続・陰陽神(いよかん)とポンの不思議な冒険

マシュー

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第九話

愛ある犠牲

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「・・・・その後、父上と祖父はもしもの事があるといけないからと母上に結界を張った。

そして父上は母上と部屋の中で。祖父は外庭に別れて見張りに付き、今か今かと悪狐が現れるのを待った。」
ジョーは腕を組み真剣な表情で話していた。

するとりりが話を途中で止めた。
「ジョーさん!ちょ、ちょっと待ってくださいにゃ!さっきから母上って言ってますけど一体誰の事ですかにゃ?」
りりはジョーに真顔で質問した。

「ちょっと!りり~!話の流れでなんとなくわかるでしょ~?ぽく、ジョーさんのお話真剣に聞いてたのに~。も~う!途中でお話止めちゃうし~!」
ポンは頬を膨らませ呆れた表情でりりを軽く睨みつけながら言った。

「え!ポンは誰だか分かったのかにゃ?」りりは驚いた顔でポンを見て言った。

「あったりまえじゃん!」
ポンは得意げな顔でりりに言った

「はははは。そうか、りりには分かりにくかったかな?僕の母上の名前はねコーコって言うんだよ。」
ジョーはにこやかに答えた。

「えええ!そうなんですかにゃ?!
って言う事は、クウコウさんとコーコさんが結婚するってことですかにゃ??」りりは驚き、目と口を大きく開けて言った。
「ああ、その通りだよ。そして2人がこの時に出会ったお陰で僕が生まれたんだよ。」

「なるほどにゃ~!まさかジョーさんのお母さんがコーコさんだったとはにゃ~!」
「普通分かるでしょ~!ホントりりは鈍感なんだからぁ。」

「にゃははは。ポン~そんなに褒められると照れるにゃ。」
りりは鼻の下を擦りながら言った。
「いや、褒めてないから!」
ポンはりりにビシッとツッコミを入れた。
「ジョーさんごめんなさい。改めてお話の続きを聞かせて下さい。」
ポンとりりは気を取り直してジョーの話を聞く体制に入った。

「どこまで話したかな?
そうそう、外庭で見張りをしていた時。お爺様が何か気配を感じたんだ・・・。




・・・陽が落ちて、あたりが薄暗くなり月明かりが照らし始めた頃。


ドウゴは、庭の手入れをしていたキスケが作業を終えたらしく帰り支度をしているのが間接視野で視界に入っていたが、特に気に留めずに見張りを続けていた。

するとキスケが軒先に足を組んで座っているドウゴの方へとおもむろにやって来た。

ドウゴはキスケの存在を気にも留めていなかったが、こちらへ近づいてくるものだから本格的に視界の中にキスケを捉えた。

「どうも~。ご苦労さんですぅ。」
少し訛った喋り口調でキスケはドウゴに声をかけた。
「あぁ、どうも。そちらこそ、庭のお手入れご苦労でしたね。」
ドウゴはニコッと笑いながら軽く会釈をしてからそう返事をした。

「聞いたよ~ぅ。あんたら陰陽導師さんなんだってねぇ?大変な仕事だ~ねぇ。これから悪狐狩りらしいじゃねぇかよ。」 
キスケはドウゴが座っている軒下の縁側に肘をついて嬉しそうに話しかけた。

「ええ、それが私たち陰陽導師の使命ですからね。人々を悪狐から守る為に私たちがいるのですよ。」

「オラあんたらのファンでよ~!よがったら汚ねぇこのオラの一張羅にサインしてもらえねえかなぁ?」


「それはどうもありがとうございます。ですがサインなどは致しかねます。
私たちは決して陽に当たることは無く陰ながら人々のお役に立てれば良いのです。」

「うぉ~いおいおいお~い!!泣ける事言うじゃねぃかぁ~!うぉ~ぅおいぉい!そんじゃ~握手だけでもお願いできねぇかなぁ!」
キスケは強引に握手を求めた。

ドウゴは困った様子だが勢いに飲まれ仕方なく握手に応じるとキスケは両手でドウゴの右手を包むように握った。

「ありがとう!ありがとう!これからも頑張ってくださいや~!」
強烈なキャラと独特な泣き方のキスケにドウゴは少し引きながらも早々に手を解き帰って行くキスケをその場で見送った。

「変な人だったなぁ。よし!気を取り直して見張り見張りと。」
ドウゴは改めて見張りに集中した。


するとその時。

突然「ぎや~~ぁぁぁ!!」と言う叫び声が聞こえた。

「何だ!?あの悲鳴は!?とうとう来たか化け狐め!!」
ドウゴは瞬時に立ち上がり声の聞こえた方向を見た!

その声にクウコウも気付き部屋の中から出てきた。
「父上!今の声は?!」

「ああ、分からない。私が見てくるからクウコウは中に居なさい!」

「はい!分かりました!何かあればすぐに呼んでください!」

「ああ、分かった!」

クウコウは部屋の中に戻り、ドウゴは声のした方へと向かって行った。


外庭から屋敷の外周を歩いて行くと広い中庭に出た。
そこには尻餅を付いてガタガタ震えているキスケがいた。
キスケは怯えるように震えながら上を見上げていた。
その目線の先にあったのはなんと仁王立ちをした巨大な悪狐の姿だった。

「た、た、た、助けて下さい。命だけは、命だけは勘弁して下さい。」
悪狐に命乞いをするキスケは半べそをかいている。

悪狐はキスケを見下ろした後、足を曲げて腰を低くしてキスケの目線に合わせた。

「ふんっ!なんだ男か。オレは男は喰わねえんだよ!」
男だった事に残念そうな表情の悪狐とは反対に安心した表情のキスケには笑みが浮かんでいる。

「そうです、オラは男です!喰っても不味いだけだし!だからどうかこのまま逃がして下さいなぁ。」
キスケは足を正座に組み直し頭を下げて両手を合わせて懇願した。

すると悪狐は鼻をヒクヒクさせた。

「んむ!?ちょっと待てい!お前は陰陽導師か?」

「へっ??いえいえ!オラは陰陽導師じゃぁありませんですよ!」

「嘘をつけい!!では何故お前の手から忌々しいあの陰陽導師の匂いがするのだ!」

キスケは自分の両手を広げて見た。
「あっ!あの時だぁ!」


そこへザザザっとキスケの前にドウゴが現れた。

「さっき握手をした事で私の匂いがキスケさんの手に移ったのです。
だから言ったでしょう?こう言う事があるからサインも握手もお受け出来ないのです。」

「ご、ごめんなさい。」
キスケはまた半べそになって謝った。

「とにかくここは危険です!中に戻って私の息子の所へ行って下さい!」

「は、はい!」
キスケは屋敷の中へと戻って行った。




「匂いの主はお前か。」

「そうだ。悪狐よ、何故ここへ来た!」


「何故って?教えてやろうか。 
それは人間の女を喰らうためさ。
あぁ、そうだ。丁度今、もうひとつ用事が出来たなぁ。
俺の親父の敵を取る!」
悪狐はそう言い放ちドウゴを睨み付けた。


「まさかお前はあの時の!」

「あぁそうだ。まだ幼かったオレは親父をお前達に奪われた!
それからというもの親父を殺した陰陽導師を憎み人間を恨んで来たのだ!
そして今、その念願だった親父の敵が打てるというわけだ。」

「そうか。お前はあの時の悪狐の子供か!大きく成長したもんだ。」

「うるせぇよ!そんなことはどうでも良い!さっさと女を差し出せ!」

「まぁまぁ。落ち着きたまえ悪狐くん。
まずはお前の父親を殺めたのは謝るよ。悪かった。」

「何を勝手に謝罪してくれてんだよ!謝って済むもんじゃねぇ!」

「あぁ。そうだろうが今は謝る他に私が出来ることは無いんだよ。どうかこの通りだ。許してくれ。」

「土下座なんかしたって親父は帰ってこねぇんだよ!てめぇ!噛み殺されてぇのか!」

「いや、全くだ。お前の父親は帰っては来ない。お前の敵である私を噛み殺す事で、その腫れ上がった恨みや憎しみが晴れるのであればそうすれば良い。
だが、何の罪も無い女性達を傷付ける事だけは我ら陰陽導師の名の下に見過ごすわけにはいかんのだよ。
ここでひとつ取り引きをしないか?」

「何?取り引きだと?」

「あぁ。私のこの命ひとつでどうか手を打ってはくれんだろうか?」

「ふん!バカバカしい!てめぇが犠牲になる代わりに人間の女を喰うのをやめろってのか?!そんな取り引きなんかするわけがねぇだろう!ふざけんじゃねぇ!」

「そうか。それは残念だ。
では、ここで今お前を退治するほかあるまい。」
そう言うとドウゴは着物の袖口に手を入れ何やらゴソゴソ探している。

「ナメやがって!やられるのはオマエの方だよ!」
悪狐は大きな口を開きながらドウゴに飛びついて行った。
だがドウゴは一瞬の隙を見極めて素早く身をかわした。

「やはりその身のこなし。ただモンじゃねぇ様だな。だが次は仕留めるぞ!」
悪狐はそう言うと両手の爪を光らせて、さっきよりもさらに殺気立てながらドウゴ目がけて飛びかかった。

するとドウゴはあっさりと悪狐に捕まってしまった。
「へへへ!もう逃げられんぞ!男は趣味じゃねぇんだが仕方ねぇ。」
悪狐はそう言うと大きな口を開けてドウゴを口の中にポイっと放り込むとそのままゴクンと丸呑みしてしまった。
「よ~し!これで邪魔するヤツはいなくなった。さてと、人間の女はどこだどこだ?何やらあの辺が匂うぞ。」
そう言いながら悪狐は中庭の方へと向かって行った。
その一部始終を木の陰から見ていたキスケはブルブルと震えていた。
「てぇへんだ!ドウゴの旦那が悪狐に喰われちまった!こうしちゃいられねぇ!はよ息子さんに知らせねぇと!」
キスケは大慌てで玄関へと回り屋敷内へと向かって行った。
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