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16.深い眠りに
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リーアの遺体をスノーベアの隣まで運び、フィガロ皇子は全員を転移させるべく、片手はスノーベアに触れ、もう片方の手でセラフィーナの手とリーアの手と重なるように触れた。
セラフィーナから魔力を増幅させる力が流れ込んでくるのがわかると、フィガロ皇子は転移魔法を発動した。
全員無事にバルドの家の庭に転移できたが、フィガロ皇子の体力の消耗が激しく、庭の芝生の上で息を切らせて倒れ込んでしまう。
「フィー、バルドさん達を呼んでくるから、もう少しだけ頑張るのよ」
セラフィーナ自身もふらついていたが、フィガロ皇子の方は反応も出来なくなっていた。
セラフィーナは家の中に駆け込み、バルドとラーラを呼ぶ。
血相を変えたバルドとラーラを連れてセラフィーナが戻ってきたのをフィガロ皇子は遠目で確認し、そのまま眠りについてしまった。
フィガロ皇子が目が覚めた時は、自分の布団の中だった。
窓の外は明るく、庭に転移して倒れた時と太陽の高さは同じに見えた。隣に顔を向ければ、部屋を仕切るカーテンが閉められている。
「セラ?」
声を掛けても返事はないが、そこにいる気配はした。
「寝てるの?」
やはり返事はなく、いけないと思いつつも、彼女の無事を確認したくて、フィガロ皇子はカーテンを開けて中を確認してみる。
ベッドの上ではおとぎ話のお姫様のようにスヤスヤと美しい寝顔で眠るセラフィーナがいた。フィガロ皇子からは安堵のため息が出た。
「千年近く生きてる魔法使いなんだから、本物のおとぎ話のお姫様だね……」
フィガロ皇子はセラフィーナの穏やかな寝顔を見て目を細めると、そのままカーテンを閉めた。
部屋を出て階段を降りていくと、ちょうど外からバルドが戻ってきたところに遭遇する。
フィガロ皇子が降りてくるのを見たバルドの表情は、眉間に深く皺が入り、一変して険しくなった。
フィガロ皇子は勝手に山に行ったことを怒られると思い身をすくめると、バルドは近づいてくるなり強くフィガロ皇子を抱きしめた。
「心配させるなっ! お前達二人が死んでたらと思うと……」
バルドの肩の震えがフィガロ皇子に伝わり、小さく鼻をすする音まで聞こえてきた。
バルドには魔法の力なんて無いはずなのに、彼の感情がフィガロ皇子の胸に広がって温めてくる。
フィガロ皇子は申し訳なさでいっぱいになり、泣きそうな声で謝った。
「ごめんなさい……」
バルドは抱きしめる腕の力を強めた。
「……リーアを連れ帰ってくれてありがとうな」
その時、玄関扉が開き、家に入ってきたラーラが二人の姿に気がつけば、持っていた籠を床に落として全速力で駆け寄ってきた。
そして、ラーラもフィガロ皇子を抱きしめ、三人は折り重なるようにひとつになる。
「良かった……目が覚めたんだね。本当に良かった」
そう言いながら泣きじゃくるラーラに、フィガロ皇子まで目頭と鼻の奥が熱くなってくる。
「勝手に山に行ってごめんなさい。僕たちを受け入れてくれた二人に恩を返したくて……」
「子どもがそんなこと気にするんじゃねぇ!!」
「バルドったら、怒鳴ってどうするのよ……。
フィー、私達はね、あなた達二人が来てくれたおかげでリーアの死を乗り越えられたの。二人が来てから、我が家の時計がまた進み出したのよ。あなた達が階段を駆け降りてくる足音は幸せだった。
だから恩を感じていたのは私たち。
なのに……リーアまで連れ帰ってくれるだなんて……あなた達は本当に……」
ラーラは溢れ出した涙に言葉を続けることが出来なかった。バルドの目と鼻もすでに真っ赤だった。
「今度勝手な真似をしたら許さねぇぞ」
バルドの声は震えており、どれだけ心配してくれていたかが痛いほど伝わってきた。
フィガロ皇子の目からは自然と涙がこぼれた。
「ごめんなさい……」
バルドはフィガロ皇子の頭を撫でる。そのゴツゴツとした指と硬い手のひらは優しさに溢れていた。
「突然消えたと思えば、戻ってきたら三日も起きねぇなんて、どんだけ心配したと思ってんだ」
フィガロ皇子はその事実に驚いて、急に涙が引っ込んだ。
「三日も寝てたの!?」
「そうだ、三日もだぞ。セラもお前の手を握ってたらそのまま倒れたんだ」
「セラが僕の手を握って?」
「ああ。スノーベアとリーアを連れ帰って来たんだから、体力も限界だったろうし無理もないが、とにかく生きてるだけで奇跡だ。本当にお前達は一体どうやって……。
セラはまだ寝たままか?」
「うん……」
「そうか……。
お前達が捕まえてくれたスノーベアだが、村の獣医が腹の中を確認したら、頻繁に人間を食べていたようだ。スノーベアの被害で峠を越える人が減ってたから、あのまま放っておいたら、今年は村まで降りて来たかもしれないってなってな、村中がお前達に感謝してる」
「そういえば、巣穴の近くにまだ他にも埋められているんだ。家族の元に連れて帰らないと」
フィガロ皇子が動き出そうとしたのを、バルドは止めた。
「巣穴の場所はわかるか?」
「う……うん」
「じゃあ、あとで書け。スノーベアさえいなければ、村の有志でそこまで行って連れ帰れる。それくらいは俺たちにもさせてくれ。
フィーはまだ休んどくんだ。あとで部屋までラーラにスープを持って行かせる」
「もう十分休んだから、僕も行く。サボってしまった仕事も今から片付けるよ」
ガッツポーズで答えたフィガロ皇子に向かって、バルドは眉間にまたもキュッと皺を寄せて顰めっ面になると、今度はしっかりとした声で怒鳴った。
「何言ってんだこの大馬鹿野郎! いいから黙って寝とけ! お前がまた行ったら俺が恥をかくっ!!」
涙で目を真っ赤にしたバルドに怒鳴られ、フィガロ皇子は慌てて二階に戻って行く。階段を駆け上がる時のフィガロ皇子の表情には笑みが溢れていた。
(きっと、バルドさんも、ラーラさんも、セラをリーアさんの代わりだなんて思ってない)
そう思えて仕方なかった。
部屋に戻ると、フィガロ皇子はまだ目覚めぬセラフィーナにカーテン越しに語りかけた。
「セラ、ありがとう。僕を治癒しようとして力を使い果たしたんだよね? バルドさんとラーラさんは君を心から心配しているよ。みんな、セラの目覚めを待ってる。だから、今はゆっくり休んで、しっかり元気になって。
どうかセラが今、幸せな夢を見ていますように……」
だがフィガロ皇子の願いも虚しく、カーテンの向こうで深い眠りにつくセラフィーナは、苦しい表情で眠っていた。
セラフィーナから魔力を増幅させる力が流れ込んでくるのがわかると、フィガロ皇子は転移魔法を発動した。
全員無事にバルドの家の庭に転移できたが、フィガロ皇子の体力の消耗が激しく、庭の芝生の上で息を切らせて倒れ込んでしまう。
「フィー、バルドさん達を呼んでくるから、もう少しだけ頑張るのよ」
セラフィーナ自身もふらついていたが、フィガロ皇子の方は反応も出来なくなっていた。
セラフィーナは家の中に駆け込み、バルドとラーラを呼ぶ。
血相を変えたバルドとラーラを連れてセラフィーナが戻ってきたのをフィガロ皇子は遠目で確認し、そのまま眠りについてしまった。
フィガロ皇子が目が覚めた時は、自分の布団の中だった。
窓の外は明るく、庭に転移して倒れた時と太陽の高さは同じに見えた。隣に顔を向ければ、部屋を仕切るカーテンが閉められている。
「セラ?」
声を掛けても返事はないが、そこにいる気配はした。
「寝てるの?」
やはり返事はなく、いけないと思いつつも、彼女の無事を確認したくて、フィガロ皇子はカーテンを開けて中を確認してみる。
ベッドの上ではおとぎ話のお姫様のようにスヤスヤと美しい寝顔で眠るセラフィーナがいた。フィガロ皇子からは安堵のため息が出た。
「千年近く生きてる魔法使いなんだから、本物のおとぎ話のお姫様だね……」
フィガロ皇子はセラフィーナの穏やかな寝顔を見て目を細めると、そのままカーテンを閉めた。
部屋を出て階段を降りていくと、ちょうど外からバルドが戻ってきたところに遭遇する。
フィガロ皇子が降りてくるのを見たバルドの表情は、眉間に深く皺が入り、一変して険しくなった。
フィガロ皇子は勝手に山に行ったことを怒られると思い身をすくめると、バルドは近づいてくるなり強くフィガロ皇子を抱きしめた。
「心配させるなっ! お前達二人が死んでたらと思うと……」
バルドの肩の震えがフィガロ皇子に伝わり、小さく鼻をすする音まで聞こえてきた。
バルドには魔法の力なんて無いはずなのに、彼の感情がフィガロ皇子の胸に広がって温めてくる。
フィガロ皇子は申し訳なさでいっぱいになり、泣きそうな声で謝った。
「ごめんなさい……」
バルドは抱きしめる腕の力を強めた。
「……リーアを連れ帰ってくれてありがとうな」
その時、玄関扉が開き、家に入ってきたラーラが二人の姿に気がつけば、持っていた籠を床に落として全速力で駆け寄ってきた。
そして、ラーラもフィガロ皇子を抱きしめ、三人は折り重なるようにひとつになる。
「良かった……目が覚めたんだね。本当に良かった」
そう言いながら泣きじゃくるラーラに、フィガロ皇子まで目頭と鼻の奥が熱くなってくる。
「勝手に山に行ってごめんなさい。僕たちを受け入れてくれた二人に恩を返したくて……」
「子どもがそんなこと気にするんじゃねぇ!!」
「バルドったら、怒鳴ってどうするのよ……。
フィー、私達はね、あなた達二人が来てくれたおかげでリーアの死を乗り越えられたの。二人が来てから、我が家の時計がまた進み出したのよ。あなた達が階段を駆け降りてくる足音は幸せだった。
だから恩を感じていたのは私たち。
なのに……リーアまで連れ帰ってくれるだなんて……あなた達は本当に……」
ラーラは溢れ出した涙に言葉を続けることが出来なかった。バルドの目と鼻もすでに真っ赤だった。
「今度勝手な真似をしたら許さねぇぞ」
バルドの声は震えており、どれだけ心配してくれていたかが痛いほど伝わってきた。
フィガロ皇子の目からは自然と涙がこぼれた。
「ごめんなさい……」
バルドはフィガロ皇子の頭を撫でる。そのゴツゴツとした指と硬い手のひらは優しさに溢れていた。
「突然消えたと思えば、戻ってきたら三日も起きねぇなんて、どんだけ心配したと思ってんだ」
フィガロ皇子はその事実に驚いて、急に涙が引っ込んだ。
「三日も寝てたの!?」
「そうだ、三日もだぞ。セラもお前の手を握ってたらそのまま倒れたんだ」
「セラが僕の手を握って?」
「ああ。スノーベアとリーアを連れ帰って来たんだから、体力も限界だったろうし無理もないが、とにかく生きてるだけで奇跡だ。本当にお前達は一体どうやって……。
セラはまだ寝たままか?」
「うん……」
「そうか……。
お前達が捕まえてくれたスノーベアだが、村の獣医が腹の中を確認したら、頻繁に人間を食べていたようだ。スノーベアの被害で峠を越える人が減ってたから、あのまま放っておいたら、今年は村まで降りて来たかもしれないってなってな、村中がお前達に感謝してる」
「そういえば、巣穴の近くにまだ他にも埋められているんだ。家族の元に連れて帰らないと」
フィガロ皇子が動き出そうとしたのを、バルドは止めた。
「巣穴の場所はわかるか?」
「う……うん」
「じゃあ、あとで書け。スノーベアさえいなければ、村の有志でそこまで行って連れ帰れる。それくらいは俺たちにもさせてくれ。
フィーはまだ休んどくんだ。あとで部屋までラーラにスープを持って行かせる」
「もう十分休んだから、僕も行く。サボってしまった仕事も今から片付けるよ」
ガッツポーズで答えたフィガロ皇子に向かって、バルドは眉間にまたもキュッと皺を寄せて顰めっ面になると、今度はしっかりとした声で怒鳴った。
「何言ってんだこの大馬鹿野郎! いいから黙って寝とけ! お前がまた行ったら俺が恥をかくっ!!」
涙で目を真っ赤にしたバルドに怒鳴られ、フィガロ皇子は慌てて二階に戻って行く。階段を駆け上がる時のフィガロ皇子の表情には笑みが溢れていた。
(きっと、バルドさんも、ラーラさんも、セラをリーアさんの代わりだなんて思ってない)
そう思えて仕方なかった。
部屋に戻ると、フィガロ皇子はまだ目覚めぬセラフィーナにカーテン越しに語りかけた。
「セラ、ありがとう。僕を治癒しようとして力を使い果たしたんだよね? バルドさんとラーラさんは君を心から心配しているよ。みんな、セラの目覚めを待ってる。だから、今はゆっくり休んで、しっかり元気になって。
どうかセラが今、幸せな夢を見ていますように……」
だがフィガロ皇子の願いも虚しく、カーテンの向こうで深い眠りにつくセラフィーナは、苦しい表情で眠っていた。
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