32 / 40
悪役令嬢エレクトラの誕生
しおりを挟む「おめでとうございます。公女様が誕生されました」
目を開いた瞬間、そこはきらきらと輝く世界だった。
海外の時代物ドラマで観たような姿の女性たちと、調度品。
こうじょさま。
自分の事らしいが…。
すこしぼんやりした視界に映る自分の手はとても小さくて。
これはまるで漫画や小説の世界にある異世界転生みたいだと思って笑うと、メイド姿の女性たちは『公女様が笑った』と喜んだ。
夢なのか、現実なのか。
親友に裏切られて。
尊敬する社長に弄ばれて。
同僚たちには嗤われ、絶望して、自暴自棄になって。
そこから記憶が途切れている。
もしかして、私は死んでしまったのだろうか。
まるでそれを裏付けるかのように。
幾日経っても。
何度寝ても覚めても、自分は『公女様』のままで。
やがて立派な姿の『公爵様』と『公爵夫人』と『公子様たち』に付き添われ、とてつもなく豪華な教会へ連れていかれ、物凄い金糸の刺繍をほどこされた衣をまとった老人から『エレクトラ』と呼ばれ、ようやく理解した。
自分は。
『聖女オーロラは愛を奏でる』というゲームの悪役、エレクトラ・クランツ公爵令嬢なのだと。
昔、移動時間の暇つぶしに読んだネット小説で山ほど見かけた設定。
事故や病気で亡くなったヒロインが生前目を通した小説やゲームの悪役令嬢に転生し、バッドエンドを回避するための孤軍奮闘し、周囲から愛される展開はもはやテンプレートだ。
これが一時の夢だとしても、みすみす自分が不幸になるのを待つだけなんてできるわけがない。
生まれた瞬間に覚醒したならば、それなりに意味があるはず。
自分を『ここ』に落とし込んだ『神』は何を望んでいるのだろう。
そして、してはならないことは何なのか。
とにかく、この世界のルールがわからない。
ある小説では『原作の強制力』が発動し、安易にフラグを折ると別の何かが代償として『壊される』ことがあった。
だから、些細なことから試すことにした。
『聖女オーロラは愛を奏でる』は大ヒットしたおかげで、漫画化もアニメ化して、攻略本やファンサイトの解説だけでなくイベントも開催されてスタッフの裏話までネットに流れていた。
その時に、キャラクターデザイナーや監督たちがゲーム中に盛り込めなかった多くの裏設定を公表してくれたのを、悲しいかなすべて覚えている。
そこまでのめり込んでいた当時の事は、死ぬ間際の自分にとって黒歴史でしかなかったけれど。
今は、それが自分にとっての何よりの力となる。
まずは、エレクトラについての裏設定を思い出す。
両親は高位貴族同士の政略結婚で、長男と次男、そしてエレクトラが生まれる頃までは夫婦仲は悪くなかった。
しかし、跡継ぎ、スペア、政略結婚の駒としての娘を産み終え、貴婦人としての務めを無事終えた母親が、プレッシャーから解き放たれたはずみから社交にのめり込み始める。
貴族世界には暗黙の了解があり、数人子どもを作れば夫婦は互いに好きにして良いとされていた。要するに、婚外恋愛の黙認だ。
もともと美しい母親はあちこちでもてはやされ、ファッションリーダーのような立場となって着飾ることに金をつぎ込み、様々な貴族との恋も嗜むようになる。
そんな妻に愛想をつかした公爵は仕事に邁進し、そして彼もまた愛人と過ごすようになり、子どもたちの養育は家臣たちにゆだねられ、情のつながりの一切ない冷え切った家庭となった。
第二王子の婚約者候補として早くから目を付けられていたエレクトラは二歳になるころから早期教育が始まり、無邪気な子ども時代とは無縁の生活を送り、『悪役令嬢』らしい少女に育つ。
これを根底から覆さねばならない。
まずは、母親の行状を変えてみることにした。
エレクトラは、母に抱かれると笑い、使用人たちに抱かれると大泣きしてみせた。
『お嬢様は、奥様が大好きなのですね』
侍女たちに感服したように言われると、悪い気はしない。
この国の貴婦人たちのほとんどは産み捨てで育児は使用人に丸投げが基本だが、そうでない家もある。
決して異端というわけではないのが救いだ。
鬱陶しがられない程度に頃合いと加減をみながら、ひたすら懐いて見せた。
着飾って出かけようとすると泣き、家にいると喜ぶ。
それを繰り返すと、母親は最低限の行事や茶会以外は出席しなくなり、エレクトラとともにいるようになった。
すると、兄二人の時は関わってこなかった子育てにおそるおそる手を伸ばす夫人に、使用人たちは好感を持ち始め、屋敷の中の雰囲気が変わっていく。
やがて夫である公爵も妻への見る目が変わっていき、息子たちもそれにならう。
家庭が円満になっていくついでに、彼らの交友関係も変わった。
金と権力で繋がりうわべだけの親交ばかりだった『前設定』の貴族たちとは距離を置き、良識ある稀有な人々と知り合うようになる。
注意深く様子をうかがってみるが、そのせいで公爵家に損害が出る様子はない。
そして、誰かが死ぬことも。
両親はまるで恋人同士のように過ごし、兄たちには溺愛される日々。
三歳になり、言葉もだいぶ話せるようになったエレクトラは次の手を打つことにした。
22
あなたにおすすめの小説
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です
宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。
若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。
若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。
王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。
そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。
これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。
国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。
男爵令嬢の教育はいかに!
中世ヨーロッパ風のお話です。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】王宮内は安定したらしいので、第二王子と国内の視察に行ってきます!(呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です)
まりぃべる
恋愛
異世界に呼ばれた佐川マリア。マリア・サガワとしてこの世界で生きて行く事に決め、第二王子殿下のルークウェスト=ヴァン=ケルンベルトと一緒に、この国をより良くしていきます!って、実際は2人で旅行がしたかっただけ?
呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です。
長くなりましたので、前作の続きでは無く新しくしました。前作でしおりを挟んでくれた方ありがとうございました。
読んでなくても分かるようにしております。けれど、分かりにくかったらすみません。
前作も読んで下さると嬉しいです。
まだまだ未熟なので、稚拙ではありますが、読んでいただけると嬉しいです。
☆前作で読者様よりご指摘が有りましたのでこちらにも記載しておきます。
主人公の年齢は設定としてありますが、読者様が主人公になれたらな(もしくは好きな年齢に当てはめて読めたら)という思いを込めて敢えて年齢を記載していません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる