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31. 天秤
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瞬きする間に、私とセラは伊勢さんの目の前に転移した。
顔を上げた伊勢さんは瀬楽と目が合うなりソファから立ち上がり、視線を合わせたまま、眉を顰めて一直線に駆け寄ってきた。
伊勢さんは瀬楽の肩を掴むと、苛立ちの声を上げた。
「なぜ、戦争のきっかけが私の失踪だったと言わなかった」
「女王陛下に、黙っておくようにと命令されていたからです」
「フローライトが私を魔法で消したことになっていたんだろ? それで、トランスレーン王国が報復攻撃を開始したと。
本当にこの世界に私を飛ばしたのは、フローライトなのか?」
「断じて、女王陛下ではありません」
「だろうな。確認しただけだ。
今、フローライトの手首には魔法を無効化させる手枷がはめられていて魔法が使えない。彼女が看守を言いくるめて取り戻したスマホには、セラドナイトの魔法のアプリがあったから繋がった。
幽閉されているのはトランスレーンではなく、彼女の統治するアルビオン王国の王城内幽閉塔。
フローライトに罪を着せ、戦争を引き起こしたのは従兄だったと言っていた」
「まさか……ヒルクレスト様が……」
「セラドナイト、今すぐ私をフローライトのもとへ転移させるんだ」
「しかし、透子はどうされるんですか?」
伊勢さんは険しかった表情を和らげ、私に顔を向けた。
「透子ちゃん、マギアシア大陸に戻ることを許して欲しい。こちらに戻れるよう努力はするけど、保証がない。もしもの時は私の顧問弁護士に連絡して欲しい。財産の受取人は透子ちゃんにしているから、大学費用も含めて何も心配はいらないよ。それに、セラドナイトがいる」
伊勢さんは視線をセラに向けて硬い表情を見せた。
「セラドナイト、透子ちゃんを頼む」
「……もちろんです」
伊勢さんに頼まれてセラは頷いてはいるものの、違和感があるほど平坦な表情で、わずかな躊躇いが見えた。
もしも伊勢さんが捕まったら、私だったらじっと待つなんて出来ない。
厄介な聖配契約のせいで私に縛られて、フローライトさんを助けに戻れないセラ。
聖配契約を軽く考えた私たち二人の過ち。
嘘をついていたとしても、セラはずっと私の気持ちを尊重して、無理矢理異世界に連れて行かないでくれた。
私は自分の意思で聖配を承諾し、セラと契約したのだから、彼だけに犠牲を強いるのも違うだろう。
これでは、亡き父と母のよう。
父を愛するがゆえに母はいつも父に合わせて、我慢して待ち続けていた。
それで母は幸せだったかもしれないけど、もっと父に甘えて良かったはずだし、父も母のために動くべきだった時があったはず。
動いていたら、父は母の葬儀であんなに後悔しなかった。
「待って伊勢さん。セラも連れて行ってください。もちろん、私も行きます」
「透子ちゃん、こちらに戻れる保証がないんだ。無理はしないでいい」
「だめです。セラは絶対に今戻った方がいい。だって、母親が捕まっているんですよ? 何かあれば、セラは戻らなかったことを一生後悔する」
「しかし、三人転移はフローライトでもかなりの魔力を消費した。それが異世界転移となれば、セラドナイトは転移直後倒れるかもしれない」
「聖配の私が回復します。だから、大丈夫です。そうでしょ、セラ」
胸に手を当ててセラを見れば、彼は紅潮した頬でしっかりと頷くので、こっちまで伝染したかのように嬉しくなってしまった。
「もともとカイリ様と透子を僕一人でマギアシアに転移させるつもりでしたから大丈夫です。透子に負担を掛けずとも、あちらに戻れば聖女様も強力なポーションもあります。問題なく三人異世界転移が出来るはずです」
セラの手をそっと握れば、セラは驚いた顔で私を見た。
だから、更に力を入れてぎゅっと握った。
「手を繋いでいた方が、すぐに回復出来るでしょ?」
セラの平坦だった表情はすでになく、むしろ桃色の花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。
「大好きだよ、透子」
「急に何!?」
セラは口元は微笑みながら、目は静かに冷静さを取り戻していった。
「安心して。透子のことは、必ずこの世界に帰すから」
「だけどそれは、セラも戻るって意味にもなるんだよ?」
「フローライト様を助けられたら、僕は透子と一緒にこの世界に戻っても良い。
でもね、透子が僕を嫌だと言うなら、聖配の契約を解除しよう。
マギアシア大陸の聖女様なら、聖配の契約を解除できるから、あちらに行ったら聖配の契約から解放してあげられる」
伊勢さんが慌てて手を伸ばした。
「まて、セラドナイト、それは……」
「カイリ様。大丈夫ですから。それも最初から選択肢にあったので」
「最初からって……」
セラドナイトは伊勢さんにそれ以上言わせないように視線に圧を加えていた。
「透子、伊勢さんの手も握って貰える?」
頷いて、伊勢さんの手を握った。
「ではカイリ様、参りましょう」
セラドナイトが指をパチンと鳴らし、三人での異世界転移を成功させた。
顔を上げた伊勢さんは瀬楽と目が合うなりソファから立ち上がり、視線を合わせたまま、眉を顰めて一直線に駆け寄ってきた。
伊勢さんは瀬楽の肩を掴むと、苛立ちの声を上げた。
「なぜ、戦争のきっかけが私の失踪だったと言わなかった」
「女王陛下に、黙っておくようにと命令されていたからです」
「フローライトが私を魔法で消したことになっていたんだろ? それで、トランスレーン王国が報復攻撃を開始したと。
本当にこの世界に私を飛ばしたのは、フローライトなのか?」
「断じて、女王陛下ではありません」
「だろうな。確認しただけだ。
今、フローライトの手首には魔法を無効化させる手枷がはめられていて魔法が使えない。彼女が看守を言いくるめて取り戻したスマホには、セラドナイトの魔法のアプリがあったから繋がった。
幽閉されているのはトランスレーンではなく、彼女の統治するアルビオン王国の王城内幽閉塔。
フローライトに罪を着せ、戦争を引き起こしたのは従兄だったと言っていた」
「まさか……ヒルクレスト様が……」
「セラドナイト、今すぐ私をフローライトのもとへ転移させるんだ」
「しかし、透子はどうされるんですか?」
伊勢さんは険しかった表情を和らげ、私に顔を向けた。
「透子ちゃん、マギアシア大陸に戻ることを許して欲しい。こちらに戻れるよう努力はするけど、保証がない。もしもの時は私の顧問弁護士に連絡して欲しい。財産の受取人は透子ちゃんにしているから、大学費用も含めて何も心配はいらないよ。それに、セラドナイトがいる」
伊勢さんは視線をセラに向けて硬い表情を見せた。
「セラドナイト、透子ちゃんを頼む」
「……もちろんです」
伊勢さんに頼まれてセラは頷いてはいるものの、違和感があるほど平坦な表情で、わずかな躊躇いが見えた。
もしも伊勢さんが捕まったら、私だったらじっと待つなんて出来ない。
厄介な聖配契約のせいで私に縛られて、フローライトさんを助けに戻れないセラ。
聖配契約を軽く考えた私たち二人の過ち。
嘘をついていたとしても、セラはずっと私の気持ちを尊重して、無理矢理異世界に連れて行かないでくれた。
私は自分の意思で聖配を承諾し、セラと契約したのだから、彼だけに犠牲を強いるのも違うだろう。
これでは、亡き父と母のよう。
父を愛するがゆえに母はいつも父に合わせて、我慢して待ち続けていた。
それで母は幸せだったかもしれないけど、もっと父に甘えて良かったはずだし、父も母のために動くべきだった時があったはず。
動いていたら、父は母の葬儀であんなに後悔しなかった。
「待って伊勢さん。セラも連れて行ってください。もちろん、私も行きます」
「透子ちゃん、こちらに戻れる保証がないんだ。無理はしないでいい」
「だめです。セラは絶対に今戻った方がいい。だって、母親が捕まっているんですよ? 何かあれば、セラは戻らなかったことを一生後悔する」
「しかし、三人転移はフローライトでもかなりの魔力を消費した。それが異世界転移となれば、セラドナイトは転移直後倒れるかもしれない」
「聖配の私が回復します。だから、大丈夫です。そうでしょ、セラ」
胸に手を当ててセラを見れば、彼は紅潮した頬でしっかりと頷くので、こっちまで伝染したかのように嬉しくなってしまった。
「もともとカイリ様と透子を僕一人でマギアシアに転移させるつもりでしたから大丈夫です。透子に負担を掛けずとも、あちらに戻れば聖女様も強力なポーションもあります。問題なく三人異世界転移が出来るはずです」
セラの手をそっと握れば、セラは驚いた顔で私を見た。
だから、更に力を入れてぎゅっと握った。
「手を繋いでいた方が、すぐに回復出来るでしょ?」
セラの平坦だった表情はすでになく、むしろ桃色の花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。
「大好きだよ、透子」
「急に何!?」
セラは口元は微笑みながら、目は静かに冷静さを取り戻していった。
「安心して。透子のことは、必ずこの世界に帰すから」
「だけどそれは、セラも戻るって意味にもなるんだよ?」
「フローライト様を助けられたら、僕は透子と一緒にこの世界に戻っても良い。
でもね、透子が僕を嫌だと言うなら、聖配の契約を解除しよう。
マギアシア大陸の聖女様なら、聖配の契約を解除できるから、あちらに行ったら聖配の契約から解放してあげられる」
伊勢さんが慌てて手を伸ばした。
「まて、セラドナイト、それは……」
「カイリ様。大丈夫ですから。それも最初から選択肢にあったので」
「最初からって……」
セラドナイトは伊勢さんにそれ以上言わせないように視線に圧を加えていた。
「透子、伊勢さんの手も握って貰える?」
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「ではカイリ様、参りましょう」
セラドナイトが指をパチンと鳴らし、三人での異世界転移を成功させた。
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