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しおりを挟むある休日、プライベートとしてやって来た私はカナトの家の前で固まった。
「なにコレ⋯」
広々としていた駐車スペースに一台の大きなSUV車が停まっている。
混乱したまま中に入っていくが誰か来ているわけでもないらしく、いつも通りにカナトを起こしに寝室に行った。
「カーナートさーん!外の車どうしたの?」
「ん゙~~」
唸ったカナトに手を引っ張られて、布団の中に引きずり込まれる。
しっかりと抱え込まれ、額にキスを落とされた。
「起きた?」
「ん⋯おはよ⋯⋯えっと⋯車?」
「そう!どうしたの?」
起き上がって、次は頬にキスをしてくる。
「買った」
「今更何で?」
「⋯アラタと出掛けたいから」
可愛いが過ぎる⋯――口を押さえて静かに悶絶している傍らで次はこめかみにキスしてくるカナト。
「いつまでキスしてるの?」
「ずっとしてたい⋯」
起き抜けで何を⋯――と顔を赤くして、頭を抱える。
「ダーメ。起きて、支度して仕事だよ!」
「違うよ」
何が?――と首を傾げるとカナトが寝起きの甘ったるい顔でふふっと笑った。
「色々買いに行きたいから、今日はアラタも一緒にお出かけね」
「え⋯仕事大丈夫なの?」
「急ぎはないから平気」
なら行こうか――とカナトが支度を済ませている間に朝食を用意し、食べている間は傍らでコーヒーを飲んでいた。
「じゃあ行こうか」
キャップを被ったカナトと外に出て、車に乗り込む。
エンジンをかけるとサングラスをかけてアクセルを踏んだ。
車内では私の好きなアーティストの曲が流れている。
「⋯⋯好きなアーティストもバレバレ?」
「そうだよ」
どれだけ自分のことを知っているのか気になるが⋯聞くのが少し怖い気もする。
「運転出来たんだね」
「一応ね。タクシーとか電車も大変だったから免許取ったんだけど⋯」
難しい顔を見て察した。
「自動車学校でキャーキャーされて大変だったんでしょ」
「その通り⋯無事に取れたから良かったけど。アラタは取らないの?」
「ん~、独り立ち資金も余ったし⋯そろそろ取りに行こうかな?」
お金を貯めてからと思っていたが想定外の出来事でお金に余裕ができた。
この辺りは一人一台は車を持っていないと不便な土地なので、ぼちぼち取りに行くか――と考える。
「そっか⋯じゃあ俺が自学の送迎してあげるからね」
「いやいや、仕事しようよ」
「送迎しないと心配で仕事できない⋯」
仕方ないな――と了承すると、とても嬉しそうな横顔が見えた。
運転しながら楽しく話したり手を繋いだりしていると目的地の家具量販店に着く。
サングラスを外してマスクを付けたカナトと車から降りると手を繋いで店内に入り、カナトがお目当てのコーナーに向かう。
「何買うの?」
「ベットと布団」
それを買うのに自分は必要なのだろうか――と考えていると足を止めたカナトが繋いだ手を引いてきて、顔を覗き込まれた。
「大きいベットのほうが一緒に寝やすいでしょ?」
一緒に寝るという言葉で一気に顔に熱が籠もる。
ベットコーナーで「何がいい?」と聞かれても全く答えられない私を見て、カナトは終始楽しそうだった。
結局カナトが自分で選んだダブルサイズのベットと、それに合わせた布団を購入。
ついでに寝具コーナーに並んでいたパジャマも私専用にと購入していた。
ベットと布団は配送でパジャマだけを持って車に戻る。
鼻歌を歌うカナトが次に向かったのはホームセンター。
車から降りて真っ先に向かったのはアウトドア用品のエリアだった。
「キャンプするの?」
「いや、家でみんなとバーベキューしたいなと思って。楽しそうじゃない?」
暖かくなってくると周辺の家が毎週のように自宅でバーベキューをしていて、最初は驚いたがとても楽しそうだと思ったらしい。
自分もみんなと一緒にやりたいな――その思いから今回買いに来たのだという。
「楽しそうだね」
「準備も片付けもアラタに手伝ってもらっちゃうだろうし、俺じゃどれを選べばいいかよく分からないから⋯」
少し恥ずかしそうに話すカナトが愛らしくて、私は扱いの楽そうな物を選んで勧めた。
車にアウトドア用品を積んで、次に向かったのはショッピングモール。
「昼ご飯の前に買い物がある」
そう言うので付いていくと⋯着いたのはどう見てもレディース物の洋服ブランドショップ。
「は?」
疑問に満ちた私を無視して、ショップ内に足を踏み入れると真っ先に店員を捕まえた。
「俺の彼女の可愛らしさを引き立てる服ありますか?」
マスクをしていても隠しきれないイケメンに赤面する店員と恥ずかしい注文をされて逃げ出したくなっている私。
正気に戻った店員さんが私に目を向けるとトップスやボトムスの好み、肌の露出はどの程度まで許せるか確認しながら次々に服を持ってきた。
カナトの意見を聞きながら吟味されていく服⋯だが、さすがプロの店員さん。
シンプルなデザインが好きだと言った私の意見だけは絶対に曲げない。
カナトがフリルやリボンが付いたものを選んでも避けていってくれた。
「うん。それにしよう」
数回の試着の末⋯デニムのタイトスカートにボルドーのミニT、黒のダブルストラップのミュールで決まった。
「このまま着ていきます」
さっきまで着ていた服を持って、カナトの側に行くと店員さんがショッパーに私が手に持っている服を入れてくれた。
「素敵な彼氏さんですね」
誰が見ても羨ましがる彼氏であることは自覚している。
「彼女さんがすっごい好きだってビシバシ伝わってきますよ」
どう反応したらいいか分からず照れていると横から肩を抱かれた。
「気に入ったんで、また彼女連れて来ますね」
「ハイ、またお越しください」
肩を抱かれたままショップを出て歩く。
「流れで買ってもらっちゃったけど⋯良かったの?」
「良かったも何も、こっちが買いたくて連れてったんだからいいに決まってるでしょ」
申し訳ない気持ちもあるが一時期痩せた体型が思ったよりも綺麗にキープ出来ていたので前より体型を強調する服が嫌ではない。
むしろ少し好きになれたくらいだ。
それに毎日のように「可愛い」と言ってくれるカナトのお陰もあるかもしれない。
「ねぇ、初デートで悪いけどフードコートで食べてもいい?」
「⋯⋯もしかして食べたことないの?」
静かに頷くカナトの腕を引っ張って、フードコートに入り食事をした。
昼食がジャンクフードになったがカナトは楽しそうだった。
周囲にはマスクを外したカナトに黄色い声を上げている子もいたが私がいるからか誰も寄ってこない。
何ならポテトを食べさせ合う姿を見てもキャーキャー言っている。
「ここの女の子は平和だね」
「肉食系女子もいるだろうけどね」
周りに騒がれるほど顔面偏差値の高い人が自分の彼氏だと、今だに信じられないが⋯
この人の愛は疑いようがなく、とても幸せだった。
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