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誘拐
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彼の話。
『けど、
彼は殺人犯であり
ルール的に蘇らせてはいけない』
眼鏡をかけた女の人が私にそう言った。
そもそも、
なんでこうなったのか…
数十分前、
私達は半死者である
彼の話をしていた。
『彼は、
貧しい家庭に生まれ
彼が幼稚園に入園する頃
母親は流行病で亡くなり
同じくらいに
父親も交通事故で亡くしました』
眼鏡をかけた女の人が
資料を見ながら言うと
私の前の男の人が
『両親を同時に
亡くしたようなもんじゃないか…
辛かっただろうな…』と言葉を返した。
すると、
茶髪の女の人が
『辛いと言うより
彼のその後が気になります』と言った。
『気になる?』
私がそう言うと
茶髪の女の人が
『えっと…こんな話を聞いた事があります。
過度なストレスに
晒され生きてきた子供は…』と言いかけて
スキンヘッドの男の人が
先読みでもしたように
『犯罪者になりやすい…だろ?』と
茶髪の女の人に言った。
『はい…えっと、
犯罪者になりうる家庭環境って
本に書かれてました』
茶髪の女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『まぁ、
一概に言えることじゃないが
犯罪者になりうる家庭環境として
過度なストレスの他に
経済的な貧困や教育的貧困
繰り返される家庭内暴力に
愛情不足などがよく言われる』と言った。
『ふむ…って事は、
彼は過度なストレスと
両親が亡くなった事による
愛情不足により
犯罪者になる可能性があると?』
眼鏡をかけた女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『まぁ…
あくまで可能性の話だがな』と言った。
その予測は大きく当たり
資料の次のページに
彼が18歳になった時
近所の中学生3名を誘拐し
その後 少年院に入っていた事がわかった。
『いや…マジかよ…』
ギャル男がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『う~ん、
でも 身代金誘拐とかじゃなく
誘拐した子供達は
2週間後に返したってなってるよ。
そもそも、
本当に誘拐なの?これ』と言った。
確かに、
漫画やコントとかで見る
誘拐は 金持ちの家の子供を誘拐して
身代金などを要求してたような…けど
彼はお世辞にも
お金持ちとは言えない家の子供を誘拐し
身代金を要求することなく
2週間後に怪我をさせることなく
家へ返している。
資料には
誘拐の理由として
「身代金目的だったけど
お金持ってないから返した」とだけ
書かれていた。
けど、
身代金目的なのに
彼は誘拐した子供の親達に
身代金要求の電話をかけていない。
矛盾している…
いったい、
何の為に彼は
誘拐をしたのか…
考えていると
男の人が『なぁ、
彼ってこの誘拐事件を起こした後
少年院に入って6年後に出所してから
男女6名を殺す事件を
起こしてんだよな?』と言った。
『えっと…
ハロー事件のことですね』
眼鏡をかけた女の人が
資料のページを捲り
事件の記事を開きながら言う。
『ハロー事件?
なにそれ?』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が資料を見つつ
『資料によると
英会話の家庭教師を装った男…
まぁ 彼のことだろうが…。
玄関を開けて出てきた人間を持ってた
ナイフで一突き。
被害者のうち6名中6名の体に
前から刺されたであろう
胸の刺し傷が1ヶ所と
追い討ちをかけたのか
背中の刺し傷が凡そ20ヶ所って
書かれてるな…』と言った。
『20ヶ所って…』
驚きつつ言う男の人を気にしつつ
私が『怨恨かな…』と言った。
『かもな。
だけど、
変なのは
資料によると
彼は殺した6名と
顔を合わせた事が無いらしい』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
アンジェラアキ風の女の人が
『えっ…なんで
彼はその人達を殺したの?』と言った。
『わからん。
だが、
資料を読む限り
怨恨に見せかけた事は確かだろうな』
スキンヘッドの男の人が言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『う~ん、
なんか さっきの子供の誘拐の話と
この事件って関係してるのかな…』と
首を傾げつつ言った。
『関係?』
私がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『うん。
なんとなくだけど…』と言い 話を続けた。
『資料のこの部分だけど、
彼が殺した人の苗字って
誘拐された子供達の苗字と
一致してるんだよね』
そう言って
マシュマロヘアーの女の人が
資料のページを指差すと
ギャル男が『偶然じゃね?
だいたい、
他人と同じ苗字なんて
いくらでも居たぜ?
俺の生きてた時のアルバイト先になんか
佐藤が7人も居たぞ』と言った。
『いや、
7人は偶然にしても多いな…』
スキンヘッドの男の人が
ギャル男にそう返すと
ギャル男が『だろ?
佐藤が7人も居るくらいだから
たまたま殺された人の苗字と
誘拐された子供の苗字が
一緒って事もあるんじゃね?』と言った。
偶然の一致…にしては
なんか変な気がする。
誘拐された子供も
身代金要求されていないって部分で
すごく違和感を感じたし…
そもそも彼は
何故子供を誘拐したんだろう…
『いや、
偶然にしては
おかしいだろ?』
男の人がそう言うと
ギャル男が『苗字の一致だぜ?
無い事ないだろ?』と言った。
『誘拐事件の子供の苗字と同じ苗字の人が
男女揃って被害に遭ってるようだが
被害者の年齢をよく見てみろ』
男の人がそう言うと
全員が被害者の年齢を確認した。
『あれ…全員 40代くらい?』
マシュマロヘアーの女の人が言った。
確かに 被害者はどの人も
凡そ49歳前後くらいで
家族の中に19歳の子供がいた。
『妙だと思わないか?
苗字が同じで
その子供の年齢を6歳若返らせたら
あの誘拐された子供の
年齢くらいになるって…』
男の人がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『確かに
偶然にしては出来過ぎてますね…』と
言葉を返した。
確かに…。
まるで、
誘拐された子供の親を
狙って殺したように見える。
けど、
どうして彼は
被害者を殺したんだろう…
考えていると
『中学生の子供を持つ親の年齢なんて
どこもほぼ同じだろ?
それに佐藤も鈴木も
日本人の苗字には多いし
そうじゃなくても
近隣に自分と同じ苗字の人がいるなんて
特別珍しくもない』と子供が言った。
『なら、
なんで彼は
被害者を殺したの?
それも20ヶ所も刺して』
マシュマロヘアーの女の人が言うと
子供が『それはわからないけど…』と言い
マシュマロヘアーの女の人が子供へ
『やっぱりわからないじゃん。
証拠が無ければ年齢も苗字も
偶然だとは言えないよ』と
言葉を返した。
『それは、
逆もまた然りなのでは?』
そう声が聞こえ
声の聞こえた方を見ると
誰も座っていなかったはずの椅子に
執事のような格好の男の人が座っていた。
『逆も然り?
どう言う意味?』
マシュマロヘアーの女の人が言うと
執事のような格好の男の人は
『つまり、
証拠が無ければ
苗字も年齢も
犯人に繋がる鍵にはならないでしょう』と
言葉を返した。
確かに その通り。
全てが偶然の一致かもしれない。
けど、
偶然の一致にしたら
彼は何故 偶然
誘拐した子供と同じ苗字の人を
6人殺したのか…
『そもそも、
彼はなんで子供を
誘拐しようと思ったんだろう?』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『…確かに。
身代金要求の電話もしないで
身代金目的と言ってみたり…
彼の言動には
不審な箇所が多いな』と
言葉を返した。
『そもそも、
身代金目的みたいな事を言ったんだよね?』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
少女が私に『…ねぇ、
誘拐された子供達は
救われたと思う?』と私に聞いた。
救われた?
誘拐されたのに
何故救われたんだろう…
考えていると
アンジェラアキ風の女の人が
『そう言えば、
子供の名前はよく出て来るのに
親達のコメントは無いね』と
資料を見ながら言った。
確かに 資料を読み返して
どこにも誘拐された子供達の親への
インタビュー記事が無かった。
『対面を気にしたのか?
それにしては
子供の名前が記事に載った時点で
周囲には気づかれると思うが…』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
資料の誘拐された子供達の写真を見ていた
眼鏡の女の人が
『うん?
なんで みんな
ジャージの長袖を着てるんでしょう?』と
言った。
『長袖?
どうせ 体育とかで使ったんじゃね?
誘拐されたのだって
塾帰りの19時21分らしいし
学校から帰って塾に向かった子供が
狙われただけだろ?』
うん?
なんかおかしいような…
そもそも子供達は
いつ誘拐されたんだろう…
『ねぇ、
子供達って
いつ誘拐されたんだっけ?』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『資料によると
9月09日らしい』と言葉を返した。
『やっぱりおかしい…』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『何がおかしいんだ?』と言った。
『格好だよ。
夜だけどまだ9月だし…』
私がそう言うと
子供が『9月でも
寒がりはジャージを
羽織ったりするだろ?』と言葉を返した。
季節の変わり目だし
確かに いない事は無いだろうけど
それでも誘拐された子供達が
まるで肌を見せたく無いかの如く
全員長袖を着ていたなんて…
やっぱりおかしい気がする。
『いない事ないけど
全員長袖は変だよ。
それにこの写真の子供、
怯えてるように見えない?』
資料の誘拐された子供が
無事家に帰ってきたところを撮ったであろう
写真を指差し言った。
『確かに…』
男の人がそう言うと
私は『そもそも帰ってきたのに
子供がなんで怯えてるんだろう?
犯人である彼に
怪我をさせられた訳じゃないし
脅されていた訳でもないのに…』と言った。
すると、
『そう言えば、
こんな話があったな…』と
スキンヘッドの男の人が言い 話を続けた。
『ストックホルム症候群って知ってるか?』
スキンヘッドの男の人が
全員に言うと
茶髪の女の人が
『資料室の本棚で
名称だけは見た事があります』と
言葉を返した。
『ふむ…簡易的な言い方だと
ストックホルム症候群とは
誘拐事件や監禁事件の被害者が
生存戦略として犯人との間に
心理的な繋がりを築くことを言うんだが
その中には
ごく僅かだが
犯人側が被害者側に共感し
犯罪を起こした事例もある』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
私が『共感?
どういうこと?』と言葉を返した。
『事例の一つなんだが
犯人が誘拐した子供は
虐待を受けていて
犯人は子供の親に
絶対に払えないほどの
身代金の額を提示し
親が払えないとわかると
即SNSサイトで子供を殺したと
嘘の情報を流したとか…
誘拐された子供は
その後 誘拐犯が捕まった時
「そのおじさんは
悪い事なんてしてない!!
だから、
おじさんを捕まえないで!!」って
何度も言ってたそうだ。
まぁ、
誘拐された子供の親は
世間体を気にして
子供を探すフリをしていたみたいだが…』
ため息を吐きつつ
スキンヘッドの男の人がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
スキンヘッドの男の人に
『そもそも犯人は
捕まるとわかっているのに
なんで
子供を誘拐したんでしょうか?』と
質問した。
『う~ん、
本当かどうかわからないが
彼が子供の頃
家庭はとても貧しく
彼の父親は酒が無く度に
子供である彼を殴る蹴るして
暴力を振るい 鬱憤を晴らしていたらしい。
母親は 彼が暴力を振るわれてる間は
自分に暴力が振るわれることは無いからと
意識が無くなるまで殴る蹴るされる彼を
見て見ぬ振りしてたそうだ』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
子供が俯き
『何処にでも居るのか…』と呟いた。
『まぁ、
話を聞いた俺の仮説だが
犯人は虐待を受けていた子供を
誘拐する前から知っていて
なんとか子供を助けたいと思っていて
いろいろな方法を試したが
どんな事をしても
親は子供に虐待する事をやめなかった。
だから、
誘拐したんだと思う…』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
私が『彼ももしかして…』と言い
スキンヘッドの男の人が私に
『わからないが
その可能性はあると思う』と言葉を返した。
ふと、
さっき少女が言った
『…ねぇ、
誘拐された子供達は
救われたと思う?』って言葉が気になった。
もしかして…けど
まだ確証がないから確かめないと…
彼がもし
子供を助けようとして
誘拐したとしたなら…それに
彼が6年後に起こしたハロー事件についても
もしそこを確かめたなら…
資料を読み返しつつ
私は 子供を返した後
彼が自ら自首したのかについて
どこかに書かれてないか探していると
男の人が『けど、
もし彼が殺した6人が
誘拐した3人の子供の親だったとして
なんで殺したんだろうな…』と言った。
子供の親…そう、
もしそうだったとしたら
子供の長袖の下には…
『あった』
資料の あるページを開き
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『どうした?』と言った。
『見つけた…
偶然じゃない証拠』
私がそう言うと
執事のような格好の男の人が私に
『ほう…偶然ではない証拠ですか。
ならば、
証明してみてください』と言った。
『うん、
言われなくてもそのつもりだよ』
そう言うと
私が開いてた資料のページ数を読み上げ
『みんな、
開いてみて』と言った。
『モラルハラスメントと
モラルハザードについて
えっと…どう言う意味?』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『モラルハラスメントは
論理 道徳に反した嫌がらせと言う意味で
物理的な暴力と違って
相手を言葉によって
精神的に追い詰める事だ。
モラルハザードは
元は保険用語だったが
この場合は
論理が欠如した危険な状態だな』と
言葉を返した。
『えっと、
まだ難しいよ…』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
『つまり、
精神的暴力と
家庭環境最悪な状態について
的な感じだろ?』と
男の人がページを指差し言った。
『うん。
物理的な暴力は
外に伝わりやすく
発覚を恐れる親は
殴る蹴ると並行的に
精神攻撃によって
子供の尊厳のような部分を
へし折ろうとする。
そして、
へし折られた子供は
外へ助けを求める事が出来なくなる』
私がそう言うと
子供が『…そうだな。
俺は助けを求めるどころじゃなかったし
自分が虐待されてる事にすら
ここに来るまで気づけなかった』と言った。
『そう言うことか…』
スキンヘッドの男の人が
私が何が言いたいのかわかったのか
椅子から立ち上がり
『長い間、
暴力や精神攻撃を受け続けると
脳がそれを正常な事だと認識してしまう。
そして、
ある時 その状態から解放されたとしても
当人の脳は 解放された事を
異常だと認識し
強いストレスを感じてしまう』と言った。
『そう…誘拐された子供達が
家に帰ってきた後に撮られた写真に
怯えた顔で写ってたのは
親による暴力と精神攻撃が無くなった
2週間の間
親によるモラルハザードから抜け出した事で
少しだけ立ち直れたけど
家に帰されたことによる…』
言いかけて
眼鏡をかけた女の人が
『抵抗…ですか?』と言った。
『うん。
私はこの写真を見てそう確信した。
ここからは、
確信に近いけど
書いてある訳じゃないから私の仮説。
彼は最初、
身代金目的の誘拐をしようとしていた。
けど、
たまたま誘拐した子供は
3人とも家庭環境に難ありで
季節的に暑いだろうに
長袖のジャージを着て
殴った訳でも
荒い言葉で脅した訳でもないのに
ずっと震えたまま…。
彼は思っただろう。
「何故、
そんなに怯えてるだろうか?」と。
どうにも気になった彼は
3人の子供のうち
1番非力な少女に
ナイフで脅した訳でもないのに
どうしてそんなにも
怯えるのかを聞いてみた。
すると、
最初は怖がり
まともに喋れなかった少女だったけど
彼が何もしない事がわかり
徐々に少女が心を開き
次に もう1人…またもう1人と
全員が心を開き 彼に
何故怯えていたのかを話した。
子供達の話を聞いていくうちに彼の心の中に
徐々に許せないという気持ちが湧き
彼は子供達と1つ約束をした』
そこまで言うと年配の男の人が
『約束?
その約束とは…』と言いかけ
男の人が
『…親を殺す約束だろ…』と言った。
『うん。
きっと最後には
親を殺すという約束をしたんだと思う』
私がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『そんな…
親がやっていた事もあんまりですが
それでは彼が…』と言いかけて
私が『それでも
彼は子供達を救いたいって思ったんだよ』と
言葉を返した。
『って事は、
彼は子供達に頼まれて
親を殺したって事か…けど
誘拐事件から6年後なのに
なんでまた…』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
私は『たぶん、
捕まるつもりじゃなかったんだと思う。
誘拐も誘拐とは言えない感じで
終わったし…』と言葉を返した。
『誘拐とは言えない感じ?
それってどういうこと?』
マシュマロヘアーの女の人が
私の方を向き言うと
私は『考えてみて。
最初の目的は身代金目的だったけど
誘拐した子供は身代金を取れるほどではなく
お世辞にもお金持ちとは言えない感じで
さらに虐待を受けていた。
そんな状態で
子供を心配して親が
身代金を出すと思う?』と言葉を返すと
マシュマロヘアーの女の人が
『あっ…そう言うことか…』と言った。
『けど、
彼の計画が誤算だったのは
身代金が取れなかった事じゃなく
親が世間体を気にして
警察に通報していたこと。
これにより、
彼は子供が無事帰れたか
心配になり見に行ったところで
職質を受け逮捕されることになる』
そう言うと
少女が『間違っていても
その裏の間違いに気付けないんだよね…』と
俯き言った。
『…うん。
彼が子供に頼まれた事も
彼が誘拐した事も
全て誉められないけど
反対側も褒められた事じゃない。
けど、
周りがそれに気づき動かない限り
どんな間違いも見えないんだよ…』
そう言うと
年配の男の人が
『そうですね…
人は目先の悪に気付けても
その裏側に棲みつく巨悪に気づかないし
その巨悪が大きければ大きいほど
見て見ぬ振りをしてしまう…
悲しい生き物です…』と
涙ぐみながら言った。
『それで、
彼は6年後
子供達との約束を果たす為に
ハロー事件を引き起こした。と…』
アンジェラアキ風の女の人がそう言うと
私は『うん。
彼は確かに人を6人も殺した。
それは許されない事だけど
だからって死と
簡単に下して良いのかな…』と言葉を返した。
しばらくの沈黙後、
眼鏡をかけた女の人が椅子から立ち上がり
『けど、
彼は殺人犯であり
ルール的に蘇らせてはいけない』と言い
話を続けた。
『至上者の定めたルールには
自殺と殺人は
死だと明確に書かれております。
例え、
彼が子供達を守ろうとした結果
約束をしてしまったとしても
殺さない方法だって…』
眼鏡をかけた女の人がそこまで言いかけて
私が『無理だよ』と言った。
『なんで…』
『たぶん、
彼は子供達の背中の傷を見たんだと思う』
そう言うと
資料の あるページを開き
そこに貼られた3枚の写真を
全員に見えるように開き向けた。
『なっ…』
そこには、
目を覆いたくなるような
生々しい傷の写真が貼られていた。
『私が彼の立場なら
きっと誘拐したまま返さなかったと思う。
まぁ、
歳的には親元に居たから
親に迷惑かけないように
何かしら他にも考えてたかもだけど…』
そう言うと
執事のような格好の男の人が
『けど、
どんな事を言っても
殺人を犯した事には変わりない』と言った。
『…ねぇ、
なんで私達みたいな死人に
至上者は半死者の
あれやこれやを任せてるのかな?』
私が執事のような格好の男の人に言うと
執事のような格好の男の人は
『なっ…なにをいきなり…』と言葉を返した。
そう…私達は
本来罪を受け死んだ人。
だから、
半死の生き死にの判断なんて難しい事
出来る訳がない。
けど、
至上者が
私達に任せてのは…。
『人間らしさ…だよね…お姉ちゃん』
少女がそう言うと
私は『うん、
私もそう思う』と言葉を返した。
『人間らしさ…何をいったい言って…』
執事のような格好の男の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
ニカッと笑いながら
『まぁ、
その考えなら俺らにしか出来ないな。
だって、
元人間だったし』と言った。
『そうだね…
私も上手くは出来ないけど
家族(みんな)と話し合うから出来てるし
人の生き死にを話し合うのに
人間らしさは必要だと思う』
マシュマロヘアーの女の人が
そう言うと
男の人やアンジェラアキ風の女の人が
うんうんと頷いた。
『…人の生き死にを話し合うのに
人間らしさは必要…ですか。
甘いですね…えぇ 良いでしょう。
いつか、
あなた方のその甘さが
大罪を引き起こさない事を願うばかりです』
そう言うと
執事のような格好の男の人は会釈しつつ
スッと消えた。
『時間がありません。
採決を採りましょう』
眼鏡をかけた女の人がそう言うと
全員が頷いた。
しばらくして
彼は病院のベットの上で目を覚ました。
頭には包帯が巻かれ
まだ少しズキズキと痛み
ここ(病院)へ運ばれた記憶が無かった。
『お姉ちゃん…お姉ちゃんは
亡くなった時の記憶…取り戻したい?』
その様子を見ていた少女が
私の方を向き
何かを気にしているのか
おどおど口調で言った。
『記憶?
う~ん、
どうだろう…取り戻せたら
もっと役に立てるのかな…けど
取り戻して私じゃなくなったら怖いし…』
言いかけて少女が
『お姉ちゃん…私、
お姉ちゃんに謝らないと
いけないことがあるの』と言った。
『謝らないといけない事?』
それから数日後、
刑事が1人 彼のいる病室を訪ねてきて
子供の写真を1枚見せた。
『…雪乃ちゃん…』
誘拐された子供のうちの1人だ。
彼がそう言うと
刑事は言いづらそうに
『彼女は君が事件を起こす2年前に
実の父親の手によって亡くなりました』と
告げられた。
『そんな…』
彼の脳裏に
『お兄さん、
絶対助けてよ…』と言って
帰っていくあの日の姿が映り
それ以上の言葉が出てこなかった。
『それと、
あなたを襲ったであろう人物ですが
現在 葉山 雪乃さんの
妹である葉山 純連さんに任意動向を…』
彼は後悔した。
あの声を 助けてあげられなかった事…
帰っていくあの日の背中を
引き止めなかった事…
警察に捕まった事…
何もかもに後悔し
刑事の言ってる言葉がわからなかった。
『…ですので
あなたのところには現れないと思いますが
どうか現れた時にはこちらに一報ください。
すぐに駆けつけますので』
刑事が出ていき
心音計の無機質な音が鳴り響く。
『俺は…なんてことを…』
自分を責めていると
病室の扉が開く音が聞こえ
扉の方を見ると
あの日誘拐した子供のうち
葉山 雪乃が着ていた
長袖ジャージらしきものを着た
少女が立っていた。
『雪乃…ちゃん…』
絞り出すように声が出た。
すると少女は
ポケットからカッターナイフを取り出し
『あなたさえ
あの日お姉ちゃんに会わなければ…
私のお姉ちゃんを返せ!!』と言って
ベッドの上の彼の胸へ突き刺した。
『そうか…ごめん…俺は…』
鮮血がベッドを赤く染め
鬼の形相で彼の胸へ何度も
カッターナイフを
突き刺し続ける少女を見ながら
彼は息絶えるその瞬間まで
少女に謝り続けた。
~~~誘拐~~~
END
『けど、
彼は殺人犯であり
ルール的に蘇らせてはいけない』
眼鏡をかけた女の人が私にそう言った。
そもそも、
なんでこうなったのか…
数十分前、
私達は半死者である
彼の話をしていた。
『彼は、
貧しい家庭に生まれ
彼が幼稚園に入園する頃
母親は流行病で亡くなり
同じくらいに
父親も交通事故で亡くしました』
眼鏡をかけた女の人が
資料を見ながら言うと
私の前の男の人が
『両親を同時に
亡くしたようなもんじゃないか…
辛かっただろうな…』と言葉を返した。
すると、
茶髪の女の人が
『辛いと言うより
彼のその後が気になります』と言った。
『気になる?』
私がそう言うと
茶髪の女の人が
『えっと…こんな話を聞いた事があります。
過度なストレスに
晒され生きてきた子供は…』と言いかけて
スキンヘッドの男の人が
先読みでもしたように
『犯罪者になりやすい…だろ?』と
茶髪の女の人に言った。
『はい…えっと、
犯罪者になりうる家庭環境って
本に書かれてました』
茶髪の女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『まぁ、
一概に言えることじゃないが
犯罪者になりうる家庭環境として
過度なストレスの他に
経済的な貧困や教育的貧困
繰り返される家庭内暴力に
愛情不足などがよく言われる』と言った。
『ふむ…って事は、
彼は過度なストレスと
両親が亡くなった事による
愛情不足により
犯罪者になる可能性があると?』
眼鏡をかけた女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『まぁ…
あくまで可能性の話だがな』と言った。
その予測は大きく当たり
資料の次のページに
彼が18歳になった時
近所の中学生3名を誘拐し
その後 少年院に入っていた事がわかった。
『いや…マジかよ…』
ギャル男がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『う~ん、
でも 身代金誘拐とかじゃなく
誘拐した子供達は
2週間後に返したってなってるよ。
そもそも、
本当に誘拐なの?これ』と言った。
確かに、
漫画やコントとかで見る
誘拐は 金持ちの家の子供を誘拐して
身代金などを要求してたような…けど
彼はお世辞にも
お金持ちとは言えない家の子供を誘拐し
身代金を要求することなく
2週間後に怪我をさせることなく
家へ返している。
資料には
誘拐の理由として
「身代金目的だったけど
お金持ってないから返した」とだけ
書かれていた。
けど、
身代金目的なのに
彼は誘拐した子供の親達に
身代金要求の電話をかけていない。
矛盾している…
いったい、
何の為に彼は
誘拐をしたのか…
考えていると
男の人が『なぁ、
彼ってこの誘拐事件を起こした後
少年院に入って6年後に出所してから
男女6名を殺す事件を
起こしてんだよな?』と言った。
『えっと…
ハロー事件のことですね』
眼鏡をかけた女の人が
資料のページを捲り
事件の記事を開きながら言う。
『ハロー事件?
なにそれ?』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が資料を見つつ
『資料によると
英会話の家庭教師を装った男…
まぁ 彼のことだろうが…。
玄関を開けて出てきた人間を持ってた
ナイフで一突き。
被害者のうち6名中6名の体に
前から刺されたであろう
胸の刺し傷が1ヶ所と
追い討ちをかけたのか
背中の刺し傷が凡そ20ヶ所って
書かれてるな…』と言った。
『20ヶ所って…』
驚きつつ言う男の人を気にしつつ
私が『怨恨かな…』と言った。
『かもな。
だけど、
変なのは
資料によると
彼は殺した6名と
顔を合わせた事が無いらしい』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
アンジェラアキ風の女の人が
『えっ…なんで
彼はその人達を殺したの?』と言った。
『わからん。
だが、
資料を読む限り
怨恨に見せかけた事は確かだろうな』
スキンヘッドの男の人が言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『う~ん、
なんか さっきの子供の誘拐の話と
この事件って関係してるのかな…』と
首を傾げつつ言った。
『関係?』
私がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『うん。
なんとなくだけど…』と言い 話を続けた。
『資料のこの部分だけど、
彼が殺した人の苗字って
誘拐された子供達の苗字と
一致してるんだよね』
そう言って
マシュマロヘアーの女の人が
資料のページを指差すと
ギャル男が『偶然じゃね?
だいたい、
他人と同じ苗字なんて
いくらでも居たぜ?
俺の生きてた時のアルバイト先になんか
佐藤が7人も居たぞ』と言った。
『いや、
7人は偶然にしても多いな…』
スキンヘッドの男の人が
ギャル男にそう返すと
ギャル男が『だろ?
佐藤が7人も居るくらいだから
たまたま殺された人の苗字と
誘拐された子供の苗字が
一緒って事もあるんじゃね?』と言った。
偶然の一致…にしては
なんか変な気がする。
誘拐された子供も
身代金要求されていないって部分で
すごく違和感を感じたし…
そもそも彼は
何故子供を誘拐したんだろう…
『いや、
偶然にしては
おかしいだろ?』
男の人がそう言うと
ギャル男が『苗字の一致だぜ?
無い事ないだろ?』と言った。
『誘拐事件の子供の苗字と同じ苗字の人が
男女揃って被害に遭ってるようだが
被害者の年齢をよく見てみろ』
男の人がそう言うと
全員が被害者の年齢を確認した。
『あれ…全員 40代くらい?』
マシュマロヘアーの女の人が言った。
確かに 被害者はどの人も
凡そ49歳前後くらいで
家族の中に19歳の子供がいた。
『妙だと思わないか?
苗字が同じで
その子供の年齢を6歳若返らせたら
あの誘拐された子供の
年齢くらいになるって…』
男の人がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『確かに
偶然にしては出来過ぎてますね…』と
言葉を返した。
確かに…。
まるで、
誘拐された子供の親を
狙って殺したように見える。
けど、
どうして彼は
被害者を殺したんだろう…
考えていると
『中学生の子供を持つ親の年齢なんて
どこもほぼ同じだろ?
それに佐藤も鈴木も
日本人の苗字には多いし
そうじゃなくても
近隣に自分と同じ苗字の人がいるなんて
特別珍しくもない』と子供が言った。
『なら、
なんで彼は
被害者を殺したの?
それも20ヶ所も刺して』
マシュマロヘアーの女の人が言うと
子供が『それはわからないけど…』と言い
マシュマロヘアーの女の人が子供へ
『やっぱりわからないじゃん。
証拠が無ければ年齢も苗字も
偶然だとは言えないよ』と
言葉を返した。
『それは、
逆もまた然りなのでは?』
そう声が聞こえ
声の聞こえた方を見ると
誰も座っていなかったはずの椅子に
執事のような格好の男の人が座っていた。
『逆も然り?
どう言う意味?』
マシュマロヘアーの女の人が言うと
執事のような格好の男の人は
『つまり、
証拠が無ければ
苗字も年齢も
犯人に繋がる鍵にはならないでしょう』と
言葉を返した。
確かに その通り。
全てが偶然の一致かもしれない。
けど、
偶然の一致にしたら
彼は何故 偶然
誘拐した子供と同じ苗字の人を
6人殺したのか…
『そもそも、
彼はなんで子供を
誘拐しようと思ったんだろう?』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『…確かに。
身代金要求の電話もしないで
身代金目的と言ってみたり…
彼の言動には
不審な箇所が多いな』と
言葉を返した。
『そもそも、
身代金目的みたいな事を言ったんだよね?』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
少女が私に『…ねぇ、
誘拐された子供達は
救われたと思う?』と私に聞いた。
救われた?
誘拐されたのに
何故救われたんだろう…
考えていると
アンジェラアキ風の女の人が
『そう言えば、
子供の名前はよく出て来るのに
親達のコメントは無いね』と
資料を見ながら言った。
確かに 資料を読み返して
どこにも誘拐された子供達の親への
インタビュー記事が無かった。
『対面を気にしたのか?
それにしては
子供の名前が記事に載った時点で
周囲には気づかれると思うが…』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
資料の誘拐された子供達の写真を見ていた
眼鏡の女の人が
『うん?
なんで みんな
ジャージの長袖を着てるんでしょう?』と
言った。
『長袖?
どうせ 体育とかで使ったんじゃね?
誘拐されたのだって
塾帰りの19時21分らしいし
学校から帰って塾に向かった子供が
狙われただけだろ?』
うん?
なんかおかしいような…
そもそも子供達は
いつ誘拐されたんだろう…
『ねぇ、
子供達って
いつ誘拐されたんだっけ?』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『資料によると
9月09日らしい』と言葉を返した。
『やっぱりおかしい…』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『何がおかしいんだ?』と言った。
『格好だよ。
夜だけどまだ9月だし…』
私がそう言うと
子供が『9月でも
寒がりはジャージを
羽織ったりするだろ?』と言葉を返した。
季節の変わり目だし
確かに いない事は無いだろうけど
それでも誘拐された子供達が
まるで肌を見せたく無いかの如く
全員長袖を着ていたなんて…
やっぱりおかしい気がする。
『いない事ないけど
全員長袖は変だよ。
それにこの写真の子供、
怯えてるように見えない?』
資料の誘拐された子供が
無事家に帰ってきたところを撮ったであろう
写真を指差し言った。
『確かに…』
男の人がそう言うと
私は『そもそも帰ってきたのに
子供がなんで怯えてるんだろう?
犯人である彼に
怪我をさせられた訳じゃないし
脅されていた訳でもないのに…』と言った。
すると、
『そう言えば、
こんな話があったな…』と
スキンヘッドの男の人が言い 話を続けた。
『ストックホルム症候群って知ってるか?』
スキンヘッドの男の人が
全員に言うと
茶髪の女の人が
『資料室の本棚で
名称だけは見た事があります』と
言葉を返した。
『ふむ…簡易的な言い方だと
ストックホルム症候群とは
誘拐事件や監禁事件の被害者が
生存戦略として犯人との間に
心理的な繋がりを築くことを言うんだが
その中には
ごく僅かだが
犯人側が被害者側に共感し
犯罪を起こした事例もある』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
私が『共感?
どういうこと?』と言葉を返した。
『事例の一つなんだが
犯人が誘拐した子供は
虐待を受けていて
犯人は子供の親に
絶対に払えないほどの
身代金の額を提示し
親が払えないとわかると
即SNSサイトで子供を殺したと
嘘の情報を流したとか…
誘拐された子供は
その後 誘拐犯が捕まった時
「そのおじさんは
悪い事なんてしてない!!
だから、
おじさんを捕まえないで!!」って
何度も言ってたそうだ。
まぁ、
誘拐された子供の親は
世間体を気にして
子供を探すフリをしていたみたいだが…』
ため息を吐きつつ
スキンヘッドの男の人がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
スキンヘッドの男の人に
『そもそも犯人は
捕まるとわかっているのに
なんで
子供を誘拐したんでしょうか?』と
質問した。
『う~ん、
本当かどうかわからないが
彼が子供の頃
家庭はとても貧しく
彼の父親は酒が無く度に
子供である彼を殴る蹴るして
暴力を振るい 鬱憤を晴らしていたらしい。
母親は 彼が暴力を振るわれてる間は
自分に暴力が振るわれることは無いからと
意識が無くなるまで殴る蹴るされる彼を
見て見ぬ振りしてたそうだ』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
子供が俯き
『何処にでも居るのか…』と呟いた。
『まぁ、
話を聞いた俺の仮説だが
犯人は虐待を受けていた子供を
誘拐する前から知っていて
なんとか子供を助けたいと思っていて
いろいろな方法を試したが
どんな事をしても
親は子供に虐待する事をやめなかった。
だから、
誘拐したんだと思う…』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
私が『彼ももしかして…』と言い
スキンヘッドの男の人が私に
『わからないが
その可能性はあると思う』と言葉を返した。
ふと、
さっき少女が言った
『…ねぇ、
誘拐された子供達は
救われたと思う?』って言葉が気になった。
もしかして…けど
まだ確証がないから確かめないと…
彼がもし
子供を助けようとして
誘拐したとしたなら…それに
彼が6年後に起こしたハロー事件についても
もしそこを確かめたなら…
資料を読み返しつつ
私は 子供を返した後
彼が自ら自首したのかについて
どこかに書かれてないか探していると
男の人が『けど、
もし彼が殺した6人が
誘拐した3人の子供の親だったとして
なんで殺したんだろうな…』と言った。
子供の親…そう、
もしそうだったとしたら
子供の長袖の下には…
『あった』
資料の あるページを開き
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『どうした?』と言った。
『見つけた…
偶然じゃない証拠』
私がそう言うと
執事のような格好の男の人が私に
『ほう…偶然ではない証拠ですか。
ならば、
証明してみてください』と言った。
『うん、
言われなくてもそのつもりだよ』
そう言うと
私が開いてた資料のページ数を読み上げ
『みんな、
開いてみて』と言った。
『モラルハラスメントと
モラルハザードについて
えっと…どう言う意味?』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『モラルハラスメントは
論理 道徳に反した嫌がらせと言う意味で
物理的な暴力と違って
相手を言葉によって
精神的に追い詰める事だ。
モラルハザードは
元は保険用語だったが
この場合は
論理が欠如した危険な状態だな』と
言葉を返した。
『えっと、
まだ難しいよ…』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
『つまり、
精神的暴力と
家庭環境最悪な状態について
的な感じだろ?』と
男の人がページを指差し言った。
『うん。
物理的な暴力は
外に伝わりやすく
発覚を恐れる親は
殴る蹴ると並行的に
精神攻撃によって
子供の尊厳のような部分を
へし折ろうとする。
そして、
へし折られた子供は
外へ助けを求める事が出来なくなる』
私がそう言うと
子供が『…そうだな。
俺は助けを求めるどころじゃなかったし
自分が虐待されてる事にすら
ここに来るまで気づけなかった』と言った。
『そう言うことか…』
スキンヘッドの男の人が
私が何が言いたいのかわかったのか
椅子から立ち上がり
『長い間、
暴力や精神攻撃を受け続けると
脳がそれを正常な事だと認識してしまう。
そして、
ある時 その状態から解放されたとしても
当人の脳は 解放された事を
異常だと認識し
強いストレスを感じてしまう』と言った。
『そう…誘拐された子供達が
家に帰ってきた後に撮られた写真に
怯えた顔で写ってたのは
親による暴力と精神攻撃が無くなった
2週間の間
親によるモラルハザードから抜け出した事で
少しだけ立ち直れたけど
家に帰されたことによる…』
言いかけて
眼鏡をかけた女の人が
『抵抗…ですか?』と言った。
『うん。
私はこの写真を見てそう確信した。
ここからは、
確信に近いけど
書いてある訳じゃないから私の仮説。
彼は最初、
身代金目的の誘拐をしようとしていた。
けど、
たまたま誘拐した子供は
3人とも家庭環境に難ありで
季節的に暑いだろうに
長袖のジャージを着て
殴った訳でも
荒い言葉で脅した訳でもないのに
ずっと震えたまま…。
彼は思っただろう。
「何故、
そんなに怯えてるだろうか?」と。
どうにも気になった彼は
3人の子供のうち
1番非力な少女に
ナイフで脅した訳でもないのに
どうしてそんなにも
怯えるのかを聞いてみた。
すると、
最初は怖がり
まともに喋れなかった少女だったけど
彼が何もしない事がわかり
徐々に少女が心を開き
次に もう1人…またもう1人と
全員が心を開き 彼に
何故怯えていたのかを話した。
子供達の話を聞いていくうちに彼の心の中に
徐々に許せないという気持ちが湧き
彼は子供達と1つ約束をした』
そこまで言うと年配の男の人が
『約束?
その約束とは…』と言いかけ
男の人が
『…親を殺す約束だろ…』と言った。
『うん。
きっと最後には
親を殺すという約束をしたんだと思う』
私がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『そんな…
親がやっていた事もあんまりですが
それでは彼が…』と言いかけて
私が『それでも
彼は子供達を救いたいって思ったんだよ』と
言葉を返した。
『って事は、
彼は子供達に頼まれて
親を殺したって事か…けど
誘拐事件から6年後なのに
なんでまた…』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
私は『たぶん、
捕まるつもりじゃなかったんだと思う。
誘拐も誘拐とは言えない感じで
終わったし…』と言葉を返した。
『誘拐とは言えない感じ?
それってどういうこと?』
マシュマロヘアーの女の人が
私の方を向き言うと
私は『考えてみて。
最初の目的は身代金目的だったけど
誘拐した子供は身代金を取れるほどではなく
お世辞にもお金持ちとは言えない感じで
さらに虐待を受けていた。
そんな状態で
子供を心配して親が
身代金を出すと思う?』と言葉を返すと
マシュマロヘアーの女の人が
『あっ…そう言うことか…』と言った。
『けど、
彼の計画が誤算だったのは
身代金が取れなかった事じゃなく
親が世間体を気にして
警察に通報していたこと。
これにより、
彼は子供が無事帰れたか
心配になり見に行ったところで
職質を受け逮捕されることになる』
そう言うと
少女が『間違っていても
その裏の間違いに気付けないんだよね…』と
俯き言った。
『…うん。
彼が子供に頼まれた事も
彼が誘拐した事も
全て誉められないけど
反対側も褒められた事じゃない。
けど、
周りがそれに気づき動かない限り
どんな間違いも見えないんだよ…』
そう言うと
年配の男の人が
『そうですね…
人は目先の悪に気付けても
その裏側に棲みつく巨悪に気づかないし
その巨悪が大きければ大きいほど
見て見ぬ振りをしてしまう…
悲しい生き物です…』と
涙ぐみながら言った。
『それで、
彼は6年後
子供達との約束を果たす為に
ハロー事件を引き起こした。と…』
アンジェラアキ風の女の人がそう言うと
私は『うん。
彼は確かに人を6人も殺した。
それは許されない事だけど
だからって死と
簡単に下して良いのかな…』と言葉を返した。
しばらくの沈黙後、
眼鏡をかけた女の人が椅子から立ち上がり
『けど、
彼は殺人犯であり
ルール的に蘇らせてはいけない』と言い
話を続けた。
『至上者の定めたルールには
自殺と殺人は
死だと明確に書かれております。
例え、
彼が子供達を守ろうとした結果
約束をしてしまったとしても
殺さない方法だって…』
眼鏡をかけた女の人がそこまで言いかけて
私が『無理だよ』と言った。
『なんで…』
『たぶん、
彼は子供達の背中の傷を見たんだと思う』
そう言うと
資料の あるページを開き
そこに貼られた3枚の写真を
全員に見えるように開き向けた。
『なっ…』
そこには、
目を覆いたくなるような
生々しい傷の写真が貼られていた。
『私が彼の立場なら
きっと誘拐したまま返さなかったと思う。
まぁ、
歳的には親元に居たから
親に迷惑かけないように
何かしら他にも考えてたかもだけど…』
そう言うと
執事のような格好の男の人が
『けど、
どんな事を言っても
殺人を犯した事には変わりない』と言った。
『…ねぇ、
なんで私達みたいな死人に
至上者は半死者の
あれやこれやを任せてるのかな?』
私が執事のような格好の男の人に言うと
執事のような格好の男の人は
『なっ…なにをいきなり…』と言葉を返した。
そう…私達は
本来罪を受け死んだ人。
だから、
半死の生き死にの判断なんて難しい事
出来る訳がない。
けど、
至上者が
私達に任せてのは…。
『人間らしさ…だよね…お姉ちゃん』
少女がそう言うと
私は『うん、
私もそう思う』と言葉を返した。
『人間らしさ…何をいったい言って…』
執事のような格好の男の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
ニカッと笑いながら
『まぁ、
その考えなら俺らにしか出来ないな。
だって、
元人間だったし』と言った。
『そうだね…
私も上手くは出来ないけど
家族(みんな)と話し合うから出来てるし
人の生き死にを話し合うのに
人間らしさは必要だと思う』
マシュマロヘアーの女の人が
そう言うと
男の人やアンジェラアキ風の女の人が
うんうんと頷いた。
『…人の生き死にを話し合うのに
人間らしさは必要…ですか。
甘いですね…えぇ 良いでしょう。
いつか、
あなた方のその甘さが
大罪を引き起こさない事を願うばかりです』
そう言うと
執事のような格好の男の人は会釈しつつ
スッと消えた。
『時間がありません。
採決を採りましょう』
眼鏡をかけた女の人がそう言うと
全員が頷いた。
しばらくして
彼は病院のベットの上で目を覚ました。
頭には包帯が巻かれ
まだ少しズキズキと痛み
ここ(病院)へ運ばれた記憶が無かった。
『お姉ちゃん…お姉ちゃんは
亡くなった時の記憶…取り戻したい?』
その様子を見ていた少女が
私の方を向き
何かを気にしているのか
おどおど口調で言った。
『記憶?
う~ん、
どうだろう…取り戻せたら
もっと役に立てるのかな…けど
取り戻して私じゃなくなったら怖いし…』
言いかけて少女が
『お姉ちゃん…私、
お姉ちゃんに謝らないと
いけないことがあるの』と言った。
『謝らないといけない事?』
それから数日後、
刑事が1人 彼のいる病室を訪ねてきて
子供の写真を1枚見せた。
『…雪乃ちゃん…』
誘拐された子供のうちの1人だ。
彼がそう言うと
刑事は言いづらそうに
『彼女は君が事件を起こす2年前に
実の父親の手によって亡くなりました』と
告げられた。
『そんな…』
彼の脳裏に
『お兄さん、
絶対助けてよ…』と言って
帰っていくあの日の姿が映り
それ以上の言葉が出てこなかった。
『それと、
あなたを襲ったであろう人物ですが
現在 葉山 雪乃さんの
妹である葉山 純連さんに任意動向を…』
彼は後悔した。
あの声を 助けてあげられなかった事…
帰っていくあの日の背中を
引き止めなかった事…
警察に捕まった事…
何もかもに後悔し
刑事の言ってる言葉がわからなかった。
『…ですので
あなたのところには現れないと思いますが
どうか現れた時にはこちらに一報ください。
すぐに駆けつけますので』
刑事が出ていき
心音計の無機質な音が鳴り響く。
『俺は…なんてことを…』
自分を責めていると
病室の扉が開く音が聞こえ
扉の方を見ると
あの日誘拐した子供のうち
葉山 雪乃が着ていた
長袖ジャージらしきものを着た
少女が立っていた。
『雪乃…ちゃん…』
絞り出すように声が出た。
すると少女は
ポケットからカッターナイフを取り出し
『あなたさえ
あの日お姉ちゃんに会わなければ…
私のお姉ちゃんを返せ!!』と言って
ベッドの上の彼の胸へ突き刺した。
『そうか…ごめん…俺は…』
鮮血がベッドを赤く染め
鬼の形相で彼の胸へ何度も
カッターナイフを
突き刺し続ける少女を見ながら
彼は息絶えるその瞬間まで
少女に謝り続けた。
~~~誘拐~~~
END
0
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