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それは永遠の秘めごと
その人のことを仔どもは知らない
しおりを挟む二
何の説明も与えられずに連れ出された刹貴は、ただ黙って才津の気配を追う。射すような日の光が暑くてしょうがない。人間の町だからだ。笠を深くかぶりなおし、刹貴はため息をついた。思念の多いところは、嫌いだ。しっかりと風鈴を握っていないと気持ちが悪くて吐きそうになる。かつて自分が望んで得た能力だとはいえ、こういうところでは無駄だと言わざるをえない。
『才津殿、そろそろどこに行くのか教えてくれても良さそうなものだが』
恨みがましく声を上げれば、む、と唸った才津の足音が止まるのを聞いた。
『ひょっとはて』『はあ』
ちょっと待て、と言ったのだろうと予想して、また吐きそうになる溜息を押し込める。才津が示したちょっと、を待っているあいだに、彼はひたすら何かを食べているらしい。
勝手に答えを探ることはできるが、漏れ聞こえているわけでもないものを、わざわざ好んで覚る必要はない。
『それはいつ、買ったんだ』
『買ったんじゃない、もらったんだ。向こうの団子屋の姉ちゃんにな。お前も食うか』『遠慮する』
才津のどこまでも自由人なふるまいに、刹貴は自分のこめかみが疼くのを感じた。己はいま、果てしなく時間を無駄にしているのではないか、そんな思いが頭をもたげる。喉元で主張し始めた溜息を、今度はあえて抑えなかった。
『己は、あれのところへ帰りたいのだが』
『だから、行くんだろう』
才津の言った意味をとらえ損ねて、刹貴はない眼を眇めた。
『なに、』
漏れた声音は平時よりなお低い。
『そう怖い声をだすな』
笑い混じりに飄々と、煙に巻くように才津は言った。
流石、高位の妖狐を父に持つ半妖であるだけはある。自身の位もいかばかりだったか。刹貴は努めて冷静に先を促した。
『あの娘、肉体との連結をぶった切って来ただろう。ならば本体はどこかにあるはずだ。お前が探してくれ言ったのだろう』
よもや忘れていたのかと呆れた口ぶりの才津に、躊躇ったあげく刹貴は頷いた。
失念、していたのだ。本当に。衣服の世話を願ったときに、共に頼んでおいたのだった。
傷が癒えたら風鈴を返そう、どこへなりとも行けばいいと。
そう確かに、刹貴は子どもと約束していたのだった。
もう傷は癒えかけて、片付けなければならない問題も残っていたが、今に子どもに風鈴を返してやれる。子どもの受けていた愛情を知らせてやれる。けれどそれを、刹貴は別離と結んではおらず、幾ばくか、刹貴はそれを淋しいと思った。
『で、だ』
語気を強めて才津が刹貴の意識を自分に向けさせた。
『あの娘が持つ風鈴、求めたのは娘の母だっただろう。覚えているか。お前を紹介したのは俺だしな。帳簿やら探って、魅櫨に調べさせたら、出てきた』
魅櫨というのは才津が抱える妖モノのうちの一匹だ。
その魅櫨が寄越した報せを、才津は懐から取り出した。
『あの娘、それなりにいいところの出らしいな。武家のご息女だとさ』
ひらりと半紙を振りながら、才津は面白くない口調で毒を吐く。
『まあ、あの娘の扱われ方を見るに、程度は知れたものだがな。
刹貴、こちらだ。すぐに着くぞ』
刹貴は才津に先導され、細い路に入った。しばらく行くと才津は立ち止まる。そこには既に何者かの気配が佇んでいた。才津はそれに近づいていく。
なじみのない雰囲気の持ち主は、彼らより先に口を開いた。静かな、憂くような色の声だった。
「才津殿と、お見受けいたします」
『ああ、俺が才津だ。後ろのは刹貴という。そちらの姫を預かっている。いきなり約束を取り付けてすまなかった』
女はゆっくりと首を振った。
「いいえ、我が姪に関わることならば、何の苦労も惜しみますまい」
才津が家人を使って捜し出したのは、仔どもの世話をしている女だった。仔どもの母の妹にあたり、仔どもにとっては叔母であった。嫁ぎ先で夫を亡くし、子もなかったため出戻ってきた。仔どもの父は入り婿であった。
「どうぞ」
女は裏の木戸を開け、促すように先を示した。
『家主の許可を取らずともよかったのか。勝手に邪魔をしても』
才津の質問にくすりと女は笑い声を立てた。酷薄で、さびしげな笑いかただった。重い声音で彼女は繰り返す。
「許可。
必要ありませんわ、わたくし誰にも知らせるつもりはないのです」
母屋から離れたところに建っている古びた蔵に女は足を進める。閂をあげ軋む扉を引き、入口を譲り、顔を伏せた彼女はか細い声で告げた。
「我が姪はこの中に」
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