞こえた。
「マナト、おはよう~」
あれがマナト君か。
どうでもいいけど。
ホームルームまで図書室で過ごし、チャイムが鳴ったので教室に戻った。
まだ先生は来ておらず、窓際でまだゲラゲラと談笑している男子達や、向き合って座っているのに互いに鏡を入念に見ている女子達、朝ごはんなのか間食なのかお弁当をもう食べている子もいれば、机に伏せて寝ている子もいた。
いつも通りの朝である。
無理をしてでも特進科に行くべきだったか……なんて思いながら、席に着いた。
まだ廊下にいて喋っていた女子達が、興奮した様子で、教室に雪崩るように飛び込んで来た。
「やばいやばいやばいやばい」
「みんな聞いてよ! 転校生!! 今、尾美ちゃんとこっち向かって来てるの見えた!」
「超・絶・イケ・メン!!」
女子が一斉に湧きあがり、男子は少し居心地が悪そうだった。
扉ががらりと開けられると、騒いでいた女子達含め、みんな急いで席に着いた。
教室に入ってきた担任の尾美公平先生と、その後ろに続く転校生を見て私の顔は青ざめた。
金色のゆるいくせ毛、陶器のような白い肌、新緑色の瞳でふわりと微笑んでいる魔法使い。
「転校生を紹介する。伊勢瀬楽君。
外国で育ったそうで、日本での生活にまだ慣れていないそうだから、みんな色々と気にかけてあげて欲しい」
「伊勢瀬楽です。よろしくお願いします」
教室の中でどよめきが起こる。セラが綺麗な日本語をしゃべったから、私を含めてステレオタイプなみんなは反応したのだ。
「伊勢君の席は……」
尾美先生が窓際の方を向いた時、セラはパチンと指を鳴らした。
「白高下さんの後ろがスペース空いてるから、あそこに席を準備しよう」
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あれよあれよという間に、私の後ろに席が追加され、セラが座った。
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