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ローナ 10歳編
私には貴方だけ、貴方には私だけ
しおりを挟む喉奥がきゅっと詰まって、肺の空気がほとんど抜けてしまったみたいに苦しい。
子供みたいに泣きじゃくって情に訴えるような涙を止めたくて、何度も何度も手で擦っているのに、その度に大粒の雨が手の甲を濡らしていく。
貴族の子女としてやってはいけないこと。それは婚前交渉やそれに近しい行為のこと。本当に思い合う仲の婚約者であっても、タブーとされている。
でもだからこそ私からセシルにキスをすることで、それくらい本気で愛してるのよと示したかった。
なのにいざ本番では位置がズレてしまって彼の唇の横にたどり着いたのも、格好悪いったらありゃしない。
「大好きで大好きでしかたないの。貴方が良い。貴方じゃなきゃいや。愛してるの」
しかも口は勝手に私の想いを暴露してしまって、壊れたラジオみたいに愛の言葉を紡ぎ続けている。
伝えようと思っていたことは伝えてるけど、こんなつもりじゃなかった。
今日まであんなに頭の中でシュミレーションしていたのに、何もかも思い通りにいかない。
「私はセシルが好きなの。大好きなの。そばにいて、いなくならないで。やだ。やだ……」
自分勝手ことばかり話してる。貴方に信じてもらいたくて告白をしようと決意したのに、これでは私が癇癪を起こしているだけだ。
止まれ、止まれ、止まれ。
もっと言いたいことがあった。伝えようと用意していた言葉があった。
馬鹿みたいに「好き」を繰り返すんじゃなくて、その「好き」を信じてもらうための根拠を話すつもりで。
「すき。すきよ、だいすきよ」
ーーああ、もう。
とめられない。
ついに涙が大人しくこぼれ落ちるだけにとどまらず、しゃくりあげるようになってきた。
こうなったら覆い隠して涙が見えないようにしてしまおうかと手を上げたのだがーー。
「俺も、ローナが好き」
顔を隠そうとしていた手を取られ、指と指が絡み合って重なる。
何を言われたのか一瞬わからなくて呆然としていると、ちゅ、と私の唇のすぐ横に震えを伴った柔らかいものが軽く触れて、間もなく離れていった。
少しの間だったのに熱が離れてしまうのが寂しくて、後を追う為につま先立ちになって近づく。
追いかけた先で額にコツン、と何かがぶつかった。
するりとした滑らかな感触は熱を帯びていて、くっつけているだけで気持ちが良い。
しばらくその熱に浸っていると、私の瞼に雨が落ちてきた。
雨は一粒一粒が間を開けて落ちてきていたのに、いくつかの粒の後からは、梅雨のようにひっきりなしに落ちてくるようになった。
……否、これは雨なんかじゃ無い。
私とセシルの額が重なって、雨のように私に降り注いでいる、彼の涙だ。
「セシル、泣かないで」
自分だって涙を流しっぱなしにしているのに、気づけばそんな事を言っていた。
拭ってあげたいのに、私の手は両方とも絡め取られているから叶わなくて。でもそれはそれで良いとも思っていて。
しょうがないから、額と額をすり合わせる事で涙を拭う慰めの代わりにした。
せっかく綺麗にしてもらった前髪がセシルの前髪と合わさってぐちゃぐちゃになるけど、そんなのよりも彼の涙の方が大事だったので。
「っごめん……ごめん。ローナ、俺……君を信用してなかった……俺ばっかり君が好きで、君はいつでも俺を捨てていけるって……怖かったっ……不安だったっ……!」
「うん……うん。ごめんね。セシルを不安にさせてしまった。ごめんね、大好きよ」
「俺も、大好きだよ……愛してる」
セシルが落とした涙が私の頬を流れる途中だった涙と合わさって、繋がれた二人の手の間に滑り落ちた。
その涙を逃したくなくてぎゅっと指に力を入れたら、セシルの方もぎゅっと力を込める。
このまま私たちの手が、ネジ止めされてしまえばいいのに、なんて。
でも案外それもいいかもしれない。
そうしたらきっと、もう二度とセシルを不安させないだろうから。
「セシル、また今度不安になったら、絶対絶対、私に伝えてね。そうしたら、貴方が信じてくれるまで、何度だって好きだと伝えるから」
「……キスはしてくれないの?」
「……してあげるかも」
示し合わせたわけでは無いが、私たちは揃ってふふと笑い出した。
肩を震わせて笑うことで重なったままの額がズレそうになるたび、慌てて位置を直して、二人して慌てたことに笑って。
頭の先から足の爪先まで、甘くて優しい多幸感に満たされている。
「ローナ。俺の気持ち、もっとちゃんと伝えてもいい?」
さっき私に「好き」と伝えてくれたのに、もっと何か教えてくれるのだろうか。
ドキドキと鳴る心臓を携えて、私はセシルの言葉を待つ。
ちゅ、と可愛い音を立てて額と瞼にキスを落としたかと思うと、セシルは私の耳元で私だけしか聞こえないような小さな声で告白を紡いだ。
「愛してる。世界で一番大切な、俺の愛おしいローナ。これから先もずっと、俺と一緒にいて」
私の答えは、当然。
「はい。喜んで」
私の返事を聞いて最後にもう一度だけ私の頬にキスを落とし、セシルは嬉しそうに笑った。
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