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しおりを挟む「確かに俺はカナトがまともに女と話してるとこは見たことねーよ。でもやっぱ距離感おかしいだろ?バカな俺にだって、分かるくらい近ぇんだよ」
「何言ってんの?私とカナトさんはほぼ毎日一緒にいるんだよ?馴れ合いも出るでしょーが」
「大体お前も慣れすぎなんだよ!一七歳らしく照れてみろ!」
「知らんわ!」
ハルキと言い合っている最中に席を立っていたらしいカナトが戻ってきて、ハルキの前に日本酒の瓶を置いた。
「この間、叔父が来て置いてったんだ。一緒に呑んでよ」
「これ高いやつじゃねーかよ!」
目を光らせながらコップを受け取り、注がれると嬉しそうに口に運んだ。
「あー、高いだけあるな!美味い!」
「そりゃ良かった。ハイ、こっちはアラタちゃんにね」
リボンの付いた小さな袋を手の上に置かれた。
「誕生日過ぎちゃったけど⋯今日届いたからさ」
お礼を言って、袋を開けると涙型のチャームが付いたネックレスが入っていた。
「今付けてるピアスに似てるな」
たまたま今日は去年の誕生日にカナトから貰った涙型のチャームがぶら下がっているピアスを付けてきていた。
「そのピアスのシリーズでネックレスが出てたから⋯良いかなって」
「今、雑貨屋さんに売ってるようなアクセサリーじゃないってハッキリ分かりました」
「アラタ、金額は聞くなよ。それも返すなよ。プレゼントを突き返されるのはキツいからな」
今ハルキに言われなければ、金額を聞いてしまうとこだった⋯
良い物だと分かってしまって受け取りづらくなったが、カナトの好意を無下にも出来ないと首に手を回してネックレスを付けた。
「ありがとうございます」
「うん。似合ってるよ」
「俺がやったのも着てこいよ」
「絶対に嫌だ!」
ハルキと睨み合ってるとカナトがクスクス笑い出す。
「ハルキは可愛い服着たアラタちゃんが見たいんだよ」
「え、キモっ」 「ちげーよ!」
同時に言葉を出して、更にカナトが笑いながら話す。
「こんな態度だけどハルキは十分シスコンなんだよ。歳の離れた妹達が可愛くて仕方がないんだから」
ハルキはシスコンなんだろうなとは常々思っていた。
アカネなんか「うちはシスコンとブラコンで構成された仲良し兄妹だ」と友達に言っているくらいだ。
やめろー!――と叫ぶハルキを見て、爆笑するカナトを見ているとたまには素直に可愛がられてやるか――と思えてきて、ワンピースを手に取り立ち上がった。
「カナトさん⋯脱衣所、借りします」
「いいよ。良かったね、ハルキ」
だから違うっつーの!――という声を聞きながら戸を閉めて、着替える。
着替え終わった姿が洗面台の鏡に映り、今すぐ脱いでしまいたい気持ちに駆られた⋯
平均よりある胸以外は普通だからこそ⋯体型がボテッと太って見えてしまうのだ。
この姿をハルキだけならまだしもカナトに見せるには⋯⋯まだまだ馴れ合いが足りない。
どうしようか悩んでいるとリビングからハルキが叫んできた。
「まだかー?待ってる間に酒が無くなるぞー」
一升瓶がそう簡単に無くなるわけないだろ――と軽く苛つきながら、仕方ないと諦めて脱衣所の戸を開けた。
二人の側まで近付くとハルキがスマホを構えた。
「ちょっと!撮らないでよ!?」
「折角だから選んでくれた同僚と母さん達に送るんだよ」
ふざけるな!――と文句を言っている視界の隅にボーっとこっちを見つめているカナトが映った。
放心状態ともいえるような感じで見てくるので文句が溢れ続けている口が自然と閉じていく。
「カナトさん?」
声をかけると我に返ったように瞳が開き、改めて私と目が合う。
「何でもないよ。似合ってるじゃん」
「変ではないけどお前のコンプレックスは丸出しだな」
知っているくせに何故!?――とまた苛ついてくる。
「何だっけ⋯女性らしい体型が嫌いなんだっけ?」
どうしてハルキは何でもカナトに話してしまうんだろうか⋯
目眩と頭痛を感じて頭を抱えた。
「そうそう、普通体型に乳だけ出てるから太って見えるって、痛っ!」
我慢出来なくてハルキの頭に一発入れてしまった。
まぁ、ハルキの自業自得だろう⋯拳じゃなかっただけ有り難いと思ってほしいところだ。
「ハァー、もう脱いでくるよ⋯」
「アラタちゃん」
踵を返したところで呼び止められて振り返るとお酒のせいか頬を桜色に染めたカナトが笑いかけてきた。
「太って見えてると思ってるなら勘違いだからね。凄い似合ってるし、可愛いよ」
カナトの言葉に思わず二人は目を見開き、口が開いてしまった。
「分かった⋯心開いた相手にはそんな距離感なんだな。男相手でも俺以外には素っ気なかったしな」
「カナトさん、ビックリするんで勘弁して下さい⋯」
クスクスと嬉しそうに笑うカナトを見て、一緒に笑い出すハルキ。
楽しそうだし⋯ま、いっか。――と着替えて家事を再開しながら楽しそうに酒を煽る二人を眺めていた。
そして結局、私が帰ろうとする頃には二人仲良く酔い潰れてしまい、ハルキは置いて帰ることにした。
家に帰ってから一応母に報告の電話をするとアポ無しで帰ってきたことではなく、ハルキから送られてきたワンピース姿の私の話しを必死にされた。
油断した⋯撮られてた⋯――と落ち込んでも電話の向こうにいる母とアカネは止まらない。
「今度服買いに行こう」「着てほしい服がある」「いっそクローゼットの中、全部買い直そう」等、とんでもない事ばかり言うので「要らない」と一言伝えて電話を強制終了した。
次の日はバイトではないが早めに家を出て、二日酔いかもしれない二人の様子を見に行く。
「あ゙ー⋯アラタ⋯」
青い顔したハルキに溜め息を溢し、まだ二階の自室で寝ているというカナトの様子を見に行った。
ノックをするが返事はない。
開けますよ――と声をかけてから戸を開けると薄暗い部屋の中、布団がもぞもぞと動いている。
部屋の中央にあるベットに近付き、覗き込むと起きそうで起きないカナトが枕に顔を擦り付けていた。
「体調はどうですか?」
こちらを見たカナトが布団から腕を伸ばしてきて、私の頬を擦った。
「⋯⋯しじみ⋯あったっけ?」
「ありますよ。今、作りますから頑張って起きてきて下さい」
擦られた頬に熱が籠っているような気がして少し鼓動が速まったが、リビングのソファーで唸るハルキを見て、一気に冷静になった。
しじみの味噌汁を作り、二人に朝食を食べさせるとハルキを引きずって家に連れ帰り、何とか支度をさせて一緒に祖母の家へ行くことができた。
どうしてうちの兄はこんなに手が掛かるのだろうか――と悩んだが、同時にいつも通りの日常に安心感も感じたのだった。
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