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32.エゴ
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真っ白な山頂を想像していたが、フィガロ皇子が転移した場所は大量のスノーバードとスノーベアの死骸が散らばった黒や赤い色が雪の上に散らばる景色だった。
「まだ雪を被っていない……」
フィガロ皇子の心臓は大きくドクンと波打つ。嫌な予感は的中し、すぐ近くでスノーバードの絶命の声が響いた。
「兄上、ここには何がいるんですか……?」
「バルトロ様だと言っているだろ」
遠くに現れた人影が近づいてくると、スノーバードを食らいながら、何かを探す不気味な姿にフィガロ皇子は総毛立った。信じたくはなかったが、同じ方向を見るセラフィーナが呟いた。
「バルトロ……」
カナリアブロンドの獅子のような髪型に、とても大柄な体格。目は鋭く、何百年も眠っていたとは思えない程、筋骨隆々である。ただ、人としての尊厳は失ってしまったのか、まるで本物の獣のようにスノーバードを貪っている。
「黒イ水……魔力……カエセエェェぇ!!」
バルトロは咆哮のような叫び声をあげた。
フィガロ皇子は火炎をバルトロに向けて放つと、見事に的中し身体中を燃やした。フィガロ皇子は油断しないよう、集中力を高めて狙い続ける。隣ではジョアン皇子がフィガロ皇子を止めようと騒ぎだすと、セラフィーナがジョアン皇子を眠らせた。
そろそろ燃やし尽くしたかと火炎をおさめれば、煙の中から焼け焦げた肉を再生させながらバルトロがこちらに向かって来ていた。
フィガロ皇子の魔力はすでにかなり消耗しており、茫然自失でバルトロの再生を見届けるしかなかった。それどころか、再生したバルトロの眼球は攻撃してきたフィガロ皇子をまったく見ておらず、視線をまっすぐにセラフィーナに向けていた。
フィガロ皇子はセラフィーナを守るように彼女の前に立ち、もう一度火炎をバルトロに放てば、やはりあっさりと直撃する。だが、火炎をおさめれば溶けた肉が固まり出す。
バルトロがニヤリと笑ったのをフィガロ皇子は見逃さなかった。
フィガロ皇子は急いで振り返りセラフィーナの手を掴み、転移の準備を始める。
「フィー、どこへ! あいつを燃やし尽くすんでしょ!」
「だめだ、これじゃ君を奪われるだけだ! だから――」
足が再生したバルトロがこちらに向かってスノーベアよりも速いスピードで走り出した瞬間、フィガロ皇子とセラフィーナ、そして眠らされたジョアン皇子は光の中に消えた。
ドサッと三人が床に倒れ込むと、大慌てで誰かが近づいてくる。
「フィガロ様!! ジョアン皇子殿下!? それに……もしやあなたが」
セラフィーナは声を掛けて来た男を見て目を丸くした。
「レンツォ……いえ、まさか」
フィガロ皇子とセラフィーナの前に立つのは、レリオ・ティベリオだった。
レリオは彼女がセラフィーナだと確信して跪く。
「一生のうちで扉が開き、セラフィーナ様に会える日が来るとは思ってもみませんでした。レンツォ・ティベリオは私の先祖です」
二人が会話を始めた横で、ジョアン皇子の眉間に皺が寄り、目覚めそうになっていることに三人は気づく。セラフィーナはもう一度ジョアン皇子に催眠をかけ、フィガロ皇子がセラフィーナとジョアン皇子の縄をほどき、改めてジョアン皇子だけを縛り直した。
やっと落ち着いて会話が出来るようになると、フィガロ皇子はここまで何があったのかをレリオに話す。マリエッタが利用されていたこと、バルトロがすでに目覚めていたこと、フィガロ皇子の魔法では歯が立たなかったことなど。
「まさかバルトロがすでに復活していたとは……」
「まだ目覚めただけで、魔法は使えないようでした」
「魔力を復活させるにはセラフィーナ様の力が必要ということか。それで完全復活となると」
「レリオ先輩、私がここに転移したのは案内して欲しい場所があるんです。ここにアンジェロ大帝が眠っているんですよね?」
フィガロ皇子の発言に驚かずにはいられなかったのはセラフィーナだった。
「待って、アンジェロは墓ではなく、ここに眠っているの? ずっと、私のそばにいたってこと?」
セラフィーナの動揺とも昂りともとれる姿は容易に想像がついていた。もし彼女にこの事実を伝えたら、彼女の心は彼のもとに全て向かうだろうとも。
フィガロ皇子は切ない笑顔を浮かべながら答える。
「そうだよ、セラ。本当はこの間レリオ先輩から聞いていたんだけど、伝えなくてごめん」
「なぜ、教えてくれなかったの?」
「私が……子供だから」
レリオはフィガロ皇子を見て、彼の恋心に気づく。セラフィーナに恋をしたアンジェロ大帝と良く似た姿のフィガロ皇子。彼は、惹かれる女性までアンジェロ大帝に似ているのかと。
「アンジェロ大帝のもとに案内しよう」
レリオはフィガロ皇子とセラフィーナを連れて、寄宿学校の理事長室に連れて行く。レリオはスペアキーで扉を開けると、部屋の中に理事長はおらず、二人を中に招き入れて再び鍵をかける。
理事長の執務机の一番下の引き出しを引き出すと、人一人通れるサイズの地下へと続く階段が現れた。
レリオはランタンに火をつけて手に持つと、先頭を切って階段を降りて行った。
「まだ雪を被っていない……」
フィガロ皇子の心臓は大きくドクンと波打つ。嫌な予感は的中し、すぐ近くでスノーバードの絶命の声が響いた。
「兄上、ここには何がいるんですか……?」
「バルトロ様だと言っているだろ」
遠くに現れた人影が近づいてくると、スノーバードを食らいながら、何かを探す不気味な姿にフィガロ皇子は総毛立った。信じたくはなかったが、同じ方向を見るセラフィーナが呟いた。
「バルトロ……」
カナリアブロンドの獅子のような髪型に、とても大柄な体格。目は鋭く、何百年も眠っていたとは思えない程、筋骨隆々である。ただ、人としての尊厳は失ってしまったのか、まるで本物の獣のようにスノーバードを貪っている。
「黒イ水……魔力……カエセエェェぇ!!」
バルトロは咆哮のような叫び声をあげた。
フィガロ皇子は火炎をバルトロに向けて放つと、見事に的中し身体中を燃やした。フィガロ皇子は油断しないよう、集中力を高めて狙い続ける。隣ではジョアン皇子がフィガロ皇子を止めようと騒ぎだすと、セラフィーナがジョアン皇子を眠らせた。
そろそろ燃やし尽くしたかと火炎をおさめれば、煙の中から焼け焦げた肉を再生させながらバルトロがこちらに向かって来ていた。
フィガロ皇子の魔力はすでにかなり消耗しており、茫然自失でバルトロの再生を見届けるしかなかった。それどころか、再生したバルトロの眼球は攻撃してきたフィガロ皇子をまったく見ておらず、視線をまっすぐにセラフィーナに向けていた。
フィガロ皇子はセラフィーナを守るように彼女の前に立ち、もう一度火炎をバルトロに放てば、やはりあっさりと直撃する。だが、火炎をおさめれば溶けた肉が固まり出す。
バルトロがニヤリと笑ったのをフィガロ皇子は見逃さなかった。
フィガロ皇子は急いで振り返りセラフィーナの手を掴み、転移の準備を始める。
「フィー、どこへ! あいつを燃やし尽くすんでしょ!」
「だめだ、これじゃ君を奪われるだけだ! だから――」
足が再生したバルトロがこちらに向かってスノーベアよりも速いスピードで走り出した瞬間、フィガロ皇子とセラフィーナ、そして眠らされたジョアン皇子は光の中に消えた。
ドサッと三人が床に倒れ込むと、大慌てで誰かが近づいてくる。
「フィガロ様!! ジョアン皇子殿下!? それに……もしやあなたが」
セラフィーナは声を掛けて来た男を見て目を丸くした。
「レンツォ……いえ、まさか」
フィガロ皇子とセラフィーナの前に立つのは、レリオ・ティベリオだった。
レリオは彼女がセラフィーナだと確信して跪く。
「一生のうちで扉が開き、セラフィーナ様に会える日が来るとは思ってもみませんでした。レンツォ・ティベリオは私の先祖です」
二人が会話を始めた横で、ジョアン皇子の眉間に皺が寄り、目覚めそうになっていることに三人は気づく。セラフィーナはもう一度ジョアン皇子に催眠をかけ、フィガロ皇子がセラフィーナとジョアン皇子の縄をほどき、改めてジョアン皇子だけを縛り直した。
やっと落ち着いて会話が出来るようになると、フィガロ皇子はここまで何があったのかをレリオに話す。マリエッタが利用されていたこと、バルトロがすでに目覚めていたこと、フィガロ皇子の魔法では歯が立たなかったことなど。
「まさかバルトロがすでに復活していたとは……」
「まだ目覚めただけで、魔法は使えないようでした」
「魔力を復活させるにはセラフィーナ様の力が必要ということか。それで完全復活となると」
「レリオ先輩、私がここに転移したのは案内して欲しい場所があるんです。ここにアンジェロ大帝が眠っているんですよね?」
フィガロ皇子の発言に驚かずにはいられなかったのはセラフィーナだった。
「待って、アンジェロは墓ではなく、ここに眠っているの? ずっと、私のそばにいたってこと?」
セラフィーナの動揺とも昂りともとれる姿は容易に想像がついていた。もし彼女にこの事実を伝えたら、彼女の心は彼のもとに全て向かうだろうとも。
フィガロ皇子は切ない笑顔を浮かべながら答える。
「そうだよ、セラ。本当はこの間レリオ先輩から聞いていたんだけど、伝えなくてごめん」
「なぜ、教えてくれなかったの?」
「私が……子供だから」
レリオはフィガロ皇子を見て、彼の恋心に気づく。セラフィーナに恋をしたアンジェロ大帝と良く似た姿のフィガロ皇子。彼は、惹かれる女性までアンジェロ大帝に似ているのかと。
「アンジェロ大帝のもとに案内しよう」
レリオはフィガロ皇子とセラフィーナを連れて、寄宿学校の理事長室に連れて行く。レリオはスペアキーで扉を開けると、部屋の中に理事長はおらず、二人を中に招き入れて再び鍵をかける。
理事長の執務机の一番下の引き出しを引き出すと、人一人通れるサイズの地下へと続く階段が現れた。
レリオはランタンに火をつけて手に持つと、先頭を切って階段を降りて行った。
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