指先はこいねがう 〜禁忌のケモノ少年は軍人皇子に執愛(とら)われる〜

色数

文字の大きさ
31 / 41
The beauteous man in black and “Farewell”

しおりを挟む


 ラシャードとヒタキに案内されてやってきた宿舎は校舎となる建物の裏手、裏庭にひっそりと隠れるようにして建っていた。

 建物は全部で三棟、渡り廊下でそれぞれが繋がっており、そのうちの一棟がモモセらの目指す場所だった。それは防砂を兼ねた森の脇に佇んでいる。その先は広大な砂漠地帯だ。

 授業が終わる頃合いの今は、学年の低い子どもたちが遊んでいる姿がちらほらと見え、ラシャードらを認めると弾けるような挨拶が送られる。

 そのすべてに挨拶を返してやりながら、木製の両面開きの扉をラシャードが押すと、そこには広い円形のホールとなっている。壁には等間隔に六つのアーチを持っていて、それぞれが別の場所につながっているようだった。

 天窓から差し込む光は点々とむき出しになった白石作りの床に美しい模様を作っている。

「おかえり、先生。ヒタキ」

 ぼうっと床に見惚れていると、優しげな声が耳をくすぐる。「ただいま、老トーヒド」
 ヒタキが顔を向けた先に視線を移すと、壁を半月状にくり抜いた穴の向こうから初老の男が顔を出していた。どうやらその先は小部屋に続いているらしい。穴の隣にある六つのアーチのうちのひとつが、その小部屋につながっているらしい。「ヒタキ、今日は早いねえ。どうかしたのかい。──おや、この子は?」

 老翁はヒタキに続いてきた見知らぬ顔に目を向けた。ラシャードは半身振り返り、紹介を口にする。
「今日から入寮する、モモセです。モモセ、彼はここの管理人のトーヒドだ。ここで住み込みで働いている、実質主人だな」「永いだけさねえ」

 トーヒドは首を振ったが、ラシャードもまた彼の謙遜を否定した。「私だけでは到底すべてを賄いきれませんよ。特に寮の中でのことは貴方に任せてしまっているんだから。──挨拶を」

 モモセはトーヒドの前に歩み出て、礼を取った。軽く腰を屈め、両手を額の前で合わせる。

「モモセです。お世話になります」

「丁寧にありがとう。わたしはトーヒドだ。ようこそ、羽ばたきの庭へ」
「羽ばたきの庭?」
「この寮の名前さ。素敵だろう?」
「はい」

 モモセがはにかむと老トーヒドもまた初々しいものを見る様子で微笑んだ。

「……それにしても、先生がこうして連れてくるなんて初めてじゃないかい」

「直接頼まれたものでね。隠してもいずれ分かるだろうから、あらかじめ言っておくと、ウルドからなんだ」

「ああ、黄金のアッサーヴ殿下」

 納得したようにトーヒドは頷いた。

 この国には母親の異なる三人の皇子がいる。そのうち漆黒のアッサッーラアサード、と冠がつく長男に続き、次男が黄金のアッサーヴ、──ウルドである。

「うん、そっち。ご指名を受けてしまったから、誰かに任せるわけにはいかないんですよ。

 とはいえ、寮内の案内はヒタキに任せようと思いますが」

 ぱあと顔を華やげて、ヒタキは喜んだ。根っから世話焼きのこの獣の仔は、自分に役目が回ってくるのを今かいまかと尻尾を振って待っていたのだ。
「お任せください。そのつもりです」

「うん、――では老トーヒド、また。この子の名前を名簿登録しておいてください」

「うん、うん、承知したよ。じゃあモモセ、困ったことがあればいつでもおいで。一の棟、二の棟にいることもあるけれど、わたしの部屋はここだから」

 どうやら管理人室がそのままトーヒドの私室になっているようだった。親切に感謝を伝え、モモセは促すラシャードにヒタキとともに着いていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

処理中です...