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35. 解放
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アンジェロと結婚が決まった女性は貴族らしく慎ましかった。セラフィーナのような華はないが、母のように落ち着いた心地よい空気を出す女性だった。
「本当は好きな方がいらっしゃるのでしょう?」
「え?」
「存じております。アンジェロ様がこの縁談を無理矢理バルトロに仕組まれたことも」
「君は何を! ……陛下と呼ばないと危険だろ」
アンジェロは思わず身を乗り出して、小声で耳打ちする。だが女性は肝が据わっているようで、堂々と話した。
「この国でアイツを陛下と心から慕っている者などおりますか。アンジェロ様、私は貧乏貴族の末娘で、嫁に貰ってくださるだけでありがたいのです。ですから、アンジェロ様は私のことはお気になさらず、好いた方と関係を続けてください。私が身を引かなかったのは、私自身結婚が必要であったのは勿論ですが、私が身を引けばどうせ他の娘と結婚することになります。そうなれば、アンジェロ様は好きな人と会えなくなると思ったからです。バルトロに不幸にされてはいけません」
あまりにも真剣な表情でとんでもない願いをしてくる婚約者に、アンジェロは思わずクスリと笑ってしまった。
「そのような心配やお気遣いをさせてしまい心苦しい限りです。安心してください。私はヴァレリアーニに嫁いでくれるあなたを大切にしますから」
そんな婚約者は、やがて妻となり、母となる時に神が起こすような奇跡を見せてくれた。初めて我が子を抱き上げた時には、涙が止まらなかった。妻には心からの感謝の気持ちが湧き、産まれて来た子供には人間の愛が何かを教えられた。
自分とセラフィーナの恋は、美しく淡い初恋のままで良かったのだろう。
幼かった二人の、大人になるための通過点だったのだ。
彼女はこれから大人の女性へと成長し、母となり、恋と愛の違いを知る。彼女が愛を知る相手は自分でありたかったが、今となっては彼女の安全が確保され、幸せになってもらえるなら、自分のくだらないエゴなど捨てて良かったと痛感していた。
燃え上がるような恋の始まりがなくても、愛のある家庭を築けることを身をもって知った。きっと、彼女も同じことだろう。
私は私の家族を大切にし、彼女は彼女の人生を歩む。それが、最善で、互いに幸せなのだと信じていた。
なのに……。
なぜ、こんなことになったのか……。
自分さえバルトロを裏切らなければ、彼女は守られ、幸せになれると信じていたのに。
フィガロ皇子がアンジェロ大帝の意識を通して見えた光景は吐き気を催すほど悲惨だった。
東ガレリア王国は地図から消え、周辺諸国に攻め入り民を虐げる西ガレリア帝国軍。
二度と戦いが放棄出来ないアンジェロは、自責の念に押しつぶされそうになりながらも、戦場で魔法を放っていた。
なのに……バルトロのテントを開ければ、男だらけの戦場に、いるはずがないセラフィーナ皇妃が腕を縛られ、皇妃とは思えぬ姿でぐったりと横たわっていた。黒い水のように滑らかで美しかった黒髪は寝乱れたまま、もう太陽は南の空に昇っているのに、所々破れたナイトドレスを羽織っただけの状態だった。
アンジェロは駆け寄ってセラフィーナに施された呪縛魔法を解きながら声を掛けるが、反応が返ってこない。血の気がなく、柔らかかった唇が今ではひび割れてかさぶたまで出来ている。
その時テントに入って来たのはレンツォの妻だった。
フィガロ皇子はアンジェロの意識を通して見えたレンツォの妻に驚いていた。マリエッタにそっくりなのだ。
セラフィーナの侍女は誰も長くは続けられなかった。セラフィーナを良く扱っても、悪く扱っても、バルトロの機嫌ひとつで侍女も折檻されるからだ。その事を知ったレンツォの妻が、セラフィーナの侍女兼使用人役を名乗り出たのだ。
アンジェロはレンツォの妻を問いただし、そこでレンツォの不老不死の薬の話を初めて聞いた。セラフィーナはバルトロの陰謀で不老不死になり、四六時中バルトロに暴行を受けながら魔力回復をさせられていたのだ。
バルトロとの約束が守られると信じていた自分があまりにも愚かで腹立たしかった。
アンジェロはセラフィーナとレンツォの妻を転移魔法でヴァレリアーニ家所有の屋敷へと転移させ、二人を残して再びバルトロの元に転移して戻る。
大魔法使いアンジェロの放った魔法により、大地の悲鳴のような地鳴りが西ガレリア帝国のみならず、近隣諸国に響き渡る。戦地であった西ガレリア帝国国境の要塞は崩壊し、周辺の村にまで被害が及んだ。
バルトロを討ち取る際に、数多くの兵士達やその家族、守らなければならない民まで巻き込んでしまった。
焼野原になった国境。見渡す限り建物も木も草すらもなく、死体の山と煙だけが広がっていた。結局バルトロよりも自分が一番悲惨な戦場を作ってしまったと、アンジェロはその焦燥感と深い後悔から、涙すら流すのも罪に感じた。
「アンジェロ様……バルトロは死にました。あなた様のおかげで、この国だけでなく、近隣諸国も暗黒の時代を終わらせることが出来たのです」
誰がそんなことを言ったのか。もはや振り返って確認もしたくなかった。
「やめてくれ……」
「アンジェロ様、どうか、この国を守り、導いてください! もうこの世界で魔法がつかえるのはあなた様だけです」
「へ……陛下……アンジェロ皇帝陛下、万歳! 万歳!」
「やめてくれ……」
「「「英雄アンジェロ皇帝陛下、万歳! 万歳!! 万歳!!」」」
次々と耳を塞ぎたくなるような声が響き出し、惨状を遠い目で見つめながらアンジェロは苦しみで胸が潰されそうになっていた。
自分は英雄ではない。愚か者だからこそ、ここまで被害を拡大させてしまったのだ。
守ったつもりでいた可愛いセラフィーナを、自分が壊したも同然だった。
「おい、大魔法使い様」
自分を褒めそやす声の中、急に低く冷たい声を掛けられた。
今のアンジェロにはその声が一番耳馴染みがよく、ようやく振り返ることが出来た。後ろに立って声を掛けてきたのは国境を守る兵士だった。今しがた自分が跡形もなく吹き飛ばしたあの要塞で働いていた者だ。
「お前がここを消したんだから、責任を持って作り直せ」
「責任を持って作り直す……?」
「そうだ。お前は英雄じゃない。俺たちと同じ歴史の歯車だ。お前が死んだあと残される者たちのために働け。皇帝になることでここが平和で豊かな国になるなら、なるんだよ」
「君、名前は?」
「ロッシだ。それ以外に名はねぇ」
「ロッシ、覚えておく」
「俺の名より、国の名を考えろ。西ガレリアの独裁から生まれ変わるために」
アンジェロは西ガレリア帝国を眺めた。何もなくなってしまったと思っていたが、遠くに気高くそびえる美しい山があった。
自分には越えられなかった、美しいガレアータ山脈。
愛することが許されなかった初恋。
勇気を出してあの山を越えていたら、もっと早くにバルトロに抗えば、こんなにも自分は周りを傷つけずに済んだのか……。
未来に託したい想いがある。
自分には償う責任も、償うチャンスも残されている。未来に繋がる種を蒔こう。バルトロと共に壊してしまったものを出来るだけ回復させ、傷ついた民がより良い生活が出来るようにしなければ。私の愛する家族に美しい未来を残さなければ。
そして何よりも、これから長い時を生きなければならない君が幸せになれるように。
いつかあの山を越えられる者が現れ、君が愛で満たされ、幸せになれるように、私はこの命が果てるまで尽くそう。
「私が尽くす国の名は……ガレアータ帝国」
ロッシはアンジェロの見つめる先に共に視線を向けた――。
――フィガロ皇子はまた暗闇の世界に沈み込むように戻った。
“バルトロを仕留め切れていなかったんだ。だから、セラフィーナ皇妃は部屋から出られなくなってしまった”
「この声はアンジェロ大帝?」
フィガロ皇子の問いに、暗闇の中でボウッと光の炎が揺らぐ。
“セラフィーナ皇妃の不老不死の身体を戻す方法がないか、色々調べたんだ。その最中に、スカリオーネ先生から興味深い話をされた。生命の書だ。不老不死には関係なかったが、バルトロの脅威を残したまま、いつか命が尽きる私にはとても重要な話だった”
アンジェロの炎がゆっくりとフィガロ皇子に近づいてくる。
“私の人生は後悔しかなかった。一人の女性すら満足に幸せに出来なかったよ。でも、生命の書を残していた甲斐があった。君に託してもいいかな?”
「それで、バルトロを倒せるなら」
フィガロ皇子にアンジェロの光が重なれば、記憶の続き全てが流れ込んで来た。
「アンジェロ大帝……あなたは……見つけていたのですね。だからクロノアが……」
何も見えない暗闇に向かい、フィガロ皇子は目を見開いて驚いていた。
“やっと空に向かえる時がきた。子孫にお願いだ。私の身体は妻の墓に埋葬してもらえるかい? 妻は私に可愛い子供達を与えてくれ、最後までこの情けない男を理解し尽くしてくれた。死んでやっと一人の女性だけを大切に出来るなんて、本当に情けなく、愚かな人生だったよ。ぜひ歴史もそう書き直しておいてくれ”
「セラフィーナはどうするのですか?」
“彼女もやっと解放してあげられるだろう”
フィガロ皇子にはアンジェロが笑ったように感じた。
背後に扉が現れ、バタンッと開くと、フィガロ皇子は扉から出されて地面に落下していった。だがフィガロ皇子はまるで猫のように軽やかに地面に足をつけた。
「フィー!?」
「フィガロ様!!」
宙に浮かぶ扉は最初の青白い光の玉へと姿を戻すと、アンジェロの遺体に繋がっていた魂の糸がプツリと切れた。
ふんわりと青白い光の玉が浮き上がり始め、土の天井へと姿を消していく。
そして、フィガロ皇子の姿も、大人に変化を始めた十四歳の姿に戻っていた。
「本当は好きな方がいらっしゃるのでしょう?」
「え?」
「存じております。アンジェロ様がこの縁談を無理矢理バルトロに仕組まれたことも」
「君は何を! ……陛下と呼ばないと危険だろ」
アンジェロは思わず身を乗り出して、小声で耳打ちする。だが女性は肝が据わっているようで、堂々と話した。
「この国でアイツを陛下と心から慕っている者などおりますか。アンジェロ様、私は貧乏貴族の末娘で、嫁に貰ってくださるだけでありがたいのです。ですから、アンジェロ様は私のことはお気になさらず、好いた方と関係を続けてください。私が身を引かなかったのは、私自身結婚が必要であったのは勿論ですが、私が身を引けばどうせ他の娘と結婚することになります。そうなれば、アンジェロ様は好きな人と会えなくなると思ったからです。バルトロに不幸にされてはいけません」
あまりにも真剣な表情でとんでもない願いをしてくる婚約者に、アンジェロは思わずクスリと笑ってしまった。
「そのような心配やお気遣いをさせてしまい心苦しい限りです。安心してください。私はヴァレリアーニに嫁いでくれるあなたを大切にしますから」
そんな婚約者は、やがて妻となり、母となる時に神が起こすような奇跡を見せてくれた。初めて我が子を抱き上げた時には、涙が止まらなかった。妻には心からの感謝の気持ちが湧き、産まれて来た子供には人間の愛が何かを教えられた。
自分とセラフィーナの恋は、美しく淡い初恋のままで良かったのだろう。
幼かった二人の、大人になるための通過点だったのだ。
彼女はこれから大人の女性へと成長し、母となり、恋と愛の違いを知る。彼女が愛を知る相手は自分でありたかったが、今となっては彼女の安全が確保され、幸せになってもらえるなら、自分のくだらないエゴなど捨てて良かったと痛感していた。
燃え上がるような恋の始まりがなくても、愛のある家庭を築けることを身をもって知った。きっと、彼女も同じことだろう。
私は私の家族を大切にし、彼女は彼女の人生を歩む。それが、最善で、互いに幸せなのだと信じていた。
なのに……。
なぜ、こんなことになったのか……。
自分さえバルトロを裏切らなければ、彼女は守られ、幸せになれると信じていたのに。
フィガロ皇子がアンジェロ大帝の意識を通して見えた光景は吐き気を催すほど悲惨だった。
東ガレリア王国は地図から消え、周辺諸国に攻め入り民を虐げる西ガレリア帝国軍。
二度と戦いが放棄出来ないアンジェロは、自責の念に押しつぶされそうになりながらも、戦場で魔法を放っていた。
なのに……バルトロのテントを開ければ、男だらけの戦場に、いるはずがないセラフィーナ皇妃が腕を縛られ、皇妃とは思えぬ姿でぐったりと横たわっていた。黒い水のように滑らかで美しかった黒髪は寝乱れたまま、もう太陽は南の空に昇っているのに、所々破れたナイトドレスを羽織っただけの状態だった。
アンジェロは駆け寄ってセラフィーナに施された呪縛魔法を解きながら声を掛けるが、反応が返ってこない。血の気がなく、柔らかかった唇が今ではひび割れてかさぶたまで出来ている。
その時テントに入って来たのはレンツォの妻だった。
フィガロ皇子はアンジェロの意識を通して見えたレンツォの妻に驚いていた。マリエッタにそっくりなのだ。
セラフィーナの侍女は誰も長くは続けられなかった。セラフィーナを良く扱っても、悪く扱っても、バルトロの機嫌ひとつで侍女も折檻されるからだ。その事を知ったレンツォの妻が、セラフィーナの侍女兼使用人役を名乗り出たのだ。
アンジェロはレンツォの妻を問いただし、そこでレンツォの不老不死の薬の話を初めて聞いた。セラフィーナはバルトロの陰謀で不老不死になり、四六時中バルトロに暴行を受けながら魔力回復をさせられていたのだ。
バルトロとの約束が守られると信じていた自分があまりにも愚かで腹立たしかった。
アンジェロはセラフィーナとレンツォの妻を転移魔法でヴァレリアーニ家所有の屋敷へと転移させ、二人を残して再びバルトロの元に転移して戻る。
大魔法使いアンジェロの放った魔法により、大地の悲鳴のような地鳴りが西ガレリア帝国のみならず、近隣諸国に響き渡る。戦地であった西ガレリア帝国国境の要塞は崩壊し、周辺の村にまで被害が及んだ。
バルトロを討ち取る際に、数多くの兵士達やその家族、守らなければならない民まで巻き込んでしまった。
焼野原になった国境。見渡す限り建物も木も草すらもなく、死体の山と煙だけが広がっていた。結局バルトロよりも自分が一番悲惨な戦場を作ってしまったと、アンジェロはその焦燥感と深い後悔から、涙すら流すのも罪に感じた。
「アンジェロ様……バルトロは死にました。あなた様のおかげで、この国だけでなく、近隣諸国も暗黒の時代を終わらせることが出来たのです」
誰がそんなことを言ったのか。もはや振り返って確認もしたくなかった。
「やめてくれ……」
「アンジェロ様、どうか、この国を守り、導いてください! もうこの世界で魔法がつかえるのはあなた様だけです」
「へ……陛下……アンジェロ皇帝陛下、万歳! 万歳!」
「やめてくれ……」
「「「英雄アンジェロ皇帝陛下、万歳! 万歳!! 万歳!!」」」
次々と耳を塞ぎたくなるような声が響き出し、惨状を遠い目で見つめながらアンジェロは苦しみで胸が潰されそうになっていた。
自分は英雄ではない。愚か者だからこそ、ここまで被害を拡大させてしまったのだ。
守ったつもりでいた可愛いセラフィーナを、自分が壊したも同然だった。
「おい、大魔法使い様」
自分を褒めそやす声の中、急に低く冷たい声を掛けられた。
今のアンジェロにはその声が一番耳馴染みがよく、ようやく振り返ることが出来た。後ろに立って声を掛けてきたのは国境を守る兵士だった。今しがた自分が跡形もなく吹き飛ばしたあの要塞で働いていた者だ。
「お前がここを消したんだから、責任を持って作り直せ」
「責任を持って作り直す……?」
「そうだ。お前は英雄じゃない。俺たちと同じ歴史の歯車だ。お前が死んだあと残される者たちのために働け。皇帝になることでここが平和で豊かな国になるなら、なるんだよ」
「君、名前は?」
「ロッシだ。それ以外に名はねぇ」
「ロッシ、覚えておく」
「俺の名より、国の名を考えろ。西ガレリアの独裁から生まれ変わるために」
アンジェロは西ガレリア帝国を眺めた。何もなくなってしまったと思っていたが、遠くに気高くそびえる美しい山があった。
自分には越えられなかった、美しいガレアータ山脈。
愛することが許されなかった初恋。
勇気を出してあの山を越えていたら、もっと早くにバルトロに抗えば、こんなにも自分は周りを傷つけずに済んだのか……。
未来に託したい想いがある。
自分には償う責任も、償うチャンスも残されている。未来に繋がる種を蒔こう。バルトロと共に壊してしまったものを出来るだけ回復させ、傷ついた民がより良い生活が出来るようにしなければ。私の愛する家族に美しい未来を残さなければ。
そして何よりも、これから長い時を生きなければならない君が幸せになれるように。
いつかあの山を越えられる者が現れ、君が愛で満たされ、幸せになれるように、私はこの命が果てるまで尽くそう。
「私が尽くす国の名は……ガレアータ帝国」
ロッシはアンジェロの見つめる先に共に視線を向けた――。
――フィガロ皇子はまた暗闇の世界に沈み込むように戻った。
“バルトロを仕留め切れていなかったんだ。だから、セラフィーナ皇妃は部屋から出られなくなってしまった”
「この声はアンジェロ大帝?」
フィガロ皇子の問いに、暗闇の中でボウッと光の炎が揺らぐ。
“セラフィーナ皇妃の不老不死の身体を戻す方法がないか、色々調べたんだ。その最中に、スカリオーネ先生から興味深い話をされた。生命の書だ。不老不死には関係なかったが、バルトロの脅威を残したまま、いつか命が尽きる私にはとても重要な話だった”
アンジェロの炎がゆっくりとフィガロ皇子に近づいてくる。
“私の人生は後悔しかなかった。一人の女性すら満足に幸せに出来なかったよ。でも、生命の書を残していた甲斐があった。君に託してもいいかな?”
「それで、バルトロを倒せるなら」
フィガロ皇子にアンジェロの光が重なれば、記憶の続き全てが流れ込んで来た。
「アンジェロ大帝……あなたは……見つけていたのですね。だからクロノアが……」
何も見えない暗闇に向かい、フィガロ皇子は目を見開いて驚いていた。
“やっと空に向かえる時がきた。子孫にお願いだ。私の身体は妻の墓に埋葬してもらえるかい? 妻は私に可愛い子供達を与えてくれ、最後までこの情けない男を理解し尽くしてくれた。死んでやっと一人の女性だけを大切に出来るなんて、本当に情けなく、愚かな人生だったよ。ぜひ歴史もそう書き直しておいてくれ”
「セラフィーナはどうするのですか?」
“彼女もやっと解放してあげられるだろう”
フィガロ皇子にはアンジェロが笑ったように感じた。
背後に扉が現れ、バタンッと開くと、フィガロ皇子は扉から出されて地面に落下していった。だがフィガロ皇子はまるで猫のように軽やかに地面に足をつけた。
「フィー!?」
「フィガロ様!!」
宙に浮かぶ扉は最初の青白い光の玉へと姿を戻すと、アンジェロの遺体に繋がっていた魂の糸がプツリと切れた。
ふんわりと青白い光の玉が浮き上がり始め、土の天井へと姿を消していく。
そして、フィガロ皇子の姿も、大人に変化を始めた十四歳の姿に戻っていた。
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※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
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