十七歳の春、不本意ながら魔法使いの妻になる

さくらぎしょう

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17. 日曜日(後編)

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「とりあえず、まずはプリクラ撮ろっか」

 ……撮ったことないけど、目が大きくなるアレだよね?
 あんなに人が変わる写真撮っても……お金がもったいないな……。

「プリクラって、出来上がったものが人が変わりすぎて苦手で……私はいいかなあ……」

「じゃあ、いいのある! こっち来て」

 どうやらプリクラからは逃れられそうもなく、みんなの同意も得る前に水無瀬さんは歩き出した。

 水無瀬さんに半ば強引に全員がプリ機に詰め込まれると、さっそく撮影が始まった。

「せま」
「ほら白高下さんもっと寄って」
「セラ……腰に手を回さないで」
「え、寄ってって水無瀬さん言ってるし」
「ほら、みんな前向いて」

 ぐだぐだの状態でシャッターが切られ、生まれて初めてのプリクラ撮影は終わった。

 こんなにわちゃわちゃしたのも、初めてかもしれない。

 出来上がりは期待していなかったけど、想像していたものとは全く違い、自然な姿で映った縦四枚のプリクラが出てきた。

 写真に写る私は、楽しそうな顔をしていた。

 セラに至っては感動の震えまで起こしている。

「すごい……この世界には、こんなものまであるんだ……」

 セラの世界に写真はなかったんだ。

 セラがプリクラを見て目を輝かせてて、その姿がなんか可愛いくて、つい笑ってしまった。

 そして私に視線を移したセラが、柔らかく目を細めた。

 体育祭以降、セラの私に向ける視線や笑顔が、少しだけ変わりはじめた気がした。

「この世界って、瀬楽君おもしろーい。でも確かにこれね、日本のじゃなくて韓国のプリクラなの。だから、日本のと違って自然に、しかもめっちゃエモいのが撮れるの。ちょうど四人だから、一枚ずつ切って渡すね」

 その後は、ゲームセンターでセラと真斗君が本気で太鼓バトルしたり、私は水無瀬さんの買い物付き合わされたり、因縁のカラオケに行ったり、でも水無瀬さんがアイドルソング歌うと、真斗君とセラが妙に息が合うタンバリン奏者になって笑えたし、一人では絶対に入らないようなオシャレなカフェに連れて行ってもらったり。
 
 別れ際に水無瀬さんが記念にって、いつの間にか買ってた四人お揃いのクマのキーホルダーをくれたり。
 よく見れば、四つのクマは全て色違いだけど、水無瀬さんが真斗君に渡したクマは、自分と同じ両手を上げたポーズのもの。

 やっぱり、水無瀬さんは真斗君が好きなんじゃないかな……。

 こういう時間も、案外、楽しかった。

「もう私達マブだね。だから、水無瀬さんって呼ぶのやめて。私のことは乃杏で、白高下さんは透子。真斗と瀬楽君もお互い呼び捨てね。破った人は購買のパンを他三人におごること」
「何パン?」
「やっぱ、やきそばかな」

 私以外の三人はすでに息がぴったりだ。

「じゃ、私と真斗は方向一緒だから、ばいばーい」

 水無瀬さん、じゃなく、乃杏と真斗は私達に手を振って帰って行った。

「トーコ、ありがとう」

「え? 何が?」

「こんなに腹の底から笑ったの、久しぶりすぎて。経験なかったし」

「それなら、私もこういうの初めてだし。私じゃなくて、水無瀬さ……違った、乃杏にお礼を言うべきだよ」

「トーコがいなかったら、行きたいなんて言うわけないから、僕のお礼はトーコのもの」

「なら、私もセラにお礼を言っていい?」

「僕に?」

「用具倉庫で、わざと私と乃杏を二人きりにしたでしょ?」

「そんなことない」

「はぐらかさないで。バレバレだったし。おかげで乃杏とぎくしゃくしてたのが無くなって、おまけに楽しい時間ももらえた。
 だから……ありがとう。セラのおかげだよ」

 お礼を伝えた時、自然と笑みがこぼれてしまった。

 視線が合っていたセラの眉が優しく持ち上がると、瞳が潤んだのがわかった。

 私達二人の秒針だけが、ゆっくりと音を鳴らして進んでいる気がした。
 
 セラは呼吸の仕方を思い出したかのように、はっと短く熱い吐息を漏らすと、こちらが恥ずかしくなるほど顔を赤く染めた。

 その胸の音まで聞こえてきそうな表情に、私まで胸が騒がしくなり体温が上がった。

「ねえ、トーコ、もう一度……それして」

「え?」

「もう一度、今みたいに笑ってよ」

「今みたいって……どんなのかわからない」

「そっか…………めちゃくちゃ可愛かったのに」

「そういうの平然と言わないで。恥ずかしいから」

 セラが私の手を握れば、心地良いくらいセラの手は温かかった。
 握られた手は、セラの胸元にあてられた。

「平然じゃないよ。ほら」

 トクトクと脈打つセラの胸は、がっしりとしていて、男性の身体だった。

 手のひらから伝わるセラの熱と感触に、感情の処理が追いつかなかった。
 
 セラのどこが平然じゃないとか考えられないくらい、私が平然と出来なくなってきた。

「やっぱり……異世界では男の人は剣とか持って訓練するの?」

「え? 何急に」

「だって…………セラが予想外に鍛えられた身体だから」

 セラの手の力が弱まり、私から離れた。

 少し、はしたない発言だったかもしれない。
 でも、そんなに急に空気の温度を下げられると、不安な気持ちが胸に広がってしまう。

「…………戦争が、あったから」

「え」

 セラの表情には憂いが混じり、同じ年とは思えないほど大人びていた。

「そうなの?」

 さっきまで見せてくれていた温かな表情は消えて、今はまた作られたような儀礼的な品の良い笑顔を私に向けていた。

「だから、魔法だけじゃなく、ちゃんと戦えるよ。たくましいでしょ」

 ちゃんと戦える……。
 それは、この年齢で、戦ってきたということ?

「ごめん、帰ろ」

「え? あ、うん」

「手」

「え?」

「つなご」

 いつもは勝手に繋いでくるのに、確認された。

 私が遠慮気味に手を差し出せば、セラはしっかりと私の手を、その大きな手で握り締め、でも視線を合わせることなく、歩き出した。

 まだ温かなこの手の温もりを信じたい。

「ねえセラ……LIKE交換してよ」
「だめ」
「なんで?」

 どうしよう……。

 なんで私はこんなに不安で、焦ってしまうんだろう。

 だから……恋なんてしちゃいけない。

『トーコとは1秒でも早く話したいから』

 頭の中に、また勝手にセラの声が流れてきた。

 セラを見上げれば、やっと振り返って目を合わせてくれた。

「LIKEで返事なんて待てないよ」

 恋なんてしたら、四六時中考えて、振り回されてしまう。



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