盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

友達

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 またもやギーゼラは私に会わせてほしいの一点張りだということで、事前に事情を把握することはできず。

 今日は兄もセシルもいない上に、家庭教師の先生が帰られた後で暇を持て余していた私に断る理由も無く。


「せめて今朝でもいいから、知らせを出してくださったら、もう少し色々と準備が整うのだけれど……」
「"変わり者"と名高いネーベンブーラー伯爵のご令嬢で御座いますから、その血をしっかりと受け継いでいらっしゃるのでしょう」


 自宅で一人ですごす用の気の抜けた格好ーーといっても、十分過ぎるくらいに上等品を身に纏ってはいたのだけれどーーから来客用のドレスに着替え、ハーフアップに緩く纏めていた髪もきっちり結い上げられた。


 全ての支度が整ったのは、アン率いる私専属の侍女たち総出であっても、来客があったと聞かされてから三十分後の事だった。


「お待たせいたしました」


 アンが車椅子を押して客室に入ったと同時に、私はギーゼラがいるだろう方へ礼をして言った。

 慌てて立ち上がったような音と共に「急に来たりしてごめんなさ……すみません」と、少女らしい高い声で謝罪を紡がれる。

 前回のような緊張で固くなった声色は感じられず、少なくとも今回は敵意を持って訪れたのではないらしい。


 定位置に私を運ぶカラカラと鳴る車椅子の音と、私の分の紅茶を用意する音がピタリと止んだ時。
 それを合図に、邸の者として先に口を開いたのは私だった。


「本日はどうなさったのですか。先日の件は、こちらとしては解決したとばかり思っていたのですが」


 先日のギーゼラが強硬手段に出たのは、それだけ彼女が切羽詰まっていたというのが話をしてわかった。

 では今回は?
 セシルとの対戦で、彼女は吹っ切れたと思ったのだけれど……。


「うん、その件はほんと……すみませんでした。解決した、であってます。今日来たのは、その……」
「?」


 歯切れの悪い言葉に首を傾げる。

 ハキハキと話す『ギーゼラ・ネーベンブーラー』はどこへやら。
 ゲーム画面で見ていた彼女とは違う印象を受ける行動ばかり、私は耳にしている気がする。

 ……まあ彼女を知っているといっても、私が知る"ギーゼラ"は今目の前にいる彼女の三年後の姿なのだから、違いがあっても気にするような事ではないか。


 口の中で言葉を吟味しているのか、時折「あう」だの「えっと」だのと言葉にならなかった声が漏れ聞こえる。

 これはしばらく時間がかかるだろうと、私はアンが淹れただろうティーカップに手を伸ばし、いつ話しかけられてもすぐに受け答えできる程度に紅茶を口に含んだ。


 ーーのが、いけなかった。


「あのっ!私と、友達になってくれませんか!!?」
「ぐっ……!」


 あわや大惨事。

 予想外の言葉に口から紅茶を吹き出しそうになった。
 危うくギャグ漫画になるところだった。
 あれは漫画上でやるから良いのであって、現実でやったらただの厄介なリアクションを取る人である。

 乙女に似つかわしくない音が出たが、結果的に口から一滴も紅茶を垂らさなかったのだから良しとする。

 それでも何となく濡れていないか不安になり、ハンカチを取り出して口元を押さえながらーーギーゼラから言われたことを頭の中で復唱した。


 友達。

 ともだち。

 すなわち、フレンド。

 他愛無い話をしたり、好きなことを共有して楽しんだり、女の子同士で盛り上がる話といえばで恋の話をしたり……。


 な、何故?
 いや、その申し出は嬉しいといえば、嬉しいけれど。

 王太子殿下の婚約者だった頃は長い物に巻かれようとする、友達という名の取り巻きは沢山いたけれど、破棄されてからは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。

 今現在私が友達と呼べるような存在は、モニカただ一人。


 だが友達といえばで思い浮かぶ定義をズラリと並べてみて、彼女が私とそれらをしたいと言い出すとは到底思えない。

 ギーゼラの好きなことは鍛錬で、私はセシルから又聞きした程度にしか知らないし、興味もセシルの事だから話を覚えている程度にしか無い。

 恋の話は……ギーゼラが好きな人といえば、彼女の幼馴染の彼だろうけれど……私とそれを話し合いたい、の?


 私がギーゼラに返せたことといえば、思案した結果出てくることになった疑問符を浮かべる事だった。


「図々しいし烏滸がましいし、わたしは伯爵家の娘で、ローナ様は侯爵家の方だから、今更媚び売ろうとしてるとか思われるかもしれないけど……でも、初めてだったんだ」


 ああそっか、とギーゼラに言われて思い付いた。

 父親の爵位上、私と彼女とでは必然と上下関係が生じるのだから、ギーゼラが長い物に巻かれようとしに来たという考え方もあるんだった。

 彼女の性格を考えると有り得ない事だったので、すっかり除外していた。


 その後に続いた"初めてだった"の言葉に、私はまた首を傾げる。
 初めてと言ったら……説教されたことが、とかかしら。


 でも説教されて友達になりたい、はなんだか意味合いが違ってくるような、受け入れたくなくなるような……なんて考えていた私に、ギーゼラは意を決したような声色で「あの後私なりに、よーく、考えたんだ」と言った。


「ローナ様に言われたこと、自分が犯した過ち……全部もう一度考えてたら気づいた事があって……そういえばローナ様はわたしが女騎士を目指してるって言った時、"みっともない"って馬鹿にしたり、"異常者だ"って憐れんだりしなかったなって。当たり前みたいに受け入れてくれて、苦しかったモヤまで解消してくれて……初めてだったんです、そんなご令嬢」


 伯爵家の令嬢として生まれ、これといって貧乏に苦しんでいるわけでもなく、生活が困窮しているわけでも無い彼女が、自らすすんで男の世界である騎士の道を志していると聞いたご令嬢方の反応はーー残酷な話だが、ごくごく当たり前の事だろう。

 前世の記憶というイレギュラーがあるからこそ、私は疑問なく受け入れたというだけで。


 でもそれが、ギーゼラの救いになったのだろうか。


「嬉しかった。そんな風に接してくれたの、お母さんと他の女騎士の人たち以外初めてだったから……そう思ったら、ローナ様とこのままで終わらせたく無いなって思えてきて……わたし、ずっと鍛錬ばっかりしてきたから女の子の友達、良いなって。それがローナ様だったら、もっと良いなって……」


 その言い方は、ずるい。
 咄嗟に出そうになった肯定の言葉を、慌てて引っ込めて上唇と下唇を噛み締める。

 頷きたい。でも。


「ありがとうございます……でも、私とお友達になるのはよした方がよろしいかと」
「……なんで?」


 捨てられた子犬がキュンキュン鳴くような声でそう呟いたギーゼラに絆されそうになりながら、モニカと友達になる前に述べた時と同じ忠告を舌に乗せた。


「ご存知の通り、私は目が見えません。他の人が当たり前にできる事ができないのです。仮に私と友達になれたとしても、私は貴方と同じ景色を見ることはできない。私と友達になるということはつまり、貴方はつまらない話し相手を得るだけに過ぎないのですよ」


 これが可愛いとか、あれが綺麗とか。
 そういう当たり前の話が、私にはできない。

 見なくてもわかるものーー聴覚、嗅覚、触覚、味覚……連ねれば多く思えても、人間とは情報の八割を視覚から得ている。
 その八割が、私には無い。


 物好きな人は、それでも良いというけれど。
 ギーゼラを、限られた範囲の話しかできない私に付き合わせるのは忍びないと思う。

 彼女の証言を信じるならば……ましてや、初めての女友達ならば尚更。
 私以外にも騎士を目指すギーゼラを受け入れられる人は他にもいるだろう。ヒロイン、とか。

 ちょっと先になるけれど、私なんかよりも楽しいを共有できる普通の友達を作る方が、きっと彼女にとって良い選択になるーー。



「やだ!!!」
「えっ」



 今なんか、すごく端的でわかりやすい拒否の叫びが聞こえたような……?


「だから、やだって言いました!!ローナ様じゃなきゃやだ!!目が見えないから友達になれませんは、理由になって無いです!」
「いや十分すぎるくらい理由になっていますけれど!?」
「やだ!!全然納得できません!!」


 ギーゼラの大きい声につられ、いつの間にか私まで叫ぶように返していた。


 分からずやに説得するには正直に言えばいいのだけれど、でも、心のどこかで"期待"を膨らませ続ける自分がそれを拒んでいる。


 良いのかな、うんって言っても。
 だって彼女から私が良いって言ってるのよ。

 でもそれは、盲目を相手にする事を知らないから主張できている事だから。
 実態を知れば、彼女は離れていくに決まってる。


 ぐるぐる回る感情に眩暈がする。

 いつか私以外にも現れますよって言わなきゃ。
 女の子のお友達は、その時で良いではないですかって。


 でも、でも。



「目が見えなくても、どんな事でも良いから、わたしはローナと・・・・たくさん話がしてみたい!!」



 息をのんだ私の喉が、ヒュッとか細い音を鳴らした。


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