盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 10歳編

持つべきは強かな父親

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「久しぶりだね、リーヴェ侯爵。"これから先の話"とは、貴殿の大切なローナ嬢との婚約のことかな」


 セシルとの緊張感のある雰囲気から一変し、朗らかで優しげな声で王太子殿下は父を受け入れた。

 しかしその言葉の節々にある強調に含みを感じるのは、私の気のせいではない。


「左様で御座います、殿下。私の娘と貴殿の婚約をーー白紙に戻すというお話で御座います」
「…………」


 何のクッションもなくズバリと切り出された言葉。
 王太子殿下は何も言わない。

 セシルに未だ抱えられたままの私は殿下が何も言わないのを受けて、今すぐにでも詳しい話を聞きたいと言いたいのを我慢し、事の成り行きを見守ることにした。


「私ども貴族院と致しましても殿下の滅多にない"我儘"を聞いてさしあげたいのは山々なのですが……貴殿の将来を考慮いたしますと、盲目の国母となれば貴殿への負担は勿論のこと、私の娘の心的負担もいかがなものだろうかという結論に至りましてね……娘を憐んでくださるのであれば、何卒、殿下の"我儘"を聞けぬ我々を許していただけないでしょうか」


 見た目だけならナイスミドルで優しげな父だが、その実は向かう所敵なしと謳われる超敏腕外交官。

 本来なら兵団でいうところの大将格に収まって大人しく自国に留まっていられるところを、その手腕を見込まれ、さらに本人が強く希望していることから、常に世界各国を相手に国交関係の促進をはかっている。


 まあつまりはーー見た目は素敵なオジサマ、中身は食えない狸というわけである。
 普段は家族を溺愛する優しいお父様なんだけどね。


 そしてその証拠に王太子殿下が婚約破棄に対して反対していることを、わざわざ"我儘"などと称している。


 我儘……つまりは王太子殿下の反対は一意見として扱える代物ではなく、ただの子供の癇癪だと言いたいのだ。

 しかもこれに王太子殿下が反論してしまったら、まさしく子供のそれ。
 癇癪持ちの子供扱いなど、いずれ一国を背負う者としては絶対に受けたくない評価である。


 父は一瞬で王太子殿下を、大人しく引き下がって受け入れることしかできない状況に追いやってしまったのだ。


「……僕のいない間に貴族院は随分と話を進めたようだね。普段もその様だといいのだけれど」


 諦めたようにため息を吐いて、王太子殿下はついでとばかりにチクリと刺すような嫌味を言った。
 それに対して父は、恐れ入りますと答えて小さく笑ったらしい。


 つまり、これは……。


「仕方ない。これ以上僕がここにいてしまったら、そこの彼の通り、淑女の部屋に入り浸る"礼儀知らず"の王族の称号を得てしまうね。今日のところは大人しく帰るとしよう」


 やったー!ようやくこの、突発的嵐のような修羅場から解放される!

 心の中で歓声をあげつつも、私は努めて冷静に「左様で御座いますか」と返す。


 さすがのセシルも王太子殿下相手に緊張していたのかーーあんなにも立派な口をきいていたくせにーーほっと肩を撫で下ろしたのがわかった。


 いくらなんでも、王太子殿下の見送りに横抱きにされながらは失礼が過ぎると思ってセシルにそう訴えたのだが、拒否されてそのまま玄関先まで運ばれてしまった。


「それではね、ローナ。リーヴェ侯爵……あとついでに、そこの君も」
「ええ、王太子殿下直々に……」
「ご足労いただき誠に有難う御座いました。また、娘とお会いする機会がありましょうが、その時は何卒よしなにしてくださりませ」
「あの……見送りにこのような……」
「ついでとはいえ王太子殿下に挨拶をされるとは、後世に継げる自慢となりました」


 なんで私が王太子殿下に挨拶しようとすると、お父様もセシルも私の言葉を遮って邪魔するのかな?

 おかげさまで、私だけが挨拶できないまま、殿下はリーヴェ邸を後にした。


 そうして玄関に残ったのは、私たち三人とその他大勢いるだろう使用人のみんな。
 懸念すべきは、この状況である。


「もう……セシル。いい加減、疲れたでしょう。下ろしてちょうだい。目が見えなくとも歩けるのよ?」


 お姫様抱っこは女の子の夢とはいえ、ここまで長いこと抱き上げられ続けると、相手の腕が心配になってくる。痙攣とかしてない?

 けれどセシルは、ふふと笑い大丈夫だと言って離してくれない。


 いや、ね?嬉しいんだけどね。あっ、もうこの時すでにセシル逞しいんだ~素敵~って、心臓がちょっとドキドキしてるんだけども。


 見えずとも使用人に囲まれているだろう状況の、しかも自分の父親に見守られている中で、イチャついてると思われるような行動はーー羞恥心で顔が燃えるように熱くなって仕方がなかった。

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