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しおりを挟む中学三年の夏だった。自分がSubだと自覚した、その夏を、俺は死んでも忘れないと思う。
俺がSubだとわかった日のことは、今でもただ恐怖だけが記憶に残っている。
「侑李、どうかしたのか?お前、最近おかしいぞ」
休日の昼間だった。珍しく家にいた光貴が、寝室として利用している一室で、敷きっぱなしの布団から出てこない俺に声をかけて来た。
俺は体調が良く無くて、しかもそれが続いていたから、正直に兄を頼った。父親はいつでも家にいたけど、数年口を聞いていないし、まともに顔を見てもいない。ただ酒を浴びるように飲んで項垂れる背中だけを見て、もうそういう置物だと思うことにしていた。
家を維持して、俺を養っていたのは光貴だった。まだ二十代中頃の兄は、まともに高校も行けない人生を送っていたし、それでも文句を言うことも、わかりやすくグレたりすることもなかった。
そんな兄に迷惑をかけると思っていたから、体調のことはなかなか言い出せなかった。
「に、兄ちゃん……俺、なんか、体がおかしくて……」
でも心配をかけ続けるのも違う気がして、その日俺は、正直に兄に告げた。
「頭が痛くて眠れない……ずっと食欲もなくて、体が思うように動かない」
「熱は?風邪かな…?」
そう言って居間から体温計を取って来た光貴は、俺の横に腰を下ろして布団を捲った。
目が合った、と思った瞬間だった。
体の内側を、熱いものが駆け巡った。今でこそ理解してるけど、Subは欲求が満たされずに弱っている時、本能がDomに反応する。支配して、助けて、と。
DomもまたそんなSubに庇護欲を抱く。
だからお互いに抑制剤を飲むのだ。むやみやたらと襲わない、襲われないように。でもこの頃の俺にそんな知識どころか、第二性の知識すらまともになかった。
検査を受けるのは高校に入ってから、と、甘い考えで。
そしてDomだとかSubだとか、そんな珍しいものに自分は当てはまらないと、勝手に決めつけていた。光貴もnormalだと思っていた。けど、違った。
その瞬間、俺の本能は光貴を、満たしてくれる存在として認識した。でもただのガキで、弟である自分は戸惑って、恐怖した。
光貴が笑ってたから。
それも見たことのない、満面の笑みで、ギラついた瞳を真っ直ぐ俺に向けていた。
光貴にとって俺は、支配しても良い存在と認識されたとわかった。
「兄ちゃ、っ!?やめ、ぁう!!」
気付いたら首を絞められていた。戸惑いは、次第に強くなる息苦しさに消えて、目の前が暗くなっていった。両手で光貴の腕を掴むも、歳の差のある兄に敵うわけがない。
息苦しさが増すにつれて、両手の力が抜けた。
「アハハッ!そっか、侑李は俺に可愛がられたいから産まれてきたんだな……いずれは使ってやろうと思っていたけど、使い道が増えてよかったよ」
そんなようなことを言って、光貴は腕を離した。俺は急いで空気を吸い込み、ゴホゴホと咽せながら光貴を見た。
怖い。こんなの、俺の兄じゃない。
「大丈夫、侑李。そんな怯えなくてもいいよ。だってほら、侑李はこうやって苦しいこととか、痛いことをされて喜ぶんだからさ」
光貴は笑みを浮かべたまま、徐に手を動かして俺の股間をギュッと握る。驚きと痛みで涙が出た。
でもそれ以上に、自分がガチガチにそこ硬くしていることに戸惑った。
「な、なんで…?俺、どうしたの!?」
「侑李はSubだ。だから、Domの兄ちゃんの言うことを聞いて、苦しいことや痛いことをされて、喜んじゃう淫乱なんだよ」
「……え?ウソ、だよね?俺が……Sub?」
無い知識なりに、それがどう言う意味かは知っていた。つまり俺は、社会的に蔑まれ、見下され、差別を受ける弱者だということだ。
「体調不良は欲求不満だったからだね。優しい兄ちゃんが、侑李を助けてあげる。だから何も心配ないよ」
ニッコリと笑う光貴が、次の瞬間Commandを言った。たった一言。それだけで、俺は自覚した。忌まわしい本能というものを。
「Present」
ビクッと体が反応した。いう通りにしなければ、となんの疑いもなくそう思った。
俺は震える手でズボンと下着を脱ぎ、四つん這いになって、光貴に秘部を晒した。そんなことを平気でする自分が恐ろしい。だけど本能は当然だとばかりに喜びを感じている。
自分の中の矛盾した思いが気持ち悪い。
「お利口だね、侑李」
「に、兄ちゃん……なに、これ?怖いよ」
「大丈夫。侑李は何もしなくてもいいから」
口調は優しい。でも行動はおかしかった。光貴は後ろから、俺の口に指を突っ込んだ。顎を掴んで口を開かせ、喉の奥でも触ろうかという勢いで突っ込んでくる。
吐きそうになりながら涎を垂らし、なす術もない俺の口から指を抜き、今度は晒したままの尻に触れた。唾液でヌルッとした指が穴に触れて、ゾクゾクしたものが背筋を駆ける。
それからズブ、と指を入れられ、俺は苦痛に悲鳴をあげた。
「いっ、痛い!兄ちゃ、やめて!!抜いて!!」
反射的に逃げようとした。でも光貴がまた、StayとCommandを言って、意思に反して体が動かなくなった。
「いやだぁ!!やめてぇ!!お願い、兄ちゃん!!」
「でも侑李、早く慣れておいた方がいいよ?だって侑李はさ、これからずっと、死ぬまで、誰かにこうやって慰めてもらわないといけないんだ。Subってそういう生き物なんだから」
だから、俺がDomでよかったね、と光貴は言った。意味不明だった。
光貴は泣き叫ぶ俺に容赦なく、尻に入れた指を二本、三本と無理矢理増やしていった。
とにかく痛かった。怖かった。思春期だけど、同い年の周りほど性的なものに興味のなかった俺にも、この後光貴が何をするかくらいわかった。
指を抜かれると、そこがジクジクした痛みを訴えていて、俺はただ尻を上げたまま顔を伏せて泣いていた。直後に、今度は熱い塊が尻に触れた。
それからは、ただ痛いだけだった。裂けるような痛みや内臓が抉られような圧迫感を感じながら、喉が潰れるんじゃないかってほど泣き喚いて叫んで、悲鳴をあげた。
狭い平屋の一軒家で、すぐ隣は居間だ。父親はずっとそこにいる。なのに、俺がどれだけ「助けて!父さん!」と叫んでも、父親が何かしてくれるのとはなかった。
それに加えて、無理矢理突っ込んだ兄は笑ってた。心底楽しそうに、ケラケラと笑いながら、俺の腹の中を突き刺し、掻き回して、挙句うるさいと言って後ろから首に手を回して締め上げた。
恐怖と苦痛と疲労で気絶して、目を覚ました時に見たのは、血で濡れた下肢と敷き布団。それから、自分が出した精液が腹中に飛び散っている光景だった。
そんなことがあって、俺は光貴を恐れるようになった。少しも助けようとしてくれなかった父親も恨んだ。
なにより自分がSubで、あんな、ありえない苦痛を与えられて喜んで、そうしないと生きていけない生物になってしまったことが信じられなくて、悲しかった。絶望した。死にたいとすら思った。
こんな思いを抱えて、これまでと同じように学校なんて行けるわけがなかった。学校にDomがいたらどうする?兄みたいなやつだったら?そう思うと外に出るのも怖かった。
光貴はあんな鬼畜なことをしておいて、何食わぬ顔で生活していた。恐ろしいほど今まで通りで、それがまた怖かった。
尻の痛みが引いてきた頃、輝利哉と朔が家に来た。光貴は仕事に行っていたから、平日の昼だったと思う。大学生の2人は実家から一時間半もかけて大学に通っていて、それは俺のためだった。内向的で友達の少ない俺を心配して、実家を出て一人暮らしをするという選択をしなかったのだ。
「侑李、最近学校行ってないだろ?どうかした?」
「悩みがあるなら言えよ。おれたちがなんとかしてやる」
いつも通りに、2人は俺を気遣って、優しい言葉をかけてくれた。だから俺も、いつも通りに、2人に相談した。
俺がSubで、光貴はDomで。無理矢理ケツに突っ込まれて、それ以来兄が怖いんだとか、外に出たくないとか、まあ、言い方はもうちょっと中学生らしかったと思うけれど、そんなようなことを言った。
輝利哉も朔も、俺の話を真剣に聞いてくれた。それから抱きしめてくれて、俺は2人に頭を撫でられながら泣きじゃくった。
その日の夜、輝利哉と朔は光貴を連れ出した。3人で話し合いをすると言っていた。
それっきりだった。俺が最後に輝利哉と朔を見たのはそれが最後。
2人ともいつの間にか実家を出ていた。何も言わずに消えてしまった。
俺があんな相談したからだ。そう思った。きっと、気持ち悪いと思われたんだ、と。いくらなんでも兄弟でセックスなんて、それが第二性に振り回されたものだとしても、気持ち悪いと思うに決まっている。
兄に無理矢理犯されたことより、輝利哉と朔に捨てられた事の方が辛かった。
そのまま学校はいかず、夏休みを迎えた。
俺は一日中寝室の隅で膝を抱えていた。家にいて、光貴と顔を合わせるのも怖くて、ずっと俯いていた。
そんなある日、光貴は珍しく友達を連れて帰ってきた。
見た目だけは爽やかな好青年の光貴に似合わない、派手な見た目の男たちだった。
光貴はそいつらを俺に紹介した。俺は光貴が怖くて、言われるがまま挨拶した。で、光貴は言った。
「みんなが侑李のこと可愛がってくれるからさ、お利口にするんだよ?そしたら後でいっぱい褒めてあげるから」
え?と、首を傾げて戸惑う。
男たちはニヤニヤと笑って手を伸ばして来る。
怖くて動けなかった。体がガチガチに固まってしまって、声も出せなかった。
そうしている間に、裸にされて床に転がされ、全身隈なく弄ばれ、またあの痛みに耐えて、耐えて、耐えて。
中学最後の夏休み。約1か月間。
その間に、他の人が一生にするよりも多く、セックスもプレイもさせられた。毎日、昼夜を問わず誰かが来て、俺をおもちゃにして、入れ替わるようにまた誰かがやって来る。
もう時間も日付も何もわからなくなって、ただ必死で耐えて。諦めた。
諦めて、唐突に気付いたんだ。
いつからかわからないけれど、いつのまにか受け入れて、むしろ楽しんでいる自分に。快楽にハマって、命令に従って、支配されて喜ぶ自分に気付いた。
身を任せて可愛がって貰って、いっぱい気持ち良くして貰って、それで、あれ…?俺は何がイヤだったんだっけ?
だって俺はSubだから、痛いのも苦しいのも嬉しい。支配して、気持ち良くしてくれるならなんでもいい。
1か月犯され続けて、俺はそうやって自分がSubであることを受け入れた。それからはもう、堕ちるところまで堕ちて、兄の言いなりだった。
別にそれでよかったし、体を売って金が手に入るなら悪い商売じゃないとも思っていた。
もう俺には頼れる人が兄しかいなかったんだ。
そして結局今も、俺には兄しかいないんだと思う。
光貴がなんで俺に執着しているのかはわかっている。
認めたくないしできるだけ隠してきたけれど、光貴は俺の兄で、弟の俺も、実を言えば性格がソックリだから。
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