十七歳の春、不本意ながら魔法使いの妻になる

さくらぎしょう

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36. 原石

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 翌日は、この国のデイドレスを着させてもらった。
 
 セラの瞳の合わせたかのような青々とした緑の色を基調とし、胸の下でモスグリーン色のリボンを結んで絞られた、ハイウエストの直線的なドレス。

 髪にもウエストと同色のリボンを交えて三つ編みにしてくれ、化粧まで施された。

 綺麗に着飾った私を廊下で行ったり来たりしながら待っていたのは、首には大ぶりのモスグリーン色のスカーフらしきものが巻かれ、白いベストに、白いパンツと黒いブーツを身につけ、濃紺色の前が短く後ろが長いテールコートを着た貴族風のセラだった。

 艶のある金色の髪と、宝石のように透き通った新緑色の瞳、優し気な品のある面もちが、余計に貴族感を強めていた。

 この姿を見てときめかない女子がいるだろうか?

 セラは嬉しそうに私の姿を見て微笑み、そっと腕を差し出してくれたので、その腕に手を添えて長い廊下を歩き始めた。

 私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれるセラはまるで王子様のようだった。

 高い天井からいくつも吊るされているシャンデリア。細やかな彫刻が施された白い柱や天井。優雅な曲線を描く大階段の下には、舞踏会が開けるほどの玄関ホールが広がる。
 
 日本で一生働いても住めない豪華なお城に、プリンセスになれるドレスや宝石。使用人がいて、父親代わりはこの豊かな国の国王になる人。結婚相手は見目麗しい特級魔法使いで、生活には困らない。

 夢のような世界に、私は何が不満なのだろう。

 俯く私を、セラは心配そうにのぞき込んだ。

「大丈夫? もう少しゆっくり歩こうか?」

「ううん、大丈夫。そうじゃなくて、以前伊勢さんに恩返しがしたいって話したけど、その方向を間違えていたんじゃないかって思って」

「どうしたの、急に?」

「日本に戻ったところで、伊勢さんがいないと結局私は人生の迷子になるなあって……」

「それって、カイリ様がいるこの世界に残る決心がついたってこと?」

 私は立ち止まり、セラの目を見つめながら静かに首を振った。甘い時間は止まり、お互いの空気が静まった。

 私は聖配だから、セラとは離れられない。

 私に決定権はなく、セラがこの世界に残ると判断すれば、聖配としてここに残る。

 男性の矜持が強そうなこの世界で育ち、すでにこの世界で特級魔法使いの地位を確率したセラを、それが通用しない日本に連れていけば、自分の価値を証明するために一から出直させ、もがき苦しませるかもしれない。

 きっとセラは私の望みを尊重するだろう。

 だから言うのではなく、それでも私の本心を伝えるべきだと思った。

 長い人生を共にする相手だから。

「ここにいたら、余計に依存してしまうかもしれない」

「戻るんだね」

「でも、それはセラを巻き込むことになる」

「そうじゃない。支え合うんだ。長い人生を共にする夫婦なんだから」

「不安はないの?」

「何かに挑戦するって、どこで何をしようが不安はつきものだよ。だから、支え合って、二人の人生を切り開こう」

 私の目の前にいる人は、こんなにも輝ける素敵な人なのに、なぜ今までセラの本質的な魅力に気づいてあげられなかったんだろう。
 
 ただ見た目が良いわけではなく、痛みを知り、思いやりがあり、やり遂げようとする粘り強さがある。

 まっすぐな心を映した新緑色の瞳は、大きな可能性を秘めていた。

 この人は、私の世界でも絶対に輝ける。

 ふと脳裏によぎったのは、がむしゃらに働いていた父の背中。

 そして、父を信じて愛し支え続けた母の姿。

 私はセラの手を握った。

「あちらで残してきたこと、一緒に挑戦しない? 投げ出すにはもったいないくらい、セラには可能性がある」

「いいね。透子がいれば心強い」

 セラは三日月のように目を細めた。

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