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しおりを挟む『聞いたよ。美花の家、破産したんだってな。』
ずっと、自分を好きだと言っていた男の嘲るような目付き。
『今更用なんかない。お前は〈七々瀬〉の社長の娘だったから、価値があったんだ。 そうでなきゃ、お前みたいな高飛車で可愛げのない女、誰が相手にするか 』
何よ! アンタみたいなヤツ、こっちだって願い下げだわっ!
別に好きな訳では無かった。
家柄が釣り合うからと、斎賀が現れるまで親から勧められていただけの相手だった。だけど……。
好きだよ、美花ちゃん ーーー
自分だってそうだったのに、どうしてあの男の言葉を信じたのだろう。
全部無くなって、心が崩れて、何かに縋りたかったのかも知れない。
唯一人、好きになった人にも、目の前で分家の娘などいらないと鼻で笑われたくせに。
あの時着ていた紅色の牡丹の大振袖。気に入っていたけれど、もう二度と着ることはない。
そんな格好をして着飾っても、偽物は偽物だと言われた気がした。
風に舞い上がった白い帽子。 拾ってくれた時、貴方はあんなに優しく笑っていたのに……。
「あー、もうやめっ! 」
考えたってどうにもならない。
熱めのシャワーを勢いよく止めて、美花は自分で洗濯しておいたタオルを手に取る。
大好きだったその人は、まんまとお姫様を手に入れた。
清らかで、美しくて、優しい、美花の大嫌いな本物のお姫様。
拭いた髪を一つに留め、身体にバスタオルを巻くと、美花はバスルームの扉を開けた。
別にすることは同じなんだから、このままでいい。
「待たせたわね、浴びてきたわよ 」
シャワーなんていくら浴びたって、この手も身体も綺麗になんかならないけど。
ところが何故か、そこにいる筈の浩峨の姿は無く、リビングはしん……と静まっている。
「橘さん? 」
キョロキョロと辺りを見回すけれど、どこにも姿は見えない。
「ねぇ、ふざけないで 」
一体、どこにいるのよ。ヒトにシャワー浴びてこいって言っておいて!
苛々としながら、ふと奥の部屋に目をやると、ローテーブルの上に英字新聞のデザインの紙袋が置いてあるのが見えた。
ツカツカと足取り荒くローテーブルに向かうと、一緒に置いてあるメモを手に取る。
いい加減にしてよ。こっちはヤるんなら、とっととヤって済ましちゃいたいんだから……?
「……。」
けれど読み終わった途端、美花はその場に立ち尽くしてしまう。
《 昼休みで抜けて来ただけなので仕事に戻るね。帰りは何時になるか分からないので、夕飯は先に食べていてください。
←これはボクのお気に入りの店で買ったサンドウィッチです。頑張ってくれたご褒美だよ❤︎ 》
「……何よ、これ 」
読み終わったメモを、何度も読み返す。シャワーを浴びてこいというのは、片付けで汚れてしまったからキレイにしてきなさいというそのままの意味で、他意はなかったということだ。
「何んなのよ、もう 」
浩峨と知り合ってから、何度目かの〈何んなのよ〉を呟くと、恥ずかしさのあまり美花は真っ赤になって手で顔を覆った。
「訳が分からない…… 」
こんな男、初めてだ。
ポロッと零れる涙に、美花自身が驚く。
そこで美花は、自分の気が張っていたことにやっと気付いた。
昨日からの片付けで、そんなことさえ分かっていなかった。
「まさか、部屋が汚かったのも? 」
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