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おちる
しおりを挟む何がストーカーだ、自分の方がよっぽど怪しいと思いながら、祈璃は叫ぶように言っていた。
「『お友達』って、何? 君、学生でしょう? 僕と幾つ離れてるって思ってるの 」
「友達に年齢なんて関係ないと思います! 」
「やだね 」
必死の訴えも虚しく、きっぱりと撥ねつけられた。
「え、じゃあ、名前は…… 」
「何で、見ず知らずの君に名前を教える必要があるの? 」
答えられない。承知させるだけの理由がない。知りたいのは祈璃の単なる我儘で、この人の言うことは最もだ。
しゅんとして俯いていたら、「しょうがないな 」と声が聞こえた。
「忘れないって言うなら、教えてやってもいいよ 」
祈璃は勢いよく顔を上げる。
「忘れたりしません! 」
「シズキ 」
「え…… 」
「祠《ほこら》に月《つき》と書いて祠月《しずき》だ 」
それだけ言うと、祠月と名乗った男は踵を返して歩き出す。きっと、付いてくるなって意味だ。
「あのっ、またどこかでお会いした時は声を掛けてもいいですか? 」
背中に問えば、「勘弁してよ 」と祠月が何故か悲しそうな瞳でこちらを見た。
◆
それからの祈璃の生活は変わった。出掛ける度に祠月の姿を探す。常日頃から彼の事を考える。まるで恋でもしているみたいに。
この間まで不審者扱いしていたくせに、自分の現金さには呆れる。
和にも祠月の話をして聞いてみた。けれど、和もそんな人は知らないと言う。それならば、やっぱりただの偶然なのかも知れない。
偶然はその後も何度か続いた。けれど折角会えても祠月には取り付くしまがなくて、挨拶をするだけに終わる。やっぱり本気で迷惑と思われているのかも知れない。そう思い始めた時、また緑地公園の池の側で祠月を見付けた。
お互いに、「あっ 」と発した言葉は同じだったけれど、ニュアンスが大分違う。
祈璃は自分を奮い立たすと、「こんにちは!また会えましたねっ 」と弾む声でベンチに座る祠月に近寄る。しかし祠月は、「こんにちは。じゃあね 」と祈璃に手を振った。
ダメダメ、これくらいで落ち込んじゃ。こんなのいつもの事じゃない。
「もう、ひどいです。あの、隣りに座ってもいいですか? 」
「聞かなくても座るくせに 」
ボソッと言われたけれど、ポジティブに捉えることにする。祠月は真っ直ぐに池を見たままだ。視線を追うと、一隻のスワンボートを追っている。何だろう、他のボートと比べて速い気はするけれど。
すると暫く見ていた祠月が、膝に肘を付いた手を口元にやりクックッと笑い出した。
「アレって、思ったよりスピード出ないんだよな。必死になって、汗だくになって2人で濃いでも、せいぜい4~5キロくらい 」
アレって、スワンボート?
「疲れて休んでたら、目の前を手漕ぎボートが優雅に通り過ぎていってガックリしたよなぁ 」
思い出話に祈璃もクスッと笑う。
「そうなんですね 」
聞けば、祠月がチラリと視線を寄越し、「そう 」と呟くみたいに言った。
アーモンド色の瞳に見つめられて、祈璃の心臓が煩く騒ぎ出す。
「わ、たしと乗ります? 」
冗談で言ってみたら、「君と? やだよ 」と即座に断られた。分かっていても悲しい。祈璃は話を変えた。
「ここ、春は桜が綺麗なんですよね。私、好きなんです 」
「そうだね。僕もだ 」
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