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14話 鬼 vs 鬼
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腰のベルトを1周するようにいくつもの鞘が吊るされている。
それらは正面に短剣、左右に刀、背面に西洋剣という並びになっている。
見るからに『剣を操作する能力』を持つマニューバーだ。
だが、過信はいけない。
能力者との戦いにおいて最も大切な事は能力の把握だ。
こいつが噂の鬼を名乗る剣士ならば、それくらい弁えているはず。
それ故の情報偽装の可能性も充分ある。
いや、恐らく違う。
この男は自分の実力を信じている。
そんな雰囲気をビシバシと感じる。
3人で勝てるのか……?
鬼人は左腰から刀を抜き、空太に向けた。
「そこのお前。何者だ」
「お前なんかに言う名前は無い!」
「何故奴と同じ匂いが……いや、いい。お前達は排除する」
鬼人は右腰からも刀を抜いた。
二刀流。
確か雷鬼に教えて貰った戦闘スタイルに同じものがあった。
俺には合わなかったけど……
空太はガントレットの感覚を確かめ、構えを取った。
メアも水季も同様に各々の構えを取る。
両者睨み合ったまま動かない。
動けば死ぬ。
そんなプレッシャーが辺りを覆っていた。
更にはいつの間にか周りを異形に囲まれている。
これも鬼人が連れてきたのだろうか。
微動だにしない。
凍った空気が揺らいだ。
初めに動いたのは鬼人だった。
正面の鞘から5本の短剣が飛び出す。
操作された短剣、これを止められる者は1人しかいない。
「水季すまない!」
「仕方ないなぁ!」
地面から現れた5本の鎖が、鬼人の操る短剣を拘束した。
水季の放つ鎖はどういう訳か能力を打ち消すことが出来る。
捕えられた短剣はその場に落下した。
これには鬼人も驚愕で1歩引いた。
今の内に接近する……!
踏み込んだ右足に力を込める。
足をバネと空想し、思い切り地面を蹴り飛ばした。
瞬間移動とも思えるような速度で鬼人の懐に入る。
容赦はしない。
一撃で仕留める……!
「くらえ……ッ!」
「……ッ!」
放った右腕から確かな感覚。
だが、浅い。
確実に再起不能になる威力は出ていた。
受け流した……?
この男、空太の拳が直撃すると感じた瞬間に後ろに飛んだのだ。
威力を最低限に留める技。
空太の技に似た技術。
そして鬼人という名。
「お前……雷鬼の……?」
「なるほど。やはりお前はあの男の弟子か。同じ匂いがするわけだ。くだらないガーディアン共とは格が違うな。楽しくなってきたぞ」
「お前と雷鬼にどんな関係があるか知らないけど、これ以上好きにはさせない。俺達がお前を止める!」
この男は雷鬼の関係者だ。
しかも雷鬼の技術を持っている。
考えられるのは1つ。
この男は空太より以前の雷鬼の弟子。
何故雷鬼程の実力者に認められた人間が異形なんかに手を貸している。
もっと他にその力の使い所があるだろう。
その異形達は何が目的なんだ。
考えていてもキリがない。
今はこの男を倒して情報を聞き出さなければならない。
それも、得意の刀無しで。
未だに五十嵐の言葉の真意を理解出来ていない。
心の刃なんかじゃ敵は倒せない。
面倒くさがって体術の修行を怠らなくてよかった。
こんなに活きる日が来るとは思いもしなかった。
「正義のヒーロー気取りか?言っておくが、お前だけが正義だとは限らないぞ」
「そんなこと分かってる……!それでも少しでも俺の正義を貫く!」
「横暴だ。俺達と何も変わらない。これも俺達の正義なんだ」
鬼人はそう言って右手を鳴らした。
すると鬼人の背後の空間に大きな穴が空いた。
その穴の向こうからさらに大量の異形が押し寄せてくる。
これは流石にまずい。
手分けして制圧しなければ付近が火の海になる数だ。
「メア!塞げるか!?」
「無理じゃ。あれが科学技術の範疇だと思ったのか?余の能力は他の能力には干渉出来んのじゃ」
「聞いてみただけだ!水季、鎖で何とか出来そうか?」
「触れたら壊せるよ。ただ、触れられたらだけど。敵の数が多すぎて鎖が届かないかな」
なら異形の数を減らすか……?
いや、ダメだ。
1体倒している間に3体は出てくる。
こうして思考を巡らせている間にも続々と異形が出てくる。
メアの能力も限界が近いか。
水季が数十本の鎖を操り、異形を屠っているがまだ遅い。
せめて俺が刀を持っていれば……!
ないものねだりをしても仕方が無い。
今出来る最善手を尽くせ!
1体1体だが可能な限り最速で異形を屠っていく。
右手、左手に肉を抉る不快な感覚。
しかし上空にいる異形には届かない。
ふと、鬼人を探した。
そういえばどこに……?
見当たらない、逃げたか。
その瞬間、空太の左太ももに深々と短剣が突き刺さった。
「痛……ッ!」
「空太ッ!おのれ鬼人……ッ!」
視覚外からの攻撃。
確かに鬼人の能力なら可能だ。
いや、これが本来の戦い方か。
しかもこの短剣、ただの短剣じゃない。
身体に力が入らない。
毒か……!
完全に動けなくなる程ではないが、異形の殲滅には確実に支障が出る。
この男、本当に強い。
メアも水季もジリ貧そうだ。
だが不思議だ。
メアは普段より体力の消耗が少ないように感じる。
いや、能力での体力を消費していない?
メア自身もその事に気付いていた。
今のメアなら何とか出来るかもしれない。
空太とメアの目が合う。
「頼んだ」「任せろ」と目だけで意思疎通を行った。
メアの能力が発動する。
腕のライン無しで。
「お主の剣、貰うぞ……!」
「何だその能力は……俺と同じ、いや、もっと大規模な物か……!」
能力の対象は鬼人の腰に並ぶ数十本の剣。
鬼人が握る2本の刀と操作中の5本の短剣は操れなかったが、他は全てメアの管理下に落ちた。
メアは奪った剣を縦横無尽に振り回す。
ありとあらゆる場所から血が吹き出るのが見える。
一気に異形の数を減らした。
その隙を水季は逃さない。
鎖が穴を貫く。
その不思議な力でもって穴はみるみると塞がり始めた。
「これならいける……!」
穴は塞いだ。
鬼人の主力武器も奪った。
メアの能力に制限は無くなったし、拘束術に長けた水季もいる。
空太も毒の効果が弱まってきて、身体は動かせる。
勝てる、勝てるぞ!
こいつを拘束して情報を吐かせる。
2人も勝利を確信していた。
だが唐突に、空太の頭を不安が過ぎった。
何か大切な事を忘れている様な。
何だった……?
そして次の瞬間、水季の首が宙を舞った。
「……?」
「水季……!」
「足掻きおって……!」
鬼人のコンバットスーツに緑色のラインが発光していた。
能力を発動するための武器を失い、空太から受けたダメージも回復しているとは思えない。
それなのにこの速度。
正直目で追えなかった。
何なんだこいつ……!
「まずは1人。お前達は何か勘違いしているかもしれないが、俺の本来のスタイルはこっちだ。能力なんてものは付属品に過ぎない」
「ちっ……!メア、下がってろ!俺がやる!」
メアは何も言わず、首の無い水季を引きずってその場を離れた。
水季がスライムである事を完全に忘れていた為叫んでしまったが、しばらくすれば復活するだろう。
問題はこの男。
数ヶ月修行した程度の空太では到底敵わない実力を持っている。
それに空太には刀が無い。
受け流しでどうにかなる相手じゃない。
「拳だけで俺と張り合うのか。いいだろう。本気を出してやる」
「まだ本気じゃなかったのかよ……!」
「ふん。いくぞ人間……」
鬼人が構えを取った瞬間、圧倒的な殺意が空太達を押し潰した。
全身の鳥肌が立ち、足が震える。
次元が違う……
鬼人の異変は続く。
マスクの額部分から黒く輝く角が生えた。
その姿はまさしく鬼。
雷鬼とはまた違う意味で強力な力。
こんな奴に敵う訳が……
次の瞬間には空太の首に高速で接近した鬼人の刀が触れていた。
回避も防御も間に合わない。
認知すらもギリギリだったのに。
「死ね……!」
ダメだ、死ぬ……
空太は半ば諦めて目を閉じた。
時間がゆっくりと流れていくように感じる。
どれほど待っても空太の首に刀が振られない。
走馬灯ってやつか……?
いや、長すぎる。
すると、バチンっと静電気のようなものを感じた。
この感覚、初めてじゃない。
空太がゆっくりと目を開くと、目の前で大柄な男が鬼人の刀を受けていた。
「雷鬼……!」
「手間かけさせやがって……ッ!」
雷鬼は鍔迫り合いの状態から鬼人の胴を蹴り飛ばした。
雷を纏っている雷鬼の額には鬼人と同じく黒く光る角があった。
どうしてここに?
今の空太にはその一言を言う体力すら残っていなかった。
雷鬼は全て察した様に座り込む空太の頭に手を乗せて撫でる。
あとは任せろ、よくやったな。
雷鬼は小さく呟くと、鬼人の方に身体を向けた。
鬼人はほぼノーダメージらしく、再び構えを取った。
「雷鬼ィ……何故お前がここにいるゥッ!」
「テメェのケツはテメェで拭くんだよバカが。来いよ鬼人、テメェじゃまだオレには勝てねぇってこと教えてやらァ」
「黙れッ!黙れェッ!」
鬼人の姿が消えた。
だが次の瞬間には雷鬼の右側にあった木に身体を衝突させていた。
空太には辛うじて見えていた。
一瞬で雷鬼の懐に入り込んだ鬼人が2本の刀で雷鬼の首を狙ったが、それより速い速度で打ち出された雷鬼の拳が鬼人を吹き飛ばしたのを。
圧倒的としか言えない。
鬼化し、格段に戦闘能力が上がっているはずの鬼人を一撃で……
「俺は……まだまだ……戦えるぞ……!」
「這いつくばって言われてもなァ……認めろよ、オレの勝ちだ」
「黙れェ……俺はァァァッ!!負け……な……アァァァッ!」
鬼人がしゃがみ込んだまま頭を抱えて発狂した。
何かとても嫌な予感がする。
そうだ、水季。
水季の鎖なら封じられるのでは?
もうとっくに再生しているはずだ。
空太はメアの方を見た。
水季は回復している。
空太の身体も回復した。
手を結べば倒せる!
空太が立ち上がろうとした瞬間、雷鬼が片手でそれを制した。
「逃げろ空太。テメェらを巻き込む」
「でも様子がおかしい!いくら雷鬼でもあいつは危険だ!」
「分かってる。だが、今のテメェには仲間がいるんだろ。早く行け」
「分かった……無茶するなよ、雷鬼」
「誰に言ってんだテメェ。なるべく遠くへ行け、この一帯を吹き飛ばすかもしれねぇからな」
空太は雷鬼に背を向け走り出した。
メアと水季にも声を掛けて一心不乱に逃げた。
鬼人がそれを追おうと地面を蹴った瞬間、雷鬼の回し蹴りが鬼人の腹を捉えた。
鬼人の身体が勢いを余らせてくの字に曲がり、吹き飛ぶ。
「行かせねぇよ。テメェの相手してやるつってんだろ?」
「殺す……殺してやるぞ雷鬼ィィィッ!!」
「笑わせんなノロマが。一撃浴びせてからほざきやがれ」
空太達の姿はもう見えない。
これでオレも本気が出せる。
雷鬼は腰から刀を抜いた。
その刀には現代の文字ではない謎の文字が彫られている。
そして刀が5重の魔法陣を生み出した。
「見せられねぇよな、これは。いつか自力で辿り着けよ、空太」
雷鬼が刀を振り下ろした。
宣言通り、その一振りだけで付近一帯が吹き飛んだ。
それらは正面に短剣、左右に刀、背面に西洋剣という並びになっている。
見るからに『剣を操作する能力』を持つマニューバーだ。
だが、過信はいけない。
能力者との戦いにおいて最も大切な事は能力の把握だ。
こいつが噂の鬼を名乗る剣士ならば、それくらい弁えているはず。
それ故の情報偽装の可能性も充分ある。
いや、恐らく違う。
この男は自分の実力を信じている。
そんな雰囲気をビシバシと感じる。
3人で勝てるのか……?
鬼人は左腰から刀を抜き、空太に向けた。
「そこのお前。何者だ」
「お前なんかに言う名前は無い!」
「何故奴と同じ匂いが……いや、いい。お前達は排除する」
鬼人は右腰からも刀を抜いた。
二刀流。
確か雷鬼に教えて貰った戦闘スタイルに同じものがあった。
俺には合わなかったけど……
空太はガントレットの感覚を確かめ、構えを取った。
メアも水季も同様に各々の構えを取る。
両者睨み合ったまま動かない。
動けば死ぬ。
そんなプレッシャーが辺りを覆っていた。
更にはいつの間にか周りを異形に囲まれている。
これも鬼人が連れてきたのだろうか。
微動だにしない。
凍った空気が揺らいだ。
初めに動いたのは鬼人だった。
正面の鞘から5本の短剣が飛び出す。
操作された短剣、これを止められる者は1人しかいない。
「水季すまない!」
「仕方ないなぁ!」
地面から現れた5本の鎖が、鬼人の操る短剣を拘束した。
水季の放つ鎖はどういう訳か能力を打ち消すことが出来る。
捕えられた短剣はその場に落下した。
これには鬼人も驚愕で1歩引いた。
今の内に接近する……!
踏み込んだ右足に力を込める。
足をバネと空想し、思い切り地面を蹴り飛ばした。
瞬間移動とも思えるような速度で鬼人の懐に入る。
容赦はしない。
一撃で仕留める……!
「くらえ……ッ!」
「……ッ!」
放った右腕から確かな感覚。
だが、浅い。
確実に再起不能になる威力は出ていた。
受け流した……?
この男、空太の拳が直撃すると感じた瞬間に後ろに飛んだのだ。
威力を最低限に留める技。
空太の技に似た技術。
そして鬼人という名。
「お前……雷鬼の……?」
「なるほど。やはりお前はあの男の弟子か。同じ匂いがするわけだ。くだらないガーディアン共とは格が違うな。楽しくなってきたぞ」
「お前と雷鬼にどんな関係があるか知らないけど、これ以上好きにはさせない。俺達がお前を止める!」
この男は雷鬼の関係者だ。
しかも雷鬼の技術を持っている。
考えられるのは1つ。
この男は空太より以前の雷鬼の弟子。
何故雷鬼程の実力者に認められた人間が異形なんかに手を貸している。
もっと他にその力の使い所があるだろう。
その異形達は何が目的なんだ。
考えていてもキリがない。
今はこの男を倒して情報を聞き出さなければならない。
それも、得意の刀無しで。
未だに五十嵐の言葉の真意を理解出来ていない。
心の刃なんかじゃ敵は倒せない。
面倒くさがって体術の修行を怠らなくてよかった。
こんなに活きる日が来るとは思いもしなかった。
「正義のヒーロー気取りか?言っておくが、お前だけが正義だとは限らないぞ」
「そんなこと分かってる……!それでも少しでも俺の正義を貫く!」
「横暴だ。俺達と何も変わらない。これも俺達の正義なんだ」
鬼人はそう言って右手を鳴らした。
すると鬼人の背後の空間に大きな穴が空いた。
その穴の向こうからさらに大量の異形が押し寄せてくる。
これは流石にまずい。
手分けして制圧しなければ付近が火の海になる数だ。
「メア!塞げるか!?」
「無理じゃ。あれが科学技術の範疇だと思ったのか?余の能力は他の能力には干渉出来んのじゃ」
「聞いてみただけだ!水季、鎖で何とか出来そうか?」
「触れたら壊せるよ。ただ、触れられたらだけど。敵の数が多すぎて鎖が届かないかな」
なら異形の数を減らすか……?
いや、ダメだ。
1体倒している間に3体は出てくる。
こうして思考を巡らせている間にも続々と異形が出てくる。
メアの能力も限界が近いか。
水季が数十本の鎖を操り、異形を屠っているがまだ遅い。
せめて俺が刀を持っていれば……!
ないものねだりをしても仕方が無い。
今出来る最善手を尽くせ!
1体1体だが可能な限り最速で異形を屠っていく。
右手、左手に肉を抉る不快な感覚。
しかし上空にいる異形には届かない。
ふと、鬼人を探した。
そういえばどこに……?
見当たらない、逃げたか。
その瞬間、空太の左太ももに深々と短剣が突き刺さった。
「痛……ッ!」
「空太ッ!おのれ鬼人……ッ!」
視覚外からの攻撃。
確かに鬼人の能力なら可能だ。
いや、これが本来の戦い方か。
しかもこの短剣、ただの短剣じゃない。
身体に力が入らない。
毒か……!
完全に動けなくなる程ではないが、異形の殲滅には確実に支障が出る。
この男、本当に強い。
メアも水季もジリ貧そうだ。
だが不思議だ。
メアは普段より体力の消耗が少ないように感じる。
いや、能力での体力を消費していない?
メア自身もその事に気付いていた。
今のメアなら何とか出来るかもしれない。
空太とメアの目が合う。
「頼んだ」「任せろ」と目だけで意思疎通を行った。
メアの能力が発動する。
腕のライン無しで。
「お主の剣、貰うぞ……!」
「何だその能力は……俺と同じ、いや、もっと大規模な物か……!」
能力の対象は鬼人の腰に並ぶ数十本の剣。
鬼人が握る2本の刀と操作中の5本の短剣は操れなかったが、他は全てメアの管理下に落ちた。
メアは奪った剣を縦横無尽に振り回す。
ありとあらゆる場所から血が吹き出るのが見える。
一気に異形の数を減らした。
その隙を水季は逃さない。
鎖が穴を貫く。
その不思議な力でもって穴はみるみると塞がり始めた。
「これならいける……!」
穴は塞いだ。
鬼人の主力武器も奪った。
メアの能力に制限は無くなったし、拘束術に長けた水季もいる。
空太も毒の効果が弱まってきて、身体は動かせる。
勝てる、勝てるぞ!
こいつを拘束して情報を吐かせる。
2人も勝利を確信していた。
だが唐突に、空太の頭を不安が過ぎった。
何か大切な事を忘れている様な。
何だった……?
そして次の瞬間、水季の首が宙を舞った。
「……?」
「水季……!」
「足掻きおって……!」
鬼人のコンバットスーツに緑色のラインが発光していた。
能力を発動するための武器を失い、空太から受けたダメージも回復しているとは思えない。
それなのにこの速度。
正直目で追えなかった。
何なんだこいつ……!
「まずは1人。お前達は何か勘違いしているかもしれないが、俺の本来のスタイルはこっちだ。能力なんてものは付属品に過ぎない」
「ちっ……!メア、下がってろ!俺がやる!」
メアは何も言わず、首の無い水季を引きずってその場を離れた。
水季がスライムである事を完全に忘れていた為叫んでしまったが、しばらくすれば復活するだろう。
問題はこの男。
数ヶ月修行した程度の空太では到底敵わない実力を持っている。
それに空太には刀が無い。
受け流しでどうにかなる相手じゃない。
「拳だけで俺と張り合うのか。いいだろう。本気を出してやる」
「まだ本気じゃなかったのかよ……!」
「ふん。いくぞ人間……」
鬼人が構えを取った瞬間、圧倒的な殺意が空太達を押し潰した。
全身の鳥肌が立ち、足が震える。
次元が違う……
鬼人の異変は続く。
マスクの額部分から黒く輝く角が生えた。
その姿はまさしく鬼。
雷鬼とはまた違う意味で強力な力。
こんな奴に敵う訳が……
次の瞬間には空太の首に高速で接近した鬼人の刀が触れていた。
回避も防御も間に合わない。
認知すらもギリギリだったのに。
「死ね……!」
ダメだ、死ぬ……
空太は半ば諦めて目を閉じた。
時間がゆっくりと流れていくように感じる。
どれほど待っても空太の首に刀が振られない。
走馬灯ってやつか……?
いや、長すぎる。
すると、バチンっと静電気のようなものを感じた。
この感覚、初めてじゃない。
空太がゆっくりと目を開くと、目の前で大柄な男が鬼人の刀を受けていた。
「雷鬼……!」
「手間かけさせやがって……ッ!」
雷鬼は鍔迫り合いの状態から鬼人の胴を蹴り飛ばした。
雷を纏っている雷鬼の額には鬼人と同じく黒く光る角があった。
どうしてここに?
今の空太にはその一言を言う体力すら残っていなかった。
雷鬼は全て察した様に座り込む空太の頭に手を乗せて撫でる。
あとは任せろ、よくやったな。
雷鬼は小さく呟くと、鬼人の方に身体を向けた。
鬼人はほぼノーダメージらしく、再び構えを取った。
「雷鬼ィ……何故お前がここにいるゥッ!」
「テメェのケツはテメェで拭くんだよバカが。来いよ鬼人、テメェじゃまだオレには勝てねぇってこと教えてやらァ」
「黙れッ!黙れェッ!」
鬼人の姿が消えた。
だが次の瞬間には雷鬼の右側にあった木に身体を衝突させていた。
空太には辛うじて見えていた。
一瞬で雷鬼の懐に入り込んだ鬼人が2本の刀で雷鬼の首を狙ったが、それより速い速度で打ち出された雷鬼の拳が鬼人を吹き飛ばしたのを。
圧倒的としか言えない。
鬼化し、格段に戦闘能力が上がっているはずの鬼人を一撃で……
「俺は……まだまだ……戦えるぞ……!」
「這いつくばって言われてもなァ……認めろよ、オレの勝ちだ」
「黙れェ……俺はァァァッ!!負け……な……アァァァッ!」
鬼人がしゃがみ込んだまま頭を抱えて発狂した。
何かとても嫌な予感がする。
そうだ、水季。
水季の鎖なら封じられるのでは?
もうとっくに再生しているはずだ。
空太はメアの方を見た。
水季は回復している。
空太の身体も回復した。
手を結べば倒せる!
空太が立ち上がろうとした瞬間、雷鬼が片手でそれを制した。
「逃げろ空太。テメェらを巻き込む」
「でも様子がおかしい!いくら雷鬼でもあいつは危険だ!」
「分かってる。だが、今のテメェには仲間がいるんだろ。早く行け」
「分かった……無茶するなよ、雷鬼」
「誰に言ってんだテメェ。なるべく遠くへ行け、この一帯を吹き飛ばすかもしれねぇからな」
空太は雷鬼に背を向け走り出した。
メアと水季にも声を掛けて一心不乱に逃げた。
鬼人がそれを追おうと地面を蹴った瞬間、雷鬼の回し蹴りが鬼人の腹を捉えた。
鬼人の身体が勢いを余らせてくの字に曲がり、吹き飛ぶ。
「行かせねぇよ。テメェの相手してやるつってんだろ?」
「殺す……殺してやるぞ雷鬼ィィィッ!!」
「笑わせんなノロマが。一撃浴びせてからほざきやがれ」
空太達の姿はもう見えない。
これでオレも本気が出せる。
雷鬼は腰から刀を抜いた。
その刀には現代の文字ではない謎の文字が彫られている。
そして刀が5重の魔法陣を生み出した。
「見せられねぇよな、これは。いつか自力で辿り着けよ、空太」
雷鬼が刀を振り下ろした。
宣言通り、その一振りだけで付近一帯が吹き飛んだ。
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彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
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