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しおりを挟むふっ……と、央翔の背中が揺れる。
「でしょうね、貴方ならそう言うと思っていました 」
「用が済んだんなら早く行けよ。お前の恨み言なんか、もう聞きたくもない 」
「……そうですか 」
お願いだから振り向かないで。真祝はその時、それだけを祈っていた。
だって顔を見られたら、泣いてしまいそうなことがバレてしまう。強がって、本当は不安で押し潰されそうな自分を見透かされてしまう。
央翔には、最低な自分のことなんかさっさと忘れて、もっと相応しい人と幸せになって欲しい。少しでも自分に心を残すことはあってはならないから。
「さよなら、真祝さん 」
そう言うと、央翔は部屋を出て言った。真祝は玄関に駆け寄ると、ガチャリと鍵を締める。
ドアを背にした身体が、ずるずると崩れ落ちた。
「もう、泣いてもいいよね? 」
立てた膝に顔を埋めれば、止めどなく涙が溢れる。
「央翔、ごめん。本当に、ごめん…… 」
恋がキラキラしているものだなんて、大嘘だ。
実際の恋は、自分のエゴで周りの人をこんなにも振り回し、傷付けて、運命さえ狂わせる。それでも、向かう想いは止められなくて、自分でもどうしようもない。
「ねぇ。誰も、居なくなっちゃったよ 」
愛する人も、愛してくれる人も。けれど……。
真祝は、そっと新しい生命の宿る、自分の腹を擦る。
「僕には、お前がいるね 」
産まれる前から父親が居ないなんて、お前にも、僕の勝手で迷惑掛けるけど。
「僕がお前のことを2人分、大事にするから。2人分、愛するから。だから、許せよ、な…… 」
自分自身の嗚咽が部屋に響く。堪えようとしたら、喉から変な声が出てしまう。
止まらない涙。こうなったら、枯れるまで泣いてやろうと思った。誰が見ている訳でもない。
そうして一頻り泣いたら、ふと、頭の中に文字が浮かんだ。頭の中で暫く留め置くと、もうそれしかないと思えた。
「決めたよ、僕から最初のお前へのプレゼント。お前の名前はね…… 」
そう語り掛けると、真祝は零れ続ける涙を指で拭いて、ふふっと微笑んだ。
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