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17.セラフィーナの記憶
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懐かしい故郷……。
雄大な名峰ガレアータ山脈を背景に、空気の澄んだ美しい大自然に囲まれた東ガレリア王国。
大地には鮮やかな緑の芝生が広がり、白い石作りの宮殿が自然と調和しながら佇んでいる。
誰かが放った魔法の光が、青い空の中で弾けていた。それが日常の光景。
黒曜石のように煌めく黒い水の噴水のそばで、私はいつもあの人と時間を共にしていた。
そうそう、あの頃のドレスといえば、柔らかく流れるようなシルエットの白いリネンのドレスだったわね。今私が着ているような——。
「殿下? セラフィーナ王女殿下?」
落ち着いた甘い声。白銀に輝く長いウェーブ髪。
男性らしくも女性のようにも見える神秘的な容姿に、その瞳は透き通ったブルーアイ。
アンジェロが微笑むだけで、世界は眩いばかりに輝いた。
「ごめんなさい。ぼーっとしてたわ」
白いローブを着たアンジェロの両手を掴み、真剣な表情で彼を見上げ、見つめた。
彼の柔らかな長い髪がふわりと舞い上がったかと思えば、すぐにまた重力に沈む。
「今日はやめますか?」
微笑むアンジェロは、試すように私から手を離そうとしたので、掴んで引き戻した。
「いいえ」
アンジェロも私の手をまた強く握りしめて頷く。嬉しそうなのに、今日の彼の笑顔は胸騒ぎを誘う。
彼は結局私が納得するまで魔法の訓練に付き合ってくれた。陽が傾き始め、さすがにアンジェロも国に帰らないといけない時間になったため訓練を終わらせた。
アンジェロは片膝をつき、目を細めて私を見つめながら手の甲にキスをし、別れの挨拶をしてくれる。
「また、来週来ます」
「来週まで会えないのね」
「次回は王女殿下が自分の身を守れるよう結界魔法をお教えしましょう」
「結界でなく、アンジェロに守ってもらいたい」
訴えるような熱い視線をアンジェロに向ければ、彼は眉尻を下げつつも、視線は外さなかった。
いつの間にか指が絡み合い、しばらく見つめ合ったまま動けなかった。跳ね上がる水の音だけがパシャパシャと響く。
絡み合っていた指がするりと解け、先に口を開いたのはアンジェロだった。先ほどまでの表情は消え去り、どこか、他人行儀な印象を与える。
「セラフィーナ王女殿下、この度はご婚約おめでとうございます。王女殿下の身は、我が主であり、王女殿下の夫となる西ガレリア帝国バルトロ・ドロヴァンディ皇帝陛下がお守りいたします」
彼は私に、というよりもむしろ自分に言い聞かせるように語っていた。
私は腹が立ち、跪くアンジェロを睨む。
「あの男が私を守ると本気で思ってるの?」
アンジェロは眉を下げて微笑するだけで、口を開きもしない。
「あなたに愛されていると思っていた」
アンジェロはまだ黙ったまま。
「きっと、あなたは求婚してくれると信じていた!!」
「身分が違いすぎます」
「身分なんて捨ててやるっ!!」
「美しい東ガレリア王国がなくなってもいいのですか?」
初めてアンジェロが強い口調で物を言った。
アンジェロは立ち上がり、ゆっくりと一歩後ろに下がる。
胸騒ぎは、堪えきれない程喉元や目元を熱くさせてくる。
「置いていかないで……」
「置いていきません。むしろ、殿下が西ガレリア帝国の皇妃となれば、私は貴方様の臣下となりますので、そばにおります」
「臣下になんてなられたら、今よりも距離が遠くなるじゃないっ!」
「今も私たちの間には越えられない壁があります。本当は出会った頃に私が理性を保つべきでした。私はただの魔法使い。バルトロ皇帝陛下のご命令で王女殿下に魔法を指導しに来ているだけで、それ以上の関係にはなれません」
涙がスッと頬を伝い落ちた。慌てて手で拭っても、意思とは関係なしに次から次へと流れ続ける。
「どうして……そんなこと言うのよ……理性を保つべきだなんて……。
もう……遅いわよっ!!!」
感情のままに泣き叫ぶ私をアンジェロが強く抱きしめてくれた。背中をさすり、落ち着くまで優しく頭を撫でてくれる。その一つ一つが余計に私を苦しめる。
アンジェロは嗚咽する私を抱きしめながらも、視線はこちらに向いておらず、どこか遠くを見つめているのが背中越しにわかった。
彼の視線の先には何があるのだろう。
わかるのは、彼の瞳にはもう私は映っていない……。
「まるで……セラフィーナ、あなたのようだ……」
「え?」
何を見てそう思ったのか、顔を上げて振り返ろうとしたら、アンジェロは腕に力を入れてさらに私を強く抱きしめた。
「まさか、あの陛下が、あなたに求婚するとは思ってもみませんでした。私があなたの指導役に選ばれたのも、黒い水の取引量を増やすためだとばかり思っていました。だから……若さゆえの期待があの頃は……」
「大魔法使いが随分気弱なのね。あんな暴君にいつまで仕えてるのよ」
「しっ。陛下のことをそのように言ってはいけません」
アンジェロは人差し指を私の唇にあてて口止めした。
バルトロと婚約が決まる少し前から、唇を重ねてくれなくなった。あの頃からアンジェロは私から離れ始めていた。
求めていた場所にやっと触れたのは、彼の指だけ。そして、アンジェロが私の唇に触れるのはこれが最後なのだろう。
アンジェロは、胸に響く優しい声で私に囁く。
「私の最も優秀な弟子、セラフィーナ王女殿下。あなたには特殊な力がございます。まさにこの東ガレリア王国の恵みに相応しい力です。神が王女であるあなたにその力を与えたという事は、逃げてはいけない使命があるという事です」
「恵みではなく呪いよ。おかげでバルトロに目をつけられた」
「そうおっしゃらずに。よりどりみどりの陛下が、皇妃にと望まれた女性はセラフィーナ王女殿下ただ一人です」
「側妃が何人いるかわかってるでしょ? しかもどの相手にも愛などなく、欲のはけ口や駒でしかない」
「貴方は側妃ではなく、皇妃です」
「皇妃と側妃に違いなんてないわよ」
「それでも……もう決まったのです。皇妃になることが」
「もう嫌っ。私の魔力も枯渇してしまえばいい」
「殿下、それは世界中の深刻な問題です。そのように軽々しく言っては絶対になりません。
魔力が睡眠や休息で自力回復できず、果ては枯渇して永久に魔力を失うという近年増えた問題で、殿下の力がどれほど貴重で重要かお判りになるでしょう?
瞬時に魔力を回復させることが出来るのは、東ガレリアにしか湧かない黒い聖水か、セラフィーナ王女殿下にしか使えない魔法だけです」
「皆、聖水を飲めばいいでしょ。隣国に分けるほど湧きあがっているのだから」
「子供みたいなことを言わないでください。どのみちあなたは王女です。特殊魔法があろうがなかろうが、王女として相応しい相手の妻にならないといけない」
「相応しいって何よ? アンジェロだって、大陸一の大魔法使いじゃないっ! 王女の夫に相応しいはずでしょ?」
アンジェロは私の両肩を掴み、自分の身体から離した。
「昨年父が亡くなりました。ですから、私も近々見合いをすることになりました。ヴァレリアーニ家の正式な当主になり、身を固めて後継者を授からなくてはならないからです」
その言葉は追い討ちだった。
愛する人が他の女性と結ばれ、その子供を授かるなんて、想像もしたくない。
「それは……私でありたかった」
アンジェロは顔だけ背けてこちらを見てくれない。
「仮にあなたを王家から奪ったとしても、そのような結婚をさせて殿下を幸せにしてあげられる自信はないです。私には大きな山を越えられないし、麓の家族を残しても行けないのです」
アンジェロは手を動かして転移魔法の準備を始め、彼の周りに光が集まり始める。
「殿下の幸せを……心から願っております」
その場で泣き崩れると、アンジェロは光と共に消えて行った。
翌週、約束は果たされなかった。
アンジェロは来なかったのだ。
アンジェロの弟子の一人で部下でもある、西ガレリア帝国皇帝直属第一魔法隊の隊員であるレンツォ・ティベリオが後任としてやって来たのだ。
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誰かが放った魔法の光が、青い空の中で弾けていた。それが日常の光景。
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そうそう、あの頃のドレスといえば、柔らかく流れるようなシルエットの白いリネンのドレスだったわね。今私が着ているような——。
「殿下? セラフィーナ王女殿下?」
落ち着いた甘い声。白銀に輝く長いウェーブ髪。
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アンジェロが微笑むだけで、世界は眩いばかりに輝いた。
「ごめんなさい。ぼーっとしてたわ」
白いローブを着たアンジェロの両手を掴み、真剣な表情で彼を見上げ、見つめた。
彼の柔らかな長い髪がふわりと舞い上がったかと思えば、すぐにまた重力に沈む。
「今日はやめますか?」
微笑むアンジェロは、試すように私から手を離そうとしたので、掴んで引き戻した。
「いいえ」
アンジェロも私の手をまた強く握りしめて頷く。嬉しそうなのに、今日の彼の笑顔は胸騒ぎを誘う。
彼は結局私が納得するまで魔法の訓練に付き合ってくれた。陽が傾き始め、さすがにアンジェロも国に帰らないといけない時間になったため訓練を終わらせた。
アンジェロは片膝をつき、目を細めて私を見つめながら手の甲にキスをし、別れの挨拶をしてくれる。
「また、来週来ます」
「来週まで会えないのね」
「次回は王女殿下が自分の身を守れるよう結界魔法をお教えしましょう」
「結界でなく、アンジェロに守ってもらいたい」
訴えるような熱い視線をアンジェロに向ければ、彼は眉尻を下げつつも、視線は外さなかった。
いつの間にか指が絡み合い、しばらく見つめ合ったまま動けなかった。跳ね上がる水の音だけがパシャパシャと響く。
絡み合っていた指がするりと解け、先に口を開いたのはアンジェロだった。先ほどまでの表情は消え去り、どこか、他人行儀な印象を与える。
「セラフィーナ王女殿下、この度はご婚約おめでとうございます。王女殿下の身は、我が主であり、王女殿下の夫となる西ガレリア帝国バルトロ・ドロヴァンディ皇帝陛下がお守りいたします」
彼は私に、というよりもむしろ自分に言い聞かせるように語っていた。
私は腹が立ち、跪くアンジェロを睨む。
「あの男が私を守ると本気で思ってるの?」
アンジェロは眉を下げて微笑するだけで、口を開きもしない。
「あなたに愛されていると思っていた」
アンジェロはまだ黙ったまま。
「きっと、あなたは求婚してくれると信じていた!!」
「身分が違いすぎます」
「身分なんて捨ててやるっ!!」
「美しい東ガレリア王国がなくなってもいいのですか?」
初めてアンジェロが強い口調で物を言った。
アンジェロは立ち上がり、ゆっくりと一歩後ろに下がる。
胸騒ぎは、堪えきれない程喉元や目元を熱くさせてくる。
「置いていかないで……」
「置いていきません。むしろ、殿下が西ガレリア帝国の皇妃となれば、私は貴方様の臣下となりますので、そばにおります」
「臣下になんてなられたら、今よりも距離が遠くなるじゃないっ!」
「今も私たちの間には越えられない壁があります。本当は出会った頃に私が理性を保つべきでした。私はただの魔法使い。バルトロ皇帝陛下のご命令で王女殿下に魔法を指導しに来ているだけで、それ以上の関係にはなれません」
涙がスッと頬を伝い落ちた。慌てて手で拭っても、意思とは関係なしに次から次へと流れ続ける。
「どうして……そんなこと言うのよ……理性を保つべきだなんて……。
もう……遅いわよっ!!!」
感情のままに泣き叫ぶ私をアンジェロが強く抱きしめてくれた。背中をさすり、落ち着くまで優しく頭を撫でてくれる。その一つ一つが余計に私を苦しめる。
アンジェロは嗚咽する私を抱きしめながらも、視線はこちらに向いておらず、どこか遠くを見つめているのが背中越しにわかった。
彼の視線の先には何があるのだろう。
わかるのは、彼の瞳にはもう私は映っていない……。
「まるで……セラフィーナ、あなたのようだ……」
「え?」
何を見てそう思ったのか、顔を上げて振り返ろうとしたら、アンジェロは腕に力を入れてさらに私を強く抱きしめた。
「まさか、あの陛下が、あなたに求婚するとは思ってもみませんでした。私があなたの指導役に選ばれたのも、黒い水の取引量を増やすためだとばかり思っていました。だから……若さゆえの期待があの頃は……」
「大魔法使いが随分気弱なのね。あんな暴君にいつまで仕えてるのよ」
「しっ。陛下のことをそのように言ってはいけません」
アンジェロは人差し指を私の唇にあてて口止めした。
バルトロと婚約が決まる少し前から、唇を重ねてくれなくなった。あの頃からアンジェロは私から離れ始めていた。
求めていた場所にやっと触れたのは、彼の指だけ。そして、アンジェロが私の唇に触れるのはこれが最後なのだろう。
アンジェロは、胸に響く優しい声で私に囁く。
「私の最も優秀な弟子、セラフィーナ王女殿下。あなたには特殊な力がございます。まさにこの東ガレリア王国の恵みに相応しい力です。神が王女であるあなたにその力を与えたという事は、逃げてはいけない使命があるという事です」
「恵みではなく呪いよ。おかげでバルトロに目をつけられた」
「そうおっしゃらずに。よりどりみどりの陛下が、皇妃にと望まれた女性はセラフィーナ王女殿下ただ一人です」
「側妃が何人いるかわかってるでしょ? しかもどの相手にも愛などなく、欲のはけ口や駒でしかない」
「貴方は側妃ではなく、皇妃です」
「皇妃と側妃に違いなんてないわよ」
「それでも……もう決まったのです。皇妃になることが」
「もう嫌っ。私の魔力も枯渇してしまえばいい」
「殿下、それは世界中の深刻な問題です。そのように軽々しく言っては絶対になりません。
魔力が睡眠や休息で自力回復できず、果ては枯渇して永久に魔力を失うという近年増えた問題で、殿下の力がどれほど貴重で重要かお判りになるでしょう?
瞬時に魔力を回復させることが出来るのは、東ガレリアにしか湧かない黒い聖水か、セラフィーナ王女殿下にしか使えない魔法だけです」
「皆、聖水を飲めばいいでしょ。隣国に分けるほど湧きあがっているのだから」
「子供みたいなことを言わないでください。どのみちあなたは王女です。特殊魔法があろうがなかろうが、王女として相応しい相手の妻にならないといけない」
「相応しいって何よ? アンジェロだって、大陸一の大魔法使いじゃないっ! 王女の夫に相応しいはずでしょ?」
アンジェロは私の両肩を掴み、自分の身体から離した。
「昨年父が亡くなりました。ですから、私も近々見合いをすることになりました。ヴァレリアーニ家の正式な当主になり、身を固めて後継者を授からなくてはならないからです」
その言葉は追い討ちだった。
愛する人が他の女性と結ばれ、その子供を授かるなんて、想像もしたくない。
「それは……私でありたかった」
アンジェロは顔だけ背けてこちらを見てくれない。
「仮にあなたを王家から奪ったとしても、そのような結婚をさせて殿下を幸せにしてあげられる自信はないです。私には大きな山を越えられないし、麓の家族を残しても行けないのです」
アンジェロは手を動かして転移魔法の準備を始め、彼の周りに光が集まり始める。
「殿下の幸せを……心から願っております」
その場で泣き崩れると、アンジェロは光と共に消えて行った。
翌週、約束は果たされなかった。
アンジェロは来なかったのだ。
アンジェロの弟子の一人で部下でもある、西ガレリア帝国皇帝直属第一魔法隊の隊員であるレンツォ・ティベリオが後任としてやって来たのだ。
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第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
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