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聖女の朝は早い。朝は女性の新官が私を起こしに来る。その時刻、午前3時である。

着替えを済ませ、朝食を食べ終わるとまず朝の祈りを捧げるべく宮殿に向かう。

そして、王族たちの前で聖書の一文を読み、王族たちに祝福を授ける。

身分が高いものから祝福を授けるため、最後は1番身分の低い者に祝福を授ける。最初は国王、次に王妃、第1王子、第1王女.....


私が水晶玉に手をかざすように、彼の頭の上に手をかざすと頭の周りが輝き、それが祝福になる。



次にする聖女の仕事とは、貴族たちも祝福を授けることだ。

神殿に金を渡せば、祝福を授かる事が出来、1回だけでも高いのに何度も来る人が後を立たなかった。

その作業を捌き切ると、勉強の時間が始まる。

読み書きから始まり、歴代の聖女の偉大なお話をされる。

読み書きは辛かったが聖女の話を聞くのは昔話を聞いているようで面白かった。


それが夜8時まで続き、夕食を食べると風呂に入って就寝。

そして、また明日になると女の新官に起こされる。



ただ、この暮らしに1ヶ月に1回だけ聖なる力を持たない王子への説法をすることがある。




「あ、あのー。エレーヌです。説法をしに来ました.....」

幽閉されている塔は寂れており、壁に草木が生えている有様。

説法は1ヶ月に1回、3時間と決められていた。しかし、使用人も新官も説法中、塔に立ち入る事は禁止されており、どこに王子が居るのかも分からない状況に陥った。


その王子には聖なる力がない


この国の住民は皆、少なからず聖なる力があるものだった。それなのに力が無いとなると、前世で悪いことをしたのではないかと考えられていたため、彼は危険人物だと決めつけられて幽閉されているそうだ。

そして、何故私が説法をしなければならないかというと、いくら前世で悪いことをしても、今世でいい事をすればきっと来世では聖なるを持てるようになると信じられているから。


「王子ーー!どこにいらっしゃいますかーー?」

王子からしても迷惑な事だろう。知らない聖女とかいう女が説法をしに来ているのだから。

だが、私も譲る訳には行かなかった。やらなければ、怒られるだろうし、もうこの先10年間は毎月1回、この塔に来て説法をすると決まってしまったからだ。


30分程、王子を探したが何処にも見当たらない。


仕方ないので壁の草をむしることにした。この先10年間世話になる塔が汚いのは嫌だったのと、私は草むしりが大好きだった。

草はむしり終わり、次は壁のツタをとることにしたが如何せん硬い。

無理だな。と思い、諦めて休憩していると

首元にナイフが突きつけられ

「おい、さっきからずっと何をしていた」

王子だと思われる人が現れた。

2人は目を合わせることなく、

「壁の草をむしっていました」

「何故だ?」

「気に食わなかったもので。草木がお好きなのでしたら、申し訳ないことをしましたわ。」

「お前、暗殺しに来たんじゃなかったんだな」

「私は聖女で、貴方に説法をしに来ました」

「そうか」

言い終わると、私の首元にあったナイフは下げられた。


「今後10年間月に1回、3時間、私は貴方に説法をすることが決まりました。ですが私は説法などする気がありません。今日はこの塔を綺麗にしましょう。やってくださいますか?」

王子を見ると、嫌だと言いたげな顔をしていた。

「断ったら、あのナイフ、こちらで預からなくてはなりません」

半ば脅すと、渋々ながら私の提案を承諾してくれた。


「お前、聖女なんだったら俺の事も祝福出来るのか?」

「やってみますか、頭を下げて下さい」


だが、彼の頭の上に手を置くとなるで磁石のように弾き飛ばされ

「い゛ッ」

「い゛ッ」


私も痛かったが彼も相当痛かったらしく、その日は彼に祝福を授けることも説法をすることも無く塔を後にした。





それからも月1回で王子と説法をするという名目で会い、年相応の遊びをした。


そして月日は流れ、私は名門の貴族が通う学校へ入学した。そして彼は別の国へ留学に行った。

その国は信仰しているものが違うため、彼は差別されるような事が起こらないと踏んだのだろう。

お互い合うこともなく、定期的に手紙を送り合う事で連絡は取っているが、ほとんど交流が薄れてしまっていっていた。
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