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12話 鬼人の剣士・2
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近くのシェルターに一般人を避難誘導し終え、自らもシェルターで治療を始めていた治夜は呆然としていた。
シェルターは異形襲撃の増加に伴い政府が各地に配置した。
爆撃程度ならビクともしない頑丈な作りで、異形に対してはその攻撃をほぼ無効化する程の硬さを誇る。
治夜自身その話は聞いていたし、耐久実験も目の当たりにした。
だから、今目の前で起こっている事に理解が追いつかなかった。
「どうしてシェルターの中に入ってこれるの……?」
完璧な防御力を持つはずのシェルターの中に異形が侵入していた。
それも50体以上も。
脆弱な部分など外部には全く無いはずなのになぜ。
治夜は呆然としつつも、自分は何も出来ない事を悟っていた。
病院すら無い田舎の村に生まれた治夜はその能力に覚醒して以来、「神の子」「天恵」だと呼ばれて過ごしてきた。
そんなある日、大人になった治夜の目の前で村が炎上した。
父と母を目の前で刺殺され、兄弟すらも惨殺された。
小柄だった治夜は衣装棚の隅で隠れたため生き残れたが、とても生きた心地はしなかった。
自分以外全ての村人が死んだ。
その後生き残った治夜を衛が発見し、ガーディアンに入隊した。
後に分かった事だが犯人は村長で、動機は不明だ。
ガーディアンに所属する人間は、基本的に身寄りが無い。
何かの事件に巻き込まれた後、スカウトされて入隊するのだ。
だから誰かを守りたいという気持ちは人一倍強い。
もちろん治夜も。
怯える一般人をシェルターの奥に誘導した治夜は異形達の前に出た。
「治夜も……もう誰も失いたくない!これ以上は行かせないよ!」
治夜の右腕に青いラインが浮き上がる。
そして右手に手のひらサイズのカプセルが現れた。
それを腰から取り出した銃形状の武器に取り付けた。
ガーディアンの裏方、開発部隊が生み出した治夜専用武器スプレッド。
特徴はその形状。
銃とは言ったものの、銃とは程遠い。
広がった銃口。
ハンマー、スライダ、アイアンサイトは存在しない。
そこにあるのは空洞とそれを囲う金属パーツ。
治夜はそこに生成したカプセルを差し込んだ。
「スプレッド起動!」
スプレッドの銃身に彫り込まれたラインが紫色に発光した。
薬を生成出来るジェネレーターである治夜は、回復薬だけでなく毒薬も生成出来るのだ。
異形達が警戒したように大きく吠えた。
だがもう遅い。
治夜がスプレッドのトリガーを引きながら左から右へ動かした。
銃口から紫がかった霧が噴出され、異形達を覆う。
「やった……!」
しかし、異形達は全く動じず前進を再開した。
効いてない……!
可能な限り最強の毒霧だったはずなのに……!
やっぱりこいつらはどこかおかしいんだ。
治夜の顔が引き攣り、1歩後退する。
その恐怖を理解したのか、異形達が飛びかかってきた。
死ぬ。
その瞬間、全ての異形が地面に叩きつけられて潰れた。
「……!」
「無事ですかいお嬢!」
「うん!第3小隊が助けに来てくれたんだね!」
「もちろんですよ!お嬢からの緊急呼出でしたからね!」
現れたのはツルツルの頭を光らせるふくよかな男。
右手に片手鎚を握る男はガーディアン第3小隊のメンバー、大塚隆二。
能力はグレード7『重力を操作する能力』。
片手鎚を振り下ろすことであらゆる物の重力を増やす能力だが、重力を減らすことは出来ない。
先程のように対象の数は問わない。
彼曰く「空間を単体と仮定して放てばいいんですよ」らしい。
そんな彼は今年で32歳になる。
事故で家族を無くしており、治夜を娘のように溺愛しているが呼び方は「お嬢」と独特である。
「お嬢、急いで避難しましょう!見てくださいこの入口を……」
「斬られてる……?でも誰がどうして……」
「分かりません。ですが一般の人も引き連れて急ぎましょう!」
「分かった……!」
異形達が侵入して来たであろう入口は、刃物で斬られたのか三角形の穴が空いていた。
何者かが意図的にやったとしか考えられない。
それも、恐らく異形の仕業ではない。
異形に加担する何か、もしくは異形を操る何者かだ。
大塚が片手鎚を強く握った。
「外には第3小隊の残り2人のメンバーが応戦中です。ですが……」
「戦ってる音が全く聞こえないね……」
「ええ……お嬢、少し待っていてください。私が様子を見てきます」
「う、うん。気を付けてね……」
そう言って行ってしまった。
治夜の心配は尽きない。
いくら防音効果のあるシェルターだからといって風穴も空いている。
音が聞こえないのは不自然だ。
しかしガーディアンのメンバーであるのだから異形の数体、敵ではないはず。
今回の襲撃は何かがおかしい。
治夜が思考を巡らせていた次の瞬間、爆音がシェルターを揺らした。
奥にいた一般人達も悲鳴を上げる。
治夜が身構えると、入口から血だらけのハゲ頭が見えた。
そして……
「お嬢……逃げ……て……」
大塚はそう言い残してその場に倒れた。
治夜は言葉を発せぬほど震えていた。
彼は太っているとはいえ単純な討伐数ならガーディアン内でも1桁に入る実力者だ。
そんな大塚をこんなにもボコボコに出来るなど尋常ではない。
すると、その風穴から1人の男が現れた。
真っ黒なコンバットスーツに角の生えた黒いマスクを被った男は右手にこれまた真っ黒な刀身を持つ刀を握っていた。
「ガーディアンというからどれくらいの実力者かと思って期待していたが……まさかこの程度とはな。期待外れにも程がある」
「あなたは……誰?」
「俺か?そうだな……鬼人とでも名乗っておくか。俺は鬼人、お前達の敵だ」
「鬼人……」
黒ずくめの男、鬼人は淡々とした口調で言った。
治夜は震えながらも背中の後ろで再び右手にカプセルを生成した。
だが、ラインの発光により鬼人には気付かれている。
それでも能力までは分かるまい。
カプセルをスプレッドにセットする。
「余計な事はしない方がいい。薬袋治夜、薬品のジェネレーター」
「ッ!どうしてそれを……!」
「組織の情報一覧から。お前達の能力、大体は把握している」
「そんな……!」
「というわけだ。虐殺を始めさせてもらうぞ」
鬼人の姿が掻き消えた。
そして次の瞬間には治夜と鬼人を残して全ての人が首から血を吹き出していた。
100人はいた一般人を……それも一瞬で……
状況を理解した治夜は両目から涙を溢れさせた。
自分はガーディアン失格だ。
人が殺されるのを目の前で2度も傍観していた。
また何も出来なかった。
「目の前で無力にも人が死ぬのを立って見ている気分はどうだ?安心しろ、お前もすぐにそっちに送ってやる」
「…ろ…て……」
「あぁ?」
「殺してよ……!」
「あぁ。そのつもりだよ」
自分なんて生きていても意味が無い。
こんな事ならあの時家族と死んでいれば……
鬼人が刀を掲げた。
でも大丈夫だ。
鬼人も言っていたではないか、「そっちに送ってやる」って。
治夜、今から行くからね、みんな……
心の中でそう呟いて目を閉じた。
だがいつまで経っても刃は落ちてこなかった。
「まだいたのか。確かお前は……新入りか」
風穴の方に深緑の髪をたなびかせる少女が銀色の拳銃を構えて立っていた。
鬼人は戦意を喪失した治夜を無視し、新たに現れた天音に刃を向けた。
異形との戦闘に苦戦したのか、天音はとても万全の状態とは言えない。
それなのにどうして……
「どうして治夜を助けるの!?治夜はたくさんの人を見殺しにしたのに……!それもこれで2回目なの!!」
「な、何言ってるんですか治夜さん!あなたはそんな事を言う方ではないでしょう!」
「天音ちゃんには分かんないよ!!治夜の気持ちなんて……もううんざりなの……元気で明るくやってるのだってしんどいのッ!」
天音は自分を心配してくれている。
そんなこと分かってる。
分かってるのに止まらない。
胸の奥に溜まっていたドス黒い感情が渦を巻いて吐き出される。
天音は口をパクパクさせていた。
死に際に友達に嫌われて終わるのか。
最悪な死に方だ。
人殺しの自分にピッタリ……
だから治夜は天音に向かって笑顔を向けた。
「だからもう……楽にさせて……?」
そうだ、これでいいんだ。
このまま楽にならばもう辛い思いをしないで済む。
地獄の連鎖から逃れられるじゃないか。
治夜は鬼人のマスクを睨みつけた。
早く殺せという意味を込めて。
「治夜さんの馬鹿ッ!自分だけ辛いだなんて思わないでください!知ってるでしょ!ガーディアンのみんなはどこか心に傷を負ってる!それなのに自分だけ悲劇のヒロイン気取りですか!おこがましい!甘えないでくださいッ!あなたにはやるべき事があるでしょッ!」
「天音ちゃん……」
「くだらないな。お前達の友情とか仲間ごっこに興味は無い。俺が求めるのは強者だけだ。白河天音、お前は俺の求めるだけの力を持っているか?」
泣き崩れる治夜の首元に刀を向けた鬼人は天音の方に顔を向けた。
天音の頬を嫌な風が撫でる。
異形よりも気味の悪い感じがする。
さしずめ殺意と言ったところか。
幸いこの空間にはまだ魔力がある。
天音はサイクロンを右手に握った。
「あなたをここで排除します……!」
「いや、今のお前では勝負にならないな。そうだな……」
「何を……」
戦ってもいないのになぜ実力が分かる?
デタラメか?
いや、あの威圧感と殺意は間違いなく熟練者の証。
考えを巡らせている間に鬼人が刀を持ち上げた。
身構える天音。
しかし、鬼人は天音の予想もしなかった行動を起こした。
ピンッ。
その音が何の音だったのか、一瞬理解出来なかった。
鈴を鳴らした音のようにも、風を切った音のようにも。
だが、瞬時に理解した。
治夜のうなじから血が吹き出たのを見て。
天音は我を忘れて即座にサイクロンの引き金を引いた。
「お前ぇぇぇッ!!!」
「そう来ないとな。でもまだ足りない。もっと嘆け」
「絶対に……お前を許さない……ッ!!」
「そうだ。その調子だ。怒りと憎しみは能力を向上させる」
何度も何度も引き金を引く。
だがその全てを鬼人は回避する。
弾速は銃弾より速いはずなのに。
天音は連射をやめ、右手を前に突きだした。
鬼人も右腰にあるバックルをトンと叩いた。
するとバックルから無数の小さなナイフがベルトに現れる。
まずい……!
天音は即座に能力を発動させた。
シンプルな強風。
単純故に威力は高い。
強風を当てられた鬼人は勢いよくシェルターの奥へ吹き飛ばされた。
ラインが発光した様子は無い。
敵の能力を発動する前に吹き飛ばせた。
それなのに……
天音は地面に崩れ落ちた。
「え……?」
「威力はなかなかだが殺傷力に欠けるな。どうした、見えてなかったのか?」
「どうして……そんな……」
地に伏せ身動きが取れない。
両脚両腕に鋭い痛みを感じる。
斬られた?
一体何に?
鬼人は能力を使った様子は無かった。
この空間には私と鬼人しかいない。
それなのにどうして……!
天音は唇を強く噛んだ。
理由は分からないがこの男には手も足も出ない。
勝てない……!
「だからダメなんだ。お前達は能力について無知過ぎる。だから負ける。やはりこの程度か。俺とやり合うのはやっぱりあいつだけだ。今回は生かしておいてやる。次戦う時はもっとマシになっていろよ」
治夜に手を伸ばすことすら出来なかった。
鬼人は倒れた2人を見ることなく外へ歩いて行った。
天音は薄れゆく意識の中、空太の事を思い出していた。
この日、ガーディアンは歴史的大敗を晒してしまった。
アルタイル最大都市スワナは陥落。
犠牲者は300人を越えたと言う。
シェルターは異形襲撃の増加に伴い政府が各地に配置した。
爆撃程度ならビクともしない頑丈な作りで、異形に対してはその攻撃をほぼ無効化する程の硬さを誇る。
治夜自身その話は聞いていたし、耐久実験も目の当たりにした。
だから、今目の前で起こっている事に理解が追いつかなかった。
「どうしてシェルターの中に入ってこれるの……?」
完璧な防御力を持つはずのシェルターの中に異形が侵入していた。
それも50体以上も。
脆弱な部分など外部には全く無いはずなのになぜ。
治夜は呆然としつつも、自分は何も出来ない事を悟っていた。
病院すら無い田舎の村に生まれた治夜はその能力に覚醒して以来、「神の子」「天恵」だと呼ばれて過ごしてきた。
そんなある日、大人になった治夜の目の前で村が炎上した。
父と母を目の前で刺殺され、兄弟すらも惨殺された。
小柄だった治夜は衣装棚の隅で隠れたため生き残れたが、とても生きた心地はしなかった。
自分以外全ての村人が死んだ。
その後生き残った治夜を衛が発見し、ガーディアンに入隊した。
後に分かった事だが犯人は村長で、動機は不明だ。
ガーディアンに所属する人間は、基本的に身寄りが無い。
何かの事件に巻き込まれた後、スカウトされて入隊するのだ。
だから誰かを守りたいという気持ちは人一倍強い。
もちろん治夜も。
怯える一般人をシェルターの奥に誘導した治夜は異形達の前に出た。
「治夜も……もう誰も失いたくない!これ以上は行かせないよ!」
治夜の右腕に青いラインが浮き上がる。
そして右手に手のひらサイズのカプセルが現れた。
それを腰から取り出した銃形状の武器に取り付けた。
ガーディアンの裏方、開発部隊が生み出した治夜専用武器スプレッド。
特徴はその形状。
銃とは言ったものの、銃とは程遠い。
広がった銃口。
ハンマー、スライダ、アイアンサイトは存在しない。
そこにあるのは空洞とそれを囲う金属パーツ。
治夜はそこに生成したカプセルを差し込んだ。
「スプレッド起動!」
スプレッドの銃身に彫り込まれたラインが紫色に発光した。
薬を生成出来るジェネレーターである治夜は、回復薬だけでなく毒薬も生成出来るのだ。
異形達が警戒したように大きく吠えた。
だがもう遅い。
治夜がスプレッドのトリガーを引きながら左から右へ動かした。
銃口から紫がかった霧が噴出され、異形達を覆う。
「やった……!」
しかし、異形達は全く動じず前進を再開した。
効いてない……!
可能な限り最強の毒霧だったはずなのに……!
やっぱりこいつらはどこかおかしいんだ。
治夜の顔が引き攣り、1歩後退する。
その恐怖を理解したのか、異形達が飛びかかってきた。
死ぬ。
その瞬間、全ての異形が地面に叩きつけられて潰れた。
「……!」
「無事ですかいお嬢!」
「うん!第3小隊が助けに来てくれたんだね!」
「もちろんですよ!お嬢からの緊急呼出でしたからね!」
現れたのはツルツルの頭を光らせるふくよかな男。
右手に片手鎚を握る男はガーディアン第3小隊のメンバー、大塚隆二。
能力はグレード7『重力を操作する能力』。
片手鎚を振り下ろすことであらゆる物の重力を増やす能力だが、重力を減らすことは出来ない。
先程のように対象の数は問わない。
彼曰く「空間を単体と仮定して放てばいいんですよ」らしい。
そんな彼は今年で32歳になる。
事故で家族を無くしており、治夜を娘のように溺愛しているが呼び方は「お嬢」と独特である。
「お嬢、急いで避難しましょう!見てくださいこの入口を……」
「斬られてる……?でも誰がどうして……」
「分かりません。ですが一般の人も引き連れて急ぎましょう!」
「分かった……!」
異形達が侵入して来たであろう入口は、刃物で斬られたのか三角形の穴が空いていた。
何者かが意図的にやったとしか考えられない。
それも、恐らく異形の仕業ではない。
異形に加担する何か、もしくは異形を操る何者かだ。
大塚が片手鎚を強く握った。
「外には第3小隊の残り2人のメンバーが応戦中です。ですが……」
「戦ってる音が全く聞こえないね……」
「ええ……お嬢、少し待っていてください。私が様子を見てきます」
「う、うん。気を付けてね……」
そう言って行ってしまった。
治夜の心配は尽きない。
いくら防音効果のあるシェルターだからといって風穴も空いている。
音が聞こえないのは不自然だ。
しかしガーディアンのメンバーであるのだから異形の数体、敵ではないはず。
今回の襲撃は何かがおかしい。
治夜が思考を巡らせていた次の瞬間、爆音がシェルターを揺らした。
奥にいた一般人達も悲鳴を上げる。
治夜が身構えると、入口から血だらけのハゲ頭が見えた。
そして……
「お嬢……逃げ……て……」
大塚はそう言い残してその場に倒れた。
治夜は言葉を発せぬほど震えていた。
彼は太っているとはいえ単純な討伐数ならガーディアン内でも1桁に入る実力者だ。
そんな大塚をこんなにもボコボコに出来るなど尋常ではない。
すると、その風穴から1人の男が現れた。
真っ黒なコンバットスーツに角の生えた黒いマスクを被った男は右手にこれまた真っ黒な刀身を持つ刀を握っていた。
「ガーディアンというからどれくらいの実力者かと思って期待していたが……まさかこの程度とはな。期待外れにも程がある」
「あなたは……誰?」
「俺か?そうだな……鬼人とでも名乗っておくか。俺は鬼人、お前達の敵だ」
「鬼人……」
黒ずくめの男、鬼人は淡々とした口調で言った。
治夜は震えながらも背中の後ろで再び右手にカプセルを生成した。
だが、ラインの発光により鬼人には気付かれている。
それでも能力までは分かるまい。
カプセルをスプレッドにセットする。
「余計な事はしない方がいい。薬袋治夜、薬品のジェネレーター」
「ッ!どうしてそれを……!」
「組織の情報一覧から。お前達の能力、大体は把握している」
「そんな……!」
「というわけだ。虐殺を始めさせてもらうぞ」
鬼人の姿が掻き消えた。
そして次の瞬間には治夜と鬼人を残して全ての人が首から血を吹き出していた。
100人はいた一般人を……それも一瞬で……
状況を理解した治夜は両目から涙を溢れさせた。
自分はガーディアン失格だ。
人が殺されるのを目の前で2度も傍観していた。
また何も出来なかった。
「目の前で無力にも人が死ぬのを立って見ている気分はどうだ?安心しろ、お前もすぐにそっちに送ってやる」
「…ろ…て……」
「あぁ?」
「殺してよ……!」
「あぁ。そのつもりだよ」
自分なんて生きていても意味が無い。
こんな事ならあの時家族と死んでいれば……
鬼人が刀を掲げた。
でも大丈夫だ。
鬼人も言っていたではないか、「そっちに送ってやる」って。
治夜、今から行くからね、みんな……
心の中でそう呟いて目を閉じた。
だがいつまで経っても刃は落ちてこなかった。
「まだいたのか。確かお前は……新入りか」
風穴の方に深緑の髪をたなびかせる少女が銀色の拳銃を構えて立っていた。
鬼人は戦意を喪失した治夜を無視し、新たに現れた天音に刃を向けた。
異形との戦闘に苦戦したのか、天音はとても万全の状態とは言えない。
それなのにどうして……
「どうして治夜を助けるの!?治夜はたくさんの人を見殺しにしたのに……!それもこれで2回目なの!!」
「な、何言ってるんですか治夜さん!あなたはそんな事を言う方ではないでしょう!」
「天音ちゃんには分かんないよ!!治夜の気持ちなんて……もううんざりなの……元気で明るくやってるのだってしんどいのッ!」
天音は自分を心配してくれている。
そんなこと分かってる。
分かってるのに止まらない。
胸の奥に溜まっていたドス黒い感情が渦を巻いて吐き出される。
天音は口をパクパクさせていた。
死に際に友達に嫌われて終わるのか。
最悪な死に方だ。
人殺しの自分にピッタリ……
だから治夜は天音に向かって笑顔を向けた。
「だからもう……楽にさせて……?」
そうだ、これでいいんだ。
このまま楽にならばもう辛い思いをしないで済む。
地獄の連鎖から逃れられるじゃないか。
治夜は鬼人のマスクを睨みつけた。
早く殺せという意味を込めて。
「治夜さんの馬鹿ッ!自分だけ辛いだなんて思わないでください!知ってるでしょ!ガーディアンのみんなはどこか心に傷を負ってる!それなのに自分だけ悲劇のヒロイン気取りですか!おこがましい!甘えないでくださいッ!あなたにはやるべき事があるでしょッ!」
「天音ちゃん……」
「くだらないな。お前達の友情とか仲間ごっこに興味は無い。俺が求めるのは強者だけだ。白河天音、お前は俺の求めるだけの力を持っているか?」
泣き崩れる治夜の首元に刀を向けた鬼人は天音の方に顔を向けた。
天音の頬を嫌な風が撫でる。
異形よりも気味の悪い感じがする。
さしずめ殺意と言ったところか。
幸いこの空間にはまだ魔力がある。
天音はサイクロンを右手に握った。
「あなたをここで排除します……!」
「いや、今のお前では勝負にならないな。そうだな……」
「何を……」
戦ってもいないのになぜ実力が分かる?
デタラメか?
いや、あの威圧感と殺意は間違いなく熟練者の証。
考えを巡らせている間に鬼人が刀を持ち上げた。
身構える天音。
しかし、鬼人は天音の予想もしなかった行動を起こした。
ピンッ。
その音が何の音だったのか、一瞬理解出来なかった。
鈴を鳴らした音のようにも、風を切った音のようにも。
だが、瞬時に理解した。
治夜のうなじから血が吹き出たのを見て。
天音は我を忘れて即座にサイクロンの引き金を引いた。
「お前ぇぇぇッ!!!」
「そう来ないとな。でもまだ足りない。もっと嘆け」
「絶対に……お前を許さない……ッ!!」
「そうだ。その調子だ。怒りと憎しみは能力を向上させる」
何度も何度も引き金を引く。
だがその全てを鬼人は回避する。
弾速は銃弾より速いはずなのに。
天音は連射をやめ、右手を前に突きだした。
鬼人も右腰にあるバックルをトンと叩いた。
するとバックルから無数の小さなナイフがベルトに現れる。
まずい……!
天音は即座に能力を発動させた。
シンプルな強風。
単純故に威力は高い。
強風を当てられた鬼人は勢いよくシェルターの奥へ吹き飛ばされた。
ラインが発光した様子は無い。
敵の能力を発動する前に吹き飛ばせた。
それなのに……
天音は地面に崩れ落ちた。
「え……?」
「威力はなかなかだが殺傷力に欠けるな。どうした、見えてなかったのか?」
「どうして……そんな……」
地に伏せ身動きが取れない。
両脚両腕に鋭い痛みを感じる。
斬られた?
一体何に?
鬼人は能力を使った様子は無かった。
この空間には私と鬼人しかいない。
それなのにどうして……!
天音は唇を強く噛んだ。
理由は分からないがこの男には手も足も出ない。
勝てない……!
「だからダメなんだ。お前達は能力について無知過ぎる。だから負ける。やはりこの程度か。俺とやり合うのはやっぱりあいつだけだ。今回は生かしておいてやる。次戦う時はもっとマシになっていろよ」
治夜に手を伸ばすことすら出来なかった。
鬼人は倒れた2人を見ることなく外へ歩いて行った。
天音は薄れゆく意識の中、空太の事を思い出していた。
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これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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