12 / 20
第1章:夏休み
第12話 入れ替わりの原因。
しおりを挟む
午前九時頃。
「はい……はい……すみません……」
か細い俺の声が聞こえた。俺のスマホに耳をつけた芽衣(俺の身体)は、電話口の相手に向かって何度も繰り返し謝っている。たぶん、ものすごい剣幕で怒鳴られているだろうことは、想像するに難くない。俺の代わりに怒られてくれてすまんね。
疲弊しきった表情の芽衣に、俺は優しく声をかける。
「大丈夫?」
「……はい。このまま、ずっと休み続けるわけにもいかないので、明日には行こうと思います。あ、場所。書いてくれますか?」
「え? あ、いや。それはいいけど……別に無理することは……」
言いかけて、やめた。芽衣のルーズリーフを切り取って、そこに工場までの地図を描く。お金は、あればあるだけいい。無一文になる恐怖心が勝って自分から辞めるということは切り出せず、仕事を他人へ押しつけられるならそのほうがいい、と思ってしまった。
ほかに雇ってくれるようなところもないなら、このまま惰性で生きるのも悪くない。だが、神の悪戯か悪魔の罠か、俺は全くの別人へなってしまった。自分の人生など、正直どうでもいい。芽衣には悪いが、ひょっとしたら、人生をやり直せるんじゃないか? と淡い期待を抱いてしまった。
「トイレ……行ってきます……」そうすると芽衣は立ち上がりかけて、俺の顔(いや、自分の顔か)をじっと見つめる。手を太腿に挟み、身体をモジモジとくねらせた。「一緒に来てくれませんか?」
外の階段を下りて、共同トイレへ向かう。住民共同なのはもちろん男女共同でもあるため、入ってすぐのところに鍵が取りつけられていた。狭い中では、二人も入れば、もう身動きが取りづらい。目の前にある自分のズボンを、俺は脱がせる。その間、芽衣は顔を覆ったままだった。
「お、おい……ちゃんと、ち○こぐらい持って」
「う、うん……」
相変わらず目は逸らしたままだったが、俺は自分の手(中身は芽衣)をあそこへ持っていく。ぎこちない仕草で、芽衣は初めての、男根による放尿を経験した。……いや。なんだ、これ。介護か。
「まあ。ちょっとずつでもいいから、慣れていかないとな」
「ちょっとずつって言っても、叔父さんはパパが迎えに来て行っちゃうんじゃ……?」
ああ……そうだな、確かに。芽衣の指摘は、ごもっとも。しかも、その期日は今日だ。ここに住めるよう、兄貴に提案してみるか。
正午過ぎ。
お腹が空いたという芽衣が台所へ立ち、俺の身体で料理を再び始める。この見慣れない光景の横で、俺は夏休みの宿題をしていた。筆跡は身体のものらしく、芽衣の代わりに書くしかない。久しぶりに頭を使った俺は腹ペコだった。
食べ終わったのち、俺はこの状況を整理してみる。皿洗いを終えた芽衣が、一緒にテレビを見始めた。いろいろと考えてみたが、入れ替わった原因って、これしか考えられなくないか? あれが夢ではないとするのなら。
「もしかして、昨日のセックスが関係ある?」
「セッ……なんですか?」
テレビの音で掻き消された、というわけでもなさそうだ。目を丸くした芽衣が訊き返す。小学五年生なら、知っていても不思議ではなさそうだが。
「セックス。あれ? 保健体育で、習ってない?」
「それって、えーっと……あの、つまり、あの行為ってことですか」なんだ、恥ずかしがっているだけか? 夢の中の芽衣は積極的だったぞ。「それって、だ、誰が?」
「俺と、芽衣が……」
「えっ? わたし……えっ? なに、言ってるんですか?」
「……本当に、知らない?」
「は、はい……」
耳まで真っ赤にした芽衣は、心底戸惑ったような表情を見せる。眉根を寄せ、怪訝そうな面持ちだ。目を何度も瞬き、若干引いているようにも見える。
なんだ? これじゃあ、俺がセクハラしているみたいではないか! いや。実際、セクハラどころではないことを、姪っ子相手にしてしまったのかもしれないが。
そんな顔をしないでくれ。なんだか芽衣の戸惑いようは、下ネタにドン引きの女の子そのものだ。この表情を見る限り、本当に知らなさそうだった。じゃあ、やっぱりあれは、酔っていたときに見た夢だったのか?
そうなると、とんでもなくヤバイことを、俺は口走ってないか?
小学五年生の女の子を捕まえて、自分の妄想を話した童貞。これ、一発で逮捕案件じゃないか? 俺は急激な気恥ずかしさを覚え、取り繕うに慌てて言い放った。
「あ、いや、その……忘れてくれ!」
その日、兄貴が迎えに来るまで、俺たち二人は、気まずい時間を過ごすことになった。俺は宿題に逃げ、芽衣はぼーっと、いままで俺がしてきたのと同じように、怠惰な時間を過ごすばかりだ。
一通り宿題を終え、充電していたパソコンをコンセントから抜く。パスワードを入力するだけなので、こっちはすんなりと開いた。いま途中の原稿を、久しぶりに書き進めよう。下手すればこの状況が、次のヒットを生むアイディアに繋がるかもしれない。
ところが指は微動だにせず、俺は別のことに脳みそを使っていた。よくよく考えてみて、逆に言えば強制性交にならず、セクハラ程度で済んだのなら、そっちのほうがいいに決まっている。俺の妄言さえ忘れてくれれば、これはなかったことにできるだろう。
俺は神仏に願った。気まずい時間が、早く終わりますように。
「はい……はい……すみません……」
か細い俺の声が聞こえた。俺のスマホに耳をつけた芽衣(俺の身体)は、電話口の相手に向かって何度も繰り返し謝っている。たぶん、ものすごい剣幕で怒鳴られているだろうことは、想像するに難くない。俺の代わりに怒られてくれてすまんね。
疲弊しきった表情の芽衣に、俺は優しく声をかける。
「大丈夫?」
「……はい。このまま、ずっと休み続けるわけにもいかないので、明日には行こうと思います。あ、場所。書いてくれますか?」
「え? あ、いや。それはいいけど……別に無理することは……」
言いかけて、やめた。芽衣のルーズリーフを切り取って、そこに工場までの地図を描く。お金は、あればあるだけいい。無一文になる恐怖心が勝って自分から辞めるということは切り出せず、仕事を他人へ押しつけられるならそのほうがいい、と思ってしまった。
ほかに雇ってくれるようなところもないなら、このまま惰性で生きるのも悪くない。だが、神の悪戯か悪魔の罠か、俺は全くの別人へなってしまった。自分の人生など、正直どうでもいい。芽衣には悪いが、ひょっとしたら、人生をやり直せるんじゃないか? と淡い期待を抱いてしまった。
「トイレ……行ってきます……」そうすると芽衣は立ち上がりかけて、俺の顔(いや、自分の顔か)をじっと見つめる。手を太腿に挟み、身体をモジモジとくねらせた。「一緒に来てくれませんか?」
外の階段を下りて、共同トイレへ向かう。住民共同なのはもちろん男女共同でもあるため、入ってすぐのところに鍵が取りつけられていた。狭い中では、二人も入れば、もう身動きが取りづらい。目の前にある自分のズボンを、俺は脱がせる。その間、芽衣は顔を覆ったままだった。
「お、おい……ちゃんと、ち○こぐらい持って」
「う、うん……」
相変わらず目は逸らしたままだったが、俺は自分の手(中身は芽衣)をあそこへ持っていく。ぎこちない仕草で、芽衣は初めての、男根による放尿を経験した。……いや。なんだ、これ。介護か。
「まあ。ちょっとずつでもいいから、慣れていかないとな」
「ちょっとずつって言っても、叔父さんはパパが迎えに来て行っちゃうんじゃ……?」
ああ……そうだな、確かに。芽衣の指摘は、ごもっとも。しかも、その期日は今日だ。ここに住めるよう、兄貴に提案してみるか。
正午過ぎ。
お腹が空いたという芽衣が台所へ立ち、俺の身体で料理を再び始める。この見慣れない光景の横で、俺は夏休みの宿題をしていた。筆跡は身体のものらしく、芽衣の代わりに書くしかない。久しぶりに頭を使った俺は腹ペコだった。
食べ終わったのち、俺はこの状況を整理してみる。皿洗いを終えた芽衣が、一緒にテレビを見始めた。いろいろと考えてみたが、入れ替わった原因って、これしか考えられなくないか? あれが夢ではないとするのなら。
「もしかして、昨日のセックスが関係ある?」
「セッ……なんですか?」
テレビの音で掻き消された、というわけでもなさそうだ。目を丸くした芽衣が訊き返す。小学五年生なら、知っていても不思議ではなさそうだが。
「セックス。あれ? 保健体育で、習ってない?」
「それって、えーっと……あの、つまり、あの行為ってことですか」なんだ、恥ずかしがっているだけか? 夢の中の芽衣は積極的だったぞ。「それって、だ、誰が?」
「俺と、芽衣が……」
「えっ? わたし……えっ? なに、言ってるんですか?」
「……本当に、知らない?」
「は、はい……」
耳まで真っ赤にした芽衣は、心底戸惑ったような表情を見せる。眉根を寄せ、怪訝そうな面持ちだ。目を何度も瞬き、若干引いているようにも見える。
なんだ? これじゃあ、俺がセクハラしているみたいではないか! いや。実際、セクハラどころではないことを、姪っ子相手にしてしまったのかもしれないが。
そんな顔をしないでくれ。なんだか芽衣の戸惑いようは、下ネタにドン引きの女の子そのものだ。この表情を見る限り、本当に知らなさそうだった。じゃあ、やっぱりあれは、酔っていたときに見た夢だったのか?
そうなると、とんでもなくヤバイことを、俺は口走ってないか?
小学五年生の女の子を捕まえて、自分の妄想を話した童貞。これ、一発で逮捕案件じゃないか? 俺は急激な気恥ずかしさを覚え、取り繕うに慌てて言い放った。
「あ、いや、その……忘れてくれ!」
その日、兄貴が迎えに来るまで、俺たち二人は、気まずい時間を過ごすことになった。俺は宿題に逃げ、芽衣はぼーっと、いままで俺がしてきたのと同じように、怠惰な時間を過ごすばかりだ。
一通り宿題を終え、充電していたパソコンをコンセントから抜く。パスワードを入力するだけなので、こっちはすんなりと開いた。いま途中の原稿を、久しぶりに書き進めよう。下手すればこの状況が、次のヒットを生むアイディアに繋がるかもしれない。
ところが指は微動だにせず、俺は別のことに脳みそを使っていた。よくよく考えてみて、逆に言えば強制性交にならず、セクハラ程度で済んだのなら、そっちのほうがいいに決まっている。俺の妄言さえ忘れてくれれば、これはなかったことにできるだろう。
俺は神仏に願った。気まずい時間が、早く終わりますように。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる