傍へで果報はまどろんで ―真白の忌み仔とやさしい夜の住人たち―

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遅すぎた日々が巡って

訪問は押し入れから

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        三          


 その来訪者は、なぜだか押入れの上段から現れた。驚きで言葉も出ない仔どもに向かって、顔だけ出して彼は口元を緩めた。

「こんばんは」

 あいらしい顔立ちの少年だった。年のころは仔どもより、ひとつふたつ上くらいだろうか。高い位置で髪をひとつにくくっていて、飛び降りたときにさらりと揺れる。腰に佩いた刀が、かしゃんと鳴いた。

『空の坊か』

 見えないくせに常人みたいにちらりと一瞥いちべつをやってのさつ誰何すいかに、彼ははい、と頷いてねめつける。

「久方|《ひさかた》ぶりです。まったく、あなたはいつも人間払いの風鈴をかけているからこんなところからしか出てこられない。主人あるじのお伴ができないのは困ります。お嬢さんも固まっているじゃないですか」

『知らぬ』
「第一印象が変人になったらどうしてくれるんです」
『お前の主人あるじも十分変人だからいいだろう。   で、頼んでいたものは』 

 あなたもかなりの変わりものですよ、そう言いながら彼はぐるりと視線を巡らせる。その視界に写るのは所狭しと天井から吊るされた風鈴だ。小ぢんまりとしたいおりは天井が低く、長身の刹貴が立ち上がればちょうど短冊に頭の先が触れてしまう。

「何が楽しくて自分の能力を制限するようなものを造るんだか。居るだけでちからを吸い取られ、触れれば言わずもがな」

 その呟きに刹貴は反応を見せず、少年は半眼になりつつ話題を戻す。

「まあ、ご注文のお品なら持ってきましたよ。女児の着物が要ったんですよね。丈は多分、大丈夫だと思います。簡単な調節なら出来ますし」

 彼は手に提げていた風呂敷包みから鮮やかな着物を何着も取り出した。

「珍しい刹貴殿のお頼みでしたから、主人も面白がって。一緒にどれにするかと延々選んでいたんです。かわいらしいかたでよかった」

 仔どもよりもよほど愛くるしい笑顔で笑いかけられ、仔どもは困って視線を泳がす。そんな明け透けな賛辞を受けたことは今まで一度だってなかった。いつだってののしられてさげすまれるだけだったのに、こんな好意的な眼差しを。

『一応、呉服屋をやっている才津殿のところの小坊主だ』

 どうしていいか分からずに戸惑っているところに、一応、に強勢をおいて刹貴が取り持つように言った。一応の意味を考えるより先に、届いた名前に反応する。

 才津さいつ

 その名には聞き覚えがあった。千穿ちせんというバケモノを退けるときに刹貴が使った名前。千穿の態度からするに、おそらく人間ではない。

 そこの小坊主だ、と言われる少年はその紹介をうけて、床に片膝をつき、座り込んだままの仔どもと目線を同じくしようとする。

 仔どももおずおずと彼をうかがう。

 刹貴の言った一言が、脳裏に深く焼きついている。自分の態度で、傷つけるようなまねはしたくなかった。

 どうしよう、と思っているあいだにぽろりと唇から疑問が落ちた。

「君も、バケモノ」

 彼は虚を突かれたように少しだけ目を見開き、それから目を細めてゆるく苦笑した。

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