さざ波のようにくりかえしくりかえし。-おとなの目で読むこどもの本ー

犬飼ハルノ

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やさしい歌につつまれて。『いしゃがよい』

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 先日、ブックサンタをしました。
 これは、図書館以外で本と接することが難しい子どもたちへ本を贈る運動で、参加書店で本を選んで支払いの時に『ブックサンタ』と言えば、購入した本をそのまま取りまとめのNPO法人へ書店から送ってもらえる仕組みになっています。
 今年は二か所の書店で二冊ずつ購入し、手続きをお願いしました。

 選んだのは、

『おちゃのじかんにきたとら』
 作・絵: ジュディス・カー
 訳: 晴海 耕平
 出版社: 童話館出版

『きつねのホイティ』
 作・絵: シビル・ウェッタシンハ
 訳: 松岡 享子
 出版社: 福音館書店

『しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん』
 作・絵: 高野 文子
 出版社: 福音館書店


 そして最後に、『いしゃがよい』です。 

 今年も福音館書店の絵本が優勢なのは、私の趣味の問題です。
 『きつねのホイティ』の紹介は後日また改めてするとして、本日はパンダと人間の心温まる話についてお話しします。


 では、まいりましょう。
 『いしゃがよい』について。

 私はペット不可住居に住んでいるため、一緒に暮らせない寂しさを紛らわすためにネットで犬や猫の画像をよく見ます。
 ずっと眺めているうちに思ったのですが、室内飼いの犬や猫は雌よりも雄の方が父性と言うか母性と言うか庇護欲が強い気がします。
 子猫がやってくると構い倒すのはたいてい雄のほう。
 せっせと舐めて甘やかします。
 たとえそれが異種族だとしても。

 それを思い起こさせる絵本がこちらになります。


 『いしゃがよい』
  作・絵: さくらせかい
  出版社: 福音館書店

 もともとは、こどものとも年少版2010年1月号で出版されたようですね。

 絵と文章がとてもシンプルです。
 そして、古き良き…というか、少し前まで日本人の想像の中にあった中国の世界が描かれている気がします。
 まずは人間の男性である、エンさん。
 漢字で書くと袁さんでしょうか。
 服装もほっそりした容姿もユニークで人の良さが現れており、さらに作者のさくらせかいさんが独特の画材を使っておられ、画面もなかなか面白いです。
 そして何よりも絵と同じくほっこりしたかわいらしい文章。
 幼児にも大人にも心地よい言葉が繰り返されます。


 『あるひ やまに きのこがりにきた
  エンさんは、 おおごえで ないている
  パンダを みつけたよ。』
 

 『きみはどこのこ?』と聞いても泣くだけの幼いパンダを、エンさんはファンファンと名付けて育て始めます。

 ところがこのパンダの子。
 早くに母親とはぐれたのか、とても病弱。
 何かあるたびにエンさんは、ファンファンを自転車の荷台に乗せて山を二つも越えて医者へ連れていきます。


『からだの よわい ファンファン
 おなかが いたいと ないているよ。

 エンさん じてんしゃに のせて
 ひとやま こえ
 ふたやま こえ
 いしゃがよい。』


 そして、無事に治療を終えた帰り道は必ず歌を歌ってやるのです。


 『このこ だれのこ パンダのこ』


 エンさんの背中につかまって安心しきったファンファンは幸せな眠りにつきます。
 どんな天気の日も、そしてファンファンがエンさんより大きくなっても、いしゃがよいは続きます。
 そして、帰り道はエンさんの歌が始まるのです。

 『このこ だれのこ パンダのこ』

 エンさんは、ファンファンをとてもとても大切に育てました。

 長い長い月日が流れ、今度は年老いたエンさんの体の調子が悪くなります。
 そこでファンファンは…。


 とても、とても優しいお話です。 

 読み進めていくうちに、やわらかな言葉から染み出る愛情がゆっくりと胸にしみていきます。
 言葉も、色も、最小限に選んで作られた絵本。
 でも、大切なことはきらめいていて。

 幼い時は素朴な言葉のリズムを楽しんで、大人になってからはぬくもりを感じさせられる、そんな作品だと思います。


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