盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

二人から見たロルフ

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 セシルが提案した将来の可能性は、私の気持ちを幾分か軽くしてくれた。


 どうしようもなくなったら、クロイツを出てしまえばいい。
 この国にこだわる必要はどこにもないのだから。


 実際問題、言う程簡単に済む話ではないけれど、そう思うだけで随分と気が楽になるのだから、気休め程度に心に留めておくくらいは許してほしい。


 セシルは庶民として兵士に志願しようとしているようだけれど、例として挙げられたお母様の故郷であるレーヴェ王国に逃げるとしたら恐らく……否、絶対に、庶民にはなれない。

 一応私に流れる血の半分はレーヴェ王族の血だし……そもそも、キャラの濃い伯父伯母レーヴェ王族によって路頭に迷う前どころか私が国境を超えた瞬間に拾われるんだろうなあ、という自負があるので。

 ……クロイツとはまた違った問題が山のように起こりそうだけれど、今はそれを考えないものとしよう。
 まだ必要のないことだ。


「それで。ローナが今日ここにいる理由は王太子殿下絡みだろうと察せられるが……問題はロルフ・リスティヒだ。何故、君のそばにリスティヒがいた?」


 「ブラウエ・ブルーメの会」への参加は後でセシルから問いただされると思っていたのに、あっさりと流されてしまった。

 けれどそれはつまり、ロルフが私のそばにいたことの方が、セシルにとっては重要だということで。


「リスティヒ様が言った通り、彼に謝罪されたけれど、私は貴方に謝られる必要はないって断ったの。その……彼とは本当に何でもないの。偶々セシルが訪れた時にそばにいたというだけで、お茶会の殆どの時間は、私と王妃殿下とお母様の三人でお話ししてたのよ。信じられないなら、アンに聞いてもいいわ」


 セシルが私のそばに異性がいる事をよく思わないのはよく知っているけれど、何だかやけにロルフを気にしている気がする。


 前世の記憶をたどってみて、セシルとロルフに何か特別な関係があったかしらと探したのだが……公式ファンブックの原案以外に、二人の関係性で特筆したものは無かった。


「ローナを信じていないわけじゃない」


 はっきりとそう言い切ったセシルに、ますます疑問が湧く。

 単純に反りが合わない、とか?
 まあ確かに、誰にでも分け隔てなく仲良くする人懐こいロルフと、厳格な雰囲気を漂わせて簡潔にしか受け答えをしないセシルでは色々と合わなそうではあるけれど。


「……言うかどうか、迷ったんだ。だが今日の様子を見て、言うべきだと判断した」


 セシルの重々しい言い方に、私は知らずのうちに喉を鳴らして唾を飲み込んでいた。


「舞踏会のあの日ーー俺がローナの後を追いかけて会場の外へ出た時、あのロルフ・リスティヒも同じように一人で外にいたんだ」
「リスティヒ様が……一人で?ベーゼヴィヒトのご令嬢は一緒ではなかったの?」
「君が会場を去ってすぐに、カミラ・ベーゼヴィヒトは王太子殿下に色目を使うのに勤しんでいた。だから、婚約者があの様子ではリスティヒも参っているのだろうと、気分転換に外に出たのだろうと思ったのだが……」


 気になるところで不自然に区切られた言葉は、その先を言うのを躊躇っている唸り声で仮止めされた。


 言う事を覚悟して話し始めたのにまだ躊躇うという事はそれだけ言いづらい話なのだろうけれど、続きが気になる。

 続きを促すのに、私は猫のようにセシルの首横の肩に頭を乗せて擦り寄った。


「擽ったい」
「やめてほしいなら話してね」
「……困ったな。少しも話したくなくなった。君がこのままずっと俺に擦り寄ってくれるなら、一生話さなくても良いような気がしてきた」
乳繰り合うイチャつくようでしたら、私からもリスティヒ様に関してお嬢様にお話ししたいことがあるのですが」


 今、アンの声で吹雪かなかった?
 それくらい冷ややかではなかっただろうか。

 というか、アンもロルフに関して何かあるのね。

 それならばセシルの中途半端な話から消化してもらわなければ、胸のあたりがモヤモヤして仕方がない。

 セシルも、アンにも話があると知ったからかーーもしくは冷ややかな声に負けてかーー観念して話の続きを始めた。


「話しかける用もないのでリスティヒを無視してローナのもとへ急ごうとしたのだが、奴も俺が足を進める方と同じ方向を向いている事に気がついた。だから少し気になって横目で様子を伺ったんだ……もしかしたらローナに懸想したんじゃないか、と。本当にそうだったとしたらーー……まあ、その話はおいておくとして」


 それはそれで、置いておく話としてはあまりにも気になる話なんだけれども?
 とはいえ、せっかく話を進めたセシルに横槍を入れるわけにもいかず、黙って私は耳を傾ける。


「……その、俺は他人の負の感情に敏感な方だと思う。そういうのを抱えている輩が護衛対象の近くに現れた時、事前に対処できるようマークしておく為に、些細な表情や言動の変化を見逃さないように訓練している」
「そうね。前に教えてくれたものね」
「だから、あの時のリスティヒの表情が何を考えていたのかにも見当がついた」


 ざわりと嫌な胸騒ぎがする。
 今私は、セシルから何か大変な事を聞くのかもしれない、ような。



「リスティヒが顔に浮かべていたのは、殺意にも似た激しい怒りの感情だった。射殺さんとばかりに遠くにある小さな君の後ろ姿を見ていたんだ」



「…………」
「だからローナのそばにリスティヒがいたのは……嫉妬もそれなりにあったが、何より、君が傷つけられる可能性があると考えたんだ。今日はあの時のような殺意は見られなかったが、隠しているだけかもしれなかったから」


 何も言えない。

 ロルフが私を殺そうとしていたかもしれない、なんて。


 でもセシルが殺意を感じたというのなら、それは的確なのだと思う。

 日頃から大人の兵士に混じって鍛錬をするセシルはたちの悪いやっかみを受けることもあり、剣の打ち合いのテイで殺されかけた事もあるのだとか。

 庶民出身もいる軍の世界では、エリート街道まっしぐらな貴族出身を心底気に食わないと思っている人が相当数いるようなので。


 あの日、ロルフと私はすれ違っただけで話す機会も無かったはずなのに。
 すれ違ったのだって、カミラの件で被害を被ったのはこちら側で、殺意を向けられるような事は何もしていないのに。


「……なるほど。それならば、私が体験した事にも少し納得がいくやもしれません」
「アン……?」


 得体の知れない感情の矛先にいるのが自分であるという怯えから体を震わせる私へ追い討ちをかけるように、今度はアンが声を上げた。


「お嬢様が"気にするな"と仰ったのに勝手に話を進めた時から不躾な方だと思い、ずっとリスティヒ様を観察していたのですが……"お互いに忘れるべきだ"という慈悲深いお言葉をお嬢様が仰ったそのすぐ後、ほんの一瞬だったのですが……その、何と言いますか……お嬢様を、気味の悪いものでも見たかのような……つまりは大変失礼極まりない表情をなさったのです」


 慈悲深いかどうかは、私の言葉の真意がアレ・・なのでともかくとして……。


 つまり二人の証言を合わせると、何が原因かはわからないがーーどうやら私は随分とロルフ・リスティヒに嫌われているようだ、ということである。


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