無能は超能力世界で生き延びられますか?

遠山ハルヒ

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13話 鎖

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 ガラの悪い男達がたむろし、酒の臭いが嫌なほど鼻腔を刺激する空間に2人はいた。
 椅子に堂々とした態度で座るメアを見た空太は思わず立ち上がって叫んでいた。

「どうしてこうなったぁぁぁッ!!!」

 他のテーブルで酒を飲んでいた男達が一斉に空太を睨みつける。
 空太は「すいませんすいません」と謝りながら席に座った。
 メアが面倒くさそうにジト目を向けている。

「何をそんなにムキになっておる」
「いやどうしてメアこそそんなに冷静でいられる!ここがどこだか分かってるのか!?」
「どこと言われてもな。傭兵の集まるギルドじゃろう?入口にそう書いてあったではないか」
「そこじゃない!どうして転移した俺達が傭兵ギルドにいるんだよ!!」

 そしてなぜメアは馴染んでいる。
 五十嵐によりとある村に転移させられて1週間。
 空太とメアは傭兵ギルドで仲間を探しつつ情報収集を行っていた。
 一応2人とも傭兵としてギルドに登録している。
 いざとなれば駆り出されるだろうが、それほどの戦場となればメアの敵にも近付けるだろうという作戦だ。
 だが、些かメアの服装は酒臭いこの場所には不似合いすぎないか。
 本人は全く気にしていない様子だ。
 そりゃそうか……全裸で洞窟にいたもんな……
 空太は頭を抱えた。
 本当にこの調子で上手くいくのだろうか。
 仲間も自分達を入れて4人は欲しいし……
 まずこの傭兵ギルド、おじさんしかいない。
 仲間にするのは気が引ける。
 みんな髭生えてて無駄に筋骨隆々だし視線がメアしか見てないし。
 というわけで、仲間に入りたいという男が現れるとどうなるかというと……

「なぁガキ共、仲間探してんだろ?俺を入れてくれよ。能力は『石を操作する能力』。グレードは5だ。お前らガキには勿体ないくらいの実力だぜ?入ってやる代わりと言っちゃ何だが、その女のガキを一晩貸してくれよ。いいだろぉ?なぁ?」
「話にならないな」
「あぁん?今なんて言ったよガキ」
「話にならないって言ってるんだよ。お前なんて役に立たない。分かったら早くどこか行け」
「んだとテメェッ!死んじま……ぶぇぁッ!」

 殴りかかろうとした男はカウンターで放たれた空太の裏拳で見事に吹き飛んだ。
 大体こうなる。
 雷鬼曰く実力者は立ち筋歩き方呼吸の仕方だけで違いが分かる。
 空太も多少その心得を会得したので、ここまで歴然とした実力差があれば見破れる。
 空太の裏拳を直撃した男はギルドの隅で完全に落ちていた。
 そういえば所々で聞くグレードというのは何だろう?
 聞いておけばよかったな……
 少なくとも俺達はグレード5を圧倒出来る。
 メアは何事も無かったかのようにグラスに注がれた水を飲んでいた。
 この野郎……お前の事守ってやったんだぞ!お前の!!!
 それなのに優雅に水飲みやがって……
 空太はメアを引きずってギルドを出た。
 これ以上目立つ真似はしたくない。
 引きずられているメアは不満そうだ。

「おい空太。何故余を引きずる」
「もう情報収集は充分だろ。先へ進むぞ」
「先と言うと?」
「噂になってる。鬼を名乗る剣士がいるらしい。それも異形を連れ回してるってな」
「アルタイルのガーディアンが負けたらしいな。かなりの実力じゃな。となるとヤツの仲間である可能性は低くない、か」

 これは数日前にギルド内で耳にした噂だ。
 アルタイルの国家戦力ガーディアンが1人の剣士が率いる異形の集団に敗北した、と。
 異形と言うのは過去に空太達を襲った化け物のことだろう。
 あの時はガーディアンが殲滅したと雷鬼から聞いていたが、その上で負けたと言うなら鬼を名乗ったという剣士が相当腕利きだということだ。
 ここからは空太の想像なのだが、異形とメアの狙うヤツとは無関係では無い。
 そして異形を率いる剣士。
 何とかして話だけでも聞く必要がある。
 話にならなければ無理矢理吐かせてやる。

「で、どこに現れるのか分かるのか?」
「そこが問題なんだよ。何かヒントがあれば……」
「謎解きではないじゃろう……村を回って更る情報が必要じゃ。行くぞ」
「引きずられながら言うなよ……てか自分で歩け」
「従僕の分際で誰にものを言っておる」
「眷属だよ!そんな強制力無いぞ!」

 2人はそうして村巡りを始めた。
 空太は知らないが、メアは空太に強制力を持った命令を下せるのだ。
 もちろん下す気は無いが……



 情報収集の村巡りが始まって2週間。
 2人はめぼしい情報を得られないでいた。
 どの村でも異形の襲撃が増えてきているという情報ばかりだ。
 どうやらこの国は想像以上にピンチらしい。
 ガーディアンを率いているリーダーが雷鬼だから仕方ないか。
 とりあえず付近の村は全て回った。
 一旦ギルドまで戻ってみよう、嫌だけど。
 2人でそう決めた矢先、メアが上空に何かを探知した。

「空太、空から何かが飛んでくるぞ。それもかなりの数じゃ!方角は……おかしいな、その先には何も無いはずなんじゃが……」
「異形だったらまずいな……この付近の傭兵は弱すぎる……行こうメア。俺達で何とかするんだ!」
「余はヤツに復讐出来ればアルタイルなどどうでも良いんじゃが……と言っても手掛かりになる可能性があるなら背に腹はかえられぬか」

 メアはそう言って渋々走り出した。
 空太はそれを追う。
 確かに不気味な何かを感じる。
 ただの魔物ではなさそうだ。
 しばらく走っていると、不意に不思議な感覚が2人を襲った。
 何かプレッシャーのような感じだ。

「何だこれ……!」
「結界か。人払いの結界じゃろう。さしずめ人に追いやられた亜人の隠れ家じゃろうな」
「じゃあメアが感知したのは亜人か?」
「いや、そうでもないようじゃ。応戦しているように感じる」
「なら急がないと……!」

 空太はメアを置いて走り出した。
 そう遠くまで行かない限りメアは空太の位置が分かる。
 これも空太を眷属としたからだ。
 本人も薄々気付いている様だが、身体能力も常人を遥かに超越している。
 いつか正体を明かすその時まで、束の間の幸福を味あわせてくれ……悪いな空太……
 メアは胸に手を当てて目を閉じた。
 そして空太を追った。
 その先には……

「メアッ!気を付けろッ!」

 異常な数の異形の亡骸と1人の少年か少女か、中性的な人間がいた。
 恐らく女性であろう彼女の右手からは無数の鎖が伸びており、その先は異形を貫いていた。
 この少女、強い。
 武術の心得の無いメアでもはっきりと感じ取れた。
 少女からは何か不思議な力を感じるのだ。
 少女は返り血に塗れた顔で空太とメアを補足した。
 そして次の瞬間、5本の鎖が凄まじい速度で放たれた。
 全ての鎖の先端に小さなナイフが付いている。
 まともに食らえばタダでは済まないだろう。

「俺達は敵じゃないッ!」

 空太の叫び虚しく、鎖は空太の眼球目掛けて加速した。
 警戒していたはずのメアも反応出来ない速度だ。
 空太は首を限界まで傾けて回避を試みる。
 だが、鎖が空太を貫く事は無かった。
 寸の所で鎖は停止していた。

「君がボク達の敵じゃないってこと、証明出来る?」
「俺達はその化け物を追ってきたんだ……!」
「ダメだね。信頼出来ない。今鬼を名乗る剣士とかいるって聞くし、尚更ね」

 更に10本の鎖が放たれた。
 だが、もう遅い。
 今の一瞬、隙が出来た。
 空太の右手が目に迫っていた鎖を払い除けた。
 少女は驚愕の表情をチラつかせたが、まだ10本の鎖がある。
 先程の速度なら空太は防御も回避も出来ない。
 しかし空太は1人じゃない。

「メアッ!」
「分かっておるッ!」
「へぇ……いいねその力。ボクよりグレードが高い能力かな……?」

 放たれていた鎖が急停止する。
 空間固定。
 恐らくこれ以上はメアの体力の限界だ。
 即終わらせる……ッ!
 空太は少女との距離を一気に詰めた。
 右拳を握り締める。
 鳩尾に一撃、加減して意識を刈り取る程度に……
 ドパァンッ!

「え……?」
「空太お主……ッ!」

 鳴っちゃいけない音が鳴った……
 絶対鳴っちゃダメなやつだ……!!
 恐る恐る少女を見上げる。
 案の定、上半身が吹き飛んでいた。
 思わず声が出そうになるが、手で口を覆って抑える。
 ヤバイヤバイやってしまった……!
 確実に捕まるぞ……!
 だが、よく見ると違和感がある。

「あれ……?」
「空太、余が穴を開ける。隠滅するんじゃ」
「違うって!血……出てるか?」
「言われてみれば……確かに出ておらんのう」

 証拠隠滅を謀るメアを静止し、少女を指さした。
 血は一滴も出ていない。
 何だこれ……
 そう思った瞬間、取り残された少女の下半身の断面が盛り上がった。
 真っ黒な何かがそのまま象られていく。
 その何かはどこか見覚えがあった。

「一体何なんだよ……ッ!」
「余に聞くな!混乱しておるのは余も同じじゃ!」

 慌てる2人を他所に、ドロドロとした何かは人の形を模していく。
 そして2人がもう一度見た時には……

「いきなり上半身吹き飛ばしてくるなんて、クレイジーだね、君……」
「「ぎゃぁぁぁぁッ!」」

 無傷の少女が立っていた。
 明らかに人間ではない。
 亜人らしい部分も見当たらない。
 空太とメアの絶叫を少しうるさそうに顔を顰めた少女は、瞬時に2人を鎖で拘束した。
 2人はまだ叫んでいる。

「君達、名前は?何が目的でここに来たの?」
「「ぎゃぁぁぁぁッ!また喋ったぁぁぁッ!」」
「話にならないなぁ、もう……」

 少女は頭を抱えるとその場にゆっくりと座り込んだ。
 鎖の束縛は絶対。
 たとえメアの能力を持ってしても破れない。
 だから抜け出される心配はしていない。
 問題はこいつらが敵か否か。
 まだ分からない内は無闇に殺せない。

「「ふぅ……ふぅ……」」
「落ち着いてきた?で、自己紹介とかしてもらえると早く判断出来て助かるんだけど」
「俺は空太……白河空太。無能力者にも平等な世界を作る為に戦ってる」
「余はメア。目的は復讐じゃ、ある男へのな。で、お主こそ何者じゃ?この鎖、気分が悪いぞ。余の能力が使えんのはこいつの仕業か」
「ご名答。ボクは水季みずき。さっき見たので何となく察しがついたと思うけど、スライムだよ。まあ、キング種っていう特殊なスライムだけどね」

 なるほど、見覚えがあったわけだ。
 あの黒いスライムは洞窟でメアと戦ったスライムと同じだったのだ。
 水季と名乗った少女は拘束していた鎖を解いた。
 何かが迫ってくる気配を感じたからだ。
 それはもちろん鎖を解かれ、能力の束縛も解かれたメアも感じた。

「空太、何が来るぞ」
「異形か?」
「違うね、もっと強い気配……殺意だよ。全くもう……今日は次から次へとお客さんが来るなぁ」

 いつの間にか3人は並んで空を見上げていた。

「後で色々聞かせてもらうからね」
「もちろん。俺達からも質問させてもらうけどな」
「後のことは後で考えろ。奴め、1人じゃないぞ」

 気付けば上空に黒のコンバットスーツを来た男がいた。
 奴の能力なのか、完全に浮遊している。
 男は腰の鞘から刀身の黒い刀を抜き取り、角のついたマスクから鋭い殺意を放った。
 
「俺の名は鬼人。お前達は俺を楽しませてくれるか?」

 空が真っ赤に染った。
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