続・陰陽神(いよかん)とポンの不思議な冒険

マシュー

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第十一話

芽生え

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クウコウは駆け足で中庭に戻り、コーコの待つ部屋に到着すると急いでいたため引き戸をバンッ!と勢いよく開けた。

「きゃーーぁ!!」

「ぎゃーーぁ!!」

するとその音に驚いた2人は悲鳴を上げた。

クウコウが部屋の中に入り叫び声の方に目をやるとコーコとキスケが頭を抱え、うつ伏せで丸まった格好のままブルブルと震えている。

「お嬢さま、大声を上げてはいけませんよ!この結界とやらの中でジッとしていれば大丈夫ですんで!」
キスケは小声でコーコに言った。

「仕方ないでしょ?そう言うあなただって一緒に大声上げてたじゃない!」
コーコも小声で怒り口調で答えた。

すると、パンパン!っと二拍手をする音が聞こえた。

「お二人さん、もう大丈夫ですよ。
結界は解きました。顔を上げて下さい。」
クウコウは膝を曲げて中腰になり微笑みながら2人に優しく声をかけた。

コーコとキスケは、そぉ~っと顔を上げてクウコウの顔を見るなり笑顔に涙を浮かべた。

「クウコウさん!良かった~無事だったのね!私、もしかしたら、もしかしたらって心配してたの。」

「そうですぜ~!あんな恐ろしい悪狐に敵うわけないって正直心配してましたぜ~!」

コーコはクウコウに飛びつく様に抱きついた。
「おっとっと~。」
クウコウ中腰のままのためバランスを崩して後ろに倒れ尻もちをついた。

「良かった!命があって本当に良かった!」コーコは抱きついたまま泣きながらクウコウの無事を喜んだ。

「ありがとう、コーコさん。
こんなに誰かに泣きながら喜んで貰える事なんて無いもので、少し驚いています。」クウコウは嬉しいような困ったような表情で言った。

「いやー!本当にご無事でなによりですぜ!さすがは天下の陰陽導師様!」
キスケは2人の雰囲気を邪魔しない程度の声のトーンで言った。

すると部屋のドアを開ける音がした。

「コーコ!大丈夫だったか?!」
中に入って来たのはコーコの父・カイガンと、その後ろからクウコウの父・ドウゴだった。

カイガンの姿を見て、我に返ったコーコは、抱きついていたクウコウから離れた後「クウコウさん、私、抱きついたりしちゃって、ごめんなさい。」と恥じらうように言った。

「僕は、そんな、全然、大丈夫ですよ。ははは。」
コーコに謝られた事で、何故かクウコウまで恥ずかしくなり2人とも頬を赤らめながら照れ笑いを浮かべている。

表情を整えたコーコは立ち上がり父の元へ。
そしてカイガンはコーコを優しく抱きしめた。
「パパ、おかえり。お2人が守ってくれたお陰で、私無事だったわ。」

「あぁ、良かった。無事で良かった。
やはり彼らに託して間違い無かった。」

すると後ろの方でキスケが誰にも聞こえないほどの声で「あっしも一緒に守ってたんだけどなー。」とボソボソ言っている。


「あっ!それとキスケさんも一緒に守ってくれたのよ?」コーコは思い出したように言った。

「そうだったのか?それはそれは!」
するとカイガンは後ろにいるキスケに気付いた。
「おぉ、キスケさん!そこに居たんですか!後で食事会を開くのですが、お礼にキスケさんも一緒にいかがすか?」

その言葉にキスケは、さっきまで曇っていた表情が一変し満面の笑顔に変わり「はい!勿論です!」と元気に返事をした。


「ドウくんとクウコウくんもウチの風呂で汗を流して来て下さい。その後食事にしましょう!今カシマさんが支度をしています。」

「カイくんありがとう。助かるよ。
クウコウ!お言葉に甘えさせて貰おう。」
「はい。カイガンさんありがとうございます。」

「お礼を言うのは私の方ですよ。今日は娘を守ってくれて本当にありがとう。
心から感謝していますよ。」
カイガンはクウコウの両肩に手を添えてしっかりと目を見て言った。

「そう言って頂き大変光栄です。」
クウコウもそれに答えるようにしっかりと目を合わせて言った。

そして2人はニコッと笑いカイガンはクウコウを軽く抱きしめた。そしてカイガンは小声でクウコウに言葉をかけた。
「コーコを宜しくな。」

その言葉に驚きながらも、クウコウは
「は、はい!」と答えた。

カイガンは再びニコッと笑いクウコウの肩をポンポンと叩いた。

「パパ、クウコウさんと何話してたの?」

「ん?大した事ではないよ。ちょっとした頼み事をね。」

「ふーん。そーなんだー。」
カイガンの曖昧な返事に不服そうな表情を見せながらもクウコウの事が気になっている様子のコーコはまさに恋する乙女の様な瞳でソワソワしている。

すると、コンコンとノックする音が聞こえた。ドアが開き顔を出したのはカシマだった。
「ご主人さま、お風呂の用意が出来ていますのでどうぞお入り下さいませ。」
風呂の準備が出来たと聞き、カシマの案内でドウゴ、クウコウ、キスケは風呂場へと向かった。

「確かここの風呂も源泉かけ流しでしたね?カシマさん。」
とドウゴはカシマに言った。

「ええ、その通りでございます。しかも風早の里では海が近いので海水も混ざっておりまして、舐めるとしょっぱいのが特徴なのです。そのお陰で私の肌もほらこの通りプルンプルン!」
カシマは二の腕を出してプルンプルンと揺らしている。

それを見たドウゴ達は何も言えずただ「ハハハハハ。」と苦笑いをしただけだった。

「そんな事より、さぁさ!男性用浴場はコチラからどうぞ~。」カシマは男性用浴場の戸を開けて中へと案内した。

中に入るとすぐに広めの更衣室になっている。
「タオルとお着替えの浴衣はコチラにご用意しておりますのでどうぞ。ちなみにこちらのタオルは『おんまくの里』から取り寄せた肌触りと吸水性に優れた今治タオルでございます。」

「えっ!?あの今治タオルですか?!あっし未だに使った事がねぇんですよ~!こりゃ~風呂上がりが楽しみでさ~!」キスケは1人だけテンションが上がっている。

「キスケさん、タオルなんてどれも同じでしょうに。」とクウコウはキスケに言った。
「いやいや。あっしもね、使った事がねぇんで言えた立場じゃねぇんですがね。なんでも風呂上がりにこれで身体を拭いたらば、『まるでふわふわの雲の中に包まれてる様』だと聞いた事があるもんでね。これはどんなもんか体験したいと思ってたところだったんですよー。」キスケは嬉しそうに話した。

「そんなに素晴らしいタオルなんですねぇ。わたしもまだ使ったことがないので、風呂上がりが楽しみですね。」ドウゴはにこやかに着物を脱ぎながら言った。

「あらやだ!あたしがいてはお着物が脱げませんねぇ!それではごゆっくりどうぞ~。失礼しま~す。」そう言いながらカシマはそそくさと更衣室から出て行った。

「カシマさんありがとう。」
「ありがとうございます!」ドウゴとクウコウは着物を脱ぎながらカシマにお礼を言った。


「それじゃぁドウゴさん、クウコウさん!裸の付き合いと行きましょうかね!」ひと足早く一張羅を脱いでいたキスケは2人の間に入って嬉しそうに言った。

「そうですね、早くお風呂頂きましょう。」クウコウがそう言った後
「私、悪狐の中に入ってたのでずっと匂いが気になってまして。お先に失礼!」
 ドウゴは早く体を流したかったのか小走りで浴室へと向かった。そんなドウゴの姿を見たクウコウとキスケは小さくクスクスと笑いながら浴室へとむかった。


ザッパ~~ン!!と勢いよく湯船に飛び込んだのはキスケだった。子供のように平泳ぎをしている。

「こらこら、キスケさん。風呂の中では泳いではいけませんよ。風呂は体の疲れを取り、心を癒す場所ですからね。」
ドウゴはキスケに優しく注意した。

「あっ!すいやせん!ついつい楽しくなっちまいまして。」
キスケは素直に言う事を聞き、大人しく湯船に浸かった。

「さすがはドウゴの旦那!ご自分で銭湯を営んでらっしゃるだけの事はありやすね~。」キスケは自分の顔にバシャバシャと湯をかけながら言った。

「いえいえ。温泉好きが講じて銭湯は趣味でやってる様なものなので。あぁそうだ、今度キスケさんも私の銭湯にも来てくださいよ。」

「ええ?!良いんですか?!」

「もちろんですよ。普段は妻に番頭を任せているので、私はこっちの仕事や修行で留守が多くて。帰ったら妻にキスケさんの事を話しておきますね。」

「ありがとうございやす!是非是非行かせて頂きやす!いや~楽しみが1つ増えやした~。嬉しいなぁ~」

「良かったですね、キスケさん。うちの銭湯も源泉かけ流しなので最高なんですよぉ!」

「ほほ~!クウコウさん!そうなんですかぁ!?あっしも温泉には目がなくて色んなトコに行ってるんですが、にきたつの里にはまだ出向いた事ねぇんですよ。今度必ず入りに行きますんで!」キスケは嬉しそうに目をキラキラと輝かせながら言った。

「ええ、是非お待ちしてます。」
クウコウはキスケにニコっと微笑んだ。

「では、そろそろ上がりましょうか。」
ザパァッとドウゴはゆっくり腰を上げて湯船の外に出た。

「父上、僕はもう少し浸かります。」

「ええ、くれぐれも湯船で寝ない様にしなさいよ。クウコウは長風呂は良いがそのまま寝てしまってはのぼせ上がってゆでダコみたいになってしまう事がありますからねぇ。」ドウゴは冗談混じりな口調で言った。

「父上、大丈夫ですよ。キスケさんがいますから!ねっ?キスケさん!」

「へ、へい!旦那、あっしが居るんで息子さんは大丈夫でさぁ。」
キスケは湯船で平泳ぎをしながら言った。

「そうですか、それなら安心だ。ではお先に失礼しますよ。」ドウゴは浴室から出て行った。

キスケはドウゴが出たのを確認した後、泳ぐのをやめてクウコウのとなりへと移動した。クウコウは目を閉じている。
「ねぇねぇクウコウさん。余計な事だとは思うんですがね、ひとつだけヤボな質問しても良いですかい?」

「おぉ、危うく寝るところでした!」
キスケの声に驚いたクウコウは顔に両手ですくったお湯をかけた。

「ええ!?クウコウさん今の一瞬の間で寝てたんですか?!」キスケは半笑いで驚いた。

「ごめんなさい。お風呂が気持ち良すぎて一瞬気を失ってました。
あっ、さっき何か仰いましたか?」

「あっ、ちょっとクウコウさんに確認したいヤボな質問がありやして。」

「はい、なんでしょう?」

「クウコウさん、単刀直入に聞きます!
あなた、コーコお嬢様に惚れてらっしゃいやすね?」キスケはキャラに似合わない凛々しく真剣な眼差しでクウコウの目を見て言った。

「ええ、分かりましたか。どうやらその様です。」
クウコウはニコっと微笑み正直に返事をした。

「それなら良かったです。」

「えっ?良かったと言うと?」

「あら、気付きませんでしたか?コーコお嬢様も間違いなくクウコウさんにホの字ですよ?」

「えっ?そうなんですか?」
クウコウは口元がゆるみつつも目は驚いている。

「そうです!間違いありやせん!まさにこれが両思いってヤツですよ!お二人の恋が芽生えたって訳ですね~。いや~若いって良いですな~!わはははは!」

「コーコさんも僕の事を?」
クウコウはそう言うと遠くを見つめた後突然ザブーンっと湯船の中に頭ごと沈んだ。

水面にはブクブクと泡が出ては消えている。

「ちょっと!クウコウさん?」
キスケはクウコウが突然潜ったためキョトンとしている。
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