盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

これから、よろしく

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 激しく流れる血液が心臓を大きく鳴らしている音が耳奥で響く。
 それに合わせるかのように胸で膨らむ想いが、私の意識をギーゼラに固定させた。


「ローナと話してつまらないかどうかは、わたしがこれから決める事でしょ……でも、あなたと話をしてつまらないって思うなんて、あり得ないと思うけど」
「そ……そんなの、今だけの話です。すぐに、私がつまらないとわかります」
「だから、それはわたしが決める事だってば。それにわたしの勘って、すごーく当たるって評判なんだ!ローナをつまらないなんて、絶対思わない!」


 ギーゼラの勘が当たるというのは、言われなくとも前世の知識からよく知っている。

 『ローナ・リーヴェ』の本性を知らない人達の中で、最初からローナを警戒していたのは、元婚約者だった王太子殿下と、"何となく怪しい"と疑っていたギーゼラだけだった。
 だから彼女の勘の鋭さは本物なのかもしれない、けれど……。


 否定の言葉を探しては口の中で持て余し、ならば肯定の言葉なら言えるかというと、それもまた喉奥に引っ込んでしまって。

 こんなにも私が葛藤しているのは、つまり、彼女と友達になりたいけれど、失望されたくないと思っているからで。


 ……失望されたくない、だなんて。

 それはもう、答えなんじゃないだろうか。


「わたしには無いものがローナには有る。逆に言えば、わたしには有るものがローナには無い。だからそれを教えあって、仲良くなりたい……です」


 取ってつけたような敬語に、思わず笑みが溢れた。
 さっきまで勢いで話していたから、敬称も敬語も全て忘れて、素の彼女で私に訴えていたのだろう。


 そう考えたら、何だかとても、この縁が素敵なものに思えて。
 失望に怯えて手放してしまうのは、すごく勿体無いように感じてしまった。


「ローナお嬢様。今回ばかりは、お嬢様の負けで御座いましょう」


 淑女として"大笑い"とはいかないけれど、溢れる微笑が止まらなくて上手く返事を返せないでいた私に、そばに控えていたアンはそう言った。


 そうだ。負けは負けでも、"根負け"してしまった。

 そういうことに、しておこう。

 ーーすでに貴方に惚れ込んでいただなんて、格好がつかないから。



「そこまで仰るなら、仕方ありません。これからは友人として、お付き合い頂けますか?」



 素直じゃ無い返答。おまけに可愛げも無いので、不快感を与えるには十分な台詞だというのに。


「ーーっうん!勿論、こちらこそ!」


 それでも、ギーゼラが心底嬉しそうな声色で承諾の言葉を述べたものだから。


「……それでは早速友人として、忠告を」
「なに?何でも言って!」
「次から邸を訪れる際には、その日の朝までに、前触れを出してからにして下さいませ。こちらにも準備というものがありますから」
「うっ……はい」


 彼女に失望されるかもしれない、なんて余計な心配だったのだと安堵のため息を漏らしたのを、苦言の言葉で隠したのだった。



     *      *      *



 手紙を書くのが苦手だから今まで前触れ無しに訪れていたと聞いて、真っ先に動いたのはアンだった。

 素早く他の侍女たちに命令を出して何かを持って来させたかと思うと、ギーゼラはそれを見て「うげぇっ」と蛙が潰れたような声を出した。


「ローナお嬢様のご友人として相応しい内容の手紙の一枚や二枚、書けなくてどうするのです。ローナお嬢様が了承しても、リーヴェ家の鬼門であるリーヴェ侯爵様ならびに侯爵夫人、最難関のイーサン様がお許しになりませんわよ!」


 ……だそうで。
 突如として開催された『手紙の書き方講座』。

 ギーゼラも最初こそ拒否の姿勢を見せていたが、アンにそう言われてからはやる気を出して取り組んでいる。

 別にそんな事をしなくても、私に対して出す手紙だったら格式ばったものでなくてもいいのに……と言い出すには二人の覇気があまりにも凄くて。


「そこっ!時候の挨拶にアイリスは不適切です。アイリスは今の季節に咲く花ではありません」
「だってわたし、花なんてアイリスくらいしか知らないし……」
「花ならばなんでも良いという訳ではありません。その季節に合ったものを記すのです」


 ギーゼラへ応援の声をかけると「うん!」と嬉しそうに頷くので、それがあまりにも可愛くて講座を止める気も失せてしまう。

 まあ、これから必要になるテクニックだから覚えておいて損はないので……と誰に言い訳するでもなく心の内で呟いて、私は定期的に「頑張って」と声を掛けては紅茶を啜って過ごしていた。



 それからーー長引きそうだと思っていた『手紙の書き方講座』が終わりを迎えたのは存外に早く、ジュール直々にアフタヌーンティーの追加のお茶菓子を持ってきたのを区切りにしたらしい。

 見本となる定型文が完成したとかで、それを元に、これからは手紙を寄越す約束を交わしていた。私ではない。アンと、である。


「はぁー、疲れた」
「お疲れ様。ごめんなさい、こんなつもりで来たのでは無かったでしょうに」


 疲れを癒すのにギーゼラが紅茶を飲み干したのをアンが咎めようと動いたのに気づき、すかさず片手を挙げて止める。
 アンによる突発マナー講座は、今日は手紙までに留めてもらう為だ。


「んーん。わたしが悪い……ですし、こういうの、いい加減ちゃんとしろってお母さんにも言われてたし……ですし」


 疲れた頭には甘いものを摂取したほうがいいと言って、ジュールが自信作だと言って運んできたフィナンシェを勧める。


「んんっ、美味しい……!この間来た時も思ったけど、ローナ……様のうちのお菓子、すっごく美味しいよね……ですよね!」
「……ありがとうございます。我が家自慢の料理長なんです」


 私の中にポツリポツリと小雨が降るように器に不満が溜まる。
 それを無視してもいいのだけれど、きっと今無視してしまったら、この先ずっと溜まり続けることになる。

 アンはこのままでいい、むしろもっと改善するべきだと言い出すだろうけれど……それよりも先に、私から許可を出してしまおう。


「ねえ、ギーゼラ」
「! 今、名前……!」
「ええ。だってお友達なんですもの。ギーゼラって呼んでも、良いでしょう?」
「もちろん!」


 私の目が見えていたらニコニコと笑うギーゼラが映っていただろうと予想される声色に、自然とつられて私も微笑みを携える。

 なので、やっぱりそんな彼女に無理矢理は似つかわしくないと思うのだ。


「だから貴方も、私のことは"ローナ"と呼び捨てでいいのよ」
「そ、れは」
「私のことは呼び捨てで良いし、話しづらそうだから敬語だって無くていいのに……それとも貴方は、"侯爵令嬢"とお友達になったのかしら。だったらしょうがないわね……爵位に準ずる態度を取らねばならないものね」
「ちっ、違う!わたしが友達になったのは……ろ、ろ、ローナ、だから!」


 アンが今度は私に何か言いたげにしているのが気配でわかるが、それを丸切り無視して「うふふ」と笑う。


「お友達って素敵ね。そうでしょ、アン?」
「……ええ、誠にそうでしょうとも」


 私に同意を求められて頷かざるを得なかったのは重々承知の上だけれど、一度でも頷いたのだから、この件に関してアンがギーゼラに注意することは許されなくなった。
 狡い手だとは思うが、私としては、ギーゼラには自然体でいてほしかったのだ。


 器の底に薄らと溜まっただけの不満をひっくり返して解決した私は満足し、ギーゼラに遅れてフィナンシェに手を伸ばす。

 あ、すごく美味しい。やっぱりジュールは天才だ。


「なんか……ローナって、聞いてた話と全然違うなあ」


 フィナンシェのさっくりとした表面に歯を立て、香ばしくて甘いしっとりとした中身を舌の上で味わっていたが、ギーゼラがしみじみと言った言葉にピタリと動きを止めた。
 まだ食べ足りないが、フィナンシェを皿の上に戻して話をする体勢を取る。


「聞いていた話、って?」
「聞いたって言っても一人からだけなんだけど……この間のお茶会の時にさ、ベーゼヴィヒトの人が言ってたんだ。ローナはアルブレヒト王太子殿下を誑かしてる、しかもそれだけじゃ飽き足らず、セシル・フントをも誑かしてる悪女だー、って……全然そんな感じじゃないから、あの子が嘘ついてたんだって今ならわかるけどさ」


 お茶会にいたベーゼヴィヒトなんてそんなのはーー"カミラ・ベーゼヴィヒト"ただ一人ではないか。

 ブラウエ・ブルーメの会では関わりが無いままで終われたと思っていたのだが、どうやらカミラはとんでもない爆弾を配っていたらしい。


 ハァと深いため息を吐いた私を心配してくれるギーゼラには悪いが、美味しいフィナンシェと新しい友人がいたとしても暫く気分を持ち直せそうになかった。


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