傍へで果報はまどろんで ―真白の忌み仔とやさしい夜の住人たち―

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さあ、目を覚まして

閉ざしたのは、

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「だっ、だからと言って無用心が許されるわけではっ」『騒がしいな』

 鈴の音とともに、蔵の中がますます影をはらんだ。丁度、魅櫨と同じほどの背丈の男が扉を塞ぐ形で立っている彼の隣に並び立ったところだった。

 今まで聞かれなかった声の持ち主は、盲目のサトリ、刹貴である。そのサトリに抱きかかえられているのは彼の拾った人間の子どもだ。

 『刹貴ー、それ以上進むとちょっと危ないぜっと』
 
 足場のないところに行こうとする刹貴の進行を錫丈で阻み、魅櫨が言う。

『すまんな』

 自身に呆れたような色を含む声で、刹貴は言った。
 刹貴は階梯かいだんに足を掛け、仔どもを後ろから抱え込んで座る。

『おお、ちゃんと娘も来ているな』

 才津がそう言って手を叩いたのに、仔どもの叔母が素早く反応した。

「小姫がいるのですか、ここに」
『来ているぞ、見えんだろうがな』
「っ、ああ、」

 吐息ともつかぬ声を漏らし、鳴らし続けた風鈴を胸に抱き、女は淡く破顔した。才津が教える方向に、仔どものいるところに目をあてた。

「ちゃんと、無事でおるのですね」

 その視線を受けて。見えないけれど。語りかけられているみたいだと仔どもは思った。戸惑いながら、頷いた。伝わらないなりに。安堵に満ちた表情で笑う彼女は、優しくて、どうしてだか分からなくなる。彼女の笑顔なんて、見たことなどなかった。

「よかった」

 やわらかすぎる、その言葉。

「どうして、」

 女を見つめたまま、仔どもはふっと刹貴に訊ねた。

「どうしてあの人は笑ってるの」
『嬉しいからだろう、お前が無事で、ここにいると分かって嬉しいからだ』
「でも。あたしがちゃんとここにいるとき、笑ってくれたり、しなかったよ」

 それどころか、仔どもをまっすぐ見てくれることすらなかったのに。
『そのときは、人間。お前は別にだったわけではないだろう』

 刹貴の微妙な言い回しに仔どもは気づく。
「今、は、あたしが、無事だか、ら」

 誰に向けるともなしに訊ね、自分の中に答えを見出して、仔どもは動揺を抑えきれないまま身体を反転させ刹貴を見上げた。

「違う、よね。ちがうよね」
『なにが』

「あの人、あたしを、」

 湧き上がってきた意見を否定して、さらにそれに否定を重ね、仔どもはごくりと唾を飲み込んだ。

「あの人、なの」
『是』

 頼りなく訊ねると、明確な肯定がもたらされる。刹貴のその言葉はどんな角度から聞いてみたって紛れもなく、同意以外の何ものでもありえなかった。

 仔どもは顔をゆがめ、階梯の下を顧みる。

 風鈴の音が聞こえてきていた。刹貴のものと似通った音。設えられた布団の前に座って、女は風鈴を鳴らしていた。眠っているのは、仔ども自身。大嫌いな白髪はくはつが視界に入る。顔はよく見えない。だが閉じられた瞼の内側には蒼い硝子球がふたつ、おさまっているはずだ。彼女は仔どもが疎まれている理由のすべてを、ちゃんと見ているのに。

 動かない仔どもを見つめる彼女の横顔は微笑んでいた。
 切なげで、でも確かにそれは喜びも含んだ笑みで。

 ぞっと、した。

「、違う、ちがうっ」

 胸の潰れる思いで、仔どもはすべてを叩き切った。
 唯一まだ消えない傷が、じくりと疼く。
 刹貴の腕を振り払い、よろめきながら仔どもは古びた階段の板の上に立ち上がった。

「あのひとはっ、あのひとがっ。
             あたしをここに閉じ込めたっ」



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