62 / 84
ローナ 13歳編
直接対決、開幕
しおりを挟む……いや、なんで?なんで私、ロルフから殺意抱かれるくらい嫌われてるの!?
必死に舞踏会の日の記憶を振り返ってみても、私が彼の逆鱗に触れるような出来事は思い当たらない。
そっかあ私、リスティヒ様に嫌われてるのね……なんてショックを受けるだけに留められない。
殺意って何?舞踏会の日も今日も、セシルが来てくれなかったら私は死んでたの?
ゲームで嫉妬に狂ったローナが僻地の病院送りになるエンディングはあったけれど、処刑エンドとか、殺害エンドは無かった。
エンディング回収に関しては『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』をやり込んだ前世の私が大いに頷いて保証しているので、認識に間違いはない。
過激な報復措置の無いゲームの登場人物である未来の攻略対象者に殺意を向けられる私って……と落ち込んだのが目に見えて察せられたのか、セシルが優しく私の頭を撫でてくれた。
「大丈夫。ローナは俺が絶対に守るから。リスティヒに寝首をかかれるようなことは、絶対にあり得ない」
寝首かかれるとセシルが判断するくらい、私はロルフに嫌われてるのね……。
「そうですよお嬢様。もちろん、アンめもお嬢様に万が一のことが無いように働きますからね。一番は、お嬢様ご自身がリスティヒ様にお近づきにならない事ですが」
「そうだな。ガーランドの言う通り、リスティヒには近づかない方がいい」
二人して頷いているのだろうと、見えなくともわかる。
そんなこと言われても、今日みたいに私から近づいたのではなく、あちらから近づかれたらどうにもできないのだけれど……。
まあ、とにかくロルフは"要注意人物"であるとインプットしておけばいいだろう。
特別関わるような用事もないので、あまり必要の無い情報な気もするけれど。
一人でそう頭の中で結論付けていた為になかなか了承の返事を返さなかった私をもどかしく思ったのか、アンが「それに!」と私に言い含めるような強い声を上げた。
「よろしいですか、お嬢様?いくらリスティヒ様がセシル様に似ているからって、簡単に絆されてはなりませんからね」
「……似ている?俺と、リスティヒが?」
訝しげな声でそう言ったセシルに、アンは自身ありげに肯定の言葉を返す。
確かに声は似ていると思うけれど、見た目は似てないんじゃ……と、ゲームで見ていた二人を思い浮かべて発言したいところだが、幼馴染のセシルはともかく、ロルフのことは一度もこの目で見たことがないので、余計な事を言いかけた口を閉じた。
「例え俺とリスティヒが似ていたとしても、ローナは声で判断するのだから関係の無いことだろう」
「いいえ、私にはわかります。セシル様とリスティヒ様のお声はとてもよく似ていらっしゃると」
私はアンの発言に思わず「えっ」と声を出してしまった。
ゲームで二人の声を散々聞いていた私でさえ今世の聴覚の発達によって気づいた事柄だったのに、アンも気づいていたと言うのだろうか。
「リスティヒ様が話されていた時、無意識ながらもお嬢様は少し前のめりになって、軽く首を回してより聞こえやすい方の耳を向けていらっしゃいました。あれはセシル様とお話しされている時に出るお嬢様の癖ですから、リスティヒ様のお声がセシル様に近いものなのだと、アンは気づいたので御座います」
えっ、マジで?
お嬢様として生きてきた体がお下品な言葉を口から出すのを拒んだので声にこそ出さなかったが、心の中でそう呟いていた。
セシルと話している時の癖があったことにも驚きだが、何よりも無意識とはいえ、ロルフの声に対して反応していたことの方が驚きだ。
似てるなあと無自覚に気付いていたのはわかっていたが、行動にも表れていたとは。
私付きの侍女なのだから当然かもしれないが、アンは私をよく見てるのねえ。
……なんて現実逃避している私の頬は、セシルによって絶妙な加減で両手で挟まれていた。
「リスティヒに、そんな可愛いことをしたの?」
「ワ、ワカンナイ……」
「俺とリスティヒの声は似てる?」
「チョット……ダケ……」
さっきまでスイッチが入っていたからか、切り替えるまでが最速だった。
肌で感じるほどの怒気を纏わせているのに、正反対な甘くて優しい声色で語りかけてくるのが、より恐怖感を増している。
「……二度とローナに近づかせるものか。同じ空間も許さない」
地獄の底から響いたかのようなドスのきいた声で、セシルはぽつりと呟いた。
とりあえず私は、大人しく頷いておくしかなかった。
ーーそれから。ひとまず私たちは、今からどうしようかと話を始めた。
「ブラウエ・ブルーメの会」を台無しにしてしまった以上、私が会場に戻るのは悪手というものだし、セシルも令嬢方に鍛錬途中と言っていたのは諦めてもらうための嘘だったようで、もう後は帰るだけなのだとか。
それじゃあ、お母様がこちらに戻り次第身支度をしてさっさと城を去るのが得策だという結論に達した、その時。
コンコンと、控室の扉がノックされたのだ。
母ならばノックの必要は無い。
だってここは、私だけの控室ではないのだから。
つまりは予期せぬ客人が来たということで。
この状況で私を訪れる人なんて、限られてくる。
例えばそうーー王太子殿下の関係者、とか。
……断りたい。
断りたいけれど、断る為の正当な理由が思いつかない。
母がいない控室の中で入室の許可を出せるのは私だけなので、渋々といった様子を隠すことなく口を開いた。
「失礼致します。リーヴェ侯爵家ご令嬢ローナ様、アルブレヒト王太子殿下がお呼びですので、お迎えにあがりました」
部屋に入ってすぐにセシルの膝上に座る私を目にしただろうに、従者は顔色ひとつ変えずにそう言った。
* * *
「来てくれてありがとう。もしかしたら、無視されるんじゃないかって心配だったんだ」
奥に何も無い事を隠す上面だけの安堵の声は、いっそ器用だと感心してしまいそうな程に完璧で。
「本日はお呼びいただきありがとうございました。ですがまず、先程私から挨拶に伺わなかった事を謝罪致します。申し訳ありませんでした」
親しさなど微塵も無い臣下の一端なのだとハッキリと示すため、私は床に対して平行になるまで深々と頭を下げた。
「いいんだよ。話したいと思ってローナを呼んだのに、君を放っておいてしまったのは僕なのだから……ああ、それと」
まるで今の今まで見えていなかったような、今思い出したかのような軽さと、表向きの笑顔だけは浮かべていそうな無感情の声で、私の隣を呼んだ。
「フント侯爵令息も、来てくれてありがとう。久しぶりだね」
25
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる