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しおりを挟む「兎に角⋯無事、なのかな?さっき以上のことはされてない?」
頬を手で包まれて、小さく頷くとカナトは安心したと言いたげな息を吐いた。
「テメー、それ本気で言ってんのか!アラタを何だと思ってんだ!」
改めてハルキに目を向けると先程よりヒートアップして、タケルの制止を受けながら高橋に掴みかかっていた。
「自分好みの女に子供を産ませて、一生自分の世話させたいと思って何が変なんだよ」
「相手の意見を聞かずに決定事項で話しを進めてんのがおかしいつってんだよ!」
「だから、意見って何?俺がそう決めたんだから問題ないだろ?」
途中から話しを聞き始めたが、高橋の頭が狂っていることはカナトとイチカにも分かった。
どうやら自分が初めて認めてやった女が自分を拒絶するはずがない、飛んで喜ぶと信じて疑っていないらしい。
「実際アラタは泣いて嫌がってるだろ!」
「嫌よ嫌よも好きのうちっていうだろ。お前そんな頭悪かったか?」
爆発寸前のハルキがタケルによって引き剥がされ、イチカに腕を掴まれる。
そしてタケルが高橋の前に立った。
「俺は渡仲アラタの上司だ。今回お前はうちの社員に付き纏い、精神的苦痛を与えた」
「付き纏い?俺は会いに行ってただけだけど?」
「更にうちの作家の自宅の敷地への不法侵入の映像も押さえている」
「は?映像?」
強気だった高橋に動揺が見えた。
「防犯対策してるんだ。お前の行動は録画してある」
奥歯を噛み締めた高橋⋯これはさすがに分が悪いことが分かるようだ。
「場合によってはこちらも弁護士を出すつもりだ。だが今後うちの作家と社員に近寄らないのであれば⋯法的手段は取らん」
高橋の顔に一瞬諦めが過った⋯だが、ハッと目を見開いて声を上げた。
「アラタに近寄って何が悪いんだ!お前に制限される筋合いはない!」
思考回路が完全に狂ってる⋯
この場にいるみんなが改めてそう思い、もう弁護士や警察に頼るしかないのかと考えた。
「あんた、相当バカみたいだね」
でもカナトだけは今ここで何としても解決してやると怒り、私を立たせてイチカに預けると高橋に近付いていった。
タケルを押しのけて真正面に立つ。
大して背の高くない高橋はカナトに目だけで見下され、少し怯んでいるようだ。
「アラタちゃんはあんたの顔を毎日見たせいで食欲が無くなって睡眠不足になった。精神的に病んだんだ」
「恋煩いの間違いだろ?」
「アラタちゃんの口から「好き」って聞いたわけ?」
「聞かなくても分かるんだよ!」
カナトが振り返って、アラタを呼ぶ。
何かを察したハルキがアラタの肩を掴んだ。
「お前がちゃんと言え」
今だ震える妹に無茶を言っている自覚があるのか、その表情は苦しそうだった。
「大丈夫だ。俺らが側にいる。カナトもいるだろ?」
カナトの方に目を向けると視線に気付いたカナトがいつもの優しい微笑みを見せてくれた。
この人がいるなら大丈夫。
よく分からないが自信を持って、そう確信できる。
私は隣にいるイチカの手を握って、高橋に言い放った。
「私は、あんたなんか好きじゃない⋯迷惑でしかない!金輪際会いたくない!」
高橋が顔に血管が浮き出るほどに怒りを露わにした。
「テメー、何様だ!俺に逆らってんじゃねーぞ!」
こちらに向かってこようとした高橋の前に阻むようにカナトが立つ。
「チッ、大体お前は何なんだよ!鬱陶しいんだよ!」
「拒絶されたのにまだそんなこと言うのか?」
「そんなこっ――」
「好きじゃないって、会いたくないって言ってたの聞かなかった?頭だけじゃなくて耳も悪いわけ?」
どんどん頭に血が上っているのか高橋の顔が赤くなっていく。
だが状況も把握出来てきたのか、その表情には怒り以外に苦しさが混じってきたように見える。
「お、お前さっき⋯俺に蹴り入れただろ!それはどうなんだよ!」
どうやら私に覆い被さっていた高橋が飛んでいったのはカナトに蹴られたからだったようだ。
「嫌がる女の子に襲いかかっといてよく言うよ」
自分が蹴られたことに論点を変えて、カナトに難癖をつける高橋を黙って見ていたハルキが胸ポケットからスマホを出して、何やら操作を始めた。
何をしているのか聞こうとすると、視界の端でカナトに掴みかかった高橋が見えた。
反射的だった⋯
握っていたイチカの手を離して走った。
カナトの服を掴んでいる高橋の手を思いっきり叩き落して、カナトの胸に抱き着いた。
「この人に⋯手を出さないで⋯」
涙目で高橋を睨みながら言うと私に伸びてきた手を払い除けたカナトが私に腕を回して後ろに下がった。
「ふ⋯ふざけんじゃねーぞ!」
「高橋⋯」
ハルキが私とカナトの前に出た。
「お前は自分の言ってることは間違ってないって思ってんだよな?」
「何も間違ってねーだろ!」
それを聞いて溜め息を吐いたハルキはスマホに視線を向けた。
「⋯⋯証拠を残す為に、ここに着いた時からずっと動画を撮ってたんだ」
「は?」
「今、中学のグループLINEにその動画を載せた⋯もうじき何人かここに来る」
俺らだけじゃ何を言っても聞かないなら、友人達に頼むしかない――と真剣な表情のハルキが言うと、高橋の顔が青ざめていった。
反応を見るに結局こいつは悪いことだと自覚した上で自分の思ったように事を進めたかっただけなのがよく分かった。
ハルキの友人はすぐにやって来た。
真っ直ぐに高橋を取り囲み、どれだけおかしな行動を取っているか責め立てられている。
女性達に関しては男性達より怒り狂っていて、そこで衝撃の事実が判明した。
「「子供産ませる」なんてよく言えるね!あんた高二の時、おたふく風邪で睾丸炎になって大変な思いしてたじゃん!種すらあるか疑わしいんだよ!」
不妊の原因は⋯あいつ?私は悪くなかった?
あれだけ苦しんだことの真相が分かって、心のモヤが晴れていくようだった。
そして女性陣の勢いに私達は言葉も出ず、ただ黙って見ているしかなかった。
暫くして、遅れてやって来たハルキの友人を見た高橋が必死に謝罪を繰り返し始めた。
「あいつは警官だよ」
そう言ったハルキの側にきた友人は「事件にするか」「事件にしないか」を私に確認してきた。
これ以上事を大きくしたくないが、事件にしないことで許されたと勘違いしてまた同じ事を繰り返されたらシャレにならない。
「事件にしなくても同じ事が起こらないように対処はする」
実際、地元の友人達に自分の悪行を大公開された高橋はこれ以上何も出来ないだろう。
万が一報復にやって来た時は次こそあいつは犯罪者となる。
ハルキの友人の話を聞いて、報復に恐怖を感じたが他の友人達も「任せろ!」と言ってくれたので私はそれに⋯甘えることにした。
「怖かったよね!もう大丈夫だからね!」
ハルキの女友達が私をカナトから引き剥がして抱き締めてくる。
「もうこんな事させないからね」「安心していいからね」とかけられる言葉を聞いていると気が抜けていったのか体から力が抜けていく。
地面に倒れていきそうな私をハルキの女友達が必死に支えてくれている。
その時、フワッと体が浮いた。
いつものように穏やかに微笑むカナトの顔が目の前にあった。
「これで⋯終わったよ。もう大丈夫だから」
今だ流れ続ける涙をイチカがハンカチで拭きに来る。
「あとはハルキ兄ちゃん達に任せよ。一番間違いないよ」
「そうだな。アラタちゃん、よく頑張った」
全てが終わった⋯
長期間張り詰めていた糸が一気に切れた感覚がした瞬間、私はカナトに抱えられたまま眠ってしまった。
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