結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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14−1 吹雪の日に

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「明日、夜から吹雪くって!気を付けて早めに帰ってきなさいよ!」

 寝ようと部屋に向かう私の背中に向かって母が叫ぶ。

「ハーイ」

 軽く返事をして階段を駆け上がっていった。
 吹雪なんて毎年何度も経験している。
 この地方じゃ珍しいことでもないのに心配しすぎだと考えなから私は眠りについた。

 次の日、そんな軽く考えていた自分を殴りたくなるとは思いもせずに⋯





「ちょっと⋯アラタちゃん、外ヤバいんじゃない?」

 カナトに言われて、リビングの窓から外を見ると⋯

 外が見えない⋯

 真っ白な上によくよく気にしたら強い風の音が響いている。
 ヤバい――と思っているとタイミング良く母から電話がかかってきた。

『アラタ!まだ外出てない?』

「うん。ごめん、全然外見てなかった」

『もう視界ゼロだし、車が埋まるほど積もってるから出られないよ!?』

 やらかした⋯
 まかさかこのレベルの吹雪だとは思わなかった。

「いや、今急いで帰るよ」

 いくら近いからって車道も無くなった状態を――と電話の向こうで叫んでいる母の声を聞いているとスッとスマホが取られた。

「もしもし、カナトです。外の状況を確認してなかった俺の責任です。申し訳ありません。⋯⋯ハイ⋯そうなんですか?⋯⋯ハイ⋯ハイ、大丈夫です。⋯分かりました。責任を持ってお預かりします」

 今⋯お預かりしますとか聞こえたけど気の所為?
 スマホを返されて「もしもし」と母に声をかける。
 何でも今回の吹雪は長くなりそうで除雪が入るのが明日の夜になる可能性が高いらしい。
 それまでは不要な外出を避けるようにと役所から連絡が回ってきているという。

『その間、カナト君に迷惑かけないようにしなさいよ?まぁ、アラタなら大丈夫だろうけど』

 強制的に缶詰ということか⋯
 しかし、年頃の自分の娘が自分の息子と同じ歳の男性の家に二泊しなきゃいけないというのに随分軽いな――と思いながら電話を切るとすぐに父からLINEが入った。

【少しは女の子らしい感性を体験してこい】

 これが親の言うことだろうか⋯
 溜め息と共に肩を落とすと背後からスマホを覗いていたカナトがアハハと笑う。

「ほんとお父さんとお母さん好き。ハハッ」

「すみませんがお世話になります⋯」

 嬉しそうに目を細めたカナトが私の頭を撫でる。
 黙って撫でられていると次はカナトのスマホが鳴った。

「もしもし?⋯そう、あとでこっちから連絡しようと思ってたんだけど⋯⋯いや⋯勘弁してよ⋯」

 電話しながら顔を赤くするカナト。
 そんな顔をするカナトを初めて見た私は悪戯心から顔を覗き込んだ。

「っ!?」

 驚いて体をビクつかせたカナトが更に顔を赤くして手で口を覆った。
 面白くてクスクス笑っているとスマホから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「⋯⋯兄ちゃん?」

 黙ったままのカナトが耳からスマホを離し、スピーカーをオンにする。

『聞こえてんのか?カナト~』

「兄ちゃん、仕事は?」

『あ?お前か。今日は早く終わったんだよ。カナトどうした?』

 スマホを持ったまま、今だ口を手で覆って動かないカナトを見つめる。

「何か⋯機能停止中?」

『お前何やったんだよ⋯』

「兄ちゃんが何か言ったんじゃないの?てか、どうしたの?」

 アカネがハルキに私の泊まりのことを連絡してきたという。
 そこで救いの手を差し伸べる為に連絡した――と得意気に話しているが⋯

「救いって何?」

『急に泊まりになったんだからお前手ぶらなんだろ?』

 当たり前だ。スマホと財布くらいしか持っていない。
 だから何だというのか⋯

『早いけどお前らへのクリスマスプレゼント、カナトの家に送っといたんだ』

 精々俺に感謝しろよ――と言い残して勝手に通話が切られた。
 そしてやっと動いたカナトが二階から未開封の段ボールを持ってきて、目の前に置く。
 何が入っているのか⋯
 二人で段ボールの中を覗くと様々な大きさの緑の袋が四つ。
 それぞれの袋にはマジックペンでしっかり名前が記されていた。

「めっちゃ雑⋯」

「ハルキらしいね」

 自分の名前が書かれた袋を手に取っていく。
 カナトの名前が書かれた一番大きな袋にはフワフワの大きなブランケット。
 小さな袋にはDVDが入っていた。

「これ気になってたやつだ」

「映画鑑賞セットって感じのプレゼントですね」

 私の袋には新しいヘアアイロンが入っていた。

「た⋯助かった⋯」

「そんなに必要なの?」

「私、癖っ毛なんです」

 ハルキを心で大絶賛しながら最後の袋を開ける⋯中身を見た私は一瞬にしてハルキを軽蔑した。

「どうしたの?目が据わってるよ?」

 中身を出すことは出来ない。
 入っていたのは下着の上下セットだったのだ。
 しかも系統の違うデザインを三つ⋯
 袋の底にあったお得意のメッセージカードには” 服を買い直したんなら下着も買い直せ ”と書かれていた。

「アラタちゃん?落ち着いてね?」

 一緒にカードを読んだカナトが怒りに震える私の背中を擦って宥めようとしてくれている。

「丁度良かったんじゃないかな?俺じゃ下着は貸せないし⋯ね?」

 必死なカナトに申し訳なくなって、とりあえず今あって助かる物だからと息を吐いて怒りを鎮めた。



 とりあえず夕飯を用意しようとキッチンに立つ。

「アラタちゃんもいるし、鍋にしない?」

 気付けばまた背中にへばりついているカナトが楽しそうにリクエストしてくる。
 材料を出して一緒に調理をし、完成した鍋と器などをテーブルに運び、二人で鍋をつついた。

 美味しそうに頬張るカナトが私の口から出るハルキの文句にニコニコしながら相槌を打つ。

「なんで実の兄から下着を贈られなきゃいけないのさー」

「家族でもない男性に贈られるよりはいいんじゃない?」

 そう言われればそうだ⋯ぐうの音も出ない⋯

「じゃあ俺が買ってあげようか?」

 至極真っ当なことを言ったあとでこの人は何を言っているのだろうか。
 不意を突かれたせいで思いっきりむせてしまった。

「ゲホッ、ゲホッ」

「ゴメン、ゴメン。大丈夫?勿論冗談だよ?」

 そんなことは分かっているが普通に驚いた。
 立ち上がったカナトが隣にやって来て、ティッシュで汚れた私の口周りを拭く。

「自分で拭きますよ」

「いいから、いいから」

 何やら今日はずっとご機嫌だ。
 いつも以上に纏っている空気が穏やかで表情が緩い気がする。
 急に泊まることになって迷惑をかけていると思ったがそうでは無さそうだと分かって心から安堵した。

 シメの雑炊は朝食に食べたいとリクエストされて、後片付けをする。
 洗い物を終えると先にお風呂を使うように声をかけられたので先にカナトが入るように言葉を返すが⋯

「だって最後に入ったら絶対に掃除してから上がってくるでしょ?だからアラタちゃんが先ね」

 その通りだから反論も出来ず、下着の入った袋を持つとカナトがパジャマやTシャツを持ってきた。

「やっぱデカいよね⋯」

 大きくても捲くれば問題ないがズボンがどうしてもずり落ちてしまう。
 細身のカナトだが何だかんだ男性の骨格なんだな――としみじみ感じた。

「じゃあこれ借りてもいいですか?」

 出された中で一番大きそうなパジャマのシャツを指差した。
 パッと見た感じは膝くらいまで隠れそうだ。
 カナトも同じ事を思ったのか、納得したような顔で貸してくれた。
 先に入ったはいいがさすがにゆっくりと湯に浸かる気にはなれない⋯
 最低限温まったくらいで早々に上がってしまい、袋の中で比較的シンプルなデザインの下着を身に付けた。
 借りたパジャマを着ると思ったよりは短かったが⋯まぁ許容範囲だろう。
 頭を拭きながら脱衣所の戸を開くとソファーに座って本を読むカナトにテーブルにあるスキンケアを使うように言われる。

「俺ので悪いけど⋯無いよりはいいで、しょ⋯⋯」

 本を閉じて、こちらに視線を向けたカナトが言葉を詰まらせて固まった。

「ありがとうございます。遠慮なく借りますね。⋯⋯カナトさん?」

「あ、⋯俺も風呂入ってくるね」

 足早にその場を去って、脱衣所の戸を閉めるカナト。

 私はカナトがお風呂に入っている間、TVを見ながらスキンケアで肌を整えた。
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