記憶の穴

春薇-Harura-

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女の子

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この家に住み始めて1ヶ月が過ぎた。

スティアは優しいし、マークはいつも頼りにしてくれている。
裕福な生活という訳ではないが、不満がある訳でもなく、安定している。

「…そうだアレク、私達少しの間家を留守にするの。と言っても夕方までだけど…その間、留守番を頼んでいいかな?」

「うん、大丈夫だよ…どこか出かけるの?」

「ありがとう、ちょっと遠くまで買い物に行くから…ごめんね?」

申し訳なさそうに眉を下げ手を後ろに回すスティア。
マークから聞くと、これは反省している時の癖らしい。

「僕の事は気にしないで、せっかくだからゆっくりしてきたらどうかな?カフェでお茶とか。」

今日は土曜日、いつも僕の世話で大変な2人には休んでもらいたい一心でそう言った。

「でも、それじゃあアレクが…」

「スティアは心配症だね…この子なりに俺達の事を考えていてくれてるんだ、せっかくだから、言葉に甘えるとしようかな。」

マークはスティアの肩に手を置き、そう言うと僕の方を見て微笑んだ。

不思議とマークは僕の思っていることをさらりと当てる。
たまに超能力者なんじゃないかと疑う程だ。

「分かった…アレク、ありがとうね。」

「いいえ…」

スティアは柔らかい笑みを僕に向け「何を着ていこうかな…♪」なんて呟きながらマークと部屋に入って行った。

2人が居ない、という事に少し不安になったが初めての留守番で何をしようか、と考えて椅子に座る。

考えてもあまり案が浮かばず、しばらく考えていると部屋からマークとスティアが支度を終わらせ出てきた。

「アレク!あの棚の中にクッキーが置いてあるから、好きに食べてね!」

「ありがとう…いってらっしゃい。」

「いってきます。何かあればすぐ携帯に連絡するんだよ?」

「うん、分かった。」

スティアの事を心配症と言うマークだけど、マークもそれなりに心配症だと思う。

カーテンを捲り家の中から2人が車で出るのを見送った後、また椅子に座り何をしようか考え始めた。
考えがない末に思いついたのは…

「…クッキー、食べようかな。」

椅子から離れ棚の中からクッキーの入った箱を取り、4種類あるクッキーを2枚ずつ取り出しお皿に乗せる。
残りのクッキーは棚の中にしまった。

「せっかくだし、紅茶淹れよう…」

僕は慣れた手付きで紅茶を淹れた。
マークの仕事最中によく持って行く、回数を積み重ね慣れた作業だ。

お盆にクッキーを乗せたお皿とティーカップを乗せると外に出て中庭にある机の上にお盆を置いた。

「たまにはこういうのもいいかもしれない…」

外は晴れているけどそこまで日差しは強くない、心地よく風も吹いていて目を瞑れば眠れそうだ。

中庭には花壇があり、何種類もの花が綺麗に咲いている。

「…そよ風吹く中思い出す あの笑顔は太陽のようで…♪」

この間聴いて覚えた歌を小さく口ずさんだ

「僕はそれを見つめることしかできなかった…♪」

『……もうすぐ居なくなる君へ伝えたかったメッセージ…♪』

「…え…?」

僕が唄っている声に続くかのように歌の続きを唄う女の子声が聞こえてきた。

「あ、えっと…いきなりごめんね…」

僕の歌声が止まったのが聞こえたのか、女の子はそう言いながら隣の家とこの家を区切る柵から顔を出した。

「い、いいえ…君は?」

「私はリゼナ・レイーシュ。リゼナって呼んで?」

リゼナ、と名乗るその女の子はとても明るい笑顔で僕に笑いかけた、その笑みは歌に出てくる太陽のような…

「君の名前はっ?なんて言うの?」

そう言いながら柵を声この家の中庭に入ってくるリゼナ。

「ア、アレク…アレク・グラン…」

自分の名前を名乗るよか、マーク達以外の人と話すのは初めてで少し緊張して声が詰まった。

「そっか!じゃあアレクって呼ぶね!」

にこっ、と笑みを向けリゼナは僕に左手を差し出してくる

「…え…?」

その意味が分からず僕は小首を傾げた
その反応にリゼナも僕と同じように小首を傾げる

「どうしたの?よろしくね、の握手は?」

そう言うとまた左手を前に差し出してくる

手を握ればいいのかな…

僕はリゼナと同じように左手を前に出しそっと手を握った

「はい!アレク、よろしくねっ!これからは友達だよ!」

満足したかのように満面の笑みを僕に向けそう言うリゼナは手を上下に軽く揺らした。

"友達"という初めての響きに僕は嬉しくなり

「こちらこそよろしくね、リゼナ」

上下に揺られる手をリゼナに任せ、僕も微笑んだ。

初めて会ったお隣の女の子、初めてした自己紹介と握手、初めてできた友達。

今日は"初めて"の事が多くて嬉しいな…。
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