16 / 74
遅すぎた日々が巡って
振り子よどうして止まないの
しおりを挟むそれはどこか、寂しい笑顔だ、と仔どもは思った。
「いいえ、いいえ。俺はしがない人間ですよ。あなたと何も、かわらない」「違うの」
「ええ」「嫌じゃないの」
「何がです」
矢継ぎ早に質問を浴びせながら、仔どもはだんだんと泣きたいような気持ちになった。
「この、髪が、」
目、が。
垂れ下がる髪を握りしめ、顔を伏せる。
「髪、それに、瞳」
少年は仔どもの持つ色彩を見つめ、屈託なく微笑む。
「とてもきれいだ。
さあ、顔をあげて。おれにもっとよく見せてくださいませんか」
人間だ、とそう彼は言った。それなのに、仔どもを忌むことなく受け入れてくれるのだ。
ずっとずっと、排除されることしか知らなかった仔どもを。
かけらの躊躇いすらなく。
「おれは人間ですが、産まれたときからあやかしもの、
あなたのいうところのバケモノ連中に囲まれて育ちましたから。外見云々で差別したりはしません。そんなことしたら仲間なんてひとりもいなくなってしまいますよ」
仔どもはゆっくりと、わななく呼吸を飲みこんだ。
視界が滲んでいくのが分かった。弾かれる対象にしかならなかったものを、それは違うのだと。刹貴が言ったことと同じことを、当たり前のように彼も言うのだ。
「辛い、思いをあなたの持つ色は運んできたんでしょうね。でももう、傷つくことはないですよ。刹貴殿も、そうはおっしゃいませんでしたか」
空は仔どもの涙を袖ですくって、蒼く揺らめくその色を見とめてほおを緩める。
裏切らない。 信じろ。
確かに、刹貴はそう言った。けれどそれを鵜呑みにして、それでも自分は平気なのかと仔どもはそれが恐ろしい。
最後に信じるものを己にしろ。
決して裏切らない。
その言葉は仔どもの願望を引きずり出し、掴んで放さない。
いいのだろうか、このまま溺れて。告げられたときに感じた二度と手放せないだろうと予感した未来を、このまま受け入れていいのだろうか。
おろかなことを。いいはずがない、しっかりしろ。堪えると決めたばかりじゃないか。
だのに、ゆらゆらと少年の言葉もまた仔どもを揺らす。
みにくい仔どもはそう生まれついてしまったから、行燈のあたたかさに惹かれる蟲のように、焼けつくと分かっていてもそちらに傾かずにはいられない。
「今まで傷ついたぶん、癒すためにここへ来たんです、あなたは。刹貴殿は、あなたをとても大切したいと思っていますよ」
いらない仔どもだったはずなのに。乱暴に扱われ、あげく捨てられて、誰からも見返られずにそのままだったはずなのに。そんな仔どもを刹貴は、大切にしてくれるというのか。
胸が、熱い。痛いほどに。嗚咽が喉の奥から漏れる。苦しくて、仔どもは身体を抱えて丸まった。
甘言だ、惑わされるな。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~
扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。
(雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。
そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス
※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~
秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。
五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。
都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。
見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――!
久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――?
謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。
※カクヨムにも先行で投稿しています
人間嫌いの狐王に、契約妻として嫁いだら溺愛が止まりません
由香
ファンタジー
人間嫌いで知られる狐族の王・玄耀に、“契約上の妻”として嫁いだ少女・紗夜。
「感情は不要。契約が終われば離縁だ」
そう告げられたはずなのに、共に暮らすうち、冷酷な王は彼女だけに甘さを隠さなくなっていく。
やがて結ばれる“番”の契約、そして王妃宣言――。
契約結婚から始まる、人外王の溺愛が止まらない和風あやかし恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる