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しおりを挟む「思い出し⋯ました⋯確かあの時⋯」
幼いカナトは「俺、お兄ちゃんになるんだ」というハルキの言葉を聞いて、母に近寄った。
不思議そうにお腹を見るカナトを可愛らしく思った母は膨らんできたお腹を触らせた。
男か女か聞かれ、母が「女の子だよ」と答えると優しく微笑んだカナトが言った。
「俺も、この子の⋯側にいたい⋯」
その愛らしさにやられた両親。
「じゃあ大きくなったら会いに来てくれ。そして、この子の側にいてやってくれ」
カナトは嬉しそうにお腹を撫でた。
必ず会いに行くから待っててね――と最後に言って、帰っていったのだという。
「俺⋯忘れてました⋯」
「まぁ名乗ってもいなかったし、俺達も忘れてたからな」
私とカナトは混乱していた。
幼い頃すでに両親とハルキに出会っていたこと⋯
そしてまだ産まれてもいない私に「会いに行く」と約束してくれていたことに⋯
「凄くない?もう何もかもが運命だよ!二人は恋するしかなかったんだよ!」
興奮するアカネに父が頷く。
「奇跡のような縁だ。君は約束通りやって来て、アラタの側にいてくれている」
「ハルキのお陰なのかな?あの時カナト君を見つけて、助けたのはハルキだし」
「兄ちゃん凄いじゃん!自分の恋は皆無なのに妹の運命の人見つけるなんてさ!」
私も探してってお願いしてくる!――とスマホ片手に二階に駆け上がっていくアカネ。
私達は両親がくれた写真を持って、カナトの家に戻った。
ソファーに崩れ落ちるように座るカナト。
私はキッチンでコーヒーを入れながら思考を巡らせた。
きっと両親とハルキがカナトと初めて出会った時に私達の縁が繋がったのだろう。
でも何故私の夢を?
何故私は人生を夢に見たの?
幼いカナトがお腹にいる赤ん坊に焦がれることはおかしくない。
小さい子なら、そういう子もいると聞いたことがある。
何が私達をここまで強く繋げたのか⋯
コーヒーをカナトの前に置き、隣りに座って自分のココアを飲む。
「やっと分かったかも⋯」
背凭れに全力で凭れかかっているカナトが天井を見ながら話し始めた。
「あの時⋯ハルキが助けてくれて、その両親が普通に俺を心配してくれて⋯きっとお腹の子も素敵な子なんだろうなって思ったんだ」
ココアを飲みながら横目に見たカナトの目は思い出を辿っているようだった。
「女の子だって聞いて、絶対この子と結婚するって決めた。東京に帰って暫くしたら忘れちゃったけどね⋯」
子供なんてそんなものだろう。
ましてやカナトはその時期からすでに容姿が原因で毎日大変な思いをして悩んでいた。
忘れてしまうのは仕方ないが⋯
カナトの悔しそうな表情が心に刺さる。
「忘れちゃったけど、あの時本気で思ったんだ。まだ産まれてもいない君との先を⋯」
容姿に関係なく助けて、両親が現れるまで側にいたハルキと私の両親。
その三人の純粋な善意がカナトの心に響き、幼いながらに女性に嫌悪を抱いた心がまだ産まれぬ私を受け入れたのだろう。
私がマグカップをテーブルに置くとカナトが手を握った。
顔を近付けて、真剣に真っ直ぐ私を見つめてくる。
「俺が忘れてしまったから夢を見たんだ。君を見つける為に⋯そして君が俺と出会えるように⋯」
私もそうとしか思えない。
どんな力なのか分からないが私達は出会わなければなかったとしか思えない。
「今なら分かる。俺はあの時から恋してたんだ。一目見る前から⋯アラタが好きだったんだ」
「一目見る前って⋯ハハッ、一目惚れより早いことってあるんだね」
笑っていると立ち上がったカナトが廊下の戸の横にあるサイドボードの引き出しから何かを出してきた。
私の正面に跪いて、また手を握られる。
頬を赤くして見つめてくるのが可愛くて、空いた手でその頬を撫でた。
「正直⋯早いかなって思ってた。でもこの真実を知って⋯心が決まったよ」
何の話か分からず、黙って聞いていると目の前に開かれたリングケースが現れた。
大きなダイヤモンドが眩しく輝いている。
状況を理解した私は手で口を覆った。
「やっぱり君しかいない。俺はアラタしか愛せないんだ。君の為に生きていきたい」
目に涙が溜まってきて、視界がぼやけていく。
「俺と⋯結婚してほしい」
溢れて流れ出した涙が勢い良く下に落ちていく。
目の前にいる最愛の人。
その人が私しか愛せないと⋯
私の為に生きていきたいと⋯
プロポーズしてきたのだ。
本格的に泣き始めてしまって、上手く言葉が出ない。
「アラタ⋯」
「うっ、カナっ、さっ⋯」
必死に頷いた。
手で涙を拭きながら、必死に「ハイ」と伝えた。
「イ、イエス?本当?」
しっかり伝わるまで頷き続ける。
伝わったのか、カナトが私の後頭部に手を添えて強く口付けてきた。
「撤回は無しだよ?」
また頷くと口を塞がれる。
そしてアラタの左手薬指にカナトが指輪を填めた。
「これ⋯ジジイが死んだ婆ちゃんに贈った婚約指輪で、母さんが形見として持ってたんだ」
それをカナトが形見として持っていた。
そんな大事な物を自分に渡してしまっていいのだろうか――と不安になる。
「そんな顔しなくて大丈夫だよ。ジジイにも母さんにもいつかそういう相手が出来たらこれを渡せって言われてたからね」
嬉しそうに笑うカナトに私は抱き着いた。
強く強く抱き締めて、体を離して目を見つめる。
「カナトさん、愛してるよ」
幸せで、嬉しくて⋯嫌でも笑顔が溢れ出てくる。
その私の顔を見たカナトの目が見開かれた。
私の顔を掴み、その瞳から涙を一筋落とす。
「この笑顔だ⋯この笑顔が見たかったんだ」
カナトの心を照らしていた太陽のような明るい笑顔。
今この時、それが戻った。
私達は唇を重ね、深く深くお互いを求めた。
外見が整いすぎていて苦労してきたカナト。
私はあくまで”兄の友人”としてしか見ていなかった。
自分の知っている人生に現れないカナトに対し、警戒心が出てこなくて不思議に思った。
特別容姿が良いわけでもない私にベタベタ甘えてきて、正直変だとも思った。
この人に恋するなんて思ってもみなかった。
まさに私には分不相応だ。
でもお互いに求め合ってしまえば、そんなことはどうでも良くなる。
私がカナトを想い、カナトが私を想う。
それ以上に必要なものはなかった。
夢で繋がった私達は結局恋する運命だったのかもしれない。
カナトの腕に抱かれながら、愛を囁かれていると⋯
そうとしか思えなかった。
「これでタケル達の式の日取りが決められるな」
「どういうこと?」
「イチカちゃんが「アラタの結婚を見届けないと無理」ってゴネてるんだって。正直、まだだと思ってたから⋯どうしようか悩んでた」
「丁度良いキッカケが出てきたんだね」
「そういうこと。⋯⋯アラタ、幸せにするからね」
「二人で⋯幸せになろうね」
―― END ――
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