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第十三話
決意表明
しおりを挟むクウコウとキスケが浴室から出るとどこからかワイワイと賑やかな喋り声が聞こえてきた。
その声に耳を澄ませるとドウゴとカイガンのものだと2人はすぐに分かった。
そしてそれと同時に自分達を待たずして先に宴を始めているのだと思った2人は対照的な顔を見合わせた。
徐々に大きくなるその声を頼りに宴会が用意されているという部屋へと向かっていると後ろからスタスタスタとすり足でこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
「クウコウさん、キスケさん!お風呂上がられたんですねぇ。お湯加減はいかがでしたか?」
その声の主は宴会の用意の為に大皿に盛られた豪華な料理を運んでいる最中のカシマだった。
「あぁ、カシマさん。ひとりで大変そうだ。僕も何かお手伝いしましょう。」
「いえいえいえ、そんなそんな!大切なお客様に手伝って頂くなんて出来ません!ご主人様に叱られてしまいます!そのお気持ちだけ頂戴します、ありがとうございます。さぁさぁ、宴会場はこちらですよ!」
カシマはせかせかと2人を追い抜きながらそう言って急いで部屋に料理を運び込んで行った。
「おっ!この部屋みたいですねクウコウさん!」
「ええ、僕たちも中に入りましょう!」
「あっし、もう腹ペコペコ!」
「それ、僕もです。」
「そりゃあの悪狐が相手!腹が減るのも当然だぁ!体力の消耗は計り知れねぇはず!さぁさぁ美味いもんたくさん食べて、精付けて下さいな!」
「ええ、ありがとうございます。キスケさん。」
2人は宴会用に設けられた大部屋の中に入った。
すると中には長テーブルがずらっと並べられていて座布団も人数分以上に並べられている。
そしてそのど真ん中にはドウゴとカイガンが座っており、もうすでに酒を酌み交わしながら楽しそうにゲラゲラと笑いながら盛り上がっている。
「父上、昔話に花が咲いているようですねぇ。」
クウコウの声に気付いたドウゴは、カイガンとの会話の途中で切り上げた。
「おうおうクウコウ!早くこっちに来なさい!キスケさんも!ほらこっちこっち!」
「だいぶ酔っ払っちゃってるじゃないですか?普段飲まないんですからほどほどにして下さいよ?」
「ぶぁはははぁ!ひっく!な~にを言っちゃってくれてるんですかぁ?我が息子くん。ひさびさに旧友との再会だよ?これが飲まずにいられますかって話ですよ?ええ?ぶぁははは!なぁーカイくん?楽しいねぇ!」
「やばい、この人。完全に酒に飲まれてる!」
呆れた顔のクウコウをよそにカシマが豪華な料理をどんどん並べている。
「うわー‼︎すげ~~っすねー‼︎海鮮づくしのオードブルに‼︎これは鯛の釜飯⁉︎
う~ん良~い匂い!美味しそうですね~‼︎」
キスケは普段は食べんことのない食材を見て目を輝かせながらヨダレを垂らしている。
「私が腕によりをかけて作りましたからね~‼︎味には自信がありますわよ~‼︎
あっそうだ、クウコウさん、キスケさんもビールで良かったかしら?」
「はい!ありがとうございます。」
「うはぁ~‼︎あっしも一緒にお酒頂けるなんて!あー生きてて良かったー‼︎」
「はははは!キスケさん大袈裟ですよ!
でも本当、頑張って生きてさえいればこうして幸せは訪れてくれるんですよね。命に感謝しなくちゃ。」
「クウコウさん、若いのに良いこと言うわねぇ!私、感心しちゃったわぁ!
私ももっと長生きしよーっと。」
「もしかしてカシマさんもすでに酔ってます?」
「あらやだ‼︎バレちゃいました⁈
ほんのちょっとだけですよ?ちょっとだけ!」
「カシマさんもお好きなんですね。」
「はい!お酒大好きです!
あっそうだ!ご主人様、そろそろお嬢様も呼んで参りますねぇ!」
「おぉ!そうかそうか!コーコもそろそろ準備が出来た頃かなぁ~?カシマちゃんコーコを呼んできてチョーダイ!」
かなり酔っ払っている様子のカイガン。
「かしこまりました。」
カシマはコーコを呼ぶために部屋から出て行った。
カイガンとカシマのやり取りを見ていたクウコウはどこか落ち着きの無い表情をしている。
それに気付いたキスケはクウコウの肩を軽くポンポンと叩いた。
「クウコウさん、コーコお嬢様ももうすぐ来られるみたいですね!」
「えっ!あっ、そ、そうみたいですね。」
明らかに不自然な返事をしたクウコウの心理状況をキスケは見抜いているかのように満面の笑顔でクウコウを見つめている。
「クウコウさん!頑張ってくださいね!」
キスケは右手の親指を立てて、歯がむき出しなる程にさらに満面の笑顔を見せた。
「な、何を頑張るんですかぁ!そしてその満面の笑顔は何ですか?!」
するとキスケはクウコウの耳元に手を添えて小声で何やら囁いた。
「何をはぐらかそうとしてるんですかぁ?決まってるじゃないですか!
こ・く・は・く!ですよ!」
それを聞いたクウコウは顔を赤らめた。
そして慌ててキスケの右腕を掴むと、ドウゴとカイガンに背を向けるようにして、2人に聞こえるか聞こえないかの声でキスケに言った。
「キ、キスケさん!いきなり何を言ってるんですかぁ?僕が何で告白を?変な事言わないで下さいよぉ‼︎」
それでもキスケは冷静な態度で答えた。
「クウコウさん!良いですか?よーく聞いて下さいね。チャンスの神様ってのは、前髪しかないのはご存知ですか?」
「い、いいえ。」
「要するに、せっかく巡ってきたそのチャンスをやすやすと逃しちまったら、そのチャンスがもう一度訪れるか分からないって話ですよ。だって前髪しかないチャンスの神様が目の前を通り過ぎちまうとその後ろ姿の後頭部には髪の毛がないんですからねぇ。」
「なるほど、面白い例え話ですねぇ。チャンスの神様は前髪しかない、だから今、目の前のチャンスを掴めって事ですか。」
「さすが、察しが良い。クウコウさん、ご自分の気持ちに正直になって下さいな。あっしにはクウコウさんのお気持ちが分かってるんですよ。だからあっしは誰が何と言おうと応援してやすからね‼︎」
「すうですね、キスケさん。ありがとうございます!ダメでもともと!当たって砕けろ!ですよね!」
「そうです!頑張って下さいね!」
「はい!」
するとそこへ、カシマがコーコを連れて部屋へと入って来た。
コーコはポニーテールだった長い黒髪を下ろしてどこか大人びて見える。
それを見たクウコウは明らかに顔が紅葉して胸がドキドキしていた。そしてクウコウのその高鳴る胸の内では決意が固まっていた。
《よし!コーコさんに僕の想いを伝えよう‼︎》
恋には内気なクウコウは、とうとう目の前にいるコーコに告白すると決意した。
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