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しおりを挟む『……どうやら俺と離れ過ぎて、自分の身分も立場も忘れちまったようだな 』
市之宮の怒りを帯びた声が、遠くに聞こえる。
この男から逃げ出した時、匿ってくれた人達の中には美花を守ってくれようとしてくれた人達もいた。
だけど、その人達がその後、どうなったのかを全て知っている。
だから、一人の人の所に長くいるのは、やめてきたのだ。
さっきこの男が言ったことは、誇張でもなんでもない。
探偵なんて不安定な職業、きっとこの男の手に掛かったらひとたまりもないだろう。
あっという間に、汚い手で生活を追われる。
……めんね 。ごめんなさい、浩峨さん。
もっと早く、あなたから離れなければ駄目だった。
頬を伝う涙の意味を別の意味に取った男が、嗜虐的な冷たい笑みを浮かべる。
『何、泣いてんだ。今更、おせーよ……っ! 』
男の爪先が脇腹に入って、美花は呻いた。
蹴られた場所を庇えば、今度は背中を、肩を。
次々に与えられる暴力に、一体どこが痛いのかも分からなくなってくる。
『簡単に他の男にさせやがって! この売女がっ! 』
あぁ、段々全てが麻痺していくようなこの感覚には覚えがある。
現実から遠く、切り離されていく感覚。
しかし、今は自分を見失う訳にはいかない。
繋ぎ止めているのは、大切な人への想い……。
胸ぐらを掴まれて、振り下ろされる手がスローモーションに見える。
珍しい、顔を殴るのかなと思った瞬間、男の動きがピタリと止まった。
人の気配に市之宮の後ろに視線をやると、通りすがりの年配の女性が二人、ひそひそと話しながらこちらを伺っている。
市之宮は、チッと舌打ちをすると、荒々しく美花から手を離した。
身体ごと地面に落ちて、頬にコンクリートの冷たさを感じる。
『行くぞ 』
行くぞって、今?
ぎしぎしと痛みで身体が軋む。
『早く立てよ、ここじゃ人目に付く 』
ゆっくりと身を起こす美花の腕を、市之宮が苛々しながら引っ張った。
嫌だ。今連れて行かれてしまったら、このまま二度と会えなくなる。
『……嫌、よ 』
『な……に? 』
まさかそんなことを言うとは思っていなかったのか、市之宮が驚いた顔で美花を凝視した。
『今は、行かない。 無理矢理連れて行くと言うのなら、……叫ぶわよ 』
チラリと先程の女性達に目をやると、今にも人を呼びそうな雰囲気だった。
見比べた市之宮は、苦々しそうに歯噛みする。
そう、これは報いだーーー。
自分のした行いは、いづれは自分に戻ってくる。
あの時、璃桜ちゃんは私という危害を与えるものから、お腹の子どもと朔耶さんを守った。
だから私も守る、自分の大切なものを……。
『行かないとは言ってない。 私にも、片付けなければいけないことがあるの。二日、いえ三日待って 』
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