結局恋しちゃうんです

畑 秋香

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15−1 深夜のキス

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 イチカとの電話を終え、昼食を用意してカナトと済ませる。
 洗い物をしていると背中にくっついてきたカナトが楽しそうな提案をしてきた。

「あと三時間くらいで仕事終わりそうなんだけどさ、寝るまで映画鑑賞しない?」

 摘めるような簡単な夕飯を紙皿で用意して、お風呂もさっさと済ませる。
 そして食べながら眠くなるまで映画を観ようということらしい。

「何か楽しそう!」

「でしょ?」

 急いで仕事終わらせてくる――と言いながら二階に行ったカナト。
 私は仕事が終わるまで二階の本が沢山置いてある部屋で読書に耽っていた。



「やっぱここにいた」

 部屋にカナトが入ってきて、仕事が終わったことを瞬時に理解する。

「じゃあ作りますか!」

 手を掴まれた状態でキッチンにいき、今日は先にカナトがお風呂に入るように言うと素直に脱衣所に入っていった。

 その間におかずを中に入れたお握りとサンドイッチを用意し、フライドポテトを揚げているとお風呂上がりのカナトが背中にくっつく。
 振り返って顔を上げるとカナトの髪から水滴が落ちてきた。
 揚がったポテトを紙皿に置いて火を消すとドライヤーを取りに行き、昨日と同じように髪を乾かす。

 すると⋯途中こちらに体を向き直したカナトが私の膝に頭を置いてきた。

「何か最近凄い甘えん坊じゃないですか?」

 髪を乾かしながら言うと気持ち良さそうに目を瞑っているカナトが膝に頬ずりしてくる。

「うん。アラタちゃんにはね⋯」

 ドキッとしたが脳裏にハルキの「母ちゃん肌」という言葉が浮かぶと一瞬のトキメキも無かったかのように引いていった。



 私がお風呂を済ませて出てくると素敵な空間が出来上がっていた。

 TVとソファーの間にあるテーブルがTV側に寄せられて、空いた場所に低反発の大きなマットが敷かれている。
 更に大きな横長のクッションがソファーの足元に置かれているので凄くダラダラしやすそうなのだ。

「用意してくれた食事も運んでおくから髪乾かしてね」

 楽しみ過ぎて急いでドライヤーを済ませる。

 カナトの隣に座るとDVDが沢山入ったケースを渡された。
 どれがいいか――と聞かれて、悩む。

「なら、兄ちゃんから貰ったやつ観ませんか?」

「いいけど⋯アラタちゃん、ホラーとか平気?」

 特に苦手なジャンルはないから大丈夫だと伝えて、照明を暗くするとお握り片手に鑑賞タイムが始まった。



 失敗した⋯
 食事しながら観る最初に選ぶべき映画じゃなかった。
 グロいシーンは無いが何度も驚き、喉に詰まらせた。
 その度にカナトが背中を擦りながら飲み物をくれたが顔を背けて肩を震わせていた。
 情けなくて恥ずかしい⋯

「面白かった。次は何にしよっか」

 面白いとは映画のことなのか⋯ それとも私のことなのか⋯

 次にカナトが入れたのはコメディーものだった。
 コメディーを観るのは初めてだったがこんなにも面白いのかと感動するほど大笑いした。

「凄い面白かった!何かめっちゃポテト食べまくっちゃった」

「俺も凄い手が進んじゃった」

「飲み物も無いから入れてくるよ。カナトさん、何飲む?」

「じゃあ⋯ビール」

 飲むのかよ!――と思いながらも自分のココアとカナトのビールを持って戻る。
 次に観るものを選んでいるカナトにビールを渡し、隣に座る。

「驚いたし、笑ったから⋯次はのんびりしたのにする?」

「のんびりって⋯恋愛ものとか?」

 カナトがお勧めのDVDを指差すので「じゃあそれで」と映画が始まった。

 ココアをテーブルに置いて、クッションに背中を預けながら映画を観ていると膝にブランケットがかけられた。

「兄ちゃんからの⋯」

「大きいから一緒に被れるでしょ?」

「そうだね」

「⋯⋯敬語⋯抜けたね」

 そういえばさっきからタメ口だったことに今更気付き、動揺する。

「完全に気が抜けたんだね。コメディー観せて正解だったよ」

「⋯タメ口でいいの?」

 いいんだよ――と言ったカナトの手が私の頭を撫でて、言葉を続ける。

「敬語が抜けたらヒントをあげるって約束⋯覚えてる?」

 今言われて思い出した。
 長嶋に告白されて泣きじゃくった日の⋯

「俺が君を大事にするのはね⋯ハルキの妹って以外に⋯君が俺の時別だからだよ」

「特別?」

 これはヒントと言えるのだろうか⋯
 更に疑問が膨らんだような気がするが、これ以上じゃ突っ込むべきではないと思い「そっか⋯」と言って会話を終わらせた。



 映画の中の惹かれ合っている登場人物が唇を重ねるシーンをボーっと観ていると横からカナトのクスクス笑いが聞こえてきた。

「なに?」

「感動するでもなく恥ずかしがるでもなくボーっとして観てるから⋯ちょっと面白くて」

「良いストーリーではあると思うけど⋯」

「恋愛がよく分からない?」

 本当にこの人は不思議なほど私をよく分かってる。

「カナトさんもでしょ?なのにどうして純愛が書けるの?」

 恋愛のレベルなら私と同レベルのはずなのにカナトの書く純愛小説はとても綺麗な物語だ。

「ん~⋯才能かな?」

 否定はしない。
 あなたは才能に恵まれた人です。
 新刊も楽しみにしてます。



 映画の後半に差し掛かってくると少しずつ睡魔に襲われ始めた。
 結末が気になるので、もう少しだと必死に目を開いていたが気付けば寝落ちしていた。



「アラタちゃん⋯」

 ぼんやりとカナトの声が聞こえてくる。
 起こそうとしてくれているのか頬を撫でられているが⋯

「起きないとキスしちゃうよ?」

 またこの人は何を言っているのか⋯
 薄っすらと目を開けると鼻先が触れそうな距離にカナトの顔がある。
 普段なら驚いているだろうが今はそれ以上に眠すぎて全然反応できない。

「起きた?」

 これは起きたと言えるのだろうか⋯
 横向きでクッションに凭れ掛かっている私の頬を両手が包み込む。

「カ、ナト⋯さん?」

 その瞬間、唇が柔らかく温かいものに覆われた。
 キスされたと理解したのは口が離れてからだった。
 さすがにしっかりと目が開き、体を起こすとまたキスが降ってきた。
 映画が終わって、リビングは更に暗く静かだ。
 吹雪もやっと収まったのか私達のいる空間にはカナトが立てるリップ音だけが響いている。

 私の唇をひたすら食んで、吸い付くカナト。

 いつまで続くのだろうか⋯頭がのぼせてくる⋯
 ゆっくりと体を倒された私は黙ってキスを受け続けたが下に敷かれた低反発の心地良さに負けて、キスされながら意識を手放していった。
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